20号山形屋(2)
2011.5~ 月琴20号・山形屋 (2)
STEP2 白い悪魔…ふたたび
阿佐ヶ谷のあたりに本部のある秘密結社「狂聖ボンド帝国」の構成員,接着戦隊・ボンドマンによって「修理」された楽器は,あちらもこちらもボンドまみれになるのだっ!
----というわけで,いつものとおり修理前に,まずハガせるところはみなハガしてしまいましょう。 白い!白い!白い!白い!白いいいッ! 前修理者は,ボンドの前に 瞬間接着剤 を使用してみたようです。 しかし,そもそもくっつけようとした面にニカワが塗られていたため,サラサラな瞬接は表面でハジかれてうまくくっつかなかったんですね----なもんだから,今度はその上からボンドを,余計にこってりと。 しかしながら,ある意味その 意味のなかった作業 のおかげ,とでも申しましょうか。 木工ボンドが瞬接のカリカリした層でせき止められ,桐板の木目にあまり入り込んでおりません。 濡らすとカリカリモロモロ,うまいこと一度でいっしょにハガれてくれます。 フレットは第4のみがボンドづけ,ほか二本はオリジナルのニカワづけ。その第4フレットと,ド真ん中に貼られた「蓮頭」の接着だけがなぜか強固で最後まで残りましたが,ほか,左右の目摂や柱間飾りは比較的簡単にハガれました。 半月の下を貫いてヒビが走ってますので,今回は半月もはずしてしまいます。 ここはオリジナルの接着でしたが……ニカワづけが上手ですね,この原作者。 琵琶の陰月に当る穴は小さく,縦長でした。ちょっとフシギな穴ですね。 これにて表面板上に構造物はなくなり,めでたく「のっぺらぼう」となりました! ぬぼ~ん。 表面板が片付いたので,間髪入れず裏板へとまいります。 裏面板は,いちばん左端の小さな一枚以外,みなボンドによる再接着。 つけかたもかなり乱暴で,ズレてるわ,接着剤ハミ出してるわ,ちゃんとついてないわ----まあ 「ちゃんとついてない」 のはこの場合ありがたいことで。 あちこちにあるスキマに刃物を入れ,水を垂らして接着剤をふやかしながら剥がしてゆきます。 ちなみに上左画像,棹の根元と側板の棹孔の周辺にも,ボンドをつけた痕跡がありますね。 棹を固定しようとしたんでしょうか?幸いにもうまくくっつかなかったようですが… さて,月琴の内部は宝箱---- 内桁は2本,材質は松。音孔はやや小さめですが,きちんと四角くキレイに開けられています。 表面板側の左右両端が,かなり大きく斜め削ぎされています----ほかの月琴でも見たことのある加工ですが,通常は端から5ミリか1センチほどをわずかに落とすだけで,ここまで大きい事はありません。 上桁の左右木口は,側板の内壁に合うようにすこし斜めに削られてますが,下桁の木口は切り落とされたままのまっすぐで,左右には接着されていなかったようです。 上下桁とも,ほぼ原位置のようですが,どちらもボンドで再接着されちゃってますねえ。 さらにほら,なんでしょうねえ---- 桁にセロテープを渡して表板に止めてます! まず表板に接着して,それが乾いてから裏板を貼りなおせば,こんなふうに保定したままじゃなくてもいい気がしますが,たぶんせっかちに,一度で表裏やっちゃったんでしょう。接着剤が乾くまでズレないように,ってキモチはまあ分からあでもありませんが,内部構造にコレはないわな,ふつう。 内桁もみなひっぺがし,接着面のボンドをこそぎます。 桁だけじゃなく,もちろん面板の内側のもキレイにこそぎとります。 一度箱に戻してしまうと容易に手の出せないところですから,このへんは慎重に,丁寧にやっておかなきゃなりません。 作業中に表面板にも数箇所,ボンドによる再接着の箇所が見つかりましたので,同様に処理をしておきます。 側板の接合部はすべて接着が飛んでいるので,裏からニカワを垂らし再接着。その固定と側板接合部の矯正のため側板にはゴムをかけ回して,胴体の形状保護のため上桁も先に再接着しておきます。 左画像,つまり,その4つぐらいの作業が同時にやらかってるんですねえ。 このブログでも,何度か書いたと思いますが,中国の月琴の桁はたいがい一枚で,胴体のほぼ真ん中に位置しています。 これに対し,国産の清楽月琴の多くは上下に二枚という構造になっています。 「○に一」より「○に二」のほうが,確かに安定して見えますが,ウサ琴による実験などから,構造的にも強度的にも一枚桁で問題のないことは分かっており,こうなったのはおそらく作るがわの合理性,もしくは民族的なカタチに対する嗜好の差異といったところから来ているのじゃないかと,庵主は考えています。 実際,いままで修理してきた楽器でも,上桁は胴体にミゾを切ってハメ殺しにしてあるのに,下桁は内壁に接着しただけというパターンがけっこうありました。この楽器のもそうですが,この加工の差は,下桁が言うなれば「盲腸的な構造」であることを示唆しているのかもしれません。 響き線は見たことのないカタチですね。根元のところで一度上にあがって急角度で下げています。 表面にサビが若干浮いてはいますが,状態は悪くありません。焼きもちゃんと入っているようです。 裏板を剥がした時点では先端が上桁にささっていて,ほとんど機能していない状態でした。 基部は木片を丁寧に刻んだもの。この型の基部は,多くの場合側板内壁の中央に取り付けられ,面板には接していないのですが,この楽器のものは表面板がわにも接着されています。 はじめ,開いたときの状態から見て,上真ん中の画像のようにもとは上桁の音孔を通過していたのだろう,と思っていたのですが。上下に揺らすともとの状況---上桁にささってる--に,たやすく戻ってしまうというのが一つ,次にそういう構造だったにしては音孔が小さいので,響き線がきちんと機能する範囲がきわめて狭いこと,そして音孔の内側に線による打痕や線に浮いているサビの付着などがないことから,ちょっと考え直し。楽器内部をあらためて観察してみたところ----ありました。 いや,写真にも写ってないかもしれませんが,上右画像。 上桁の音孔の斜め下,例のセロハンテープが貼ってあったあたりに,線の先端によるものと思われる,かすかな「ひっかき傷」が見つかりました。 それをモトに響き線のカタチを修整してみたのが,この画像---- ま,ふつうですね。 若干,アールが深めですが,今度は楽器を多少揺らしても,桁にはささりませんし,かなり傾げても響き線がちゃんと機能しています。 どうやら前の状態は,前修理者のシワザだったみたいですね。 (つづく)
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