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唐琵琶1号(3)

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斗酒庵にとうとう琵琶が… の巻2011.6~ 唐琵琶1号 (3)

STEP3 

物識天狗
  弦楽器において,「調弦」すなわちチューニングというものは,それを楽器として演奏するにおいて,非常に重要なところであります。いかなる名器といえど,基本的な弦音が狂っていては意味がありません。

  さて,庵主は月琴が専門なので,唐琵琶についてはそんなに詳しくありません。

  そこで資料をひっくり返して,まずはこの楽器の弦にはどんなものを使うのか,とか基本的な調音はどんなものなのか,といったあたりを調べてみたわけですね。

  最初の記事でも書いたとおり,「唐琵琶」というのは,月琴に比べるとさらにマイナーな楽器なので,そう大した資料も出てこないのですが,まず弦については,『物識天狗』(ものしりてんぐ M.26)という本に「いちばん太い糸は和琴に等しく,次は三味線の一の糸の太さ,あと二本は月琴の弦と同じ」というようにありましたので,通常,月琴に使っている三味線の二の糸と三の糸(13-2,12-3)のほかに,長唄用の14号と民謡で使う20号(三味線の糸は番手の数が大きいほど太い)の一の糸を用意してみました。

  筑前など日本の琵琶の弦を使う,という手もあったのですが,日本の琵琶は絃高が高く,弦の押し込みによって音階を出したりもするために,楽器に張ったときの弦の張力はもともとかなり強くなっています。材質はナイロンが多く,丈夫ではありますが,強すぎてこの華奢な楽器には合いそうにありません。

  そもそも糸倉が壊れてましたからねえ,正直あんまりキツい糸は張りたくない。

  そして基本調弦---どの糸をどんな音階に合わせるか,なんですが,まず上記の『物識天狗』では,「太いほう」から----

   佮 伬 合 上

  とあり……あれ?……清楽の音階では「ニンベン」がつくと1オクターブ上の音になるはず。
  斗酒庵流では工尺譜の「上」の音を「C(=ド)」として教えているんですが,この音階をそれで直すと----

   1 D1 G C
明清楽独りまなび
  ----となって,このまんまだと,太いほうの弦が細い弦より高音になっちゃうなあ。

  まあタイトルからも分かるとおり,この『物識天狗』という本は別に音楽の専門書ではなく,色んな芸能の基本的なあたりを紹介した本ですので,まあこういう可愛い間違いもあるのでしょう。では,こういう時によく引用される『明清楽独りまなび』(大塚寅蔵 M.42)から---

  「調子は一の太き糸を(上)に,二の糸を(合)に三の糸を(伬)に四の糸を(佮)に合せ…」

  なるほど…さては『物識天狗』さん,天狗になって勘違いで逆に書いちゃったんだな。
  つまりは太いほうから,

   C G D1 G1

  ----というわけですな。これなら分かる!

  あれ……でも「糸の勘所は左の図解の如し」とあるその図解では,「一の糸」の音のはずの「上」が,なぜだか右端に書かれてますねえ……日本の琵琶も中国琵琶も月琴も,通常太い糸は,楽器を正面から見た左側から張られます。
  弾くがわ(楽器の背がわ)から見たと考えて左右を逆にしたとか?----いやでも,ほかの楽器の図解はだいたい全部,正面から見たとくの音律になってますねえ。


  これと同じ勘所表は『風俗画報』に載った「清楽の話」(M.28-29 坪川辰雄)や,庵主所有の古い工尺譜本『清楽十種』(M.26)の口絵にも出てきます。加藤先生の持っている『  』の口絵では,この「合 尺 合 上」という調弦が「琵琶改良律」として紹介されていますが,ここでも楽器の図のほうを見ると,轉手(てんじゅ=糸巻き)にふってある符字から弦は「上 合 尺 合」で張られているのに,なぜか勘所表は現実の弦の順番と逆になってますね。

  こりゃいったい,何なのでしょう?


中国音楽指南
  さて,右の画像は『中国音楽指南』(民国13年 仁和沈寄人)という,古い中国書からとったものなんですが,この勘所表をご覧ください。
  「第一絃」は右に「第四絃」は左になってますよねえ----

  「あっ日本のと同じだ!ひっくりかえってる!」

  ---なんて早合点してはいけません。
  日本のお三味線やお箏などでは,太いほうから「一,二,三」と数えますよね?
  でも,中国では細いほうから数えるんです。
  1・2弦,もしくは3・4弦の音階がさらにひっくり返っているところがまだちょいと分かりませんが,もしかするとそもそもは,こうした中国の本の記述を,どっかの独習本の編者が何か勘違いして引用したあたりから来てるんじゃないかとも考えますね。

  さて,じゃあこのあたりは無視するとして,次回こそは唐琵琶の正しい調弦法を。
  (長々と書いておきながらスミマソン)
(つづく)


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