14号玉華斎(5)
![]() 第6回 唐のくにからコンニチワ ![]() さてさて,その高級さを前にたじろいた,低級庶民の庵主による修理もいよいよ大詰め。 いよいよ完成と相成ります。 ----その前に。 細かい仕事をふたつみつ。 まずは側面飾りの欠けてるところの補修。 オリジナルは竹の薄板で作られています。 曲面に貼り付けるお飾りですから,弾力のある竹というのはさすがの選択。
![]() つぎ。糸の間隔をちょっと調整します。 半月のところで,低音弦のほうの糸間が,高音の二本のより,かなり広くなってました。 まあ使う上ではさほどの難もないのですが,いちおうきちんとしておきましょう。 糸のかかるあたりをヤスリで微妙に削って,弦同士を寄せました。 これにより,当初8ミリ近かった低音弦の糸間が,高音のとほぼ同じ4~5ミリに。 ピッキングが少し,なめらかにできるようになりました。
で,お飾りも戻し,絃停も貼りました。 今回もまた古器ということで,絃停はヘビ皮です。
というわけで,2010年三月弥生。 もしかすると唐渡りの高級品,14号月琴・玉華斎,修理完了! ![]() 14月琴玉華斎・音源 1.開放弦 2.音階(1) 3.音階(2)低音弦/高音弦それぞれ 4.九連環 5.小九連環 6.紗窓 7.平板調 ![]() もしかして唐渡りの高級楽器とのことで,それなりにきゅうくつな…いえいえ,緊張した修理となりました。 古式というところだけは同じな15号が,いい練習台というかスターターとなってくれたので,なんとかこなせた,というところかなあ? 今のところ確定的な証拠がないので,どういう素性のものかははっきり言えませんが,各部の木取りや細工には日本人の感覚でない「手」が感じられ,糸倉の絃池などに残る加工痕などからも,これが唐渡りの楽器である可能性は高いかと思われます。 はじめの号で述べたように,その材質,そして半月が「飾り彫り」どころか,この作者の楽器ではちょっと類のない形状になっていること,また「四爪の龍」がつけられているところなどから見て,特注…とまでいかなくとも,「特製」の高級品でありましょう。 それというのも,イチからにオーダーメイドの「特注品」なら,飾りは本物の黒檀や紫檀でしょうし,柱間のお飾りなども,こういう典型的なものではなく,特別な意匠で,材料も凍石ではなく翡翠や硬玉が使われるはずだからです。 ![]() ![]() ネオクなどでも,ときおり金ぴかの飾りをつけた楽器や,全面に中国の文人の詩やら賛やら絵やらを描きまくったもの,また各部の意匠を凝った変形月琴が出ていることがあります。 そういうのは当時の政府高官や富裕層に贈られた,「一品物」であることが多いですね。 ![]() しかし,この14号玉華斎では,通常と大きく異なっている意匠は半月だけ。 そのほかの部分は,通常の月琴の典型的なカタチのままです。 そこからすると,清朝のお役人あたりが「贈答用」として,ある程度の数作らせたものではないかと考えます。 それなりに高級品ですが,「一品物」ではない。 依頼主が何を考えて,何を祝ってこの月琴を作らせたのか----そういう事情が何か,この変形半月の意匠にこめられているように思うのですが,そのあたりはいまだ,解読できておりません。 (おわり)
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