« 18号唐木屋(3) | トップページ | 17,18,19号仕上げ(2) »

17,18,19号仕上げ(1)

G17_19_end.txt
斗酒庵 3面同時に仕上げる の巻月琴17号~19号仕上げ(1)

3面同時仕上げ

  記事は分けて書いてましたが。ここまでの修理も,実際にはほとんど同時進行でやってました。
  さて,ちと細かいあたりをまとめて済ませていきましょう。


  補作した軸は,17・19号が2本,18号が1本。
  マコレで作って黒染めした19号の軸2本のほかは,仕上げの染色でちょっと失敗していくぶん赤っぽくなってしまいました。(^_^;)


  17号の蓮頭はふつうの板状。
  カツラの板を削り,ヤシャブシ染め,オイル仕上げ。意匠は4号月琴のもののコピー,線刻で「宝珠」ですね。
  18号はオリジナルで残っていた上半分に継足すかたちで。
  オリジナルの意匠は分かりませんが,類似例を参考にだいたいこんな感じというものを切り出し,スオウ染め。重曹で一度真っ赤に発色させたあと,オハグロの上澄みで二次媒染,黒茶っぽい赤紫色に染めました。


  目摂類に欠損はありませんが,18号の右のに二箇所欠けがありますので,ホオの薄板で補修,スオウで染めて補彩---ちょっと黒っぽくなっちゃいましたが,まあそれほど目立たないかと。ほかのお飾りはまとめて,軽くスオウで染め直し,油拭きしておきました。

  ---これであとは組上げるだけですね。
  なんと,3面同時の仕上げです。



【17号柏葉堂】


  修理箇所:表面板,絃停左右のヒビ割レ(絃停(蛇皮)の縮みによるもの),虫食い数箇所(いづれもごく表面的)。裏面板,左下端より割レ(面板中央部材の収縮によるもの)。
  欠損部品:蓮頭。軸,右2本。山口。第1~3,5,7フレット。

  面板に些少の割レがあったくらいで,楽器として深刻な損傷は何らありませんでした。
  以前に修理した2面(糸倉側面が極細)と違い,糸倉もふつうのスタイルで,普及品の月琴らしいふつうの出来のふつうの楽器です。


  オリジナルの工作では絃高が高く,糸が胴体の水平面とほぼ平行になってましたので,そのままでふつうにフレッティングしますと,フレット自体ががかなり高めになるうえ,上から下まで高低差があまりなくて,弾きにくい楽器になってしまいます。
  17号は中級の量産品ですから,細かいところまで個々に合せながら作られているわけではありません。
  フレットも規格品的に同じものを何本も作り,ただ貼りつけていっただけなのでしょうが,残っていたオリジナルのフレット,第4,6,8フレットはかなり低めで,これを「柏葉堂・高井徳治郎が理想とした絃高」と考えますと,ゲンジツの絃高とその理想までは,最終フレットところで「約5ミリ」の開きがありました----カナシイですねえ。



  17号はほかの2面にくらべると,手がかからず良い子ちゃんだったので,ご褒美をあげることにします。
  いつもの「ゲタ」ですが,今回は象牙で。
  これで「理想の高さ」ピッタリとまではいかなかったものの,フレットの頭から糸までの距離は格段に縮まり,操作性はもちろん音色もがかなり向上しました。象牙のスペーサーのせいもあるかもしれませんが,最初にオリジナルのままで糸を張って弾いてみた時に比べると,いくぶん音がカッチリとして,響きが前に出るようになった気がします。



  面板のヒビ割レの原因となった絃停は,全体にかなり厚手。
  向かって左がわの腹側(ウロコの大きな部分)が特に厚くなっており,一定しておりません。
  こういう皮はとくに妙な収縮をすることが多いみたいですね。
  お湯でもどして再度貼り付ける前に,裏側を元の半分くらいまでこそいで,厚みも均等にしました。
  今度は大丈夫でしょう。



【18号唐木屋】



  修理箇所:表裏右端に裂ケ(胴材の収縮,右上接合部の分離破壊によるもの)。表面板,絃停の左にヒビ割レ(絃停の収縮によるもの)。表裏面板の接着ウキ,ハガレ数箇所。
  欠損部品:蓮頭下半。軸1本。山口,フレット全損。


  工房到着時,面板は真っ白,側板にも棹にもほとんどヨゴレはなく,表面上はじつに「新品同様」と言える,キセキ的な保存状態でしたが。
  おそらくはその製作時における材料の乾燥や,組み合わせ工作に問題があったところから,経年の部材の歪み,変形によって胴体右端に大きな裂傷が生じておりました。そもそも面板が厚さ約2ミリ,側板も最大で6ミリほど,と強度が足りないことも相まって,今回いちばん手間がかかり,神経を遣った修理となりました。

  ----この楽器,おそらくは「猫パンチ」でも壊せるでしょうねえ。
  その色合い,面板の柔らかさから「モナカちゃん」と命名されました。




  この楽器にも,17号と同様,表面板に絃停のヘビ皮のせいだと考えられるヒビ割レが走ってたわけですが,17号のが,やたらと丈夫な皮をやたらと頑丈に接着したのが原因であるのに対して,こちらのものは,さなだきに薄い表面板の強度的な問題が原因であります。
  17号の絃停は再度の被害をふせぐため,薄く削って戻しましたが,こちらのはその皮自体もともと極薄----とてもじゃないけどこれ以上は削れません!----まあ,接着をフノリよりは弱いヤマトノリにしてますんで,いくら金魚すくいのモナカ並みの強度とはいえ,こんどは面板が裂ける前に皮のほうがハガれてくれるはずです。

  オリジナルでは胴体にも棹にも,ほとんど塗装らしいものがされていない状態でしたが,気温や湿度による影響から保護するため,胴側部に柿渋と亜麻仁油を交互に数回塗りこめました----カラカサと同じ工夫ですね。
  製作時から百年あまり,おのおのの部材はすでにかなり安定しているはずなので,今後よほど保存状況が悪くならなければ,そう同じようなことは起こらないと思いますが,なんせ「モナカちゃん」ですから,そのへんちょっと,将来的には心配です。


  山口,フレットともになくなっています。
  類例から見るとおそらく,オリジナルは象牙だったと思うのですが,ほか二本の修理もあってタイヘンだったので,この楽器だけツゲにさせてもらいました(いやあ,じゃないと全部で20本近く象牙を切ることになるんで)
  山口は薩摩琵琶のバチの端材から,フレットはクシの端材板から切り出しました。山口の材はいくぶん白っぽかったので,ヤシャブシで染めましたが,フレットのほうは本ツゲのけっこうな上物なので,削って磨いて,さっとラックニスを刷いた程度----でもけっこうキレイでしょ。


  当初,棹全体が右回りに少しねじれてましたが,棹基部にツキ板を貼るなどの調整で簡単に直りました。

  本体の修理はいちばんタイヘンでしたが,仕上げはいちばんラクでしたね。
  というのもこの楽器,もともとの工作が良くて。半月の糸の出位置も低いし,棹もちゃんと背面側にさげてあり(山口のところで胴体面より約3ミリ),月琴という楽器としては理想的なカタチなっています。おかげでゲタもなにも要らず,そのままに組んでかなり低い絃高・フレット高の楽器に仕上がりました。


  真っ白な面板,控えめな装飾,少し長く細身の糸巻きもスマートで,ほんと,キレイな楽器です。
  今回の3面中,もっとも「月琴らしい」音のする楽器となりました。音量もさほどないし,面板が薄いわりには音ヌケもさほどよくはありませんが,わずかにうねりのある,あたたかな余韻……何て言いましょうか,弾き手にまとわりついてくるような響きのある楽器です。

  フレットの高さもほどよく,なめらかに運指ができますが,楽器があまりにも軽すぎて多少安定が悪いのと(ほかの月琴を知らなければまあ…),半月の内弦の位置がやや奥手にあるため,糸をかけるときにちょっとやりにくい,というあたりが欠点と言えば欠点でしょうか?


【19号清琴斎】


  修理箇所:表裏面板虫食い痕(およそ30箇所)。
  欠損部品:軸(下の2本),山口,第1~4フレット。


  終わってみますと。
  当初,いちばんの重症患者だと思われたこの19号は,ひたすら掘っては埋める,その修理箇所の「数が多かった」ということをのぞけば,さほどたいした損傷のない楽器でありました。
  胴内から大量の木粉が出てきたときは「こりゃダメかなあ」と思ったのですが,胴体の各接合部や面板の接着,棹や糸倉といった楽器としての主要部分にはほとんど損傷らしいものがなく,強度的にも,虫食い穴さえ気にしなければ,そのままでじゅうぶん使えたかと思われます。

  庵主つねづね,この清琴斎・山田縫三郎の楽器については「可もなく不可もなく,中の上。それ以上にもそれ以下にもならない。」と述べてきましたが,前回の「赤城山1号」と言いこの楽器と言い----認識が多少あらたまりましたね。
  使われている部材や接着剤などは,たしかにそれほど良いものじゃありませんが,おそらく生産数に見合うだけの設備を持っていたんでしょうね。彼の楽器ではコストダウン的な手抜きはあっても,基本的な工作の精度・質自体は落とされていません。部材の接合部や接着面の加工は正確でかつ精密。
  そのためもあって,中級以下の楽器であってもかなり堅牢です。生産数にも増して工作の精度から来るこの堅牢さが,廃れて百年経ち,なお多くの楽器が残っている理由でもあるのでしょう。


  すでに述べたように,柏葉堂・高井徳治郎の17号では,絃高をオリジナルのフレットに合わせようとすると,その理想とゲンジツの間には「5ミリの差」がありました。現存する資料や楽器の数から考えると,山田縫三郎は柏葉堂よりかなり数多くの月琴を製造していたと思われるのですが,17号と同程度と思われる中級量産楽器・19号,胴上のオリジナルフレットから推定される,理想の絃高との差は----

  わずか「1ミリ」,でした。

  最終フレットの高さは,山田さんのほうがさらに1ミリ近く低く,オリジナルのフレット位置はかなり西洋楽器に近くなっています。ちなみに山田楽器店の広告の文句は「弊店製造ノ諸楽器ハ音律正確音色美妙且ツ堅牢無比ニシテ価格尤モ廉ナリ。」と,これまたふつうな感じで,柏葉堂の「請フ,四方ノ諸君,普通ノ楽器ト同視スルコト勿レ」なんて迫力もありませんが,技術では間違いなく負けてますね,高井徳治郎。


  棹横に鼠害と思われる小さなカケがありました。
  そのままでもまあ実用上支障はありませんが,埋めておきましょう。

  半月に小さなエグレ傷があります。
  こちらのほうは傷は小さいのですが,ちょうど糸のかかるところにあるので,このままだと絃高に影響が出てしまいます。埋めておきましょう。
  こういう埋め木には同材を使うのが「修理」の常道ですが,糸がかかり,力の加わる場所なので,マグロ黒檀の端材を埋め込むことにしました。「入れ歯」が本物の歯より丈夫な材料で作られるのと同じようなものですね。
  「理想の絃高との差わずか1ミリ」なわけですから。もちろん,そのままでもじゅうぶん弾ける楽器になりますが,やはり高音域での操作性がいくぶん悪いので,少しだけゲタをはかせることにしました。
  いつもは竹ですが,こちらにもあらためて敬意をこめ,マグロ黒檀の端材で薄いスペーサーを削って接着。
  これでほぼ「理想の絃高」になった,と思いますよ。


  音質は明るくくっきり----やはりヴァイオリンなんかまで作っちゃうヒトですし,この楽器の赤い塗装や目摂の色なんかも,従来的なスオウやベンガラなどではなく,ニスの類ですものね。月琴というよりはギターとかマンドリンとか,西洋楽器の音にやや近いかもしれません。

  しかしながら,月琴の音色のイノチ・響き線の効果も良く,余韻は長くて,まっすぐキレイに減衰してゆきます。
  音質的にも,それほどイヤらしいクセみたいなものがないので,かえっていろんな音楽に使えそうですね。



  「あの世楽器商連合」からの3面連続の刺客たち----なんとか返り討ちにはできたとは思いますが。いやあ,さすがに3面同時の作業,最後のほうはもう分刻みというか秒刻みの作業で,ほとんど徹夜,約三日。
  ----疲れましたよ~。

(もっかい続く)


« 18号唐木屋(3) | トップページ | 17,18,19号仕上げ(2) »