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唐琵琶1号(1)

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斗酒庵にとうとう琵琶が… の巻2011.6~ 唐琵琶1号 (1)

STEP1 

唐琵琶1号到着時
  ワタクシ事ですが。
  庵主の母方の祖父は,札幌の琵琶弾きでありました。
  筑前,薩摩,両方に関わったそうですが,庵主が小さいころ弾いてたのも,実家に伝わっている遺品の楽器も薩摩琵琶ですね。歌に詩吟の影響が加わっているちょっと独特な一派をたて「山岸岳泉」と名乗っておりました。

  バイオリン弾きの息子は,意外とバイオリニストにはならないそうですが,近親にそういう方がおりますと,かえってそういう楽器から遠ざかるものなのかもしれません。撥弦楽器ならたいてい好きなものの,庵主も琵琶にだけは手を出さないようにしてたんですが。

  -----来ちゃった。


唐琵琶
  まあ,琵琶は琵琶ではありますが,薩摩琵琶でも筑前琵琶でも,もちろん平家琵琶でも雅楽の楽琵琶でもありません。清楽で使われていた「唐琵琶(トウビワ)」という楽器ですね。

  中国音楽の楽器なんだから,これはビワぢゃないこれはビワぢゃない。
  ピーパなんだ,ああそうだ。


  自己弁護,終わります。

  このブログではほとんど月琴のことばかり書いてきましたが,清楽という音楽が最も盛んだったころには,月琴のほかにも明笛,胡琴(京胡),携琴(四胡),三絃(蛇皮線),洋琴,木琴など,色んな楽器が使われていました(以前のブログ記事「清楽の人々」等参照)。この「唐琵琶」という楽器も,そうした清楽オーケストラの一端を担っていた楽器で,古い楽譜などに時折,この琵琶のためと思われる指示が見つかることがあったりしますので,月琴ほどではないにせよ,阮咸よりは広く弾かれてたんじゃないかな,と考えております。
  日本の琵琶との違いは,調弦と大きなバチを使わないところ,でしょうか。
  ピーパ,すなわち現在の中国琵琶は,ナイロンや金属の弦を張り,右手の五本の指に擬爪をつけて演奏しますが,唐琵琶は絹弦で,月琴と同じ長細いピックで弾かれていたそうです。

  右に『明清楽之栞』(M.37)の口絵を添えておきましょう。


唐琵琶1号全景(1) 唐琵琶1号全景(2) 唐琵琶1号全景(3)
  まず届いてみて驚いたのはその小ささ,

  全長:880mm 全幅:225mm 胴厚:最大30mm

  薩摩琵琶や筑前琵琶はもちろん,中国琵琶よりも一回り以上小さいのですね。とくに左右の幅もせまいので,ひょろりとした印象があります。厚みもありませんが,背の部分は唐木の類で出来ているらしく,かなり持ち重りがします。

半月付近 覆手
  日本の琵琶では,面板腹の左右に「半月(はんげつ)」という三日月型の(メンドくさいねこの用語)穴があけられ,象牙などでカバーされてますが,この楽器の「半月」は,表面にミゾを刻んでいるだけで穴にはなっていません。

  日本の琵琶にくらべると「覆手(ふくじゅ:テールピース)」も低いですね(高:10ミリ)。唐木のムクで,先端には擦れ防止で象牙をかぶせてあります。糸穴にも薄い象牙のパイプを埋め込んでありますが,向かって右から2番目の穴のだけなくなっているようです。

糸倉
  糸倉がちょっと不思議なカタチですね。中国琵琶と日本の琵琶のあいのこみたいです。
  上においた『明清楽之栞』の唐琵琶もそうですが,中国系琵琶の糸倉の曲がりは日本のものよりゆるやかで,海老尾の部分は糸倉の最後から手前のほうに返ってくるカタチになり,そこに月琴の「蓮頭」のような板飾りがつくのがふつうなのですが,この楽器の糸倉のカタチはどちらかというと日本の琵琶のそれに近いですね。
  やはりハイブリットなんですわ。

  軸は細く,三味線の中棹の糸巻きとほぼ同じくらいの寸法でしょうか。一番手前の一本はなくなってしまったのか,三味線の糸巻きを加工したものが挿してあり,筑前琵琶のものと思われるナイロン弦が張られていました。
  「乗弦」(じょうげん:トップナット)も見たことのないカタチですね。黒檀か紫檀を台形に刻んだもののようです。


糸倉オモテ 糸倉横(1) 糸倉横(2)
修理開始!
  全体にヨゴレもさほどなく,保存状態は上々……と,言いたいところですが。ところがところが。

  ----ボンド,ですね(涙)。

  それもコレ,いつもお馴染みの「白い悪魔」ではありません。
  なんと,「黄色い悪魔」です。
  それもまあ…これでもか!とばかり,糸倉のところに,こってりたっぷりと。
  いったいどこの誰だ!楽器の修理に「ゴム系ボンド」なんか使おうと考えた奴は。

  まあ糸倉が壊れてとれちゃったんでへっつけたのだろう,というあたりまでは見当がつくのですが,肝腎の破損部分が,このゴム系ボンドにべっとり覆われているせいで,どこがどう壊れているのかさえ正確には分からない始末であります。
  調査もそこそこですが,イキナリ修理に入りましょう。
  まずは弦をはずし,へっつけた糸倉を縛り付けるためか結わえてあったリボンもはずして,糸倉を----ムシりとります。


糸倉基部(1) 糸倉基部(2) 糸倉基部清掃後(1)

  糸倉の表側,乗弦の下にへっついていた物体は,凍石製のお飾りだったようですが,細かく割れてしまったのをボンドでくっつけた……というよりは,カケラを集めてボンドをまぶし,団子にした,って感じです。
  全体がボンドのカタマリと化しておりました。これもはずします。

  いやあ,木工ボンドならまだしも---木工ボンドだったとしても,もちろん怒ったり呪ったりしますが----そもそもこんなゴム系ボンドなんかで,木がちゃんとくっつくはずもありません。
  「接着」「接合」というよりは「かろうじてカタチを保っている」という感じでしたね。
  糸倉はちょっと力を入れたら,カンタンにムシれましたが……木工ボンドより厄介だったのは,後に残ったこのボンドのカタマリです。
  木工ボンドと違って,水分をふくませても柔らかくなるでもナシ,除去しやすくなるでもナシ。
  むしろお湯をかけたら,熱でヤワっこくなったぶんネバりが出て,かえって苦労が増えたぐらいで。(汗)

  これをキレイに取り去るのは,けっこうな骨折りでありました。
  けっきょく,滑りを良くするために水で濡らしながら,アートナイフや消しゴム(これ,かなり有功です)で,根気良く,少しづつ,こそいだりこすったりするしかないわけですよ。
  4時間以上もかかりましたか。

糸倉基部清掃後(2)
  「黄色い悪魔」に覆われ,なにがナニやら分からなかった接合部の破損部分も,これでキレイに見えるようになって,ようやくそのもともとの構造と,それが「どう壊れたのか」が分かるようになりました。

  まず,糸倉がわの接合部木口の左上が少し,斜めに割れて欠けており,それをまた同じボンドでへっつけてありました。
  これもムシりとってキレイにしておきましょう。

  つぎに,胴体側の接合部前面中央,十字架になってる部分にも,縦に裂けたような割れ目が見えるのですが,この部分はかなり以前に修理されているようです。きちんとした修理で,ニカワかウルシでかなり強固に接着してあり,力がかかっても割レが広がるような気配はありませんでした。


(つづく)


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