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21号柏遊堂(2)

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斗酒庵 柏遊堂と遊ぶ の巻2011.10~ 月琴21号・柏遊堂 (2)

STEP2 柏と遊ぼうお堂のまわり

  内部構造まいります。

  例によって,棹穴からの観察です。


 棹茎: 基部根元からの寸法は長126mm,やや短めで加工はやや荒い。表面がわに三角形の目印が墨書。

 側部: 厚みは棹穴のところで7mm。やや薄め。内壁は平滑,比較的丁寧に処理されており,鋸目より木目が目立つ。

 内桁: 2枚。上桁は棹穴表面から 98mm。下桁は 237mm のところに位置する。材はスギかヒノキ。上桁左右に音孔。長5cm ほどで,丁寧に真四角に切り抜かれている。下桁については,棹穴直下に上桁左右のものと同様の音穴が一つ確認できるが,その左右は不明。

 響き線: 1本。可視範囲がせまく,全体の形状は未確認ながら,おそらく直線かほぼ直線に近い浅い弧線と思われる。棹穴表面から 180mm のあたりに中心部が位置し,楽器正面から向かって左がわに基部があるものと思われる。


  棹穴の寸法はふつうなのですが,上桁左右の音孔がやや小さいのと,その位置のために,そこから先の構造がほとんど確認できません。なので,かなりせまい範囲の観察でしかないのですね。
  見ることのできる範囲には,特に墨書らしいものは見えませんでした。簡単な指示線と目安のケガキ痕ていどのものがあるくらい。
  概して側面内壁はきちんと処理してあり,桁の加工や接合もかなり丁寧でした。


  恒例のフィールドノートは右に。
  (クリックで拡大)



簡見その1.損傷について

  外から見える範囲での大きな損傷は,まず糸倉の割レ,つぎに裏板の貫通したヒビ。
  そしてそのどちらもがかなり古い時代に修理されているようです。
  前修理以前の状態では,糸倉はうなじのところからまっぷたつに割れ,四方の接合部はユルんでスキマがあり,裏板に大きなヒビが入って左1/3がほとんど剥れていたと思われます。修理者はおそらく楽器屋ではなく,古物屋さんでしょう。いちおう筋の通った修理をしているので,最近のリサイクルあがりの素人さんではありません。腕も悪くはないですね。

  ただ,楽器屋さんではないため,オリジナルの部材をとにかく残して破片をウルシで継いでいます---お茶碗と同じ感覚なのでしょう。

  蓮頭のかわりについてる猫足と,山口のかわりの竹は,同じ修理者の手によるものとはあまり思いたくないですねえ。オイルステンか水性の塗料で塗られているようですし,おそらくこちらは近年になってへっつけられたものだと思います。

  総じて言えば,損傷はあるものの,軸やフレットなど,オリジナルの部品は多く残っており,欠損も少ない。保存状態としてはまずます上々であると言えましょう。


簡見その2.作者について

  けっきょく内部からも,作者につながる新たな手がかりは得られませんでしたが,アールの浅い糸倉や棹のフォルム,また全体の基本的な作りからは,「清琴斎(二代目)」・山田縫三郎の楽器の影響が感じられます。よく言えば実用的,悪くいえば経済的かつ無難なデザイン----ただ彼のところの量産楽器より加工は丁寧。時代は明治20年代末から30年代なかばくらいでしょうか。
  はじめ,ラベルのデザインと名前が似ているので「柏葉堂」・高井徳治郎さんのとこと関係があるヒトなのでは?(もしくは柏葉堂の改名か?),と考えましたが,彼のところの楽器とはかなり手が違っており,関連はなさそうです。

  材料や加工から見て,関東の職人さんだと思いますが,さて…


簡見その3.楽器として

  材質は胴体がクリに棹がホオ。
  表面板の矧ぎ目はまだよく確認できてないのですが,中央部にはそこそこに良い板が使われているものの,左右端にはやや質の劣るギラ杢の出た板が使われております(そしてこの左右端の2枚だけ,木目もあまり合わせていない)。裏面板は8枚矧ぎで,木目もほとんど合わせてませんし,各板にフシも目立ち,あまり上等の板とは言えません。

  よってこの楽器は当時の中級普及品クラス,数打ち楽器の一面と考えられます。

  しかし,表面板中央部に残った数多の演奏痕,フレットの状態,棹裏のテカリや塗装のハガレなどから見て,これはかなり使い込まれた楽器です。音のほうはかなり良かったんじゃないかな?



STEP3 しうりしゅり


  さて,データはもらったし,んでは修理してやりましょう。

  糸倉の割レは深刻な状態ではあったものの,過去の修理でかなり頑丈に直されており。現状,このまま使用してもあまり問題はなさそうですし,欠けた部分を埋めて籐巻きを加えるなど多少の補強でより安全な状態にはなると思いますが……

  ワタシは他人の修理を信用できないココロのせまい職人さんなので。(w)

  誰になるか分かりませんが,次のオーナーさんがよりバリバリと演奏活動できるように----これだけ弾きこまれてきた楽器ですからね。今回は,予備というか,新しい棹を作ってやろうと思います。

  ウサ琴による製作実験から,この楽器の音色は,ほとんど胴体の構造とその加工によって決まる,ということが分かっています。棹の影響するところは材質や加工による操作感の違いくらいで,音色への影響は計測上ほとんど認められませんでした。
  つまり,棹がどんな材質であっても,どんなヘナチョコな加工だったとしても,胴体の作りが素晴らしければまず名器,といわけです。

  まあ,三味線やギターにくらべると,棹,こんなに短いですからね。

  本来ならば,補作の棹はオリジナルと同じ材質,同じ加工で作るところですが。今回はあくまでも「復元」ではなく「実演奏のための補作」。

  ついでにやってみたいこともあるし----


  さっそく和光市のウッディプラザさんへ行ってめぼしい材を漁ってきました。
  今回ゲットしたのはカツラの板,荒板なので8ミリから1センチくらいと厚さは一定してませんが,まあちょうどいい厚みです。
  これを棹のカタチに切って,これも以前ウッディプラザさんで仕入れたサクラの角材(幅3cm,厚:12mm)をはさみこみます。

  そう,今回の棹は3ピース。
  エレキギターなんかではよくありますよねー。

  「板と角材の組み合わせで棹を作る」というところはウサ琴と同じですが,糸倉がカツラで真ん中がサクラってとこが逆かな?
  いつもと違い糸倉が柔らかめですが,まあオリジナルはホオですし。これも柔らかい材料で出来たオリジナルの軸をそのまま使うつもりなので問題はありません。

  左右のカツラ板はまず表面をキレイにして,だいたい厚さをそろえます。
  つぎに接着面のがわにしっかりお湯をふくませ,薄めに溶いたニカワを何度も塗っては炙り塗っては炙って,指でなじませ,表面にニカワの滲みた層が出来たら,乾かないようにラップをかけておきます。真ん中のサクラのほうが固くて,しみこみも悪いのでよりじっくりと。
  さいごにもう一度,接着面全体にお湯を刷いたら,3枚を合わせてクランプでスキマなくぎゅぎゅーっとな。


  クランピングして2日。棹表側を平らに削ってから,やや厚めの黒檀の指板(3ミリくらい)を接着しました。


  出来たのを整形。オリジナルを横に置いて見たり触ったり(ヒヒ…)しながら,なるべくそっくりさんに仕上げましょう。


  おつぎは軸穴です。棹本体のほうは工作のとき,ほとんど測ったりしませんでしたが,こちらはまずオリジナルの穴の位置やら軸の角度やらを正確に測って補作の棹に写すところから入ります。これだけで2時間以上かかっちゃいましたね。
  穴の位置が決まったらその中心に3ミリで下穴,先端の尖った木工ドリルで左右の穴をつなげつつ5ミリまで広げます。
  オリジナルは大きいほうが11ミリ,小さいほうは7ミリ。
  リーマーでその直前くらいまで広げたら,仕上げの工作は焼棒で。
  もともとは三味線の技法です。焼棒で穴をあけたほうがドリルなどでやった場合よりも「割れにくい」とやら申します。木がしまって精密な工作がしやすくなるのと,熱と圧力で繊維をつぶして,軸穴周囲の木部を強化する意味合いもあります。


  100%同じ,なわけではありませんが。
  まあだいたいよろしいのではないかと。
  
(つづく)


21号柏遊堂(1)

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斗酒庵 柏遊堂と遊ぶ の巻2011.10~ 月琴21号・柏遊堂 (1)

STEP1 柏遊堂,とわ?

  ああ,自出し月琴,21号です。え,数がどうしたって?

  もういいぢゃありませんか。
  どうにでもなれー,ちんぷい,ちんぷい。(w)

  背面に「柏遊堂」と,ラベルがありますが----
  今のところ,これがどこの誰なのか,判りません。

  『明治大正期楽器商リスト』にも出てきませんしね。
  山形屋さんや菊芳のラベルと違い,住所がなく名前だけのラベルなので,どうにもなりませんねえ。


  あちこちコワれて,頭の上にナニヤラ鶏冠態のモノをへっつけられてはいますが,全体として,出来も保存も悪くはないようです。


1.採寸・各部簡見

 ・全長:695mm(蓮頭の基部までだと 630 )
 ・胴径:352mm(縦方向)349mm(横方向) 胴厚:35mm(表裏面板,厚4 )
   *見た目,ほぼ真円ですが,測ってみると少しだけ縦方向に長い。
 ・有効弦長:421(山口欠損のため推定)


 ■ 蓮頭:欠損
  かわりに家具の足(?)と思われる,猫足状の木片がとりつけられている。
  材質は不明だが,水性ニス,あるいはオイルステンと見られる塗料で黒っぽく塗装されているもよう。


 ■ 糸倉:損傷アリ。

  長:138 最大幅:31 側面厚:8。
  蓮頭の基部まで一木造で,弦池は彫り貫き。やや長いが,アールもさほど深くはなく,実用的な作りである。
  一番下の軸孔のところから,一度,まっぷたつに割れた様子。
  おそらく切断面にホゾを埋め込み,ウルシで接着している。
  修理自体は古いが,かなりきっちりと修理してあり,強度もあるため現状でも使用は可能と思われる。



 ■ 軸:四本そろう。
  おそらくホオ材。うち一本だけ着色が異なる。糸倉に挿すと糸穴がほとんど見えなくなるところから,この一本のみはもう少し糸倉の幅のある別の楽器より移植された部品と思われる


 ■ 山口/棹上フレット/棹
  山口は欠損。代わりに筆軸と思われる細い竹筒を割ったものが貼られている。
  山口の代わりに使用された痕跡はなく,蓮頭の猫足と同様,古物としての体裁(?)を整えるための蛇足と思われる。
  オリジナルのフレットが2本。材質は象牙か。第3フレットのみ欠損し,棹上に接着痕のみを残す。
  第3フレット接着痕に少虫食いあり。

  棹表面に指板はない。糸倉から棹まで,おそらくホオ材。
  指板相当部分,長147,最大幅31,最小幅24。最も太いところで背面まで30,最も細い部分が25。
  中級の月琴としては一般的なサイズで,背面に装飾的なアールもほとんどない実用的な棹である。


 ■ 装飾:左右目摂・扇飾り・中心円飾り/胴上フレット

  蓮頭以外の装飾はすべて残っており,オリジナルと思われる。これ以外の柱間飾り等が付いていた痕跡はない。
  胴体中心の円飾り(唐木)以外は,ホオかカツラの薄板を染めたものと思われる。
  扇飾りは一般的な唐草卍帯,左右目摂の意匠は仏手柑。工作はやや稚拙。

  胴上のフレットもすべて残る。貼りなおされた形跡もない。
  材は棹上のものと同じ。高音部,いづれも細身で,丈もかなり低い。



 ■ 絃停/半月

  絃停はニシキヘビの皮。102×70。右上カドと左辺下に傷み多少。全体に接着が浮いている。
  周囲に貼り直しの際の作業痕と見られる白っぽい染みあり。

  半月は102×40,最大高 10。半円曲面。唐木製かなにかの木を染めたものか,現状では不明。
  表面の線彫りの意匠はおそらく蓮花。糸孔は 外弦間:33 内弦間:27 内外の弦間はどちらもおよそ3ミリ。
  使用痕あり,糸擦れの一部はかなり深い。また上端右に小カケあり。




 ■ 胴体


  側板:材はクリと思われる。
  接合部ほぼ健全でスキマも狭いが,四方ともに黒っぽい物質(おそらくウルシ)で埋められている模様。
  糸倉と同時期の古い修繕か?


  表面板:全体にほぼ柾目の板で構成。
  現状,何枚矧ぎかは不明(7枚矧ぎ?)だが,左右端にギラ目の入った板が使われている。
  絃停の上,胴中央付近に木目に沿ったミゾ・凸凹,やや深い。
  同箇所を中心に演奏によるピックの擦痕多数。

  上端棹の右手に小ヒビ。ヒビ周辺に擦痕と何かコゲたような痕少々。
  下端,半月の右下周縁にクランプ痕と見られる丸い圧痕,4~5個。
  半月左下から周縁まで小ヒビ,その少し左にも,一本小ヒビ。

  裏面板:左側に大きくヒビ貫通。最下端で幅1ミリほど開く。下端左に虫食い穴あり,これが原因か?
  このヒビを中心に左右,裏面板下端周縁が,胴体からやや出っ張っており,おそらくは再接着されたものと思われる。


(つづく)


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