明笛について(2)
![]() STEP2 明笛の運指について ![]() 明笛は笛ですから,指で孔を押えて塞ぐことで音を変えるわけですね。 むかしの独習本などでも,たいてい冒頭にはこの,「どこを押えるとどの音が出る」という一覧表が載っております。 「運指表」というやつですね。 しかしこれが,イザ調べて並べてみますと,同じ楽器,同じ音階のはずなのに,いくつかの種類があります。 この違いは流派によるものなのか,笛自体がなんにゃら違うせいなのか,そのへんは文献からはうかがい知れませんがちと困りましたね……まあどの指遣いが「正しい」のか,などとは考えず,まずはいくつか幅をもって調査するのが肝要かとは思われます。 手元にある資料でいちばん古い明笛の運指表は,明治10年の『清楽曲牌雅譜』(川副作十郎 波多野太郎『横浜市立大学紀要』「月琴音楽史略」影印所載)の口絵にあるものでしょうか。 ![]()
前回紹介した大塚寅蔵『明清楽独まなび』(M.42 上画像)など,これと同様の指譜が,たぶんいちばん多いのですが,『明笛清笛独習案内』(香露園主人 M.42)や,庵主がよく使う『明清楽之栞』(百足登 M.27)などでは---- ![]()
----と,最高音「凡」の指譜の少し違っています。 また,このほかに,楓橋散士の『月琴胡琴明笛独稽古』(M.34)をはじめ, ![]()
----と,尺以下で右から二番目の孔を押えるのは「笛を支えるため」程度,としている例,さらに同じ年に出された後藤新吉の『明笛流行俗曲』など,もっと単純に----
----と,最高音「凡」以外の音階は,単純に「右から順繰りに開けてゆくだけ」となっているものもけっこうあります。 ![]() 古い清楽の楽譜にある楽器図などでは,よく指穴のところに工尺符字がふってあって,それをそのまま表にするとこんな感じになるのでしょうが----これらの例では「凡」の音は,ほぼ「全開放」になるわけです。 またさらに,伝統的な運指ではありませんが,長原春田(連山派長原梅園の息子)は『明笛和楽独習之栞』(M.39)で,独自の運指表を提案していおり---- ![]() 長原春田発明 日本俗楽明笛吹奏手法 但シ此笛ハ本来「長簫」ノ称アレドモ衆人指テ之ヲ明笛或ハ清笛トモ云フ故ニ今仮ニ此称ヲ用ユ
----この全閉鎖を「凡」とするこの新式運指はある程度広まったらしく,『明笛尺八独習』(津田峰子 M.42)など,運指表が
と,「凡」が全閉鎖になっている例がいくつかあります。 大正時代に入ると清楽色が薄れ,明笛の楽譜にも清楽の曲がほとんどなくなります。さらに大正4年に出された『明笛教本』(ノボル楽友会)では,指穴を「半開け」して半音を出す方法が紹介されていて,運指表も ![]()
と,ちょいと複雑になっております。 この本,なんせ「明笛の本」なのに冒頭にキーツの詩なんか載ってるくらいで,中国原産の笛がモボモガの間でどんなふうに吹かれてたか,ちょっと気になるところですね。 ちなみにSOS団の練習などでは月琴をC/Gで調弦し,音階もほぼ西洋音階に近くしてやっているものですから,庵主はこれを吹くときは----
という運指で吹いています。このパターンだと,高音域では右手のほうをぜんぶ塞いでおいたほうが音の安定がよく,低音域へ戻るときも,開放した場合より音が出しやすいのです。 まあ,まだ庵主,たいした曲も出来ませんが。 さて,これはともかく。 音階を調査するうえで,どの運指表を採用するか,けっこう悩むところですな。 つまり「凡」を全閉鎖とする新式譜をのぞくと,明笛の音階表では最高音「凡」に---
1)口 ○●●○●○ 2)口 ○◎○○◎○ 3)口 ○●●○●● ----と,三種類の運指があるわけなのですね。 しかし,実際に笛で吹き比べてみますと,この三種類。 笛の出来により多少音の安定が違う程度で,音程的にはどれもほぼ変わりがないということが分かりました。 また「半開け」ではなく「支える」となってる場合の「◎」の箇所も,軽く押えようが強く押えようがほとんど変化がありません。 ----吹奏楽器てのは弦楽器より繊細なところもありますが,このへんはさすがに言ってしまえばただの「筒」,アバウトなんですねえ。 各笛の試験では,現実には上に書いたようなさまざまな運指を試してもらっているのですが,今回の調査報告は「清楽の基音と基本音階」が主眼ですので,基本的に---
という運指表をもっとも一般的なものとして,各笛音の比較をしていきたいと思います。 (つづく)
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