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赤城山1号(3)

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斗酒庵 覚えず清琴斎(二記)と再会す の巻2010.12~ 赤城山1号 (3)

STEP3 軸先に見える天国,軸先から見える地獄

  さて,データーもだいたいとりおわったので,いよいよ修理に入ります。
  わたしゃ楽器屋さんぢゃないので,修理のほうはデーターとらせて貰ったお礼みたいなもんですが,もちろん手ェ抜いたことは(あんまり)ありません。

  本体のほうにも面板の割レやハガレなど要修理なところが数箇所ありますが,いづれも急は要さず,重症でもないので,何はともあれ,いちばん嫌な仕事から参りましょう。

  軸を削ります。(^_^;)


  夏前のウサ琴製作とこのところの修理で,ストックしておいた素体がなくなってしまいましたので,ひさしぶりに四面落しからのスタートです。四面落し用治具「軸切り太郎くん」(…だったっけ?),ひさびさの登場---ご覧のとおり,角材に軸の斜面の角度に切った板をへっつけただけのシロモノですが,やっぱりあるのとないのとでは大違いです。Fクランプと木片で材料を固定し,ひっくりかえしながら,斜め切りしてゆきます。
  これを使う前は片手で材料を押さえ,片手で切ってました。木材というものは,横より縦,縦より斜めに切るのがいちばん大変です。なんせ繊維の方向を完全に無視して,まさに「ぶった斬る」わけですから。

  「軸切り太郎くん」のおかげで,材料を足で踏んづけてがっしり固定し,鋸を両手で握って切れるようになりました。

  ----とゆうても,やっぱりキツイのはキツイんじゃあ!(汗)

  軸の作業は,1本だけやっても10本同時にやってても,実は同じくらい時間がかかります。
  「赤城山1号」に足りないのは1本だけですが,なんか1本だけってのがかえってシャクなので,ついでにうちの8号月琴・生葉の軸も削ることとしました。生葉ちゃんはたぶん石田不識の作。一応うちのコンサート用楽器なのですが,そのマグロ黒檀の軸が,いまいち糸倉と噛合っておらず,せっかくのスペックをじゅうぶんに発揮できずにおります。この際ですから,糸倉にちゃんと合った軸を作ってバリバリ弾ける楽器にしてやろうと思います。


  軸をつごう5本,四面落しに一日,削るのに二日。
  何度も言ってますが,六角形にする作業は,なぜか好きなんだなあ。

  「赤城山1号」の軸は,ほかの作家の楽器のものと比べると,やや短めで11cm ほどしかありません(平均は12cm )。
  実はうちのウサ琴の軸と,ほとんど同じサイズなのですね。おそらく理由も同じでしょう。
  ---いわくコストダウン!
  ウサ琴の軸は,初期のものにはチーク,後では¥100屋さんで買えるスダジイの丸棒を使いました。どちらも長さは45センチ。12センチの軸だと1本の材料から3本しか取れないうえ,かなり大きな余りが出ます。平均から1センチ縮めるだけで,1本の材料から1セットぶん取れて,加工の上での誤差損失を入れると,余りはほとんど出ません。

  個人・職人レベルでの製作なら,なにもそこまで考える必要はないでしょうが,これが楽器工場レベルでの量産体勢となれば,この差は大きい----こういうところからも逆に,山田楽器店の「近代的な」センスがうかがい知れますよね。

  とと,また少し横道に。


  削り終えた軸は,糸倉とのフィッティングを済ませてから,握りの部分をたんねんに磨き,スオウで染めます。
  煮立てたスオウの汁にくぐらせては乾かすこと数回。
  ほどよくオレンジ色に染まったら,ボウルに熱湯を入れ,ちょっと濃い目に重曹を溶いて,その中でさッと転がします。


  ほーら!みごと「1.3倍速い人専用のザク色」に染まりましたよ!
  おほほほほーっ!

  数日放置して,よく乾燥させます。
  乾燥しながらも,空気中の水分を吸ってさらに反応が続くので,色はしばらくの間多少変化しますね。
  今回は,こんな感じに落ち着きました。
  ここまでのところは何度もくりかえした実験結果の反映ですが,庵主,化ケ学がニガテなこともあり,この技法,正直なところ,何をどのくらいどーすればどーなるのか,いまださぱーり分かりません。

  こんな真っ赤にして,いったいどーする気だ?
  と,不安に思われるかたもございましょうが。ここまでは下染めの下準備,これからが本番。


  つぎにこれを,温めたオハグロ液にくぐらせます。
  黒くなった----まあオハグロですから。

  ちなみに,うちで「オハグロ液」として使っているものは,クメゾー(茶ベンガラ)とヤシャ液に家庭用のお酢を混ぜたものを煮立たせ,寝かせたものです。江戸時代にはベンガラでなく,古釘なんかを使ったみたいですが作り方はまあ同じようなものですね。
  煮立たせるのは最初と,あとは「たまに」でいいんですが,そのおりちょっと……いやかなり,サツジン的なニオイがしますんで,そこんところ,ひとつご注意を。あとときどき,使ったり蒸発して減った分,ヤシャ液やお酢を注ぎ足しておいてください。


  うちので3年目くらいになりますが,よく本にもあるように,年を経るごとに黒味が深くなってきますね。

  また乾かしてはくぐらせるのを二三度やって,乾いたら布で表面をしっかり擦ります。ベンガラのせいで表面がなにやらメタリック風味になりますが,これはただの「黒染め」ではありません。写真だとちょっと分かりにくいんですが,実はこの段階で,下染めのスオウがオハグロ液と反応して,下地は濃く暗めな赤紫色に発色しているのです。
  実験の結果,木の場合は,スオウ染めから直に「鉄媒染」に入るより,いちど「重曹(アルカリ媒染)で赤を発色させてから」のほうが,より深く濃い色が得られることが分かりました。

  うん,何でかは知らんけど。



  これをカシューで塗ってゆきます。昔のひとはウルシでやったんでしょうけど,庵主,えらくカブれるもので。
  下地は「染め」,ある程度の磨きがききますんで,どちらかというと「塗り」というより,拭き漆風に塗料を染ませてゆきましょう。
  最後に二度ばかり,こってり捨て塗りで塗膜を作り,ごしごしごし………

  どです?

  「黒檀」というよりは「紫檀」の軸って感じですね。
  下地の木の微妙な感じがうまく出て,ニセモノではありますが,単に黒く塗ったのとはエラい違いです。


  さっそく取り付けてみましょう!

  おそらくオリジナルの軸も,いくつか材料は違いましょうが,技法としてはほぼ同じような方法を使って染められてるのだと思います。

  この写真だけで,どの1本が今回作ったものか一目で見破れたら----あなたには美術品詐欺師の才能と資格があるかもですよ。

  今回は軸の工程だけまとめてみましたが,次回は楽器本体の修理へと入りまーす。
  お楽しみに~。


(つづく)


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