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13号柚多田(4)

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斗酒庵 石村近江の衝撃波 の巻2011.1~ 月琴13号・柚多田 (4)

STEP3 じくじたる日々2

  さて,本体のほうは,表面板の修理という最大の難関を越えました。
  これをへっつければ胴体が箱になり,あとは楽器として弾くために必要ないくつかの部品を作れば,庵主も聞いたことのない江戸時代の月琴の音が甦るわけですね~。

  まずは軸を削りましょう。
  工房到着時,この楽器の糸倉には,こんな軸がささっておりました。

  よくこのブログを見てくださってるような物好きの方々も,たぶんそう考えると思うのですが,庵主ももちろん,一目見て,ああこりゃ棹上のフレットなんかといっしょ,後世,月琴のことをあんまり知らないシロウトさんが,間に合わせで作ったもンだろう----と,考えました。
  軸尻はラッパ状に広がってますが,太さはほぼ三味線の軸と同じくらい。噛合わせもよくないみたいだし,全体の工作もやや雑。
  ----しかしこれ。どうやらオリジナルの部品だったようです。

  ホンモノの証拠しょの1) まず材質,胴体と同じクルミかクリですね。
  ホンモノの証拠しょの2) 塗装,ヤシャブシ染め,油磨き,これも棹,胴体などと同じ加工。
  ホンモノの証拠しょの3) 軸先に糸の圧迫によるキズ,ミゾ多数アリ。
  ホンモノの証拠しょの4) また軸先にカーボンがかなり付着しています。これは軸穴が焼き広げ(三味線屋さんはそうします)の工法で加工されているためつくものですが,かなりしっかりとついています。

  ----うむ,信じたくないカタチではありますが。
  前に見た江戸時代の月琴には,明治のころの楽器と同じような軸がさしてありましたし,今まで扱った古式月琴や唐物の14号の軸も,みなこんなものじゃありませんでした。
  そうするとこれは,石村さんのオリジナルと考えるのが妥当なようです。


  13号の軸に関しては,そのカタチ以外にもいくつかほかと異なる点があります。
  まずはその先端の細さ。
  通常は軸穴に刺さっている部分で,太いほうが直径9ミリ~1センチ,細いほうは6~7ミリくらいですが,この楽器の場合,先端が4ミリほどしかありません。華奢なお座敷三味線などで時々ある太さですね。

  つぎに軸穴のほう。
  通常,月琴の軸穴はたんなるテーバー,先細りのカタチなわけですが,この楽器では細いほうの入る軸穴が…えー,コトバだと説明しにくいんで図に描いちゃいますが,こんなふうになっています。
  なもので,細いほうの穴から見ると軸先の周りに空間があり,しっかりささっていたとしても,ちゃんと噛合わされていないように見えるのですね。(^_^;)

  実はこの軸穴のほうはハジメテじゃありません。
  軸先の太さは違いますが,8号生葉ちゃんも同じようになっていました。
  そしてこれは三味線の糸倉の加工で時折見かける「手」です。

  石村さん,この文久三年の時点ではまだ「月琴」を作った経験があまりなかったのじゃないでしょうか?
  糸倉や棹のデザインや工作も,庵主が「シロウトの自作」と思ってしまうほど,ある意味稚拙といいますか,定則からはずれたものでしたし。分厚すぎる側板,例の竹で響き線を囲んだ内部構造や,テキトウにあけられた(しかも一部は途中でやめている)内桁の音孔など,そこには何か手抜きというよりは「戸惑い」みたいなものも感じられますね。

  この軸がオリジナルだと分かった以上,修理の本筋から言えば,これと同じ軸を削るべきなんでしょうが。
  さすがに,これは……(~_^;)

  石村さん,すみません。

  後世の方,これただの付属品ですから,そちらでオリジナルにもどすなりなんなりしてください!

  そんなに長い職人生活ではありませんが,明治の月琴をずっと修理してきたワタシのビイシキと,現代の月琴弾き,プレーヤーとしての本能が,このカタチを拒否しております!!

  今回の修理では,ふつうの月琴の軸のカタチにさせといていただきます。


  江戸の楽器に敬意を表し,素材はちょっと高級にチーク。
  も一つの理由としては,胴体と同じ材料で作った場合,このデザインだと先が細すぎておそらくあまりもちません。
  実際,この楽器でも1本しか残ってなかったわけですからね。

  さすがにオリジナルほどではありませんが,いつもよりはかなり細身に削ります。

  まあ,こんなものでしょうか。

(つづく)


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