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14号玉華斎(2)

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斗酒庵 銘器を前にたじろぐ の巻(2)2009.12~ 明清楽の月琴(14号玉華斎)

第2回 始動の刻

剥がしてる
  お休み期間の12~1月の二ヶ月で,11号柏葉堂,12号照葉,15号三耗と連続ハンガーアウトし,お仕事期間に入った如月二月。去年末に集中して到来した自出し月琴の修理地獄も残りは二面。なれど13号の柚多田さんは,いまだ面板処理の方法模索中につき手を出せませんので,とりあえず14号へとまいります。

  んじゃあ,バリバリ~ッ!!っと……できるかーっ!ボケぇッ!!!

  14号玉華斎はもしかすると唐渡り,最低でもそのかなり忠実なコピー品。

  庵主がいま最も興味のある古型清楽月琴の一つですから,うかつな修理でせっかくのデータを損ねるわけにはまいりません。
  それに,同様に古い型の楽器であった前修理15号は,思ったよりも音が良うございました。材質や工作の面から言えば,この楽器のほうが比べ物にならないくらいの高級品でありますから,音のほうにも楽しみがあります。もっとも,これで15号より悪かったら………シメますよ,あなた(笑)。

  この楽器,古くてあちこちヨゴれてはいますが,保存状態は良く,お飾りも含めてオリジナル部品がほとんど残り,要修理箇所も少なく,現状のままでもちょっと無理すれば演奏可能であります,いちおう。

  主な作業は,軸作りと,表裏面板の割レ,剥離等の修繕くらいなものですね。

  オリジナル部品で無くなっているのは軸が一本と第二フレットだけですが,他のフレットや山口にも,使用によるキズやエグレがかなり見られるので,このあたりは新規製作のうえ全交換となりそうです。



  さて,上述の通り,いちおう演奏可能な状態ではありますが,きちんと修理するためには,やはりお飾りの類を一度すべてはがさなければなりません。

  まずはここからまいりましょう。
蓮頭(1)
  蓮頭の裏面には,桐と思われる薄い板がなぜか貼りつけられ(意図不明の工作),棹頭に正体不明の黒い接着剤でべっとりとつけられております。まずはこれをはずしたいのですが,この接着剤(正体不明)がなかなか頑強で,けっきょく薄板を破壊して,ようやく取り外すことが出来ました。

  透かし彫りの蓮頭の裏面に,薄板を貼る理由---一番に考えられるのは,割レの補修ですが,板を剥がしてキレイにしてみても……あれえ? べつだんどこも壊れておりませんねえ?

蓮頭(2)
  棹頭や蓮板裏面に残った接着層を除去しようと,まずは刃物でこそいでみたのですが,これがまたかなりの硬さで…。
  切り出しでこそぐ程度ではビクともしないので,試しにお湯をたらして焼き鏝で蒸らしてみましたが,何度繰り返してもまったく変化がありません。
  ニカワやよくある樹脂系の接着剤ならば多少は柔らかくなるもんなんですけどねえ----あんまりやると,修理箇所以外に余計な被害が出てしまいそうなので,けっきょくヤスリで削ってこそぎ落としました。

  細かい茶色の粉,独特のニオイがありました。

  ---これ,ウルシですね。

お飾り(1)   なるほど,この楽器の補修で使われているのを見たのは初めてですが,骨董屋さんなら補修剤として持ってますものね。
  14号の主材である鉄刀木(タガヤサン)は接着の良いほうではありませんので,ニカワでなくウルシを使ったのもなんとなく納得がゆきますが,棹頭にも少し残っていたとおり,もとはニカワづけだったわけですから,ふつうに接着部をキレイにして,お湯を含ませておけばさほど問題なくついたかと----余計に強力な接着剤を使うのは,昨今のボンド野郎どもと同じで,あまりいい工作とは言えませんな。



お飾り
  胴体表面の木製部品の除去は,だいたいつつがなく終わりました。

  蓮頭と,左右目摂はおそらく同じ材料で作られています。
  見た目は紫檀っぽいですが,たぶん花梨を蘇芳で染めたものでしょうねえ。
  ハガすため周囲にお湯を含ませたところ,鮮やかな赤紫色の汁が滲み出てきました。

  ----幸いにもこの汁,桐板へはあまり滲みこまないようなのですが,濡らさなきゃハガれないし,濡らすと汁が出るしで,けっこう焦りましたね。

  布への染色法はWeb上にも色んな方法が掲載されていますが,木への染色法についてはあまり資料がありません。たとえば正倉院の阮咸や琵琶の類にも,「蘇芳で染めた」というものが残っていますが,その染め方自体についてはいまひとつ記述がないのですね。

  まあ楽器ですから,布のように丸ごとナベで煮込むようなことは出来ますまい。
  そうなると筆や刷毛で塗りつける,というところだとは思うのですが----その方法にしても,媒染剤と染料を交互に塗るのか,それとも混ぜて発色させた状態の液を塗るのか,そのへんすらはっきりしないのが現状です。
  ベンガラのような隠覆性の高い顔料系塗料はべつとして,木は布ほど染料を吸いこみませんし,木目によってその染みこみの度合いがかなり違いますので,ただ単純に「塗る」「擦りこむ」だけでは,全体を均等な色合いに染め上げることはできません。

お飾り痕
  古人はその辺のところをどう技術的に克服しているのか…も少し勉強しなくちゃですね。
  この14号のお飾りの色は,筆で塗られたのではないと考えています。
  少し水を含ませた程度で,かなりの染み出しがあること,また乾燥後の褪色がそれほどでもないことから見ても,染料はかなり濃く,部材の深いところまで浸透しているようです。さらには,通常筆の届かないような彫りの側面や,本来は着色の必要の無い裏面まで染色が及んでいるところからして,これらは「漬け込み」か「煮着け」の技法で染められたのではないでしょうか?

  わたしも最近,軸やお飾りなどの小物をオハグロ染めするときに,いちど煮立たせた汁の中に漬け込む方法を使っています。
  あまり長時間煮沸したり,無駄に長く漬け込むと木が弱くなってしまいますが,この方法だと,染液をかなり深く浸透させることができるので,その後の塗装や磨きで質感にかなりの差が出ます----目摂などごく薄い部品だと,ほぼ「芯まで真ッ黒」てな感じになりますね。

  もっともこの技法は,ナベに入るぐらいの「部品」が限界ですから,楽器本体への染めつけ法とは別でしょうね。

扇飾り
  扇飾りも蘇芳染めされていました。
  剥離当初は素材が分からなかったのですが,乾燥後,あらためて見てみたところ,どうやらタガヤサンのようです。
  タガヤなら,磨けば本体と同じくキレイな色になるはずなので,あまり染める意味はなさそうですがねえ。

  「花梨の蘇芳染め」というのは,唐木屋さんがむかしよく使ったワザとして知られてますから,木工関係のほうでなにか資料が残ってるとは思いますが,勉強不足のため,いまだ行き着いてはいません。

  文献・詳細等,ご存知の方ございますれば,どうかご教授ください。



  14号玉華斎,お飾りが一つも失われていないところからも分かるとおり,ニカワ着けが上手ですね。

  第1フレットと,後補部品の第2フレットが木工ボンドで着けられてましたが,そのほかの棹上のフレット,山口,柱間のお飾り,胴体上のフレットおよび,お飾り類はすべてオリジナルの接着と思われます。

フレット 凍石系お飾り
剥離作業途中
  フレットの除去まではほとんど何も支障がなかったのですが,凍石のお飾り類の接着がかなり頑固で。
  特に中央の円飾りなんか,周縁にいくらお湯を含ませてもビクともしません。布をかぶせた上から焼き鏝を当てて蒸らし,ニカワをユルめようとしましたが,それでもなかなかはずれず……けっきょく,この円飾りと第4~5フレット間のお飾りを,少し欠いてしまいました。(汗)

  石なので,とりあえずはエポキシで接着……あーあ,せっかくのオリジナルを………

  うむ,庵主,まだまだ青い。



絃停
  最後に絃停をハガします。

  ヘビ皮は傷みやすくハガれやすいので,よくボンド着けとかされてることが多いのですが,今回はほぼオリジナルの接着状態のままだったようです。

  多少いびつな形になってしまっていたのは,経年による皮自体の収縮のせいでしょうね。
  やや厚めのヘビ皮で,接着剤はおそらくニカワ。

  いままでの例ではこのヘビ皮は,ウロコの目を上下にして貼られていることが多かったのですが,この楽器のはそれを左右にして貼られています。

  「唐渡り」の月琴ではみんなそうだったのか,これがたまたまだったのかは,参考にできる資料が少なくて分かりませんが,三線も二胡の皮も,ふつうは上下方向に貼られますからねえ……それに月琴の絃停は,音にあまり関係のない部品なので,おそらくは製作や修理などで出た「ハギレ」が使われることが多かったでしょう。そうするとまあ,何か意味がある工作----というよりは,サイズや模様から決めて,たまたまこういう方向になったというほうが,より可能性が高いですかね。


  というところで,次号に続く。

(つづく)

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