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18号唐木屋

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斗酒庵に唐木屋月琴襲来! の巻月琴18号唐木屋(1)


唐木屋才平

  17号柏葉堂の調査をはじめた矢先,もう一面出物が。
  終了時間の深夜まで,かなり気張ってモニタを凝視してたんですが,けっきょく相手もなく,落ちてしまいました。

  あまりにあっけなく----柏葉堂からの流れを考えますと,これはもはや,明治期の作者のことを愚生のドタマにトコトンヤレトンヤレトン叩き込んでくれようと,「あの世楽器商総連」が,総力挙げてイヤがらせしてるのかもしれません。


  裏面のラベルは「諸楽器/販売鋪大/日本東都/本石街林/唐木屋」
  「林才平」さんの月琴です。

  都内の商店を相撲の番付風に組んだ『商業取組評』(明12)の三味線屋部門で,力士じゃなく「勧進元」に祭り上げられてますから,けっこうな老舗だったんじゃないかと思われます。ちなみに同じ「勧進元」には室町の「木屋(岡野勘兵衛)」,「行司」には南伝馬町二丁目の「山形屋」さんなんかが並んでいます----どちらも江戸時代から続く楽器屋さんですね。


  『東京買物獨案内』(明23 左画像,神戸大学デジタルアーカイブ住田文庫より)に「明清楽器欧州楽器及付属品 琴三味線各種 日本橋区本石町二丁目 唐木屋才平」,『東京諸営業員録』でも「和漢洋楽器類」となっていますので,琴三味線だけでなく,洋楽器まで手広く扱っていたようです。
  この人の楽器も,何度かお見かけはしているものの,ゲンジツに手に取ったのはこれがハジメテ。「第五回内国勧業博覧会」(明36)では,楽器でなく絃で「褒状」,「日本文具教育品博覧会」(明44)では三味線で「進歩銅牌」をもらってます,楽器のほうの腕前は不明ですね。

  ぱっと見た感じ,スタイルとしては普通。全体に加工は丁寧な感じがしますが,さて----


1.採寸



  全長:630mm 胴幅:縦 345,横 350
  胴厚:35(表裏面板 3mm)
  棹長:284mm

  有功弦長:410



2.各部簡見


 ■ 蓮頭:大幅 80。下半破損。
   琴頭より脱落。意匠は蓮花。

 
 ■ 糸倉~棹:軽損傷。
   材はホオ。

   糸倉部分,長 165。天に間木をはさむ。
   基部で幅 31,先端でわずかに広がり大幅 33。側部厚 9mm。
   損傷はないが,間木右の接合部に木痩によるスキマあり。
 

   棹,大厚 30,うなじ手前で小厚 23。
   やや太め。棹背はほぼ直線だが,うなじ手前でわずかにえぐれ,ごく浅いアールがついている。

   指板,長 147。大幅 31,小幅 27。
   素材はカリンかチャンチンのごく薄い板,厚 0.5mm。




 ■ 軸:3本残。
   長 120,径 28。六角形,三本溝。
   第2軸,握りのところから折れ,糸倉に先端のみ残る。やや長め。
   材質は不明,胴材と同じクリか?


 
 ■ 棹茎:損傷なし。
   延長材はおそらくスギ。長 190。基部 23×40×2。加工,やや粗く,切削痕やササクレも残り,あちこちにヘコミが見える。
   先端に桐の薄板を2枚重ねで貼り付け,スペーサーとしている。


 ■ 山口・柱:いずれも全損。
   痕跡も薄いが,山口の下辺を基点としたときの各フレットまでの寸法は。

   1)43 2)73 3)100 4)130 5)160 6)200 7)221 8)255

   有功弦長がやや短いため,第4フレットが棹上にある。
   また痕跡から見るに,胴体上の4柱は,ほぼ同じ長さ(40mm)だったようだ。



 ■ 胴体:

 側板:4枚,木口同士の単純な擦り合せ接着。
  材質はおそらくクリ。
  右肩接合部剥離,天および右側板に歪みがあるか?
  表面板,同箇所より天の側板なかばまで剥離。
  裏面板,同箇所より天の側板へ少々剥離。
     反対側,左肩接合部より天の側板半ばまで,
  左下接合部剥離,ただしスキマはあまりない。
      同箇所より裏面板,地の側板半ばまで剥離。



   表面板:ほぼ柾目板,5枚矧ぎ?
    右肩接合部,剥離箇所より割レ,長 230,最大2ミリ以上開く。
    割れ目より中心がわ,内桁よりも剥離,楽器前面方向へ浮キ上リ。
    絃停の左端付近,縦方向へヒビ。長 150,開いてはいないが,中心がわに浮キ,段差あり。


   裏面板:真ん中に節目のある板目板,3枚矧ぎ?
    右肩接合部,剥離箇所より割レ,状態表面板の損傷に同じ。
 
   損傷はあるが,板自体は虫食い等も見えず,保存はいい。割れていなければ「新品同様」と言える。



 ■ 半月: 半円曲面,彫刻あり。
   99×37,大高 10.5。 外弦間: 30,内弦間: 23.5
   各コースで弦間が異なり,低音弦間 4mm,高音弦間 3mm。


 ■ 絃停:ニシキヘビ皮。115×80。
   全体にやや縮みによる変形あり,下1/3ほどはがれて浮き上がっている。


 ■ 装飾:左右目摂,扇飾り,中央円飾り。
   ほかに飾りの痕跡は見られない。右目摂に二箇所欠け。



3.内部構造

  棹孔,および表面板右の破損部などからの観察,および棒などによる触診に基づく。

 ■ 内桁:上下に2枚。
   材質はスギ。厚9ミリ。上桁中央に棹茎の受けのほか音孔ナシ。
   上桁,棹孔より 154,下桁 290。側板と桁の接着は単純な直接接着であると思われ,ニカワらしきやや黒ずんだシミやかたまりが,左右端,接着部周辺に少し見られる。


 ■ 響き線:1本,直径1ミリほど。
   楽器正面から見て右,上桁の下あたりに基部のあるものと思われるが,形状などは不明。表面板の割れ目のすぐ裏,上桁の下1センチほどのところで,楽器下方向へほぼ直角に曲がっている。その先の加工は不明だが,棹孔の直下で270ミリのあたりを通る。
   線は焼きやや浅めだが,サビもなく,銀色に光っている。



  視認範囲がごく限られているため,部分的にはまったく分からない箇所もあるが,確認できる範囲では簡単な指示線をのぞき,署名のような墨書などは見られなかった(表面板裏面,棹孔のすぐ下あたりに「八」とあるのみ)。
  側板内壁にはやや細かめの鋸痕が残る。間隔は均等で加工の精度,技術ともに素晴らしい。
  製作当初のものと思われる切削屑がわずかに残っているくらいで,内部は清潔,とくにホコリやヨゴレなどは見られない。


4.簡見

  この楽器は,8号生葉ちゃんと同じく,秋田からとどきました。
  生葉ちゃんもそうだったんですが,秋田あたりだと土蔵の中など温度が低いこともありましょう,概して保存状態はよろしい。この楽器も表裏面板どちらも白く美しく,虫食いもほとんどありません,が,右肩接合部が----

  ばっくり割れてます~。
  うっひゃ~。
  よくあるように,虫食いで板が傷んだとか,板の矧ぎ目からの破壊ではありませんねえ。
  割れ目からちょっと内部を覗いてみたりしたんですが,この楽器,側板が極端に薄い。
  中心部でも8ミリあるかどうか,左右の端は4ミリほどしかありません。

  面板も薄くて,3ミリくらいしかないですから,ここが割れた原因が,側板のほうにあるのか面板のほうにあるのかは,まだはっきりとは判かりませんが。
  面板の割れかたや,面板と側板との剥離箇所などを見る限り,部材の収縮によって側板左右端に歪みが生じ,まず右肩接合部がはじけ,その衝撃で面板が割れ,対角線上の周縁部にも剥離が発生した,という感じに見えますね。
  側板の素材であるクリは,比較的狂いの少ない丈夫な木ですが,これだけ薄く加工されていると,経年変化や気候の影響なども大きく作用するものと考えられます。

  このブログでも何度か書きましたが,製作者の工作・加工に基づく故障は直しやすい(より上手に「し直して」あげればいいだけだから)のですが,部材そのものの質に起因する故障は,ちょっと厄介です。その歪んだり割れたりしている現状が,むしろその木にとって「あるべき姿」だったり「なりたかった形」なわけで。
  もちろん矯正したり補強したりすることは出来ますが,根本的な解決は難しく,長い年月の後には,ふたたび同じ故障がくりかえされる可能性があるからです。

  さて,しかしこの楽器……棹背からうなじにかけてのラインとか,その問題の側板の加工一つからも分かるんですが,作者の技量,並大抵のものではありません。何としても,弾ける状態に直して,本気の音を聞いてみたいですね。

  ----ココロしてかからねばなりますまい。


(つづく)


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