16号菊芳2(3)
![]() STEP3 菊芳2於兎良・修理作業 ![]() 内外の観察から,さほど深刻な要修理箇所はないことが分かりました。 欠損部品も少ないですからね。 修理自体はさして大変でもないでしょう。 まずまず一安心。 さて,修理に先立ち,まずはお飾り類をすべてハガします。 棹上のフレットからはじめたんですが,ここで一つ発見。 前々回の報告で「指板の木目にはベンガラが擦りこんである」と書きましたが---- 間違いでした。(^_^;) ![]() 指板上のフレットをはずそうと,指板をお湯で濡らそうとしたのですが,水分が見事にハジかれます。 それでも無事にフレットをはずした後,ヨゴレをとるため濡れ布巾で表面を拭ったのですが,何の色もつきません。 指板の上端や,弦池の縁についている赤い塗料のカタマリを,アートナイフでつついてみたんですが---- くずれない,ビクともしない,とてつも硬い! これ赤ベンガラじゃありません----「朱漆」ですね。 朱漆なんか擦りこんだもんで(それもかなり丁寧に…),指板表面はそりゃもうテカテカのツルツル。 「味噌汁椀状態」ですわ。 漆塗装の上からではニカワも滲みこみません,そこで芳之助さん,接着位置をかなりしっかりと荒らしてあります。 それでもやっぱりニカワは滲みませんが,荒らした凸凹に入り込んで,フレットぐらいはなんとか固定できる程度の接着力は得られます。もっとも,残っていたフレットが,胴体3本に対して棹上は1本だけ,接着痕の大きな山口までなくなってるとこから見ても,長期的には有効な接着手段じゃあないとは思いますがね。 清楽月琴で,塗料として漆が使われることはべつだん珍しくはありませんが,この指板みたいな「装飾的効果」を狙った例は,あまり覚えがありません。手間ではありますし実際キレイですが,フレットや山口がポロリしやすい,ということを考えると,実用面からはあんまり意味がない工作かなあ,と思います。 ![]() フレット,扇飾り,中央飾りは比較的簡単にはずれましたが,左右の目摂の接着がかなり強固で,多少時間がかかりました いちおう,ぜんぶ唐木じゃないかと踏んでたんですが。 左右目摂と扇飾りはともにホオ板。真ん中の菊の円飾りだけ黒檀でございました。 いづれのお飾りにも損傷はほとんどありませんでしたが,そうしたお飾りや絃停の裏から新たに「虫食い穴」がいくつか見つかりました。 今回の修理作業はココ。 「見ただけじゃ分からない領域」からまいります。 半月の少し上,絃停の下になっていたあたりに,少し大きめの虫食い穴がありましたのでほじくりましたところ----ふう……けっこう大物だったみたいですね。 ![]() ![]() ![]() 長さはそんなにありませんが,幅が3ミリ以上あります。 ほじってゆくとけっこう大きなミゾになりました。 食害はさらに先,半月の下のほうまで続いているようですが,半月の安定等には影響はないようです。 ここがいちばん重症で,あとは楽器の上部に数箇所。 中心に近い一箇所以外はほぼ直線的な食害で,幅も長さもそれほどではありません。 ほじくるだけほじったら,少し整形して,埋め木を削ってハメこみます。 ![]() ![]() ニカワを塗る前に埋め木を軽く濡らしておき,接着箇所にあてたら,火熨しを使ってちょっと蒸らしながら押し込みますと,桐が柔らかくなって,けっこうピッタリとハマりますね。 それでもできたスキマと,比較的浅い虫食い痕には,木粉粘土と砥粉をヤシャ液と薄いニカワで溶いた特製パテを充填。 ![]() つぎは胴体側面の補修。 各接合部の工作自体はかなり良く,精密で,楽器下部の二箇所にはカミソリの刃も入りませんが,楽器左肩の接合部にヒビが,左肩の接合部にはわずかですがスキマができています。 これだけの杢板ですからね。これらのスキマやヒビも,工作そのものより,木の質に由来するものだと思います。 右肩のスキマは左肩接合部の歪みによるものですが,その原因である左肩のヒビも,板を貫通はしておらず,ごく表面的なもので。木が完全に乾燥してしまっている現状,これ以上深くなりも広がりそうにもありません。 ![]() そこで修理は,右肩のスキマにはツキ板を切って,先端を薄く削って差し込み,左肩のヒビには木粉粘土を充填して整形するていどにとどめたいと思います。 蓮頭のついていた糸倉の先端にも,少しスキマがありましたので,ここも胴体の接合部同様にツキ板で埋めます。 これも工作不良や,単にニカワが劣化して接着がとんでるのじゃなく,糸倉の材質的な変形によるもののようです。実際,部品はハガれていません。 もしかすると,胴も棹も,ちゃんと乾燥してない材料を使ったのじゃないかなあ? ![]() さて,お次は今回の修理でいちばんの大仕事。 ----蓮頭を作ります。 材料は先に和光市のウッディ・プラザさんで仕入れた虎杢のトチの板----胴体に合わせるため,ちょっとフンパツしましたのさ。 はじめて使う素材ですが,けっこうカタいですねえ。メイブルさんよりはやや粘るかな? 切って削って磨いて,ちょっと厚めなんですがこんなものでしょう。 ![]() ![]() ![]() せっかくの杢板ですから,この蓮頭には塗装も飾り彫りもしません。 でも,楽器にあててみたところ,ちょっと白っぽいので。 胴体に色を近づけるため,仕上げの前にヤシャ液を2度ほど塗って染めてみました。 仕上げはペーパーを#600までかけてから,Shinex に亜麻仁油を少しつけて磨き上げたんですが----ぴっかぴかですねえ。 今回は,というあたりまで---次回,いよいよ,完成です! (つづく)
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