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19号清琴斎3(1)

G19_01.txt
斗酒庵 縫三郎とらんららん の巻月琴19号清琴斎3(1)

3面目の刺客


  もう知りません。やです。また来ちゃいました。
  13号柚多田,17号柏葉堂3,18号唐木屋に続いて,前2面とほとんど同時の自出し月琴ラッシュ。
  もはや「あの世楽器商総連」の意図は明白……うぬぅ,こうなれば,斬って斬って斬りまくってくれる!!
  うははははーっ!さあ来い!
 どんと来い!何でも来い!

  (ウソです。もう来ないでください。すでに資力と修理能力の限界を越えております。)

  

  赤城山1号がハンガーアウトしていったのは,ついこないだのことだったんですが,19面めの自出し月琴は,同じ 「清琴斎二記・山田縫三郎」 さんの楽器となりました。ラベルも同じなので,同じくらいの時期に作られたものでしょう。

  軸が2本しかなく,琴頭に布が巻きつけてあって,半月に柔らかい園芸用のハリガネがくくってありました。
  ぱっと見た感じは,まあキレイなほうだったんですが…

  
  表面板,虫食い穴だらけですねえ。
  こことか,こことか…
  こんなとこにも穴ぽこが……
  棹を抜いて中をのぞくと………

  ぅわああぁああああっ!!!

  木粉まみれですーっ!!
  …うぶっ!ゴホゴホッ!!

  こおりゃあ,久しぶりにエラいもん引いちゃったかもしれません。



1.採寸



  全長:660mm(蓮頭を含む) 胴幅:355
  胴厚:36(表裏面板 4.5mm)
  棹長:310mm(蓮頭を含む)

  有功弦長:425


2.各部所見

  
 ■ 蓮頭:81×56。
  ほぼ無傷。中級以下の楽器に多い,線刻のみの簡単な装飾。意匠は宝珠。
  周縁にわずかなカケがあるが,状態は良い。琴頭との接着も精密。


 ■ 糸倉~棹:材はホオ。蓮頭同様,全体に赤っぽい着色。指板はない。
  糸倉表,棹背に多少のヨゴレ。棹背のものは白っぽく斑になっている正体不明。

 糸倉部分:長 142,幅 31,弦池 100×14,左右厚 9mm。楽器水平面からの最大深度は 57mm。
  天に間木をはさむ。やや細身。
  工房到着時,糸倉の先端,蓮頭のすぐ裏に布が巻かれており,間木の剥離などの破損が懸念されたが,はずしてみると無傷。どうやら楽器を吊るすために巻かれたものだったらしい。


  
 棹部:指板相当部分で,長 150,大幅 31,小幅 26。最大厚 32,最小 24。
  棹背はほぼ直線。うなじも短い実用的なデザイン。

  
 ■ 軸:長 110,大径 26。
  材質不明。ホオではないようだ。
  楽器についていた2本のうち,一本はオリジナルのようだが,もう一本は先端がやや太く,本楽器の糸倉の軸孔,いづれとも噛合わない。六角形一本溝の普通型で,工作は良く似ているが,片方は別の楽器から移植された後補のものと思われる。


 ■ 棹茎:長 120,基部 36×20×13。
  延長材はスギ。基部にV字刻みを入れはめ込み接合。
  表面板側基部に「七」と墨書。裏面に塗料のシミ。
  右横中央に加工アラのヘコミが少々見られるが,工作は全体として比較的丁寧。


  
 ■ 山口・柱:棹上は全欠,胴体上,第4フレットを除き4本残。
  第4フレットは胴体と棹との継ぎ目付近にあり,わずかに棹上にかかっていたようだ。
  胴体上のフレットは象牙のようだが,本物か練物かは現時点では不明。
  山口接着痕の下端から,各フレットまでの間隔は----


   1)44 2)81 3)100 4)139 5)167 6)204 7)231 8)260

  1-2間が広く。2-3フレットの間がせまい事から,かなり西洋音階に近いと思われる。

  
 ■ 胴体:
  縦・横ともに同じ寸法で,ほぼ真円に近い。

  
 側板:4枚,木口同士の単純な擦り合せ接着。
  棹と同じく,赤っぽく着色されている。材質も棹と同じホオであろう。
  わずかにスキマ見られる箇所もあるが,各接合部は比較的健全,面板との接着にもウキ等は見られない。


 表面板:矧ぎ目10枚まで確認。
   右端の一枚のほかは,ほぼ柾目に近い板を矧いである。右肩に小カケ。右端上に小節目。
   小ヤケ,小ヨゴレ。虫食い穴多数,とくに周縁部と上下内桁のあたりに分布(いづれも接着箇所が狙われたものと思われる)。
   半月横から絃停左端に沿い,胴上から1/3のあたりまで,だいたい矧ぎ目に沿って断続的にヒビ割れ。
   その左,つぎの矧ぎ目に沿ったあたりにも小ヒビ。いづれも虫食いに由来するものと思われる。
     
   フレットの上下に横方向への擦り傷。加工痕と思われる。
   絃停左右,および上にバチ痕。


 裏面板:同じく,矧ぎ目10枚まで確認。
   板目の板が使われており,節が数箇所ある。表面板と比べると,ヤケやヨゴレはなく,ラベルもふくめ保存はきわめて良い。
   虫食い穴も表面板と比べると少ないが,かなり大きめなものが10箇所ばかり見受けられる。とくに左端矧ぎ目にあるものと,中央下部の節目にあいているものが目立つ。
   その左端矧ぎ目,虫食い穴の間と,左から3-4枚目の矧ぎ目上端,ラベル右端の上に小ヒビ。

   中央下端周縁部に,小さなラベルの断片アリ。


  
 ■ 半月:95×42×h.10
  装飾のない板状半円。
  外弦間:33.5,内弦間:26,内外弦間:いづれも 4mm。


 ■ 絃停:ニシキヘビ皮。107×90。
  数箇所虫食い穴があるが,比較的状態は良い。

 ■ 装飾:左右目摂,扇飾り。
  いづれもよくあるデザイン。目摂,花種不明。
  扇飾り,万帯の変形。右に割レ目,二つになっているらしい。



3.内部構造

  冒頭にも書いたように,当初は楽器内部が虫食いによると思われる木粉にこんもり覆われており,細部まで観察することができませんでしたので,内部調査に先立ち,楽器をジャカジャカジャンと振ったり,ポコポコ叩いたりして,まずは楽器内から木粉を出しました(粉を払い落とすため,ブロアとか自転車の空気入れなども動員)。

  
  うわぁああああぁううぅうう。(^_^;)

  けっこうな量です………何グラムあるんでしょうね。
  虫さんの一部やら,サナギの欠片,脱皮がらなんかも入ってます~。


  虫食いの状態次第ですが,今のところ面板を剥がす予定もないので。
  今回も例によって,棹孔からの覗きこみと,棒による触診などの結果です。

  
  表面板の裏側,棹孔のすぐ下あたりに比較的大きな字で 「七」 と墨で書いてあります。茎のと同じ,組み合わせ指示ですね(この墨書すら,木粉に覆われ,最初は見えませんでした)。墨書きの支持線が数箇所あるほかは,とくに署名めいた墨書は見つかりませんでした。

  内桁は2枚。上桁は棹孔から 105mm,下桁は 240mm のところに位置しています。
  「赤城山1号」では,棹孔のほかは上下とも穴のないただの板状態でしたが,この楽器は上桁には棹孔の左右に木の葉型の音孔があけられています。下桁に音孔はないようですが。真ん中に穴錐でつけたと思われるヘコミがあります。「開ける気はあった」のかもしれません。

  側板の内側はほとんど平滑,5ミリほどの間隔で浅い溝がついています。間隔はほぼ均等で方向も同じ,鋸痕を均したにしては多少整いすぎているように感じます。なにか加工機械による工作の痕なのかも知れません。(左概略図,クリックで拡大)

  響き線は1本。楽器正面から見て,右の側板裏のほぼ中央付近に基部があり,そこから弧を描いて,棹孔直下で下桁の2~3センチほど上を通っています。全体の形状や先端がどこまで延びているのか,正確には不明ですが,左の音孔からは線が見えないので,そのちょっと手前,棹孔と音孔の間あたりのところ,楽器の中心近くで止まっているものと思われます。そうすると,ちょっと短い線ですね。

  線の基部は側板直挿しでも,木片挿しでもなく,側板の手前1センチほどのところで,面板に対して垂直方向に曲がり,裏板のほうへと延びて消えています。
  知人の修理した楽器に,これと似たような構造のものがありました(右画像参照)。おそらく19号も,こんなふうに裏面板と側板の接着部分で,線の基部をはさみこむような固定方法をとっているのだと考えられます。


4.簡見


  今回の3面中,いちばんの重症患者と思われます。
  表面板の虫食い被害の全体を,だいたい把握しておきたかったので,面板上のお飾り等をはずし,ついでに重曹水で面板全体を軽く清掃してみました。
  板を濡らすと,まず表面近くまで食われてスカスカになっているようなところは,水が沁みて乾きが遅いので,濃い色の筋になって浮かびあがります。さらに,ケガキやアートナイフの先で,虫食い穴の周辺をひとつひとつツツいていって,ブヨブヨになっているようなところは,さッさとホジくってしまうことにしました。

  木目に沿った縦方向に,食われたり,劣化している箇所が30ばかりありましたが,出入の穴が比較的大きい割には,食害の多くは幅もせまく,浅いものて,板を貫通までしているのは,意外やほんの数箇所にとどまりました。例によって多数矧ぎの安板ながら,ホジくってみると,全体にかなり目が詰まっていて硬い感触なので,多くの虫は,最短距離でエサとなる接着部を目指したものと思われます。(こやつらはシロアリではないので,木自体がではなく接着部の「ニカワ」が目的)

  
  とくに食害の集中している周縁部および内桁の上あたりでは,横方向への広がりも見られますが,板の表面近くにまで穴の広がっている箇所はほとんどなく,多くはかなり深いところ,接着部付近のみのもののようで,板自体の強度にあまり影響はなさそうです----これも意外でしたね。


  やはり,素材選びというのは大切ですねえ。
  同じ状況で,もっと柔らかい板だったら,早苗ちゃんみたいに貼替えだったでしょう。
  虫食い被害はそれなりに大きいものの,楽器全体として見ると,保存状態はさほど悪くありません。接着や接合箇所はいづれもしっかりとしているし,部材の割れや狂い,歪みの類もほとんど見られませんから,修理としては単純な穴埋め作業がメイン……あ,あと軸3本削らなきゃならんか……

  17号2本,18号1本,んでこれ3本。
  今回は3面で合わせて6本も削るんですね……うううぅっ!orz


  ---と,いうあたりで(^_^;)次回に続きます。

(つづく)


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