清音斎の月琴(3)
![]() STEP3 まずは軽めに朝食を ![]() さてそれでは唐物「清音斎」,修理に入ります。 まずは軸ですね。うちにきた時には,三味線の軸が三本ささっておりました。 古式月琴の軸は,明治期の国産のものとくらべると先がやや太くて,六角形ではなく---こういう(右画像)形のものが多いようですね。中国の楽器には,今もこれと同じかもっと筋溝の多い握りのものが多く,日本の月琴や三味線のように角ばった握りのペグってのは,あまり見かけません。 とはいえ,これも基本は六角形なので,加工の工程中,一度は普段作ってる軸と--- ![]() 同じものが出来上がります。国産の月琴の軸の主流が,角ばった六角形になったのは,けっきょくココまでするのが皆メンドくさくなったから,なんじゃないかとも思いますね。 三味線の軸も角ばった六角形が一般的なので,使うほうも作るほうも,それに慣れてて問題がない。 「たかが糸巻きに,なにもここまで手をかけなくてもいーんじゃね?」 といったところでしょうか。 ![]() 弦楽器のペグ,というものはたいてい,ボディよりは硬い木,たとえば黒檀とか紫檀などで作られます。唐物月琴でも黒檀紫檀のほか,ツゲとか象牙とか,そういう材料が多いんですが,何度も書いているとおり,明治の国産清楽月琴では,ボディと同じホオやカツラ,あるいはクルミなどといった,加工の容易な材が多く使われています(ごく高級なものを除く)。 また棹がカツラやホオである場合,それよりも硬い木材を,軸という非常に力のかかる部品に使うと,張力や音締の際の操作でかえって本体を損じてしまう可能性があります(庵主も修理やウサ琴の製作で何度かやらかしました)。 この軸の加工も材質の差異も,月琴という比較的廉価な楽器において,メーカーがわがかけられる,コストや手間から自然そうなっていったものと考えるのが妥当かもしれません。 清音斎の主材は「鉄のカタナの木」と書く「タガヤサン」。 硬さでは唐木中でもイチバンとされる木材です。 現状,糸倉に作業の支障となるような損傷も見られませんし,どんな材料でもOKってわけですね。 ![]() とはいえ庵主のフトコロ具合および工房の装備から,黒檀・紫檀で軸を製作するってのはなかなかに難しい。 ここはいつものとおりスダジイでいかせてもらいます。スダジイはドングリの仲間,木刀や工具につかう「カシ」などに近い木ですから,硬さ・丈夫さの面では問題ありません。雑木なので色がちょいと白っぽくてアレですが… 染めてしまうとこの通り!(今回はとくに上手くいきました) ![]() 「清音斎」,なくなってる部品はあと蓮頭とフレットですね。 フレットのほうは最後でいいので,次は蓮頭といきましょう。 今回もカツラの板を使います。図柄はコウモリですね。 唐物月琴の蓮頭は,国産のそれと比べるとやや小さめで,厚みのあるものが多いですね。加工もやや荒めで,周縁に切り出したときの鋸跡が残ったままになっているようなこともありました。このあたりにも何というか,日中での気質というかコダワリ,美意識の違いみたいのが出てるのかもしれません。 ![]() それに倣って(手抜きぢゃないよ!),すこし荒っぽくテキトウに作ってみました。表面もふだんはスベツルにするんですが,ヤスリ目を残してザラついた感じを出してみました。 スオウで染めて,オハグロで媒染。 力がかかったり,手がしょっちゅう触れる箇所でもないのでラックニスを色止め程度に擦りこんで仕上げてあります。
さあ,次回からは楽器本体の修理に入ります。
そこでしょーげきときょーがくのナニかが! (つづく)
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