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月琴8号生葉 再修理(1)

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斗酒庵 8号生葉を再度修理す の巻月琴8号 生葉 再修理


けっこう悲劇のコンサーティナ

修理前・梱包
  庵主はふだん,演奏の場ではたいてい,7号「コウモリ月琴」を使っています。

  コウモリ月琴は桜胴,棹朴の中級月琴ですが,うちの楽器の中ではいちばん手に熟れているし,音質的にもクセがなく,どんな状況でもちゃんと鳴るタフさもあるからなのですね。
  ただ,やはりしょせん「中級」の楽器なので,ライブハウスくらいでの演奏では問題ないものの,少し広い場所や音響のしっかりしたホール的なところだと,音量,音質の面でどうしても物足りなさがあります。

  ちょっと困っていたところに,やってきたのがこの楽器。

  8号月琴「生葉」ちゃんです。
  ネオクで見たときには,参考写真がかなりナニで。胴体側面などまるで赤ペンキを塗ったような感じに写っていたものですから,あまり大したものだとは思ってなかったんですが,無事落ちて,届いてみたらアラびっくり----

  胴は染めた花櫚(カリン),棹は茎までムクの紫檀。
  糸倉の左右には鉄刀木(タガヤサン)の薄板が貼られ,半月も鉄刀木のカタマリ。
  柱は象牙,透かし彫りの蓮頭やそのほか飾りも,唐木で出来ています。

  ----明治後期のかなりな高級月琴でした。

  作者はおそらく「石田不識」だと思われますが,ラベルが剥がれていたので確とは言えません。(後述)

  生葉は欠損部品が少なく,軸もオリジナルのが4本ともそろっていました。
  その軸も,今では希少材である,通称「マグロ」と呼ばれる真っ黒い上物の黒檀で作られています----いまこのくらいの材質のもので,これと同じのを作ろうと思ったら,¥いくら¥かかるか分かりませんよ。



  軸自体の形や溝などはさほど変ったものではありませんが,細工がこまかい。
  握りの尻の部分にも彫りこみ,細いほうの先端には,一本線,二本線,三本線に十字,と刻みが入っていて,軸それぞれが何番目の穴に差し込むものなのか,分かるようになっています。

  -----にもかかわらず。

  この軸,糸倉の孔と,ちゃんと噛合っていないのです。

  太い握りがわはいいんですが,先端が細すぎて,孔の向こうから光が漏れてくるくらい,ひどいところでは1ミリちかくもスキマが開いていました。すぐ上にも書いたように,先端に刻みで番号をふってあるので,いろいろと孔をさしかえ試してみたのですが,どの組み合わせにしてもスキマは埋まりません。

  握りがわの孔との噛合せは悪くないので,この状態でも使えないことはないのですが,やはり片方だけだと軸が不安定で狂いやすく,演奏中に肩や身体が軸先端にちょっと触れたくらいで,ひどくユルんでしまったりもします。
  おかげで,せっかくいい材質いい工作の高級楽器なのに,本来のスペックを発揮させてあげることができず,ここ数年間はほとんど壁からぶるさがってるだけって感じに,なってしまっておりました。


  今回は「赤城山1号」の修理のついで。

  ちゃんと噛合う軸を新たにこさえるのと。さらに前回の修理で手を出さなかったような箇所にもあちこち手を入れて,この楽器を,バリバリ演奏できるような状態に仕上げてやろうと思います。

  まず軸ですが----製作過程のほうはまあ,「赤城山1号」の記事をごらんください。


  材質はいつものスダジイ。スオウで染めて重曹でアルカリ媒染したあと,オハグロベンガラの溶液をくぐらせ,カシューを刷いて濃紫色に仕立て上げました。

  素材とか細工の点ではもう,前についてたものからすると,おハナシにも比べ物にもなりませんが----オリジナルより多少細身で,工作もかなり雑なものの,とにかく 「噛み合せ重視」 でばっちり調整しながら作ったので,チューニング自体もそのあとも,前とはくらべものにならないくらい安定するようになりましたね。



追記 2013.0624

  この8号の作者は,田島勝だと推定されます。

  ここ数年,ネオクに出た楽器の写真を整理したところ,田島勝(真斎)の月琴は,棹茎まで無垢材での製作や半月下縁部の切り落とし加工など,石田義雄の月琴によく似た特徴を有しているもののあることが分かってきました。


  比較その1)目摂の彫り

  フォルムは極めてよく似ているが,石田不識(左)の花弁の彫りが丸刀でのエグリであるのに対して,田島勝(右)は線彫り。



  比較その2)蓮頭

  普及品の月琴で最も多い型。石田不識(左)の蓮頭には真ん中に丸い部分がある。


  ほか,石田義雄の月琴には,主材として桜やカツラなど,どちらかというと安価で加工のしやすい材料が用いられていますが,田島勝の月琴は多く黒檀や紫檀と言った高級材が多用され,目摂や飾りの加工は石田義雄よりも精緻です(やや凝りすぎの感アリ)。棹背のスタイルや棹茎まで無垢なところは同じですが,糸倉の弦池は彫り貫きではなく天に間木をはさめる型,ふくらが幾分浅く,第4フレットの位置が不識のものよりやや胴体側にあり,内桁が胴体と異材である点なども異なっています。


  細かく言うとこういう差異はありますが,ラベルがなければパッと見で判る領域ではありません。(泣)
  いまのところまだ資料がないので分かりませんが,この二人の作る楽器,外見上はきわめてよく似通っています---なにか師弟関係のようなものにでもあったのかもしれませんね。
  総じて言えば,素材や装飾,表面加工などは田島真斎の楽器のほうが上です。
  お飾りの点で言うと,不識の手は独特ですが「精緻」というわけではありません。(1号再修理,参照)
  ただ楽器としての音で比較すると,真斎の楽器は,外見のわりにはどちらかというと普通で,使われている材料などから考えても,もっと鳴っていい気がしますね。余韻がややこもっていて,音の伸びも多少物足りません。
  材質的には劣っているのですが,石田不識の月琴のほうが,楽器としての構造・工作の点では上で,音ヌケも良く力強い余韻が感じられます----まあ,それはそれで「月琴の音」としてはどうなのよ?という面もあり,好き嫌いでは,ありますが。(w)

(つづく)


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