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唐琵琶1号(4)
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2011.6~ 唐琵琶1号 (4)
STEP4
伊福部先生の「明清楽器分疏」では,清楽の唐琵琶の各弦は「4度1度4度」の関係になっている,とされています。
そして,第一回でしょっぱなに貼った画像,庵主が良く使う資料『明清楽之栞』(M.27 *下画像はその拡大図)には,琵琶の調弦法について---
「調子を合するには第一絃(太きもの)を(合)に,第二絃を(上)に,第三絃を(尺)に,第四絃(細き糸)を(合)に合すべきなり」
同じ符字
(合)
が二度出てくるので,なんだか一と四の糸が同音みたいですが。岡本純の『清楽の栞』の口絵にある琵琶の絵には親切にも,山口のところに---
合 上 尺 六
----と書いてあります。
「合」
と
「六」
はオクターブの関係で,厳密に言うと違う音です。しかし,たとえば月琴は最低音が
「上」,「合・四」
の音は出ませんが,音合せの図には
「上・合」
で合わせる(実際には
上・六,
斗酒庵流だとC/G),と書かれることになっています。
これは工尺譜においては,楽器により
「合・四」
と
「六・五」
の音を通用させているところからくる慣習で,ふつう楽器におけるチューニングの名前なども
「上合調(正調)」
とか
「尺合調」
というように,低音のほうの符字をもって記されることのほうが多いようなんですね。
つまり『明清楽之栞』の調弦も,実際には『清楽の栞』の口絵と同じことを書いているわけです。
庵主はいつも月琴の
「上」
を
「4C」
という高さに合わせていますから,この音階は----
3G 4C 4D 4G
----となるわけです。
なるほど,これだと伊福部先生のおっしゃるとおり開放弦間の関係は
「4度1度4度」
。
ちなみに現在の中国月琴も,音高は多少違うものの,弦間の音の関係は,基本,この唐琵琶のと同じですね。
前回紹介したの
「佮 伬 合 上」
とか
「上 合 佮 伬」
というナゾの調弦は,中国の資料でも,今のところ見つかりません。
順番は違うけど,出てくる音階は同じってあたりが,どうにもおかしなものです。
あくまでも推測なんですが
----清楽の唐琵琶は,明治のころも月琴と同じ細長いピックで弾かれてましたが,中国琵琶はちょうどそのころあたりから,
五本の指で弾かれるように
なってきてました。それに合わせて,親指がわで弾く低音2本を
「上合」
,ほかの指で弾く弦を
「尺合」
と分けて表示したような,実践的に工夫された資料がナニかあったのかもしれません。
そうすると弦の内外をひっくり返して書いた勘所表ってのも,いくぶん分からないでもないのですが……。
さてさて,これで分かった。あとは巻けや巻け,キリキリキリ………
一の糸,OK。
二の糸,OK。
三の糸…ちょっとキツいかな?
四の糸……キリキリキリ
…
あれ,なかなか音があがらないな…キシキシキシ…
うむ,なかなかタイヘンだ……キリキリキリ……
うぉ,弦がパンパンだあ……切れるかもせん……うんせ…
「ぱこん。」
ん,何の音?と,楽器を見ますと,なんと----
「覆手」(ふくじゅ:テールピース)が………
かなーりビックリしました。
楽器本体にはさしたる損傷もなく,どっちかというとキレイにぱっこりはずれてくれましたが……。
とにもかくにも弦をぜんぶはずし,元の場所につけなおしました。
覆手の接着はオリジナルのニカワづけ。経年の劣化でもともと多少ユルんでいたようではあるものの,つけなおす時にちょっと調べたら,中心の部分はまだかなりニカワが活きていましたから,ふつうに弦を張ったくらいでは飛ばなかったはず。
弦が合わないのかとも疑ってみましたが,前回にも書いたように,3・4弦に使っている弦は,月琴に使ってるのと同じで,三味線の糸でこれより細いのはナイですし,一の糸だって「和琴の糸」よりはかなり細いほう。日本の琵琶よりはずいぶん細め,往時の唐琵琶の弦よりもおそらくいくぶん細いのじゃないかと思います。
とすると残る問題は,調弦---単純に糸のしめすぎ,ですよねえ。
上にも書いたよう,斗酒庵流では工尺譜の
「上」
を
「C(=ド)」
として教えており,HPのほうで公開している古い曲譜の再現MIDIや,E-TEXTもそれに基づいて書かれてますが,これはそうしたほうが教えるときに分かりやすかったり,曲の入力がやりやすかったりするための便宜的なものです。
工尺譜の音階を
「上=C」
とするやりかたは,べつだん庵主独自のものではなく,現在中国の工尺譜の解説本などではよく見ますし,日本でも明治の後期ぐらいから同じような解説が手風琴や吹風琴(縦笛型ハーモニカ)の本で見られますが,清楽の基音楽器である「明笛」の音から考えて,かつての清楽で一般的だった音階では,最低音の
「合」
が
「B
b
」
から
「C」
,
「上」
が
「Eb」
から
「E」
のちょっと低いあたりだったと考えられます----全体に斗酒庵流より3度ばかり高かったわけですね。
一の糸を「3G」でやって覆手が飛んだので,まずは単純に
「2G/3C/3D/3G」
と,1オクターブ下げてみたんですが。
そしたら今度は弦がユルユルで,ちゃんと音が出なくなっちゃいました。
うむ,どうやらこの楽器,斗酒庵流準拠の音階だと,うまく合わせられないようです。
しょうがないので,上に書いた清楽本来の音階,つまりはこの楽器がもともと出していた音階に近い
「合=C」
に合わせてみることにしました。この場合,開放弦での音階
「合 上 尺 六」
は
「C F G C」,
音の高さは
「3C/3F/3G/4C」
となります。
今度は弦の張りも適当。
指をすべらせてみた感触も音の延びも良い具合になりました。
斗酒庵流だとこれは
「上 凡 六 上」
という音階になり,従来の勘所表とか譜面が,そのままで使えなくなりますが,まあ弾ければいい。
半音下げて「上=Bb」にすれば,伝統的なチューニングにもなるし,「上=C」ならWSで月琴と合奏もできる。
これ以上は望みますまい。
前にも書いたとおり,この楽器の修理箇所は主に,割れてボンドまみれになっていた糸倉。こちらは割れた部分を埋め,固定方法を変更して解決。糸の締めすぎで覆手がふッ飛んだときも,ビクともしませんでしたねえ。
すべてなくなっていたフレットの類は,ツゲと竹で作り,調整後,ヤシャブシで染めてあります。
ただ,覆手を貼りなおしたら,多少絃高が高くなってしまいました。
----おそらく,フレットを作っている時にはもう,覆手がハガれかかっていてやや前倒しになっていたのじゃないかと。そのため絃高が今よりも低かったんでしょうね。
最高音がいくぶん出しにくくなったのですが,フレットを作り直すのもめんどうくさいので,月琴でいつもやってるよう「ゲタ」を噛ませることにしました。斑竹の皮ぎしを幅2ミリ,厚み1.5ミリほどに削いで,覆手の裏面に貼り付け,絃高を下げたたらうまくいって,操作性はかなり改善されています。
あと,もとは乗弦(じょうげん:トップナット)の下と,最終フレットの下にお飾りがあったと思われますが,そのあたりはいづれ折を見て製作いたしましょう。
下図,左は『明清楽之栞』の口絵を参考に組んだ唐琵琶の勘所表,真ん中は今回の調弦で,それを計測してみた音階表です。
最低音3C,最高音5A。「〓」になっているところは,清楽で使われなかった音階の箇所となります。
庵主の「この夏のしくだい」の一つは,この楽器を弾けるようになること。
おかげで,ただいま絶賛練習中であります。
すでに書いたとおり,これを斗酒庵流の調弦をした月琴とかと一緒に演奏するとなると,従来の勘所表とかは役に立ちませんから,まずはどこに何の音があるのか,身体にたたきこむあたりからはじめております。
月琴と違って,音の数が格段に多い(月琴は13コ)ですし,分からないことも多く。「ドレミ」を弾くにも,試行錯誤なんですが---実際にいろいろやってみた結果,もっとも弾きやすい運指が右図であります(ここまでくるのにすでに1ヶ月…)。
…いろんな意味で,熱い夏,と,なっております。
(おわり)
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