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19号清琴斎3(2)

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斗酒庵 縫三郎とらんららん の巻月琴19号清琴斎3(2)

GR---月琴救急病棟


  見た感じ,いちばんの重症患者のようなので。
  順番は最後ですが,この楽器から修理をはじめることとします。

  表面的な観察と触診から確認できた,表面板の虫食い痕は,およそ30箇所。
  ひとつひとつホジくったそれを,今度は埋めてまいります。
  長いミゾは埋め木で,単純な穴ポコには木粉粘土を充填。埋め木はいちおう合わせながらやってはいますが,それでもできるスキマには,ホジくったときに出たオリジナルのカケラをつっこんで埋めました。

  
  およそ三日ががりで,30箇所なんとか埋めきり,第一弾の整形。
  カンナのかけられるところはカンナで,半月の下など,カンナの入らないところは刃物で。

  

  この整形の作業中,左下に一箇所,右側に数箇所,新たな虫食いによる劣化箇所が見つかりました。
  右がわのは何本もあって,ずいぶん混んでおり,強度的に多少心配があるので,あたり一帯をごそっと切り抜いて,板ごと交換しちゃうことにしました。
  なるべくはオリジナルのままいきたかったんですが,しょうがありません。


  面板の一部を切り取った余禄で,内部がのぞけ,響き線のカタチや基部の様子などがはっきり分かりました。
  響き線は棹孔からの観察から想定されたとおり,側板と裏面板の間から出ています。
  線自体は当初推定していたようなゆるい弧線ではなく,ほぼ直線のようですね。

  側板は厚さがほぼ均等で6ミリ。接合は単純な木口同士の接着ですが,工作は精密で,スキマもありません。
  内桁は単純な接着ではなく,側板の内側にごく浅くミゾを切ってハメこんであるようですね,丁寧な仕事だ。
  材質はたぶんマツ。両端は台形に切り落とされています。

  

  下桁に音孔がないため閉鎖空間だった楽器下部の空間が開放されたので,ふたたびブロアなどを使ってこの部分の木粉落としを。
  …ごほごほっ!…やっぱりここもひどいホコリで……という作業をしながら気がついたんですが。
  そういやこの楽器,半月の裏側の穴ポコ---琵琶でいうところの「陰月」が開いてませんね。
  「赤城山1号」には,確かあったと思ったんですが。



  けっこう大きな切抜きでしたが,サイズ的に手持ちの修理で出た古い面板で間に合いそうなので,ヨサゲなあたりを切ってハメこみます。
  えーと,これは9号の板だったか,10号のだったか…
  一晩たって周縁の余分を切り落とし,作業の邪魔にならない程度にざっと整形。表面を削ってみますと,意外と色合いも近く,あまり目立たない感じに埋まりました。


  さて,大きなキズはさほどにありませんが,これだけあちこち細かくホジられてると,なかなかに目立ちますねえ……

  うむ,そうだ!
  思いついたぞ,キミの「銘」を!

  おまえは今日から「与三郎」,な。

  イキな黒塀,見越のま~つに,ッとくらあ。

  
  しかしまあ,こうはっきり表面板全面ナマス切りなのもなんですから,ちょいと手当てはいたしましょう。
  まずは,埋めたところ一箇所一箇所に,砥粉をヤシャ液でどろどろに溶いたものを盛って,傷痕の周縁を埋めます。
  乾いてから,これを布で擦り落し,つぎに温めたヤシャ液で,また一箇所一箇所,補彩してまいります。
  埋めた板により,色が薄いもの濃いもの,違ってますから,まあ周辺見ながら適度に。
  乾くと色合いが若干変わってきますから,そのへんも注意しつつ,作業をくりかえすと----

  だいぶん目立たなくなりました。
  近くで見ると,さすがにバレますが,遠目には分かりますまい。

  
  面板の清掃のついでに,棹や側板のヨゴレ落しを。
  塗料の正体が分からないので,とりあえずは,ウェスをぬるま湯に漬けてよーく絞ったものでゴシゴシ…
  色落ちがさほどなかったので,続いて薄めの重曹水でさッさと軽めに拭ってみました。
  今度は布にちょっと色が着きましたが,かなりキレイになりました。
  表面はほぼオイル仕上げと言った程度,「塗膜」といえるような層はないので,染料系の着色剤が用いられているようです。スオウのような植物由来の染料ではないようなのですが,単純にベンガラでもないようですし---すみません,やっぱり分かりません。


  さて,19号与三郎。
  面板の虫食いをべつにすれば,本体各部の接合,接着等にはもともとほとんど問題箇所がありませんでした。

  こうして見ますと,なかなかに美人さんですね。

  側板の接合,面板の周縁の接着,内桁と面板の接着,棹の組み付け,いづれも精密で,歪みもウキやハガレも見られません。
  最初,内部から木粉がもっさり出てきた時は,「あちゃー(^_^;)」と思いましたが,被害箇所は多かったものの,それぞれの食害はいづれも軽度だったため,全体的にも,楽器としての使用上不都合が生じるようなレベルにはなっていませんでした。

  補修箇所が多いのは面倒だったものの,あとは欠損部品の補作(軸・山口・フレット)だけで甦りそうです----見た目よりは,意外と「軽症」だったと言えるでしょう。
  軸削りはまとめてやってしまいたいので,今回はここまで。

(つづく)


19号清琴斎3(1)

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斗酒庵 縫三郎とらんららん の巻月琴19号清琴斎3(1)

3面目の刺客


  もう知りません。やです。また来ちゃいました。
  13号柚多田,17号柏葉堂3,18号唐木屋に続いて,前2面とほとんど同時の自出し月琴ラッシュ。
  もはや「あの世楽器商総連」の意図は明白……うぬぅ,こうなれば,斬って斬って斬りまくってくれる!!
  うははははーっ!さあ来い!
 どんと来い!何でも来い!

  (ウソです。もう来ないでください。すでに資力と修理能力の限界を越えております。)

  

  赤城山1号がハンガーアウトしていったのは,ついこないだのことだったんですが,19面めの自出し月琴は,同じ 「清琴斎二記・山田縫三郎」 さんの楽器となりました。ラベルも同じなので,同じくらいの時期に作られたものでしょう。

  軸が2本しかなく,琴頭に布が巻きつけてあって,半月に柔らかい園芸用のハリガネがくくってありました。
  ぱっと見た感じは,まあキレイなほうだったんですが…

  
  表面板,虫食い穴だらけですねえ。
  こことか,こことか…
  こんなとこにも穴ぽこが……
  棹を抜いて中をのぞくと………

  ぅわああぁああああっ!!!

  木粉まみれですーっ!!
  …うぶっ!ゴホゴホッ!!

  こおりゃあ,久しぶりにエラいもん引いちゃったかもしれません。



1.採寸



  全長:660mm(蓮頭を含む) 胴幅:355
  胴厚:36(表裏面板 4.5mm)
  棹長:310mm(蓮頭を含む)

  有功弦長:425


2.各部所見

  
 ■ 蓮頭:81×56。
  ほぼ無傷。中級以下の楽器に多い,線刻のみの簡単な装飾。意匠は宝珠。
  周縁にわずかなカケがあるが,状態は良い。琴頭との接着も精密。


 ■ 糸倉~棹:材はホオ。蓮頭同様,全体に赤っぽい着色。指板はない。
  糸倉表,棹背に多少のヨゴレ。棹背のものは白っぽく斑になっている正体不明。

 糸倉部分:長 142,幅 31,弦池 100×14,左右厚 9mm。楽器水平面からの最大深度は 57mm。
  天に間木をはさむ。やや細身。
  工房到着時,糸倉の先端,蓮頭のすぐ裏に布が巻かれており,間木の剥離などの破損が懸念されたが,はずしてみると無傷。どうやら楽器を吊るすために巻かれたものだったらしい。


  
 棹部:指板相当部分で,長 150,大幅 31,小幅 26。最大厚 32,最小 24。
  棹背はほぼ直線。うなじも短い実用的なデザイン。

  
 ■ 軸:長 110,大径 26。
  材質不明。ホオではないようだ。
  楽器についていた2本のうち,一本はオリジナルのようだが,もう一本は先端がやや太く,本楽器の糸倉の軸孔,いづれとも噛合わない。六角形一本溝の普通型で,工作は良く似ているが,片方は別の楽器から移植された後補のものと思われる。


 ■ 棹茎:長 120,基部 36×20×13。
  延長材はスギ。基部にV字刻みを入れはめ込み接合。
  表面板側基部に「七」と墨書。裏面に塗料のシミ。
  右横中央に加工アラのヘコミが少々見られるが,工作は全体として比較的丁寧。


  
 ■ 山口・柱:棹上は全欠,胴体上,第4フレットを除き4本残。
  第4フレットは胴体と棹との継ぎ目付近にあり,わずかに棹上にかかっていたようだ。
  胴体上のフレットは象牙のようだが,本物か練物かは現時点では不明。
  山口接着痕の下端から,各フレットまでの間隔は----


   1)44 2)81 3)100 4)139 5)167 6)204 7)231 8)260

  1-2間が広く。2-3フレットの間がせまい事から,かなり西洋音階に近いと思われる。

  
 ■ 胴体:
  縦・横ともに同じ寸法で,ほぼ真円に近い。

  
 側板:4枚,木口同士の単純な擦り合せ接着。
  棹と同じく,赤っぽく着色されている。材質も棹と同じホオであろう。
  わずかにスキマ見られる箇所もあるが,各接合部は比較的健全,面板との接着にもウキ等は見られない。


 表面板:矧ぎ目10枚まで確認。
   右端の一枚のほかは,ほぼ柾目に近い板を矧いである。右肩に小カケ。右端上に小節目。
   小ヤケ,小ヨゴレ。虫食い穴多数,とくに周縁部と上下内桁のあたりに分布(いづれも接着箇所が狙われたものと思われる)。
   半月横から絃停左端に沿い,胴上から1/3のあたりまで,だいたい矧ぎ目に沿って断続的にヒビ割れ。
   その左,つぎの矧ぎ目に沿ったあたりにも小ヒビ。いづれも虫食いに由来するものと思われる。
     
   フレットの上下に横方向への擦り傷。加工痕と思われる。
   絃停左右,および上にバチ痕。


 裏面板:同じく,矧ぎ目10枚まで確認。
   板目の板が使われており,節が数箇所ある。表面板と比べると,ヤケやヨゴレはなく,ラベルもふくめ保存はきわめて良い。
   虫食い穴も表面板と比べると少ないが,かなり大きめなものが10箇所ばかり見受けられる。とくに左端矧ぎ目にあるものと,中央下部の節目にあいているものが目立つ。
   その左端矧ぎ目,虫食い穴の間と,左から3-4枚目の矧ぎ目上端,ラベル右端の上に小ヒビ。

   中央下端周縁部に,小さなラベルの断片アリ。


  
 ■ 半月:95×42×h.10
  装飾のない板状半円。
  外弦間:33.5,内弦間:26,内外弦間:いづれも 4mm。


 ■ 絃停:ニシキヘビ皮。107×90。
  数箇所虫食い穴があるが,比較的状態は良い。

 ■ 装飾:左右目摂,扇飾り。
  いづれもよくあるデザイン。目摂,花種不明。
  扇飾り,万帯の変形。右に割レ目,二つになっているらしい。



3.内部構造

  冒頭にも書いたように,当初は楽器内部が虫食いによると思われる木粉にこんもり覆われており,細部まで観察することができませんでしたので,内部調査に先立ち,楽器をジャカジャカジャンと振ったり,ポコポコ叩いたりして,まずは楽器内から木粉を出しました(粉を払い落とすため,ブロアとか自転車の空気入れなども動員)。

  
  うわぁああああぁううぅうう。(^_^;)

  けっこうな量です………何グラムあるんでしょうね。
  虫さんの一部やら,サナギの欠片,脱皮がらなんかも入ってます~。


  虫食いの状態次第ですが,今のところ面板を剥がす予定もないので。
  今回も例によって,棹孔からの覗きこみと,棒による触診などの結果です。

  
  表面板の裏側,棹孔のすぐ下あたりに比較的大きな字で 「七」 と墨で書いてあります。茎のと同じ,組み合わせ指示ですね(この墨書すら,木粉に覆われ,最初は見えませんでした)。墨書きの支持線が数箇所あるほかは,とくに署名めいた墨書は見つかりませんでした。

  内桁は2枚。上桁は棹孔から 105mm,下桁は 240mm のところに位置しています。
  「赤城山1号」では,棹孔のほかは上下とも穴のないただの板状態でしたが,この楽器は上桁には棹孔の左右に木の葉型の音孔があけられています。下桁に音孔はないようですが。真ん中に穴錐でつけたと思われるヘコミがあります。「開ける気はあった」のかもしれません。

  側板の内側はほとんど平滑,5ミリほどの間隔で浅い溝がついています。間隔はほぼ均等で方向も同じ,鋸痕を均したにしては多少整いすぎているように感じます。なにか加工機械による工作の痕なのかも知れません。(左概略図,クリックで拡大)

  響き線は1本。楽器正面から見て,右の側板裏のほぼ中央付近に基部があり,そこから弧を描いて,棹孔直下で下桁の2~3センチほど上を通っています。全体の形状や先端がどこまで延びているのか,正確には不明ですが,左の音孔からは線が見えないので,そのちょっと手前,棹孔と音孔の間あたりのところ,楽器の中心近くで止まっているものと思われます。そうすると,ちょっと短い線ですね。

  線の基部は側板直挿しでも,木片挿しでもなく,側板の手前1センチほどのところで,面板に対して垂直方向に曲がり,裏板のほうへと延びて消えています。
  知人の修理した楽器に,これと似たような構造のものがありました(右画像参照)。おそらく19号も,こんなふうに裏面板と側板の接着部分で,線の基部をはさみこむような固定方法をとっているのだと考えられます。


4.簡見


  今回の3面中,いちばんの重症患者と思われます。
  表面板の虫食い被害の全体を,だいたい把握しておきたかったので,面板上のお飾り等をはずし,ついでに重曹水で面板全体を軽く清掃してみました。
  板を濡らすと,まず表面近くまで食われてスカスカになっているようなところは,水が沁みて乾きが遅いので,濃い色の筋になって浮かびあがります。さらに,ケガキやアートナイフの先で,虫食い穴の周辺をひとつひとつツツいていって,ブヨブヨになっているようなところは,さッさとホジくってしまうことにしました。

  木目に沿った縦方向に,食われたり,劣化している箇所が30ばかりありましたが,出入の穴が比較的大きい割には,食害の多くは幅もせまく,浅いものて,板を貫通までしているのは,意外やほんの数箇所にとどまりました。例によって多数矧ぎの安板ながら,ホジくってみると,全体にかなり目が詰まっていて硬い感触なので,多くの虫は,最短距離でエサとなる接着部を目指したものと思われます。(こやつらはシロアリではないので,木自体がではなく接着部の「ニカワ」が目的)

  
  とくに食害の集中している周縁部および内桁の上あたりでは,横方向への広がりも見られますが,板の表面近くにまで穴の広がっている箇所はほとんどなく,多くはかなり深いところ,接着部付近のみのもののようで,板自体の強度にあまり影響はなさそうです----これも意外でしたね。


  やはり,素材選びというのは大切ですねえ。
  同じ状況で,もっと柔らかい板だったら,早苗ちゃんみたいに貼替えだったでしょう。
  虫食い被害はそれなりに大きいものの,楽器全体として見ると,保存状態はさほど悪くありません。接着や接合箇所はいづれもしっかりとしているし,部材の割れや狂い,歪みの類もほとんど見られませんから,修理としては単純な穴埋め作業がメイン……あ,あと軸3本削らなきゃならんか……

  17号2本,18号1本,んでこれ3本。
  今回は3面で合わせて6本も削るんですね……うううぅっ!orz


  ---と,いうあたりで(^_^;)次回に続きます。

(つづく)


18号唐木屋

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斗酒庵に唐木屋月琴襲来! の巻月琴18号唐木屋(1)


唐木屋才平

  17号柏葉堂の調査をはじめた矢先,もう一面出物が。
  終了時間の深夜まで,かなり気張ってモニタを凝視してたんですが,けっきょく相手もなく,落ちてしまいました。

  あまりにあっけなく----柏葉堂からの流れを考えますと,これはもはや,明治期の作者のことを愚生のドタマにトコトンヤレトンヤレトン叩き込んでくれようと,「あの世楽器商総連」が,総力挙げてイヤがらせしてるのかもしれません。


  裏面のラベルは「諸楽器/販売鋪大/日本東都/本石街林/唐木屋」
  「林才平」さんの月琴です。

  都内の商店を相撲の番付風に組んだ『商業取組評』(明12)の三味線屋部門で,力士じゃなく「勧進元」に祭り上げられてますから,けっこうな老舗だったんじゃないかと思われます。ちなみに同じ「勧進元」には室町の「木屋(岡野勘兵衛)」,「行司」には南伝馬町二丁目の「山形屋」さんなんかが並んでいます----どちらも江戸時代から続く楽器屋さんですね。


  『東京買物獨案内』(明23 左画像,神戸大学デジタルアーカイブ住田文庫より)に「明清楽器欧州楽器及付属品 琴三味線各種 日本橋区本石町二丁目 唐木屋才平」,『東京諸営業員録』でも「和漢洋楽器類」となっていますので,琴三味線だけでなく,洋楽器まで手広く扱っていたようです。
  この人の楽器も,何度かお見かけはしているものの,ゲンジツに手に取ったのはこれがハジメテ。「第五回内国勧業博覧会」(明36)では,楽器でなく絃で「褒状」,「日本文具教育品博覧会」(明44)では三味線で「進歩銅牌」をもらってます,楽器のほうの腕前は不明ですね。

  ぱっと見た感じ,スタイルとしては普通。全体に加工は丁寧な感じがしますが,さて----


1.採寸



  全長:630mm 胴幅:縦 345,横 350
  胴厚:35(表裏面板 3mm)
  棹長:284mm

  有功弦長:410



2.各部簡見


 ■ 蓮頭:大幅 80。下半破損。
   琴頭より脱落。意匠は蓮花。

 
 ■ 糸倉~棹:軽損傷。
   材はホオ。

   糸倉部分,長 165。天に間木をはさむ。
   基部で幅 31,先端でわずかに広がり大幅 33。側部厚 9mm。
   損傷はないが,間木右の接合部に木痩によるスキマあり。
 

   棹,大厚 30,うなじ手前で小厚 23。
   やや太め。棹背はほぼ直線だが,うなじ手前でわずかにえぐれ,ごく浅いアールがついている。

   指板,長 147。大幅 31,小幅 27。
   素材はカリンかチャンチンのごく薄い板,厚 0.5mm。




 ■ 軸:3本残。
   長 120,径 28。六角形,三本溝。
   第2軸,握りのところから折れ,糸倉に先端のみ残る。やや長め。
   材質は不明,胴材と同じクリか?


 
 ■ 棹茎:損傷なし。
   延長材はおそらくスギ。長 190。基部 23×40×2。加工,やや粗く,切削痕やササクレも残り,あちこちにヘコミが見える。
   先端に桐の薄板を2枚重ねで貼り付け,スペーサーとしている。


 ■ 山口・柱:いずれも全損。
   痕跡も薄いが,山口の下辺を基点としたときの各フレットまでの寸法は。

   1)43 2)73 3)100 4)130 5)160 6)200 7)221 8)255

   有功弦長がやや短いため,第4フレットが棹上にある。
   また痕跡から見るに,胴体上の4柱は,ほぼ同じ長さ(40mm)だったようだ。



 ■ 胴体:

 側板:4枚,木口同士の単純な擦り合せ接着。
  材質はおそらくクリ。
  右肩接合部剥離,天および右側板に歪みがあるか?
  表面板,同箇所より天の側板なかばまで剥離。
  裏面板,同箇所より天の側板へ少々剥離。
     反対側,左肩接合部より天の側板半ばまで,
  左下接合部剥離,ただしスキマはあまりない。
      同箇所より裏面板,地の側板半ばまで剥離。



   表面板:ほぼ柾目板,5枚矧ぎ?
    右肩接合部,剥離箇所より割レ,長 230,最大2ミリ以上開く。
    割れ目より中心がわ,内桁よりも剥離,楽器前面方向へ浮キ上リ。
    絃停の左端付近,縦方向へヒビ。長 150,開いてはいないが,中心がわに浮キ,段差あり。


   裏面板:真ん中に節目のある板目板,3枚矧ぎ?
    右肩接合部,剥離箇所より割レ,状態表面板の損傷に同じ。
 
   損傷はあるが,板自体は虫食い等も見えず,保存はいい。割れていなければ「新品同様」と言える。



 ■ 半月: 半円曲面,彫刻あり。
   99×37,大高 10.5。 外弦間: 30,内弦間: 23.5
   各コースで弦間が異なり,低音弦間 4mm,高音弦間 3mm。


 ■ 絃停:ニシキヘビ皮。115×80。
   全体にやや縮みによる変形あり,下1/3ほどはがれて浮き上がっている。


 ■ 装飾:左右目摂,扇飾り,中央円飾り。
   ほかに飾りの痕跡は見られない。右目摂に二箇所欠け。



3.内部構造

  棹孔,および表面板右の破損部などからの観察,および棒などによる触診に基づく。

 ■ 内桁:上下に2枚。
   材質はスギ。厚9ミリ。上桁中央に棹茎の受けのほか音孔ナシ。
   上桁,棹孔より 154,下桁 290。側板と桁の接着は単純な直接接着であると思われ,ニカワらしきやや黒ずんだシミやかたまりが,左右端,接着部周辺に少し見られる。


 ■ 響き線:1本,直径1ミリほど。
   楽器正面から見て右,上桁の下あたりに基部のあるものと思われるが,形状などは不明。表面板の割れ目のすぐ裏,上桁の下1センチほどのところで,楽器下方向へほぼ直角に曲がっている。その先の加工は不明だが,棹孔の直下で270ミリのあたりを通る。
   線は焼きやや浅めだが,サビもなく,銀色に光っている。



  視認範囲がごく限られているため,部分的にはまったく分からない箇所もあるが,確認できる範囲では簡単な指示線をのぞき,署名のような墨書などは見られなかった(表面板裏面,棹孔のすぐ下あたりに「八」とあるのみ)。
  側板内壁にはやや細かめの鋸痕が残る。間隔は均等で加工の精度,技術ともに素晴らしい。
  製作当初のものと思われる切削屑がわずかに残っているくらいで,内部は清潔,とくにホコリやヨゴレなどは見られない。


4.簡見

  この楽器は,8号生葉ちゃんと同じく,秋田からとどきました。
  生葉ちゃんもそうだったんですが,秋田あたりだと土蔵の中など温度が低いこともありましょう,概して保存状態はよろしい。この楽器も表裏面板どちらも白く美しく,虫食いもほとんどありません,が,右肩接合部が----

  ばっくり割れてます~。
  うっひゃ~。
  よくあるように,虫食いで板が傷んだとか,板の矧ぎ目からの破壊ではありませんねえ。
  割れ目からちょっと内部を覗いてみたりしたんですが,この楽器,側板が極端に薄い。
  中心部でも8ミリあるかどうか,左右の端は4ミリほどしかありません。

  面板も薄くて,3ミリくらいしかないですから,ここが割れた原因が,側板のほうにあるのか面板のほうにあるのかは,まだはっきりとは判かりませんが。
  面板の割れかたや,面板と側板との剥離箇所などを見る限り,部材の収縮によって側板左右端に歪みが生じ,まず右肩接合部がはじけ,その衝撃で面板が割れ,対角線上の周縁部にも剥離が発生した,という感じに見えますね。
  側板の素材であるクリは,比較的狂いの少ない丈夫な木ですが,これだけ薄く加工されていると,経年変化や気候の影響なども大きく作用するものと考えられます。

  このブログでも何度か書きましたが,製作者の工作・加工に基づく故障は直しやすい(より上手に「し直して」あげればいいだけだから)のですが,部材そのものの質に起因する故障は,ちょっと厄介です。その歪んだり割れたりしている現状が,むしろその木にとって「あるべき姿」だったり「なりたかった形」なわけで。
  もちろん矯正したり補強したりすることは出来ますが,根本的な解決は難しく,長い年月の後には,ふたたび同じ故障がくりかえされる可能性があるからです。

  さて,しかしこの楽器……棹背からうなじにかけてのラインとか,その問題の側板の加工一つからも分かるんですが,作者の技量,並大抵のものではありません。何としても,弾ける状態に直して,本気の音を聞いてみたいですね。

  ----ココロしてかからねばなりますまい。


(つづく)


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