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18号唐木屋(2)

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斗酒庵に唐木屋月琴襲来! の巻月琴18号唐木屋(2)


こやつ,意外と…


  さて,江戸のころからある老舗,「唐木屋」こと林才平さんの月琴。
  表板はまっしろ,棹や胴体にもほとんどヨゴレはなく。
  あたかもきのお,お店から渡されたばかり----新品同様のようですが。

  右肩から,ばっきり割れちゃってます。

  当初は,今回入手した3面のうち,いちばんの重症なのは虫食いだらけの19号だと思ってたんですが。
  いやいやどうして……一見,新品同様のこいつ。
  なかなかにクセ者でございます。

  前回も書いたとおり,この右肩の割レは側板の変形が主な原因と思われます。
  程度の違いは多少ありますが,同じような変形が4枚の側板すべてにあったらしく,表裏面板の周縁部,あちこちに面板のハガレが見られ,ハガレている部分にはたいてい,側板とのズレが生じています。


  なかでも天の側板と右の側板の変形,それも右肩の接合部付近での変形の度合いがとくに大きかったため,接合部がハジけるのと同時に,面板に大きく損傷が生じたものだと考えます。

  側板の材質はクリで,比較的狂いの少ない素材のはずですが,おそらく多少乾燥の甘い材を用いたのと,それをかなり薄く切り出した(最大厚でも6ミリほど)こと。表裏の面板がまたさなだきに薄いため,側板の変形を押えこむには強度が足りなかったことも災いしてますね。
  側板の切り出しも,面板の薄さもまあ「ワザ」ではありますが。
  いちばん肝腎な材料の吟味がイマイチできておりません。
  しかも組み合わせたときの強度予想がちゃんとされてません。
  そりゃコワれます。

  とまあ,修理してゆくうちだんだんと…

  テメ,この野郎!老舗だからって適当してんじゃねェぞ!!!

  ----という怒りがこみあげてまいりました,ダム,シット。


STEP1.ムシりましょう



  でわランボー怒りの修理,東日本編を開始いたします。

  まずは,お飾りはずし。
  残ってるのは目摂と扇飾りに絃停だけ。どれも比較的簡単にはずれました。
  お飾りの接着剤はニカワ。薄めですが,上手です。
  絃停には,非常に薄い皮が使われていました。はじっこのほうがクッシャリと縮んでますね。接着はフノリで,これも薄め。


  17号と同じくこの楽器でも,絃停のすぐ横に皮の収縮によるものと思われる面板の裂け目があります。
  ただし17号のが絃停のほうに原因があったのに対し,こちらのはどちらかというと「面板が薄すぎた」せいだと思いますね。
  清楽月琴の面板の厚さは,3~5ミリほどがふつうですが,18号のは2ミリくらいしかありません。

  厚さ2ミリの桐板なんて紙みたいなものです。
  ネコが乗っかっても穴あくかもなあ。




  さて,次です。
  ヒビが入って浮いている,この右がわ部分を----




  ムシり取ります。


   あソレ,ムシっ!とな!



  響き線の基部が付いてきました。
  響き線もサビひとつ浮いてません。ピカピカの銀色です。
  胴体の余り材と思われる木片に,長めの四角い釘で止められています。

9号内部構造
  ともあれこれで,棹孔からだと確認できなかった,響き線の全体が分かりますねえ………アレ。

  このカタチ……どっかで見たことあるぞ。

  しかも「側板がクリ」,響き線基部のブロックに上桁を乗っけ下桁は接合部継ぎ目というこの構造,そして側板内面のこの加工痕----
  どれも9号「早苗ちゃん」とよく似ているじゃあ,あーりませんか。

  とくにこの響き線の手前に深くもどりのある曲線は特徴的なもので,同じような例はいまのところ,ほかで見たことがありません。

  そう思って,あらためてあちこち見てみますと。
  多少細かくはなってますが,半月の彫りや意匠もほとんどいっしょですねえ。

9号/18号半月比較
  早苗ちゃんのオリシナルの面板は修理箱にまだ入ってるんですが,修理でかなり使っちゃったので裏板のほうがほとんど残ってません。資料に撮った写真からもラベルの痕らしいものは確認できませんね。
  従って,現在のところ,主としては「手」がいっしょ,といった,修理屋としての経験とかカンみたいなものでしかないんですが。

  虫食いだらけだった9号「早苗ちゃん」,アナタは唐木屋の楽器だったのですか…

  ----なんか今回この楽器がウチに回ってきたのもますます,「あの世楽器職連盟」の陰謀くさくなってきましたねえ。
  ((゚Д゚)) 呼んでるーワタシを呼んでるー ((゚Д゚;))


  さて,内部観察に戻りましょう。



  内桁は二枚,材質は松。前にも書いたとおり,上桁の棹孔以外,音孔などは開いていません。
  上桁は胴体の中心付近にあり,左右端が側板の内壁に接着されています。左右端にはニカワがベットリと,かなり厚めかつ乱暴につけられてますが,ムシりとった時の感触から,この上桁右側の接着は当初から,ズレていたかハズれていたかしていた模様。
  茎先端にスペーサーがこんなについてるのも,上桁の接着がおかしいせいで,棹孔と合わなくなったのが原因なんじゃないかな?

  下桁は,ちょうど左右下の側板接合部の継ぎ目の真ん中に接着されています。左右端は継ぎ目のところにピッタリ合うよう,かなり精密に加工されており,こちらの接合部はちゃんと接着されていました。

裏板をはがす
  以降の作業のため,まずはムシりとった右部分の裏板をハガします。
  これで変形のいちばんヒドい部分へのアクセスが,表裏から可能になるわけですね。

  側板の内壁や上桁右端に,ムダにゴベゴベとついてるニカワを濡らすと----なんと,まだまだ生きてます!
  おまけにこれ,ニオイからしておそらくウサギのニカワ。けっこうな高級品ですわ。

再接着/矯正 右肩接合部,矯正後
  上桁のニカワを適度にこそいでよく濡らし,接着力を確認してから,むしった部分を再接着します。
  クランプや輪ゴムを使ってしめつけながら,元の位置に固定。

  側板端の矯正も同時にします。
  面板からハミだし,ズレてる部分を表裏から筆にお湯をふくませたものでよーく濡らし,ウサ琴とかで使った部分枠を使って締め付けます。
  側板が薄いせいか,思ったよりは簡単に戻りましたが,部材自体の収縮もあって完全にぴったり元通り,にはムリ。
  右肩接合部には多少の段差とスキマが残ってしまいました。でもまあ,これが限界です。
  これ以上やるとここが割れるか,ほかの部分にへんな負担がかかっちゃいそうですので。

上桁接着部,再接着後
  オリジナルの接着剤をそのまま使った上桁は,見事再接着成功!
  おそらくオリジナルよりピッタリ,バッチリくっついてると思いますよ。

  上下内桁と面板もかなりハガれて浮いてましたので,ここの作業と同時に,桁に沿ってお湯を垂らしこみ,元の接着部を濡らして再接着してみたんですが,こちらもまあ見事にくっつきました。
  百年以上経って,まだニカワがこんなに生きてるなんて…

  どんだけ保存が良かったんだろう?

(つづく)


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