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17,18,19号仕上げ(2)

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斗酒庵 3面同時に仕上げる の巻月琴17号~19号仕上げ(2)

闘い終って

  さてさて----3面同時仕上げは,作業としては正直かなりキツうございましたが,ほぼ同時代の,違う作家の楽器が3面あるということで,さまざまな比較が出来。調査の上では興味深いデーターがいっぱい集まりました。
  17号,19号に関しては,面板の修理箇所が多かったり,半月にゲタを噛ませるなどしたために,その音色はかならずしも製作当初のものと同じとは言えませんが(もっとも,大きく違うわけでもないですが),それぞれにかなりはっきりとした個性があります。
  試奏中ずっと「あの世楽器商連合」所属の故人から「ワシの音はどんなんじゃいッ!」と,後ろからガン見されてるようで,なかなかにキモうございました。

  フレッティングの際に,接着痕や原作者のつけた目印などから判る,もともとのフレット位置での音階を計測してあります。
  庵主は西洋音階に近くフレッティングし直しちゃってますので,音声資料のほうとは異なりますが,これも一覧表にして付けておきますね。この三人の楽器については,意外と違いが小さいのですが,開放弦C/GにしたときにEとBが低くなりCが多少上がる傾向は,デフォルトで西洋音階にかなり近い,清琴斎の19号をのぞいて,だいたい一致しているようです。

【17号柏葉堂】

17号・原音階
開放弦
4D+104E-294F 04G+204Ab-15C+255D+65F+11
4A+44B-285C+175D+275Eb+395G+85A-146C+10


  17号の音は明るく,くっきりとして,ちょっと跳ねるような感じがします。
  響き線の効果は,余韻よりも音の中間以降に強くかかっているようです。
  そのため余韻に深みが若干足りず,しっとりとした曲にはやや向きませんが,リズミカルなものには最適かもしれません。
  裏面の悪戯書きからして,子どもが持っていたんじゃないかと思いますが,「やんちゃ坊主」って感じの音ですね。



  胴体水平面から見て,棹は山口のところで1ミリほど背面側に傾いています。この浅さが例の「理想との差,5ミリ」の原因の一つですね。

【18号唐木屋】

18号・原音階
開放弦
4D 04E-304F+74G+114B-365C-15D-335F+14
4A-54B-405C-55D+25E-495G+15Ab 06C-17


  18号「モナカちゃん」。銘はちょっとアレですが,その音は3面の中でもっとも「月琴らしい」と言いますか,「和楽器」な音,と言いますか。
  音の伸びや音量の点では物足りなさがありますが,しっとりとした音色で,余韻は甘く深みがあり,響きが前に伸びてゆかないかわり,演奏者のほうにまとわりつくような感じがしますね。音色だけではなく,楽器自体がかなり軽いため(器体が暴れます)もあり,17号とは逆でリズミカルなものには向きませんが,俗曲や清楽曲ののんびりしたのをポロポロ弾くには最適ですね。



  棹の傾きは,山口のところで約3ミリ。おかげでフレット全体が低めでまとまります。そのへんのところは3面の中で一番きちんと作られています。

【19号清琴斎】

19号・原音階
開放弦
4D+114E-224F -74G+254A+155C+305Eb-435F#+37
4A-14B-245C-45D+95E+15G+95A+366C+10


  19号「与三郎」。楽器としては3面中,もっとも完成度が高いと思います。
  操作性は言うに及ばず,音色も申し分ないのですが,さて,これをなんと言って誉めたら良いものか。「特徴らしい特徴がない」のが特徴,とでも言いましょうか。いやもちろん悪いのじゃないのですよ。このクラスの楽器で,この材質でここまで鳴るというのはもうリッパなものです。
  まっすぐな響きの,明るめの音ではありますが,月琴らしい余韻もきちんと持っています。
  それでいて,何を弾いても不自然さがありません。
  リズミカルな曲を弾けばくっきりした音で響き,しっとりとした曲を弾けばひそやかな余韻で応えます。
  ----そこが逆に,いささかキモチ悪いですね。




  棹の傾きは山口のところで約2ミリ。少しだけ浅めですが,それでも当時の月琴としては,絃高をかなり低くおさえてあります。



  3面の音色比較用にこんなのを作ってみました。
  清楽の曲だと,けっこうどれもおんなじように聞こえるんですが,このくらいのテンポで,しかも耳慣れた曲だと,かえって楽器の音の違いがはっきりしてきますね~。

(おわり)


17,18,19号仕上げ(1)

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斗酒庵 3面同時に仕上げる の巻月琴17号~19号仕上げ(1)

3面同時仕上げ

  記事は分けて書いてましたが。ここまでの修理も,実際にはほとんど同時進行でやってました。
  さて,ちと細かいあたりをまとめて済ませていきましょう。


  補作した軸は,17・19号が2本,18号が1本。
  マコレで作って黒染めした19号の軸2本のほかは,仕上げの染色でちょっと失敗していくぶん赤っぽくなってしまいました。(^_^;)


  17号の蓮頭はふつうの板状。
  カツラの板を削り,ヤシャブシ染め,オイル仕上げ。意匠は4号月琴のもののコピー,線刻で「宝珠」ですね。
  18号はオリジナルで残っていた上半分に継足すかたちで。
  オリジナルの意匠は分かりませんが,類似例を参考にだいたいこんな感じというものを切り出し,スオウ染め。重曹で一度真っ赤に発色させたあと,オハグロの上澄みで二次媒染,黒茶っぽい赤紫色に染めました。


  目摂類に欠損はありませんが,18号の右のに二箇所欠けがありますので,ホオの薄板で補修,スオウで染めて補彩---ちょっと黒っぽくなっちゃいましたが,まあそれほど目立たないかと。ほかのお飾りはまとめて,軽くスオウで染め直し,油拭きしておきました。

  ---これであとは組上げるだけですね。
  なんと,3面同時の仕上げです。



【17号柏葉堂】


  修理箇所:表面板,絃停左右のヒビ割レ(絃停(蛇皮)の縮みによるもの),虫食い数箇所(いづれもごく表面的)。裏面板,左下端より割レ(面板中央部材の収縮によるもの)。
  欠損部品:蓮頭。軸,右2本。山口。第1~3,5,7フレット。

  面板に些少の割レがあったくらいで,楽器として深刻な損傷は何らありませんでした。
  以前に修理した2面(糸倉側面が極細)と違い,糸倉もふつうのスタイルで,普及品の月琴らしいふつうの出来のふつうの楽器です。


  オリジナルの工作では絃高が高く,糸が胴体の水平面とほぼ平行になってましたので,そのままでふつうにフレッティングしますと,フレット自体ががかなり高めになるうえ,上から下まで高低差があまりなくて,弾きにくい楽器になってしまいます。
  17号は中級の量産品ですから,細かいところまで個々に合せながら作られているわけではありません。
  フレットも規格品的に同じものを何本も作り,ただ貼りつけていっただけなのでしょうが,残っていたオリジナルのフレット,第4,6,8フレットはかなり低めで,これを「柏葉堂・高井徳治郎が理想とした絃高」と考えますと,ゲンジツの絃高とその理想までは,最終フレットところで「約5ミリ」の開きがありました----カナシイですねえ。



  17号はほかの2面にくらべると,手がかからず良い子ちゃんだったので,ご褒美をあげることにします。
  いつもの「ゲタ」ですが,今回は象牙で。
  これで「理想の高さ」ピッタリとまではいかなかったものの,フレットの頭から糸までの距離は格段に縮まり,操作性はもちろん音色もがかなり向上しました。象牙のスペーサーのせいもあるかもしれませんが,最初にオリジナルのままで糸を張って弾いてみた時に比べると,いくぶん音がカッチリとして,響きが前に出るようになった気がします。



  面板のヒビ割レの原因となった絃停は,全体にかなり厚手。
  向かって左がわの腹側(ウロコの大きな部分)が特に厚くなっており,一定しておりません。
  こういう皮はとくに妙な収縮をすることが多いみたいですね。
  お湯でもどして再度貼り付ける前に,裏側を元の半分くらいまでこそいで,厚みも均等にしました。
  今度は大丈夫でしょう。



【18号唐木屋】



  修理箇所:表裏右端に裂ケ(胴材の収縮,右上接合部の分離破壊によるもの)。表面板,絃停の左にヒビ割レ(絃停の収縮によるもの)。表裏面板の接着ウキ,ハガレ数箇所。
  欠損部品:蓮頭下半。軸1本。山口,フレット全損。


  工房到着時,面板は真っ白,側板にも棹にもほとんどヨゴレはなく,表面上はじつに「新品同様」と言える,キセキ的な保存状態でしたが。
  おそらくはその製作時における材料の乾燥や,組み合わせ工作に問題があったところから,経年の部材の歪み,変形によって胴体右端に大きな裂傷が生じておりました。そもそも面板が厚さ約2ミリ,側板も最大で6ミリほど,と強度が足りないことも相まって,今回いちばん手間がかかり,神経を遣った修理となりました。

  ----この楽器,おそらくは「猫パンチ」でも壊せるでしょうねえ。
  その色合い,面板の柔らかさから「モナカちゃん」と命名されました。




  この楽器にも,17号と同様,表面板に絃停のヘビ皮のせいだと考えられるヒビ割レが走ってたわけですが,17号のが,やたらと丈夫な皮をやたらと頑丈に接着したのが原因であるのに対して,こちらのものは,さなだきに薄い表面板の強度的な問題が原因であります。
  17号の絃停は再度の被害をふせぐため,薄く削って戻しましたが,こちらのはその皮自体もともと極薄----とてもじゃないけどこれ以上は削れません!----まあ,接着をフノリよりは弱いヤマトノリにしてますんで,いくら金魚すくいのモナカ並みの強度とはいえ,こんどは面板が裂ける前に皮のほうがハガれてくれるはずです。

  オリジナルでは胴体にも棹にも,ほとんど塗装らしいものがされていない状態でしたが,気温や湿度による影響から保護するため,胴側部に柿渋と亜麻仁油を交互に数回塗りこめました----カラカサと同じ工夫ですね。
  製作時から百年あまり,おのおのの部材はすでにかなり安定しているはずなので,今後よほど保存状況が悪くならなければ,そう同じようなことは起こらないと思いますが,なんせ「モナカちゃん」ですから,そのへんちょっと,将来的には心配です。


  山口,フレットともになくなっています。
  類例から見るとおそらく,オリジナルは象牙だったと思うのですが,ほか二本の修理もあってタイヘンだったので,この楽器だけツゲにさせてもらいました(いやあ,じゃないと全部で20本近く象牙を切ることになるんで)
  山口は薩摩琵琶のバチの端材から,フレットはクシの端材板から切り出しました。山口の材はいくぶん白っぽかったので,ヤシャブシで染めましたが,フレットのほうは本ツゲのけっこうな上物なので,削って磨いて,さっとラックニスを刷いた程度----でもけっこうキレイでしょ。


  当初,棹全体が右回りに少しねじれてましたが,棹基部にツキ板を貼るなどの調整で簡単に直りました。

  本体の修理はいちばんタイヘンでしたが,仕上げはいちばんラクでしたね。
  というのもこの楽器,もともとの工作が良くて。半月の糸の出位置も低いし,棹もちゃんと背面側にさげてあり(山口のところで胴体面より約3ミリ),月琴という楽器としては理想的なカタチなっています。おかげでゲタもなにも要らず,そのままに組んでかなり低い絃高・フレット高の楽器に仕上がりました。


  真っ白な面板,控えめな装飾,少し長く細身の糸巻きもスマートで,ほんと,キレイな楽器です。
  今回の3面中,もっとも「月琴らしい」音のする楽器となりました。音量もさほどないし,面板が薄いわりには音ヌケもさほどよくはありませんが,わずかにうねりのある,あたたかな余韻……何て言いましょうか,弾き手にまとわりついてくるような響きのある楽器です。

  フレットの高さもほどよく,なめらかに運指ができますが,楽器があまりにも軽すぎて多少安定が悪いのと(ほかの月琴を知らなければまあ…),半月の内弦の位置がやや奥手にあるため,糸をかけるときにちょっとやりにくい,というあたりが欠点と言えば欠点でしょうか?


【19号清琴斎】


  修理箇所:表裏面板虫食い痕(およそ30箇所)。
  欠損部品:軸(下の2本),山口,第1~4フレット。


  終わってみますと。
  当初,いちばんの重症患者だと思われたこの19号は,ひたすら掘っては埋める,その修理箇所の「数が多かった」ということをのぞけば,さほどたいした損傷のない楽器でありました。
  胴内から大量の木粉が出てきたときは「こりゃダメかなあ」と思ったのですが,胴体の各接合部や面板の接着,棹や糸倉といった楽器としての主要部分にはほとんど損傷らしいものがなく,強度的にも,虫食い穴さえ気にしなければ,そのままでじゅうぶん使えたかと思われます。

  庵主つねづね,この清琴斎・山田縫三郎の楽器については「可もなく不可もなく,中の上。それ以上にもそれ以下にもならない。」と述べてきましたが,前回の「赤城山1号」と言いこの楽器と言い----認識が多少あらたまりましたね。
  使われている部材や接着剤などは,たしかにそれほど良いものじゃありませんが,おそらく生産数に見合うだけの設備を持っていたんでしょうね。彼の楽器ではコストダウン的な手抜きはあっても,基本的な工作の精度・質自体は落とされていません。部材の接合部や接着面の加工は正確でかつ精密。
  そのためもあって,中級以下の楽器であってもかなり堅牢です。生産数にも増して工作の精度から来るこの堅牢さが,廃れて百年経ち,なお多くの楽器が残っている理由でもあるのでしょう。


  すでに述べたように,柏葉堂・高井徳治郎の17号では,絃高をオリジナルのフレットに合わせようとすると,その理想とゲンジツの間には「5ミリの差」がありました。現存する資料や楽器の数から考えると,山田縫三郎は柏葉堂よりかなり数多くの月琴を製造していたと思われるのですが,17号と同程度と思われる中級量産楽器・19号,胴上のオリジナルフレットから推定される,理想の絃高との差は----

  わずか「1ミリ」,でした。

  最終フレットの高さは,山田さんのほうがさらに1ミリ近く低く,オリジナルのフレット位置はかなり西洋楽器に近くなっています。ちなみに山田楽器店の広告の文句は「弊店製造ノ諸楽器ハ音律正確音色美妙且ツ堅牢無比ニシテ価格尤モ廉ナリ。」と,これまたふつうな感じで,柏葉堂の「請フ,四方ノ諸君,普通ノ楽器ト同視スルコト勿レ」なんて迫力もありませんが,技術では間違いなく負けてますね,高井徳治郎。


  棹横に鼠害と思われる小さなカケがありました。
  そのままでもまあ実用上支障はありませんが,埋めておきましょう。

  半月に小さなエグレ傷があります。
  こちらのほうは傷は小さいのですが,ちょうど糸のかかるところにあるので,このままだと絃高に影響が出てしまいます。埋めておきましょう。
  こういう埋め木には同材を使うのが「修理」の常道ですが,糸がかかり,力の加わる場所なので,マグロ黒檀の端材を埋め込むことにしました。「入れ歯」が本物の歯より丈夫な材料で作られるのと同じようなものですね。
  「理想の絃高との差わずか1ミリ」なわけですから。もちろん,そのままでもじゅうぶん弾ける楽器になりますが,やはり高音域での操作性がいくぶん悪いので,少しだけゲタをはかせることにしました。
  いつもは竹ですが,こちらにもあらためて敬意をこめ,マグロ黒檀の端材で薄いスペーサーを削って接着。
  これでほぼ「理想の絃高」になった,と思いますよ。


  音質は明るくくっきり----やはりヴァイオリンなんかまで作っちゃうヒトですし,この楽器の赤い塗装や目摂の色なんかも,従来的なスオウやベンガラなどではなく,ニスの類ですものね。月琴というよりはギターとかマンドリンとか,西洋楽器の音にやや近いかもしれません。

  しかしながら,月琴の音色のイノチ・響き線の効果も良く,余韻は長くて,まっすぐキレイに減衰してゆきます。
  音質的にも,それほどイヤらしいクセみたいなものがないので,かえっていろんな音楽に使えそうですね。



  「あの世楽器商連合」からの3面連続の刺客たち----なんとか返り討ちにはできたとは思いますが。いやあ,さすがに3面同時の作業,最後のほうはもう分刻みというか秒刻みの作業で,ほとんど徹夜,約三日。
  ----疲れましたよ~。

(もっかい続く)


18号唐木屋(3)

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斗酒庵に唐木屋月琴襲来! の巻月琴18号唐木屋(3)


STEP2.方舟の日々


  側板の矯正と面板の再接着がだいたい終り,胴体全体がいちおうのカタチに安定したところで。
  18号の修理,次の段階へと進みます。

  まず問題の右肩接合部の補強をしておきましょう。木口接合の隙間には,クルミの端材を薄く削って埋め込みました。
  裏からは,和紙を重ね貼り。
  仕上げに,そこと今回矯正した部分を中心に,内壁に柿渋を塗りまわし,以降の湿気などによる影響の対策としています。
  次に,前回の記事にも書いたとおり(実際にはちゃんとくっついてはいなかったようですが),ニカワの痕から見て,作者の意図としては,上桁は側板内壁と響き線基部の両方に接着させたかったようです。
  先の矯正作業で側板との再接着はバッチリですが,響き線基部との間にまだスキマがありますので,ここもクルミの薄板で埋めておくこととします。
  これにて,出来る範囲での内部からの補強は済みました。


  裏板は,ムシりとった部分よりも少し大きめ,矧ぎ目が上下の接合部にかからないように切り取り,その部分をまるっとほかの板で貼替えます。とりあえずは後々の工作も考えて,なるべく色の似た,薄い板を選びました。
  1号の裏板だった板ですね,コレ。
  1号は石田義雄作,面板は薄いほうですが,それでも18号のより1ミリ近くも厚いのですよ!


  裏板が着いたらつぎは表面板。
  こちらは楽器の顔ですから,なるべくオリジナルそのままでいきたい。
  表面板に走るヒビの下端は,右下の接合部より1センチばかり中央よりにあり,面板との接着さえしっかりしていれば,強度的には問題ありません。しかしその反対側,ヒビの上端は,例の右肩接合部,つまりはいちばんの問題箇所からはじまっています。
  接合部の歪みをおさえるためにも,ここはなるべく丈夫な板でふさいでおきたいものです。

  まずはその右肩接合部を中心に左右1センチほどを底辺として,割れ目に沿い,面板を細長い三角形に切り抜きます。
  表面板には,ほぼ柾目の板が使われているので,埋め板にも同じような柾目の板を使うのが常套ですが,この厚さで接合部をおさえこむため,あえて節目があり目の混みあっている板を使いました。
  あきらかに目が違うので,この修理箇所は多少悪目立ちしてしまうかもしれませんが,楽器としての寿命を考えたら,このほうが良いと思います。

  カタチを合わせ,なるべく奥まで押し込みます。
  残ったヒビ割れの細い部分は,薄く削いだ桐板をさしこんで埋めました。

  一日ほど固定したまま放置して。
  くっついてたら,後はひたすら,埋め板を,ほかの部分と面一になるまで---

  削る!削る!!削る!!!

  はーひ,はーひ………桐は柔らかい素材ですが,電動サンダーもプレーナーもナシで「面」を1ミリ落すってのは,けっこうタイヘンな作業なンであります。
  ホコリもスゴいし細かいし,この作業だけで,布ペーパーの#40,という岩みたいな奴が1枚と,空砥ぎペーパーの#120が何枚かおシャカりました。

  これでようやく,胴体がちゃんとした密閉箱状態に戻ったわけで。

  18号の胴体の不具合は,前回書いたように,乾燥の甘い材料をそのまま用いたことと,胴材も面板も極薄なその加工・構造が原因です。9号早苗ちゃんの側板はこの18号と同じ材質ですが,4枚の板はすべて同じ材から切り出されたもので組みあげられていました。

  一方,18号の側板には,あきらかに目の異なる板----つまりいろんな材から切り出された板で構成されています。
  同じ材から切り出された材は,歪みや収縮の方向や度合いも同じようなものと予想されますから,部材の組み合わせ方向などを工夫することで,経年の変形による悪影響を小さくすることも出来ますが,18号のように,異なる材から取った部品を目の向きもあまり考えずに組み合わせた場合,それぞれの歪みは小さくても,通常想定されないような損傷を生じさせてしまう可能性もあるわけわけですね。

  9号早苗ちゃんの工作は,そちらの記事でも書いたとおり,けっして巧くはないものの,「慎重さ」と「丁寧さ」が感じられました。
  おそらくはこの18号よりも前の作,唐木屋が月琴を作りはじめたころのものであったと思われます。
  それにくらべると,18号の工作はずっと手馴れしてますが,各所にかなりの「粗さ」や「手抜き」が見てとれます。
  ----接着剤はいいものを使っているのに,接着自体が雑だったりね。

  またかなり急いで作っている風もあるのですね。

  そうしたことから考えると,この楽器は,月琴の流行がピークに達した,明治20年代なかばごろに作られたんじゃないでしょうか。
  大流行で作れば売れたものだから,少し驕ったのじゃないかな?


  何度も書いているとおり,月琴はほかの和楽器類にくらべるとかなり廉価な楽器だったので,かなりたくさん作って売らないと利益をあげることができません。伝統的な和楽器の職人にとっては,構造的にも材質的にも難易度の低い楽器ではあったでしょうが,そのあたりがむしろ,こうした「手抜き」の付け入るスキとなり,後世,ワタシみたいな野郎にグチグチと後ろ指さされるようなハメになる,そういう「落とし穴」でもあったのかもしれませんね。
  最初から壊れていたので,この楽器がどんな音を出せるのかについては,まだ分かりません----加工・工作にはすでにかなり文句もついたものの,楽器としての質というあたりでの評価は,さて今のところ何ともくだせないわけですが。この18号唐木屋のあちこちに見えるギリギリっぽい作りは,江戸時代の循環社会から,現代に通じる消費社会へと世の中が向かうなかで,機械と職人が競争をはじめた,明治の一時代を象徴する,ニンゲンがわの証人といえるかもしれません。

  唐木屋・林才平はもともと三味線師だったようですが,明治20年代にはすでに「清楽器・和洋楽器」とかなり手広く楽器を扱っており,大正時代に入ると「唐木屋商店」「唐木屋楽器店」と,ちょっと名前を変え(しかも「株式会社」に),楽譜など書籍の販売まで手がける,より総合的な楽器販売店の一つとなってゆきます。
  和楽器の老舗の路線変更,その根底のあたりにも「月琴」という存在があったのかもしれませんね。

(つづく)


18号唐木屋(2)

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斗酒庵に唐木屋月琴襲来! の巻月琴18号唐木屋(2)


こやつ,意外と…


  さて,江戸のころからある老舗,「唐木屋」こと林才平さんの月琴。
  表板はまっしろ,棹や胴体にもほとんどヨゴレはなく。
  あたかもきのお,お店から渡されたばかり----新品同様のようですが。

  右肩から,ばっきり割れちゃってます。

  当初は,今回入手した3面のうち,いちばんの重症なのは虫食いだらけの19号だと思ってたんですが。
  いやいやどうして……一見,新品同様のこいつ。
  なかなかにクセ者でございます。

  前回も書いたとおり,この右肩の割レは側板の変形が主な原因と思われます。
  程度の違いは多少ありますが,同じような変形が4枚の側板すべてにあったらしく,表裏面板の周縁部,あちこちに面板のハガレが見られ,ハガレている部分にはたいてい,側板とのズレが生じています。


  なかでも天の側板と右の側板の変形,それも右肩の接合部付近での変形の度合いがとくに大きかったため,接合部がハジけるのと同時に,面板に大きく損傷が生じたものだと考えます。

  側板の材質はクリで,比較的狂いの少ない素材のはずですが,おそらく多少乾燥の甘い材を用いたのと,それをかなり薄く切り出した(最大厚でも6ミリほど)こと。表裏の面板がまたさなだきに薄いため,側板の変形を押えこむには強度が足りなかったことも災いしてますね。
  側板の切り出しも,面板の薄さもまあ「ワザ」ではありますが。
  いちばん肝腎な材料の吟味がイマイチできておりません。
  しかも組み合わせたときの強度予想がちゃんとされてません。
  そりゃコワれます。

  とまあ,修理してゆくうちだんだんと…

  テメ,この野郎!老舗だからって適当してんじゃねェぞ!!!

  ----という怒りがこみあげてまいりました,ダム,シット。


STEP1.ムシりましょう



  でわランボー怒りの修理,東日本編を開始いたします。

  まずは,お飾りはずし。
  残ってるのは目摂と扇飾りに絃停だけ。どれも比較的簡単にはずれました。
  お飾りの接着剤はニカワ。薄めですが,上手です。
  絃停には,非常に薄い皮が使われていました。はじっこのほうがクッシャリと縮んでますね。接着はフノリで,これも薄め。


  17号と同じくこの楽器でも,絃停のすぐ横に皮の収縮によるものと思われる面板の裂け目があります。
  ただし17号のが絃停のほうに原因があったのに対し,こちらのはどちらかというと「面板が薄すぎた」せいだと思いますね。
  清楽月琴の面板の厚さは,3~5ミリほどがふつうですが,18号のは2ミリくらいしかありません。

  厚さ2ミリの桐板なんて紙みたいなものです。
  ネコが乗っかっても穴あくかもなあ。




  さて,次です。
  ヒビが入って浮いている,この右がわ部分を----




  ムシり取ります。


   あソレ,ムシっ!とな!



  響き線の基部が付いてきました。
  響き線もサビひとつ浮いてません。ピカピカの銀色です。
  胴体の余り材と思われる木片に,長めの四角い釘で止められています。

9号内部構造
  ともあれこれで,棹孔からだと確認できなかった,響き線の全体が分かりますねえ………アレ。

  このカタチ……どっかで見たことあるぞ。

  しかも「側板がクリ」,響き線基部のブロックに上桁を乗っけ下桁は接合部継ぎ目というこの構造,そして側板内面のこの加工痕----
  どれも9号「早苗ちゃん」とよく似ているじゃあ,あーりませんか。

  とくにこの響き線の手前に深くもどりのある曲線は特徴的なもので,同じような例はいまのところ,ほかで見たことがありません。

  そう思って,あらためてあちこち見てみますと。
  多少細かくはなってますが,半月の彫りや意匠もほとんどいっしょですねえ。

9号/18号半月比較
  早苗ちゃんのオリシナルの面板は修理箱にまだ入ってるんですが,修理でかなり使っちゃったので裏板のほうがほとんど残ってません。資料に撮った写真からもラベルの痕らしいものは確認できませんね。
  従って,現在のところ,主としては「手」がいっしょ,といった,修理屋としての経験とかカンみたいなものでしかないんですが。

  虫食いだらけだった9号「早苗ちゃん」,アナタは唐木屋の楽器だったのですか…

  ----なんか今回この楽器がウチに回ってきたのもますます,「あの世楽器職連盟」の陰謀くさくなってきましたねえ。
  ((゚Д゚)) 呼んでるーワタシを呼んでるー ((゚Д゚;))


  さて,内部観察に戻りましょう。



  内桁は二枚,材質は松。前にも書いたとおり,上桁の棹孔以外,音孔などは開いていません。
  上桁は胴体の中心付近にあり,左右端が側板の内壁に接着されています。左右端にはニカワがベットリと,かなり厚めかつ乱暴につけられてますが,ムシりとった時の感触から,この上桁右側の接着は当初から,ズレていたかハズれていたかしていた模様。
  茎先端にスペーサーがこんなについてるのも,上桁の接着がおかしいせいで,棹孔と合わなくなったのが原因なんじゃないかな?

  下桁は,ちょうど左右下の側板接合部の継ぎ目の真ん中に接着されています。左右端は継ぎ目のところにピッタリ合うよう,かなり精密に加工されており,こちらの接合部はちゃんと接着されていました。

裏板をはがす
  以降の作業のため,まずはムシりとった右部分の裏板をハガします。
  これで変形のいちばんヒドい部分へのアクセスが,表裏から可能になるわけですね。

  側板の内壁や上桁右端に,ムダにゴベゴベとついてるニカワを濡らすと----なんと,まだまだ生きてます!
  おまけにこれ,ニオイからしておそらくウサギのニカワ。けっこうな高級品ですわ。

再接着/矯正 右肩接合部,矯正後
  上桁のニカワを適度にこそいでよく濡らし,接着力を確認してから,むしった部分を再接着します。
  クランプや輪ゴムを使ってしめつけながら,元の位置に固定。

  側板端の矯正も同時にします。
  面板からハミだし,ズレてる部分を表裏から筆にお湯をふくませたものでよーく濡らし,ウサ琴とかで使った部分枠を使って締め付けます。
  側板が薄いせいか,思ったよりは簡単に戻りましたが,部材自体の収縮もあって完全にぴったり元通り,にはムリ。
  右肩接合部には多少の段差とスキマが残ってしまいました。でもまあ,これが限界です。
  これ以上やるとここが割れるか,ほかの部分にへんな負担がかかっちゃいそうですので。

上桁接着部,再接着後
  オリジナルの接着剤をそのまま使った上桁は,見事再接着成功!
  おそらくオリジナルよりピッタリ,バッチリくっついてると思いますよ。

  上下内桁と面板もかなりハガれて浮いてましたので,ここの作業と同時に,桁に沿ってお湯を垂らしこみ,元の接着部を濡らして再接着してみたんですが,こちらもまあ見事にくっつきました。
  百年以上経って,まだニカワがこんなに生きてるなんて…

  どんだけ保存が良かったんだろう?

(つづく)


17号柏葉堂3(3)

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斗酒庵 柏葉堂と三たび見ゆ の巻月琴17号柏葉堂3(3)


STEP1. 修理てェほどのもンじゃあ,ござンせんが…



  修理するところが,あまりありません。
  でもまあ,このままじゃ使えねー状態なのは確かなので,やることァやりましょう。

  まずはお飾り類をとりはずします。
  接着剤はニカワ。ニカワの量がやや多めですが,ふつうにはずれました。
  ----絃停以外は。

  この絃停,皮自体がやや厚めなうえ,めっさ頑丈に貼られちゃっています。
  フノリを使ったオリジナルの接着ですが,絃停左右にあるヒビ割れは,間違いなくこれが原因ですね。
  皮が縮んで,面板をひっぱった----ふつうは皮がはがれて終わるところを,妙に接着が強固だったのと,皮自体やたらと丈夫だったため,そのまま板に力がかかって,メリリと裂けるとこまでいったものでしょう。

  絃停の再接着を,強固なボンドなどでやった場合によく見られる被害ですが,オリジナルの接着が原因というのはそう見ませんねえ。

  皮が厚くて,筆でいくら濡らしてもキキめがありません。
  際限なくビシャビシャにするわけにもいかないので,水を染ませた脱脂綿を置いてラップで覆い2~3時間。
  なんとかハガれてくれましたが……うう~,痕がゴベゴベですぅ。

  剥がした皮は多少縮んでいますが,まだ使えそうです。
  再びこんな被害を出さないよう,裏を掻いてもっと薄くし,キレイにしておきます。

  ひび割れは表が4箇所,裏に一箇所。
  表面板の損傷は,上にも書いた,絃停左右の比較的長い裂け目が右2本,左1本。半月右下の周縁部に細いヒビが一本(2センチくらい)。そのほか欠けやヘコミが数箇所。剥がした目摂や絃停の下からも,虫食いによるキズなどが数箇所出てきましたが,いづれも軽症。だいたいは木粉粘土を充填するだけで済ませました。

  裏板の割レは,板自体の収縮によるものですね。
  裏面板は板目の板で,この割れ目の右横に大きな節目があり,その方向へ縮んだようです。
  周縁部の割レのところから中心に向かっての部分が,少し内側にズレてるのがお分かりになれましょうか?(見えないかなあ…)このへんから,斜め上方向にむかって,縮んでいます。
  この箇所,側板から少しハガれちゃってますので,まずその周縁部を再接着してから,埋め木で埋めて整形。

  たぶん「やーい××の子ぉ」的な悪戯書きだと思うんですが,すぐ横に 「も〓どのわ〓〓んのたね」 という,ありがたーい墨書がありますので(紙を貼って隠してたらしい),これを傷つけないように,ちょっと気をつけてお仕事です。


  蓮頭のところにへっついていたモノ,これの接着もニカワですね。
  使われてるのは,たぶんほかの月琴からとったお飾り(目摂)の一部。前の記事で「蘭か?」とか書きましたが,これ違いますね。「仏手柑」の実の根元の部分のようです。

  軸は2本がオリジナル。あとの2本は,この目摂と同じくほかの楽器からとって差し込んでたものらしく,糸倉と噛合いません。
  オリジナルの軸を,あちこち入替え差し替えしてみると,左側の2つの軸穴との噛み合せがもっとも良かったので,右側の2本を新たに削ることにします。

  材質は当初,両方クルミにするつもりで……
  道具箱の中を漁ってたら,ちょうど六角形まで削った素体が一本だけ出てきまして。色も硬さもクルミっぽかったんで,これサイワイと削りなおしたんですが,これ実はスダジイだったようで。
  もう一本をちゃんとクルミで作り,2本同時に仕上げてるときにようやく気がつきましてん。

  まあいいか,これこのとおり見分けはつかないし,そもそも同じナッツ系だ!(笑)


  山口はどんなのがついてたか分からないので,4号のをコピー。
  材はカリンです。
  柏葉堂の山口は,一見,単純なカマボコ真っ二つ型に見えますが,上面左右がスッっと軽く削り落とされてたり,背面下部がわずかにひっこんでたりで。実は意外とほかに例のない,凝った作りになってるんですよ。



  面板清掃までこぎつけました。

  かなり濃い目,また砥粉がやや多めのヤシャ液が使われています。
  ヨゴレはさほどでもなかったのですが,ちょっと擦るとドロドロした汁が出て,重曹水がたちまち真黒になりました。

  棹や胴体側部は,重曹水をつけて固く絞った布でさッと拭いて,乾いてから亜麻仁油で磨きます。

  うむ,キレイ。

(つづく)


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