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琴華斎(1)

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斗酒庵 琴華斎を補修す の巻2010年7月~清楽月琴 琴華斎(1)


ふたたび修羅へ


  ウサ琴5の製作終盤,マイミクさんから舞い込みました修理の依頼。

  某ネオクで出ていた月琴ですね。

  はじめ蓮頭と軸が一本なくなった状態で出品されていたものを,別の方が落札し,自分で修理して再出品したようです。
  前修理者は琵琶とかの修理をやってる方らしく,工作は手馴れてます。材質は分かりませんが,軸はぴったり噛んでるし,蓮頭の出来も悪くありません。
  蓮頭のこのデザイン…うちで修理した「天華斎」のを参考にしたみたいですね。

  ----ふむ,ここの記事もいちおう,カゲながら何かのお役には立ってるようです。


  前修理者の補修箇所は,1)蓮頭 2)軸1本 3)第2フレットの補作。

  左目摂がひっくりかえったまんまですが,これで部品はすべてそろってるので,弾こうと思えば弾けないこともありません。

  前修理者が楽器のことをちゃんと分かっている方なのは良かったんですが,「演奏可能な楽器」までには,もう一手間,二手間必要だったと思いますね。



  まず一箇所目は半月。
  長期間,しっかりと使用されていた楽器らしく,半月の端が糸擦れで削れてしまっています。

  ガタガタになっている部分を一度ヤスリで均し,ローズの端材を接着して,整形します。

  半月の塗装は,作業の前から少しくハゲチョロでしたが,修理でいぢくってるうち,さらにあちこち薄くなってしまいましたので塗りなおします。
  スオウで染めて,まずは重曹(アルカリ)で赤発色,ついでオハグロベンガラを薄く塗って,鉄分で黒っぽく重ね染め。
  と----どんなもんだい?




  つぎに棹の調整。

  この楽器の棹は,山口のところで胴体水平面より表面板側へ5ミリほど傾いています。
  つまり横から見ると,棹と胴体の接合部のとこを中心に,Vの字になってるわけですね。

  これもまた,このままでも弾けなくはありませんが,押えても音の出ないデットポイントが出来たり,いくらチューニングしても音が合わないという,「楽しくない器」になってしまう可能性があります。

  棹基と茎の調整で,指板と胴体をほぼ同じ水平面とするくらいまでは出来たのですが,これが限界。



  なんせ茎のオモテ板がわを,もとの半分ぐらいの厚みになるまで削り,裏に削った分の厚みのスペーサーを接着したくらいなんで。これ以上やるとしたら,茎そのものを交換しちゃった方が早いですね。
  まあ,当座はこれでヨシとして。しばらくしてまた表面板がわに傾いてくるようなら,そうするとしましょう。


  山口とフレットはすべて再製作ですね。

  オリジナルの山口は7ミリほどの高さしかありません。
  丁寧に糸溝も切ってあり使用痕もあります。
  また,底部に粗く削ったような痕跡も見受けられるので,製作当初はもう少し高かったのかもしれません。
  まあ,V字になっちゃった楽器をなんとか鳴らそうと思ったら,まずはここを低くしないとなりませんわなあ。


  フレットにはやたらと頑丈そうな,厚い竹板が使われていました。
  加工がだいぶん雑だったり,ズレたところに接着痕のあるものもあるので,もともとオリジナルではなかったかもしれません。

  古式の清楽月琴はフレットの高いものが多いので,はじめ山口をやや高めの12ミリで作ってみたんですが,試しにフレッティングしてみると,第5フレットでも高さ1センチと,絃高がかなり高くなってしまいましたので,急遽再調整。
  山口を9ミリまで削って,ようやく全体がちょうどいい高さに落ち着きましたが,棹をあまり傾けられなかったため,それでもまだフレットが高い----先に触れたとおり,棹の調整は限界ですからね,いつもの手を使いましょう。


  おなじみ半月に「ゲタ」です。

  竹板を細く削ってはめこみます。
  これにより,全体の絃高は下がって,フレットもかなり低くできました。


  今回の修理,楽器として音を出すために必要な修理と製作はこれでほぼ終了。
  あとはオマケみたいなものですね。

  残っていたオリジナルのお飾りは4・5フレット間の柱間飾りと,左右の目摂。
  左の目摂がひっくり返っているのと,扇飾りがなくなってます。
  扇飾りに関してはわずかーに日焼け痕が見えるか見えないかという程度,これではオリジナルの再現というわけにはいきませんねえ。
  柱間飾りは白い凍石製で,意匠は花ですが---「14号」「三耗」の記事をご覧ください,同じあたりに同じようなカタチの飾りがあります。これは古式月琴のお飾りでよくある一連の定番意匠の一つなので,おそらく製作当初は前述二器の楽器同様,すべての柱間にお飾りがついていたものと思われます。
  しかし,それらもまた扇飾り同様,日焼け痕はおろか接着痕も見えないくらいですので,再現はできません。

  それでも,せっかく修理を手がけたからには,扇飾りくらいは作ってあげなきゃなりますまい。


  そういや先日,何年も前に彫ってあったものの,そのまま道具箱の底にほったらかしてた扇飾りが一枚,発見されたところでして。
  これを使うとしましょう。

  「眠り猫」----悪くはないでしょう?


  さて,このあたりで楽器についての所見を。



  内部構造,響き線は古式月琴の定番,肩口から胴内を2/3周する長弧線。
  内桁は一本で,材質はおそらく杉板。

  棹と胴体の材は,はじめカヤかと思っていましたが----カヤよりもずっと重く硬く,木目も混みあっています。
  おそらくクワだと思われます。資料としては見たことはありますが,実際に桑で作られた月琴を手に取るのははじめてですね。

  面板が矧ぎ板であることや,全体の材質,加工から,これも古渡りのものではなく,日本で作られた倣製月琴だと考えます。
  作者名も似てますが,目摂の「花籃」はよく「天華斎」の月琴(およびその倣製楽器)で使われているので,これの本歌となった楽器もそのあたりにありましょう。

  「琴華斎」さんについては,いまのところ何も分かっていないのですが,おそらく琵琶の職人さんではないでしょうか。古式と新式の違いはあるのですが,各部の加工の具合が石田不識(琵琶が専門だった)のものなどに似ています。墨書とか手がかりはないので定かではありませんが,製作されたのは明治10年代後半ぐらいじゃないかと。

  うむ,それにしても,「三耗」「玉華斎」「天華斎」にコレ,と去年から古いタイプの清楽月琴の修理が続いております。
  何なんでしょうね~?

  それらの楽器と比べても,この「琴華斎」さん,腕はたいへんよろしい。


  胴側の接合は,木口同士を合わせた,もっとも単純なものですが,ゆるみやスキマはほとんどありません。
  部材の歪みもほとんどないのですね。
  クワという木材は,硬く丈夫で細工物には向いているのですが,乾燥の間にけっこう暴れて,歪んだり,ビシっと割レが入ったりしてしまうことがままあります。この楽器に使われているクワ材は,胴体のも棹のもそれほど質の良いものではありませんが,きちんと乾燥されたものが使われています。各所に節目や木理に由来する,ごく表面的なヒビ割れや欠けが多少見えますが,いづれも使用上問題になるようなレベルのものではありません。

  蓮頭に向かってわずかにひろがった糸倉,左右は薄く,このタイプとしては細身で,うなじのあたりは古渡りの月琴に倣って絶壁になっていますが,よくある倣製月琴のように,ガタガタにはなっておらず,すっきりとキレイに加工されています。



  棹は指板相当部分の左右がまっすぐな古式タイプですが,ごく細めで棹背も薄い。
  半月も表面に亀甲のような削り痕を残すなど,装飾は少ないのですが,ほどよく凝っています。
  ちなみにこの半月下半に彫られているのは「蘭花」だと思いますよ。単純な紋様ですが,迷いはなく,彫り線も浅く,キレイです。

  有効弦長が短めなため,ふつう胴体と棹の接合部上あたりになる第4フレットが,胴体のほうに入り込んでいるのも少し珍しいですね。


  今回の楽器は,ご存知大川端清楽隊,通称「SOS団」(前回記事参照)関連の知り合いからの依頼で,後でも気軽に調査ができそうなので,修理を先行させました。

  ----けっして,「早く直さんと~耳から指突っ込んで,奥歯ガタガタ言わしちゃるけんのォ!」
  ----とか,脅されたようなわけではありません。
  本当です!
  本当だってば!
  信じてください!じゃないと……わーん!(泣)



  そのため,ちょいと調査にイロイロ疎漏がありまして…正確な寸法とかはご勘弁を。

  あ,そういや音録りもしなかったなあ。

  夏の帰省前に仕上げる,という締め切り付の特急修理。
  もっとも,時間のかかる修理箇所は少なかったので,難しくはありませんでしたが,時期的に「お仕事期間」だったのと,ウサ琴の追い込みが少し重なったんで,そのあたりはキツうございましたか。


  軽く清掃した面板に,オリジナルの目摂と柱間飾りを戻します。
  軸とか蓮頭とか,大きな箇所は前修理者がやってくれちゃってるので,今回,庵主の製作になるものは少ないですねえ…新しく作った山口とフレット,あとはスオウで染めてオハグロで媒染した猫ちゃんの扇飾りと,まだ残ってたヘビ皮を切って,新しい絃停を一枚。

  2010年7月,「琴華斎」修理完了です。


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