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清音斎の月琴(2)

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斗酒庵 清音斎と邂逅 の巻2011.10~ 清音斎の月琴 (2)

STEP2 「清音斎」とわ?


  前回の「柏遊堂」さんには手がかりがなく,名前は分かったものの今もってどこの作家さんだか皆目見当がついておりません。   今回の楽器にもラベルがついてますが----さあ,どうでしょうね。文章の二行目のあたりにヒビが貫通していてほとんど読み解けませんし,そのほかにもあちこち欠けてしまってますが,近代的な銅板印刷のラベルなんで文字はハッキリしていて,ある程度推測できる箇所もあります。

  上に「清音斎」

  本号福省南関外
  洋頭街坐西朝東
  開張七代老店造
  文廟(楽)器各款各
  琴諸〓賜顧者〓
  認三〓〓(房)〓〓
  (〓は文字損で解読不能,( )は文字の一部が残るなどから推定できた箇所。)

  「わが店は福省の南関外の洋頭街に店舗をかまえる七代続く老舗。文廟楽器(雅楽器のこと)や琴各種取り揃え,さまざまなお客様よりご愛顧を賜っております云々」といった文面ですね。

L氏の月琴ラベル
  このラベルの文章の形式は,以前にてがけた天華斎の楽器(過去記事「L氏の月琴」参照)のそれと似ております。楽器自体は天華斎に倣った国産品だと思うんですが,ラベルは本物とあまり変わりがありませんでした。
  ちなみにその後手に入れたほかの楽器のラベルの資料なども参考に,今回あらためて読み直して見ますと,こちらの文章は----

  本舗住福省在〓〓〓
  茶亭街坐西朝東(制)
  造文廟楽(器)迷古(各)
  琴開張八代老舗(賜)
  顧者請認庶不致候

  「本店は福省(たぶんこちらも「南関外」)の茶亭街にあり,文廟楽器をはじめ各種楽器を製造して八代になる老舗,他店との質の違いご覧あれ。」となってました。


  さて,『明治閨秀美譚』(明25 左画像,クリックで拡大)という本によれば,清楽の二大流派のひとつ「大坂派」の連山の妹・長原梅園が,大坂派の清楽を東京に広めようと乗り込んで来たとき,携えてきた数々の名器中に「初代天華斎の月琴(逸雲・卓文君等の名器と同時に渡来したもの)」のほか「初代清音斎の提琴」というものがあったと書かれています。

  なるほど,この「清音斎」というのは,清楽流行当時,「天華斎」と同じくらいよく知られていたメーカーさん,斯界のビックネームだったようですね!

  ラベルの印刷や紙質,また木部の年経などから察して,さすがにこの楽器は,初代天華斎と同じ18世紀末の人とおぼしい「初代清音斎」の作だとは思えません。
  また「清音斎」の楽器,とくに月琴については,未だほかに例を見たことがないので,楽器自体のスタイルや加工から,これが本当に「清音斎」製のなのかどうかというあたりも正直分からないのですが,まずはとりあえず,これが本当の唐物,つまり中国で作られた楽器なのか。それとも「清音斎」の名を騙った,国産の倣製楽器かどうか,というあたりにから鑑定してみましょうか。

国産清楽月琴(21号)との比較 清音斎うなじ
  唐物の古式月琴のおもな特徴としては----

  1)棹が短い。 2)軸がやや太い。
  3)山口のところにふくらみがない。
  4)棹背面糸倉の付け根の,いわゆる「うなじ」が絶壁。
  5)上から下までフレットの幅の変化がほとんどない。

  といったことが挙げられます。このへんは,欠損している軸以外のところはすべて合格。
  そのほか,オリジナルのフレットは竹製ですが,その形も表皮部分を片面に残した国産型ではなく,両面を平らにした中国型(「月琴のフレットの作り方」参照)にちゃんとなっています。
  つぎに内桁も一枚。材質は桐。国産の月琴は二枚桁が多く,材もスギやヒノキといった針葉樹なんですね。

  そして面板。
  国産のものの多くは集成材の矧ぎ板ですが,唐物ではほとんどの場合,桐の一枚板が用いられます。

  「清音斎」の面板は見る限りにおいては表も裏も一枚板ですね。

  さらにマニアックなところでありますが「鋸目の違い」というのもあります。これは糸倉の弦池の内壁で見るのがいちばん分かりやすいですね。日本のノコギリは「引いて」切る「引き切り鋸」ですが,中国のノコギリは太い糸鋸のカタチをした「推し切り鋸」です。この道具の違いから,鋸目の角度や細かさに色んな違いが出てきます----つても,あ~ちょいと見たってふつうは分かりませんよ。

  「清音斎」の糸倉に残っている鋸目は,かなり幅がせまく,まっすぐで,細かい。
  おそらくは中国鋸の痕だと思われます。

  結論としましては,この「清音斎」,材質・加工の面からは「唐物」である可能性が高いです。

  「清音斎」の系を引くメーカーさんが今もあるのかどうかは,いろいろと調べてみましたが分かりませんでした。まあはじめに掲げたラベルには「店は老舗で七代目」というようなことが書かれてますから(つまり自分が「初代」だとは言ってないので),「清音斎」の名を継いだ人が過去にいたのは間違いないでしょう。もっとも,天華斎のラベルにも同じようなくだりがあって「八代目」になってますよね。清音斎のほうが一代新しいわけですが,天華斎もいちばん隆盛だった清末民初のころで,現実的にはまだ三代目だったそうですから,ま,どちらも信用はできませんね。

  さて,なにはともあれ。
  明治月琴界における二大ビックネームの一つ,「清音斎」製の楽器。
  ホントのところはどんな楽器やら。
  ウデが鳴りますポキポキと(あ,折れた…orz)。


(つづく)


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