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21号柏遊堂(3)

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斗酒庵 柏遊堂と遊ぶ の巻2011.10~ 月琴21号・柏遊堂 (3)

STEP4 カエルの出てきた日

  もー自出し楽器だけで20本越えてるんですから,修理も諸事サクサクっとまいります。
  これだけやって進歩…せめて作業効率やら速度やらの向上ってもンでもなけりゃ,そりゃアナタ,ナニってもんで。
  とはいえ,大量生産されてたクセに,一本一本同じものがないですからね,この楽器は。


  自作楽器・ウサ琴の実験製作で培ったいろんなワザで,新しい棹を作ってゆきます。

  前回書いたとおり,補作の棹の本体は,カツラとサクラの韻を踏んだ3ピース。そこに強度補強も兼ねて,ちょっと厚めの黒檀の指板を貼ってあります。材質や工法こそ異なりますが,寸法やカタチは,なるべくオリジナルどおり,ってことで。

  さあて,カタチが出来たら,お次は染めです。
  まずは棹の表面を丁寧に磨きます。#240で粗磨き,#400でヤスリ目をとり,#400と#1500相当のShinexで仕上げ----曲面が多いから Shinex 大活躍ですね。
  スオウを2回,重曹を1回刷くと,おひさしぶり,3倍速い人のザ○色になりました。
  これにオハグロ液を刷いて----リック○ムっぽい紫茶に。


  今回は塗膜を作らず,カシューで色止めを兼ねた刷り漆風に仕上げます。
  全体を刷毛で塗っては,布で木地にすりこむように。
  一日~二日おきに3度ほど重ねました。

  塗り終わったところで二週間ほど乾燥させます。


  棹の塗装の養生のあいだに,ボディの修理をしてしまいましょう。
  ----といっても,今回はやること少ないんですが。
  目立つヒビ割れは3箇所。表に2箇所,裏に1箇所。
  裏板のヒビ……というかおそらくこれ,前々修理者(オリジナルの糸倉を修理した人)が,剥離した裏板を貼り直した際に出来たスキマなのじゃないかと思われます。側板が変形し,裏板が痩せて縮んだぶんが,埋められないスキマになっちゃったんでしょうね。

  桐板を薄く切って,カンナで整形,はめこみます。
  先っちょのせまい部分には,埋め木を削る作業で出たカンナ屑なんかも埋め込みます。
  埋め木は薄いので,先にニカワを塗ってしまうとフニャフニャになって,そのあとの作業がしにくくなってしまいます。
  そこでまずは埋めこんでから,その左右に薄く溶いたニカワを筆で刷き,指先で板を指圧するように揉んで,ニカワをヒビ全体に行き渡らせます。
  余分なニカワは染みになるので,乾いたウェス等でこまめに拭き取りながら作業をしましょうね。

  ヒビ割れは完全にまっすぐではないので,埋め木の左右にできた細かいスキマには,木粉粘土を粉状態で撒き,アートナイフの先などで埋め込みます。

  翌日,カンナとペーパーで整形して終了。
  表面板の上下2箇所のヒビはごく薄く,さほどの影響もなさそうなので今回は無視します。


  表面板の,ヘビ皮の絃停が貼ってあったあたりに数箇所,虫食い痕があります。
  数も少なく範囲的には広がりはないのですが,それそこ目立つし,次の作業の支障にもなるので,木粉粘土をヤシャ液で練ったので充填しておきます。こちらも翌日,乾燥したところで整形。
  うちの部屋には,いろんな木片にペーパーを両面テープで貼ったのが,いくつも転がってます。
  こういうときベンリなんですよ。(w)

  半月は,糸の出るところの右端にあったカケを埋め,ベンガラで補彩。
  亜麻仁油で磨いておきます----もー分かりませんね。


  スキマや穴ぽこも埋まりましたので,清掃清掃~。
  いつものように,ぬるま湯に重曹を溶かし込んだのに Shinex を浸してコシコシと……


  濡れると板の矧ぎ目が数えやすくなります。この楽器では裏表に同じ板が使われてます。いえ,正確に言うと,長い板の上下からそれぞれの面板が切り出されているってところでしょうか。
  ----裏板の真ん中の下のほうに,同じ節目が二つ並んでるところがありますよね。この部分の木目をたどってゆくと,ちょうどつながるような木目が,表板の同じあたりに現れています。
  矧ぎは多いほうですが,比較的目の詰んだ堅い板が使われています。

  使い込まれた楽器らしく,表面板の真ん中あたりには,無数のバチ痕が浮かび上がってきました。


  さて,蓮頭を作ります。
  オリジナルの棹についていた猫足様の物体は,もちろん前修理者の補作。もともとどんなものがついていたのかは,同じ作者の類例も見当たらないため不明ですが,材質や作りから考えて,そんなに凝ったものではなかったでしょう----たぶん線刻の宝珠か,簡単な透かし彫りの蓮華,あるいはコウモリあたりだったのではないでしょうか。

  今回は棹自体が自作の補作ですからね,ちょっと遊ばせてもらいましょう。


  まずは凍石を刻みます。
  画材屋さんの大きなとことか書道用品屋さんで買える落款・印材用の石ですね。月琴のお飾りにもよく使われています。
  宝飾用の精密糸鋸でサクサクサクっと。だいたいのカタチに切り抜いたら,両面テープで手ごろな板の端っこに固定して,カリカリソリソリ……庵主が整形に使っているのは,篆刻用の印刀ってやつですが,\100の彫刻刀とかプラモ用のヤスリなんかでもカンタンに削れますよ。
  できたら Shinex に水をふくませたので磨いて…っと。

  げこ。


  蓮頭の本体はごくごくシンプルなデザイン。線彫っただけだもんなー。
  そして,ここにこーいうふうに乗っかります。

  げこげこ。

  塗装もシンプルに。ヤシャ液に少しスオウ汁を混ぜ,色を濃くしたもので染めて,油拭き。
  乾いたところで,ゲコちゃんを接着します。簡単に取れたらヤなので,接着箇所をヤスリで少し平らにし,ちょっと圧をかけて接着しました。

  蓮頭本体は,二回目の油拭きの際,炭粉と砥粉を油で溶いたのをなすりつけてあります。
  ゲコちゃんのほうは,仕上げのときに,あたためたオハグロ液をくぐらせてから磨き上げ,細かい凹みに黒っぽいシミをつけます。
  いづれも古色付けの手段としては常套。

  恒例,貴重なデータをくれた楽器さんの未来へ贈るささやかなるプレゼント。
  今回は,こんなところでどうでしょう?

(つづく)


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