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赤城山1号(5)

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斗酒庵 覚えず清琴斎(二記)と再会す の巻2010.12~ 赤城山1号 (5)

STEP5 11枚ある!(by 矧尾都望)

  さて,修理の邪魔になるお飾り類,半月,ボンドによる補修痕の除去も終わりましたので,いよいよ本格的な修理作業に入ることといたしましょう。


  この楽器の表面板には,胴体の天地をほぼ貫通する割レが一本入っており,それを発生源に,地の側板の表面板がわ周縁はほとんどハガれ,左下の接合部がハズれてしまっております。


  そのほかにも同じ割レを原因として,天の側板の棹孔付近ほか,ところどころに面板のハガれが生じていますね。
  幸いにも側板の部材自体にはさしたる歪みも出ていないようですので,まずはこれらを定位置に再接着して,固定してしまいましょう。



  面板のハガれているところにまずはぬるま湯をふくませ,つぎにゆるく溶いたニカワをたらして,もみこむようにしながらハガれている箇所全体に回します。
  筆の入らないような細いスキマからも,ニカワを含んだ粘っこい汁がにちにちと滲み出るようになったら,クランプで固定。

  表面板は内桁からもハガれているようなので,割レを少し持ち上げ,内桁の接着面に筆でニカワを垂らし,重石に辞書をのっけて,いっしょにくっつけてしまうことにします。


  二日ほどしてくっついたら,ヒビ割れを埋めましょう。



  根元のところで1ミリくらい開いちゃってますから,今回は木粉パテでは埋まりません。

  まずはヒビ割れの両岸を,アートナイフで軽く削って均しておきます。
  つぎに過去の修理で出た古い面板から,うすーい細板を切り出し,さらにペーパーで削って,なるべく奥までビシッとはまるような埋め木を作ります。

  乾いたら整形して,っと----うん,まあこんなものかな?
  埋め木としてこんな薄いのがうまくハマったのはハジメテかも。
  ともかく,割レがほぼまっすぐなんで助かりました。


  ヒビ割レの始末もうまくいったので,次は表面板を清掃してしまいます。


  ヨゴレはそれほどでもなかったんですが,さすが量産特化型。
  使われてるヤシャ液はやたらに薄いわ古いわ,砥粉の質は悪いわ。
  「ヤシャ液が古い」ってのは,この変色が楽器の経年劣化によるものではなく,使いまわされて劣化した質の悪いヤシャ液だったってことですからね----絃停の下のオリジナルの板の色が,にじみ出てくる汁の色が,なんと悪いこと!

  まあコスト減らすんなら,真っ先に質を落とすところの一つでしょうから,しょうがありませんかね。

  !!そして全体を濡らして分かった衝撃の事実!!


  この表面板,なんと11枚もの板を矧いであります。

  ええ,「矧ぐ(はぐ)」というのは,板を横に並べて接着して,一枚の板にすることですよ。
  写真だと判りにくいとは思いますが,紙の置いてあるところがそれぞれ違う板でできているんです。

  ちょっとした小物入れや,細工物に使う板や材はともかく。桐というものはもともと,このように横に継いで板にするものではありますが,これだけ数多くの小板を使った板を,音に直接関係のある表面板に使っているというのははじめて見ましたね。

  こんな薄い板をたくさん並べて横に接着するのだから----と考えると,その手間のぶん大変そうに思えますが,月琴に使われる桐の薄板は,わたしがよくウサ琴でやっているように板の状態のものを横に継ぐのではなく,桐の角材や厚板を重ねて接着剤と竹釘で固定し,でっかいカタマリにしたものを,ローストビーフよろしく板目から薄切りにして作っていたと推測されます。


  一つ一つのカタマリが大きければ,接着箇所が少ないわけですから,板としては質が高く,一枚の板は高価になります。逆に部材が小さくても,目をうまく組み合わせればちゃんとした板にはなりますし,極端なはなし,端材のような中途半端な材料も,組み合わせ次第でムダなく板とすることができるわけですね。

  むかしから「桐は桐屋」と言いまして。
  桐の流通というのは木材の中でもちょっと特殊で,同じ木材を扱う指物屋さんなどでも,桐箱や桐板のことに関しては,桐を扱うお店に直接頼んでたりしてました。従って月琴に使われているこうした桐板も,多くは工房で自作したのではなく,桐屋さんに発注してまとめ買いしていたと考えられます。


  山田縫三郎,このあたりでもたぶん,コスト削減のため抜け目なく立ち回ったんでしょうねえ。
  端材寸前の細かい材を継いだ安い板----とはいえ目はうまくそろっていますし,おかしな節目もない。
  そのへんはちゃん選んではあるようですね。

  前にも書いたとおり,唐渡りの月琴では桐の一枚板を使っている例が多く見られます。
  月琴はそんなに大きな楽器ではありませんが,それでも一枚板で表裏を貼るとなると,けっこうな額になります。
  全体が均質な一枚板の場合,音の伝導にもちろん支障は何もありませんが,木目によってはかえってアバれて,ひどい歪みや割れが生じてしまう場合があります。そうした板自体の自然な質を原因とする不具合は始末が悪く,板自体をまるっと交換するくらいのことを考えなければ,根本的な解決はなく,けっきょく何度となく再発することが多いですね。


  2~5枚矧ぎくらいで,板をうまく組み合わせたもののほうが,歪みや割れが生じにくく,安定しているように思われます。またその程度だと多少壊れても,同じような目の板で一部をすげ替えれば,ほとんど元通りになりますから,かえって長持ちかもしれません。

  矧ぎの枚数がそれ以上に多くなっても,組み合わせをしっかりと考えてやっているものならば,さほどの問題はありません。しかし,部材が多くなれば目の組み合わせも複雑になります,ましてやそこらの余り材をてきとうに積み重ねてへっつけ,板にしたようなものですと,それぞれの小板の経年の収縮やクセで,どんなことになるか分かりません。

  赤城山1号,表面板のこのヒビは,おそらくそうした板の収縮によるものと思われますが,逆にこれだけ数を継いだ板で,百年を越え,このくらいのことで済んでいるのですから,とんでもなくウデがいいとも,キセキだとも言えるかもしれません。

  では平成の月琴士から,賞賛とともにささやかな贈り物を。

  いつもより少ししつこくヤシャ液を拭いとった表面板を,しぼったばかりの新しいヤシャ液と,ちょっと上等の砥粉で染め直しました。

  すっきり黄金色,ですね。
(つづく)


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