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清音斎の月琴(4)

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斗酒庵 清音斎と邂逅 の巻2011.10~ 清音斎の月琴 (4)

STEP4 絶望楽器


  この楽器,曲がってます。
  いや,「ズレてる」んですね。
  なにがって,棹が,楽器の中心線から。

  楽器として中心軸がブレてます。

  絶望したァ!!

  左の画像だと,まあ棹が「傾いてる」ぐらいにしか見えませんが,ちゃんと測ってみますと,棹の根元,棹をさす穴の位置が,楽器を正面から見て,中心線から右に5ミリ以上もズレてしまってるんですね。

  極端に描きますと,右図みたいになってる,ちゅうことです。(汗)


  うむ,明治清楽界のビックネーム「清音斎」。>
  どうしたことだ,こりゃ?


  あらためて各部調べてみますと,このほかにも,楽器としてヘンなところがいくつか見つかりました。


しょの1) 演奏痕が皆無。
  ぶつけたりしてできたようなキズはあるのですが,撥痕,演奏痕のようなものがまるで見つかりませんね。
  ふつうですと左画像のあたりに,撥先が当ってできた線や点があるものなのですが……ご覧のとおりまあキレイなもので。
  半月や山口にも「糸を張ったらついた」程度の,ごく浅く,薄いキズしかありません。


しょの2) お飾りの意匠が同じ。
  楽器中央の柱間飾りは7個,いちおう柱間ぜんぶが埋まってわけですが----よく見るとコレ,図柄が2種類(ザクロ2個,仏手柑5個)しかありません。しかも,そのうち2つ(左上,中央一番下)は,どうやら製作中に欠けてしまったのをちょっと手直しして再利用したモノのようです。
  しかし日焼け痕もちゃんとついてますし,材質も彫りの手も同じですから,古物屋がいろんな楽器から落ちたのをかき集めて適当に貼り付けた,とかではなく,ほぼ間違いなく,オリジナルのようなんですが。


  右は14号・玉華斎のお飾り一そろい。
  この例などはまだそれぞれ何なのか分かるくらいですが,意味のない抽象的な紋様みたいになってしまっているのも多いですね。おそらくもともとは,それぞれに何らかの意味をもつ,特定の吉祥図柄だったと思われます。
  ふつう柱間飾りは,このようにひとつひとつ違う意匠になっているもので,ぜんぶがほとんど同じってのはハジメテ見ましたね。

  中国で演奏に使われる月琴の面板には,日本の清楽月琴に見るような装飾はついていません。
  考えてみれば楽器としてはあたりまえで,サウンドホールもない楽器なわけですから,糸の振動の共鳴部,音の出処であるところのこの部分に。こういう余計なモノが付いているほうがおかしいわけです。
  馬琴の『耽奇漫録』や喜多村信節の『嬉遊笑覧』など,文化文政のころの随筆の記録にある唐渡りの月琴,また国産月琴でも,庵主のところの最長老,文久3年製の13号のような古いものには,ペイントや書はあっても,明治の月琴によく見るような,立体的な飾りは付いていないのです。

  月琴渡来の初期のころ,清朝の商人たちが自分で弾くために持ってきた楽器には,当然こういうものはついてなかったのだと思いますが,それが「商品」として輸入されるようになり,また当時の日本人の好みにも合ったのでしょう,高級感があり利益率の高い,装飾のついた楽器が大量に入ってきたのだと思います。
  中国では今も,月琴に満艦飾の装飾を付け,胴に「円満」とか書いたのをお祝い事の贈り物に使ったりしますが,そういうもののベースになる楽器はたいてい安物で,楽器としてギリギリな,雑な作りのものが多いんですね。

  しかし,高級なタガヤサンがけっこう惜しげもなく使われていることや,棹穴以外の各部の工作は基本的にしっかりしていること,響き線もきちんと仕込んであって調整されていることなどから考えると,この楽器はハナから単なる「お飾り」として製作されたものだとは思えません。しかしこんなふうに棹が曲がっていては,実際,音を「鳴らせ」はするけど,マトモに「演奏」は出来ませんわな----

  ゆえにこれは,「失敗作」を「お飾り」に転用したもの,ではないかと思われます。

  明治の初~中期のころ,天華斎と並び称されていた清音斎ブランドの楽器は,けっこう売れに売れたはずです。そうした大量生産のさ中,組み立ててみたら「あちゃ~」(いや,唐物だから「アイヤー!」だな,この場合)であったものを,そこらに余ってたお飾りを貼付けて「装飾品」として売っ払ってしまったのではないでしょうか。


  ちなみにこの清音斎,棹のズレは左右方向だけではありません。
  左をご覧ください。分かります?なんか斜めにねじれちゃってますよね。

  3Dでブレブレなわけですよ,この棹わ!

  前所有者か古物商の方が,棹穴にスペーサーの板を接着して調整しようとしてましたが,ただの平らな板でしたのでほとんど効果ナシ。糸をギンと張ると,棹が少しネジれてしまいます。

  日本の職人さんだと案外,こんな楽器は修整してから売るか,たたき壊して最初から無かったことにしちゃうんじゃないかと思うんですが……このへんにもなんだか,大陸的なおおらかさというか商売根性の違いが出てるような気がしますね(汗)。

  まあでも,たとえ「失敗作」だろうが「不良品」だろうが。
  「清音斎」は「清音斎」。
  100年以上前のブランド楽器。とにかく音が聞いてみたいものです。

  いっちょう努力してみることといたしましょう。

(つづく)


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