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赤城山1号(2)

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斗酒庵 覚えず清琴斎(二記)と再会す の巻2010.12~ 赤城山1号 (2)

STEP2 内部の暗黒大陸


  前回の記事を読んだ方から「赤城山1号」のラベルに書いてあったという「改良律月琴」とは何じゃい----という質問がありましたので。

  庵主も,実物にはまだお目にかかったことがないのですが,おそらくこんなシロモノかと。

  画像は加藤徹先生のHPから,『月琴雑曲自在』(静琴楽士 明31)の口絵ですね。
  半音と,より西洋音階に近い正確な音を出せるように工夫したものですが----ナニ,要はフレットを増やしただけというとこで。
  あっしの作るウサ琴ほども,変わったトコロはござンせんよ。


  明治における月琴の近代化,というか改良・改造については,文部省にあった「音楽取調所」の『音楽取調成績申報書』(明17)にすでにその一案が見えます。

   月琴ハ,固ヨリ符ノ定付セルヲ以テ便ナルトコロアリトイヘドモ,従来ノ符ニテハ其数不足ニシテ,数種ノ音ヲ生スルコト能ハズ。其律モ不定ニシテ,改正セザルベカラザルモノアリ。因テ客年二月以降,其方法ニ苦辛セシニ,到底此楽器ヲ唱歌ニ用インニハ,唱歌ニ用フル諸音ノ,容易ニ生ズベキ方法ニ由テ,之ヲ改製セザルベカラザルハ言ヲ待タサレバ,此目的ヲ以テ,先ヅ其符ヲ改メテ長音階ト為シ,十二律ヲ付シ,其絃数ニ一絃ヲ加ヘ,棹長ヲ縮シ,胴面ノ板地ヲ改メタル等,種々ノ改正ヲ加ヘタルニ,大ニ其音質ヲ爽快ニ為シ,且諸音ヲ発作スルコト自由自在ニシテ,最モ軽便ナル楽器ト為リタリ。此楽器ニ十二律ヲ付シタル方法ハ,即チ左ノ如シ----以下略----

  「其絃数ニ一絃ヲ加ヘ,棹長ヲ縮シ,胴面ノ板地ヲ改メ」ってあたりが,べつにふつうの清楽月琴でいいじゃんよォ,と思ってるムキには,ちょっと不穏というか不安ですが,ほかはやっぱりフレットを8本から10本に増やしてるだけみたいですね。当時,この「音楽取調所」には,連山派・長原梅園の息子である長原春田のように,清楽・明清楽に関わる人物もおりましたので,そういうところから出た意見なのかもしれません。

  ちなみにこの試案に準じたような楽器も,今のところ見たことがありません。

  1980年代初頭まで「改良」を重ねた中国現代月琴が,けっきょく昔からあった「月琴」とは何ら関係のない,ギターだか琵琶だか分からない中途半端な楽器になってしまったように,この手のものでこういうトップダウンの改造が成功したためしがほとんどない,というのが,楽器の歴史の世界です。まあ楽器でなくても,使う人の考える理想の道具と,使う上での理想から考えられた道具,というものは決して一つになると限らない,ってことでしょうね----たとえばこれ読んでるうち何人の方が,エルゴキーボード使ってます?

  庵主,じつは清楽月琴で演奏してて,8本のフレット,13コの音でそれほど困ったことはありません。

  もともと「難しいことのできない楽器」なのですから,できないことはやらなくていいんです。
  出来ること,出せる音の中から,もっとも最善の表現を---なんて,エラそうなこと言ってますが,まあ実際のところは,コード内の3音ぐらいをくりかえしそれらしく弾いたり,あとはひたすらトレモロで誤魔化すってのがせいぜいでしょうか。
  でも,そうしてる限りにおいてはこの楽器,「最強の伴奏楽器(笑)」の一つだと思いますよ。(^_^;)



  さて,余談で半分ぐらい書いちゃいましたが。
  山田楽器店製造「赤城山1号」,内部構造の調査とまいります。
  とはいえまたまた,オープン修理に値する重症箇所がないもので,今回も棹孔から覗く程度です。

  でわ----



  ……見えません。(汗)

  さすがは山田縫三郎……「量産のツボ」をよくおさえていらっしゃる。

  内桁はほぼタダの板,上桁真ん中にあいた棹孔のほかに孔がありません。
  ただ,松か杉かは分かりませんが,板の材質は悪くないですね。月琴10号なども,同じように音孔のない板で仕切られてましたが,表面が凸凹の明らかな端材板でした。それに比べれば表面もきれいだし厚みも均等のようです。

  ということで,今回の内部調査はほぼ触診と推測によるところがほとんど,と。
  いやあ,ファイバースコープとかあっても,今回はほとんど同じでしょうねえ。

  「十六夜」に同じものがあったかどうかは不明なんですが,棹孔の裏面板側に「山」の墨書があります。「山田縫三郎」,間違いないみたいですね。
  そのほか見える範囲においては,簡単な目当て線や目印以外,特に署名や墨書の類は見つかりません。


  棹孔の周辺は平らに加工されています。
  工作は丁寧で,棹基部との接合もかなり緻密ですね。前回も書いたとおり,棹基部には薄い板が一枚スペーサーとして噛ませてありましたが,それだけの調整で出し入れはスルピタ,左右にも前後にもゆらぎません。

  とりあえず,内視鏡での観察と棒による触診で分かった限りのことをまとめて,右画像に。
  (クリックで拡大します)


  響き線はおそらく,ゆるい弧を描く型だと思うのですが,なにせ上桁から下の見える範囲がせまいもので,基部も確認できませんでした。やや太めの鋼線だと思われます。
  幅はありませんが表面板にかなり長い割レが入っているので,湿気など内部への影響も懸念されましたが,響き線にもサビらしいものはなく,問題となるような部材のハガレも発見できませんでした。

  側面内部の加工痕は浅く,鋸痕はやや太めなものがかなり均等な間隔で残っています。
  桁と側面との接合方法も,単なる接着なのかそれとも溝を切ってはめこんであるのか分かりませんが,少なくとも観察した上では隙間らしいものもなく,かなり精密に組上げられているようです。

(つづく)


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