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20号山形屋(3)

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斗酒庵 山形屋と出会う の巻2011.5~ 月琴20号・山形屋 (3)

STEP3 さらば,内なるものよ。


  内部構造のお手入れが続きます。
  まずは側板の接合部ですが,再接着のおりに水を染ませてゴムで締め上げ,矯正したところ,もとあった食い違いはほとんどなくなりました。
  おまけとして,裏面にニカワで和紙を渡し貼り,上から柿渋を塗って保護,補強としておきます。

  おつぎに下桁。
  オリジナルのままですと左右の端が側板についていないので,この部品は表裏面板との接着だけで固定されていたわけです。
  構造的にはそれでも問題はないとは思いますが,もうすでに一回取れちゃってたわけで。
  今後いつの日か,下桁が胴体内をコロコロ転がってるなんてことにならないよう,少しだけ転ばぬ先の杖を削っておこうかと思います。


  左右端の側板とのスキマに,桐板を削ったスペーサーを埋め込みます。
  この前までは,表板にくっついていただけなので,つまんで揺らすとグラグラしてましたが,これでほとんどうごかなくなりましたね。


  この下桁ですが,ちょうど半月裏の小孔の上辺りに位置しております。
  仔細に観察すると,真ん中にあいた音孔の中に小さな孔がひとつ。その横になにやらミゾのようなキズが……
  半月裏の孔が縦長だった原因,コレですねえ。
  最初にあけた孔が,見事桁に当っちゃったんでしょう。
  そのままだと意味がないので(とはいえ,この孔自体,構造的にはあまり意味のないものなんですが…)しょうがないのですぐ下にもう一つあけた----なるほど,よく見ると一つにはつながってますが,二つの孔ですね。

  実はこの手の失敗はこの楽器ではよく見ることなんです。
  中には孔が桁で止まってるのにそのまま(つまり"アナ"になっていない)という例もありました。
  ある意味「失敗」ではありますが,月琴の工程を知るうえでは貴重な材料でしたね。

  半月をどの段階で取り付けるか?----ウサ琴の実験中も,さンざ迷ったんですが。
  現状のように裏板がオープンな段階で取り付けるのなら,こういう失敗もまずないし,接着のとき表裏から強く圧をかけられるので,より強固な接着が可能です。一方,胴体が箱になっていると接着は弱くなりますが,最後の段階で弦の位置を自由に決められるので,加工の誤差の修整がしやすく,失敗作が少なくて済みます。

  この「孔」がこういうコトになってるということ,それはこの孔が「胴体が箱」になってからあけられた,言うなれば「めくら作業」であったから,ということにほかなりません。さらにいうなら,この孔があけられた時点で半月はまだ取付けられていないのですから,半月の接着は,これよりさらに後,ということになりますよね。

  何度も書いてますが,清楽月琴は廃れてしまった楽器なため,その製作工程はほとんど伝わっていません。
  この程度のことでさえも,実験をし実証を積んで,ようやく結論に到るわけです。
  たいへんなんですよ?


  次に裏板を矧ぎ直します。
  第一回目の写真にも写ってるように,裏板には下に山のような板目のある,いかにもアバれそうな板が使われていました。
  かなり縮んで,あちらこちらに矧ぎ目の剥離がみられます。
  作られてから100年以上経ち,かなり安定しているはずなので,これ以上縮み続けるようなことはないでしょうが,いままで縮んだぶんがありますので,このまま矧ぎ直したら左右の寸法が足らなくなり,胴体との間にあちこち段差ができてしまいます。

  足りなくなったのなら,足せばいいのよ,おーほほほ!………というわけで。分離した板と板の間に埋め木を入れて,左右の幅をひろくすることとしましょう。ラベルの残っている真ん中部分が,資料的にもっとも重要ですから,ここを中心に考えましょう。


  こんなふうにします----

  矧ぎ目から割れてるケースは,いつもですと虫食いによるものが多いのですが,この楽器のは部材が縮んで割れただけなので,矧ぎ目はキレイで,接着の作業はラクですね。

  板に並べて左右に角材を置き,ゴムをかけて軽く圧をかけます。あと板が浮き上がってこないよう,上下に板材を渡してクランピング。ウサ琴で何回もやったので慣れたもんです。一晩置いて出来上がり。補充材とのスキマを埋め,表面を軽く削って均しておきます。


  新しく継いだ部分がちょっと目立ちますが,まあ裏板ですからいいでしょう。


  裏板を戻す前に,表面板のヒビ割れ箇所などを埋めておきます。
  表面板は半月右下を貫いてる一本がいちばん大きなヒビ割れ箇所。桐板を薄く砥いで差し込み,裏からニカワを垂らし接着します。
  裏から見ると,もともとの矧ぎ合わせが上手くいってなかったようですね。
  裏のほうにもそのヒビ割れの原因となったスキマがあるので,こちらからも充填をして,ヒビ割れをモトから断ってしまいましょう。


  同様の箇所がほかにも見つかり,まだヒビ割れてない箇所もありましたが,埋められるところは埋めました。
  埋め木をした箇所は表面を均してから,さらに上に和紙を重ね貼りし,柿渋で固めて補強・保護しておきます。

  さあ,補強の終わった裏板を胴体に戻しましょう!
  板の周縁と桁の接着部や胴体の接着面は,筆でお湯をふくませ,あらかじめよく湿らせておきます。
  ニカワはごく薄めに溶いたのを,何度も刷いては指でなじませ,表面がちょっとベタつき加減になったところでクランピング。

  円形胴のクランピングはちょっと見にはラクそうですが,バランスを考えなながらやらなければズレちゃったりするので,これでけっこうたいへんです。時間もかかるので,上にも書いたとおり接着面はあらかじめよく湿らせ,乾かないようにしておきましょう。


  いつものように1.3倍早い「赤いワラジ虫」が出現です
  一晩たって裏板が接着され,胴体が「箱」に戻りました。

  さて,次回いよいよ,完成です!

(つづく)


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