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改訂版・月琴の弾き方(3)

PLAY03.txt(2012)
斗酒庵流 明清楽月琴演奏法改訂版・月琴の弾き方(3)

STEP2 弾いてみよう!

  さあて,いよいよ実践編。
  楽器の準備はよろしいですか?
  弦の音はちゃんとC/Gあたりに調弦されてますか?

  ----よろしい!では,ハジメましょうか。


  んではピックを持ってみましょう。

  基本は影絵のキツネさん。人差し指の根元に,ピックのお尻を当て,キツネさんのお口に先端をくわえさせます。そして最後に,親指を少しだけ人差し指のがわにズラしてください。
  まず動画1。ピックの持ち方です。


  すみません。うちの古いデジカメをビデオモードにして撮影したんですが,音が録れないの忘れてたんで絵だけです。

  ピックの固定は人差し指の付け根と親指で,ピックの先端を中指の腹に当て,中指の動きだけでピッキングをします。
  同じトレモロ奏法でも,マンドリンやギターのそれと違って,手首はほとんど使いません。
  それを大仏さんの手のように,手のひらを上に向けて,半月の上に置いてしまってもヨシ,小指のあたりを半月の下っ縁にひっかけてもヨシ。ピックを伸ばして,左右に糸を弾く----というより,二本の糸の上ッ面を「こする」とか「ひっかく」感じで弾きます。

  動画2~4。ピッキングを色んな角度からどうぞ。この左右の動きを細かくしてゆくと所謂「トレモロ」になるわけですね。


  つぎに楽器の持ち方,構え方。

  清楽月琴は,琵琶などに似て,かなり立てて構えます。
  楽器を膝の上に乗せ,小さな子どもを後ろから抱っこするみたいに胴を抱きかかえてみてください。おそらくその位置が,楽器のいちばん安定する場所。
  それぞれの楽器で,いちばん安定する位置やバランスの重心がちょっとづつ異なるので,まったく同じにはなりませんが。
  動画5。正面から見るとこんな感じ。


  動画6~8。持ち方・構え方を色んな角度からどうぞ。
  楽器のほかに,むさくるしいものが一緒に写ってますが気になさりませんように。


  月琴のネックは,三味線やギターなどと違って「握り」ません。親指の腹を棹の背にあててるだけです。親指一本を棹の背に滑らせて,膝の上に乗せた楽器のバランスが自由自在にとれるようになったら合格ってとこですかね。


  高音部を弾く時には,手を楽器の肩に乗せて指だけ伸ばす感じですね。庵主は手が小さくて,これでは最終フレットまでとどかないので,左手を完全に離しちゃいますが,慣れてくると片手放しだろうが両手放しだろうが,楽器の位置は常に安定していて,膝から落ちることはまずありません。

  動画をもうちょっと大きい画面で見たい方は,ゆうつべにて「JIN1S」で検索してみてください。
  月琴関係の動画が多いのですぐに見つかるとは思いますが。


(つづく)

改訂版・月琴の弾き方(2)

PLAY02.txt(2012)
斗酒庵流 明清楽月琴演奏法改訂版・月琴の弾き方(2)

  さあて,無事に糸はつけられましたか?
  そしたらお次は「音合わせ」,調弦へと進みましょう。

  用意するものがいくつか。
  ひとつはピック,ひとつはチューナー,ですね。


  音合わせのためだけでしたらまあ,ギターのピックでも爪で弾いても良いのですが,「演奏する」となるとやっぱり月琴用のピックが欲しいところです。中国楽器を扱っているお店では,清楽月琴にも使えるような長細いプラスチック製のピックを販売していることがあるので,そういうのを取り寄せて使うのも良いでしょう。


  庵主のおすすめはギターの「サムピック」ですね。

  カントリーなんかで使われるピックで,親指にはめて使うため,指輪みたいなカタチになっています。
  これをお湯に漬けると,輪っかになってる部分がうにょーんとほどけてヘロヘロに柔らかくなりますから,そこをすかさず引き揚げて板の上で軽く伸すと平らになります。
  そのままでも充分に使えますが,先をいくぶん鋭角に尖らせるとさらによろしい。


  庵主はずっとペットショップで買える牛のヒヅメでピックを作り続けてますが,これはまあ特殊ぎじゅちゅ----そこまでせいとは申しません。
  ただ,弾けるようになってきたら,アクリル,プラスチック,竹,象牙,ベッコウ……どんな材料でも良いですから,ぜひ自分なりにピックを作ってみてください。自分の指に合った道具は,所詮,自分自身でしか作れないものです。



  チューナーは「クロマチック・チューナー」というものをお勧めします。
  安いギターチューナーでも用には足りますが,あったほうが確実にベンリですね。


C.糸をシゴく

  新品張りたての糸はまだカタく,そのままだと何度締めても,すぐに伸びて音が下がってしまいます。
  この後の調弦で,そういう状態だとすぐ「ムキーっ!」となっちゃいがちですので,あらかじめ「糸を慣らす」ということをしておきましょう。

  まずは糸を弾きながら糸巻きを締めたりゆるめたりして,低いほう(太いほう)の2本を「4C」,高いほう(細いほう)の2本を「4G」という音に合わせてください。「4」とか「3」というのは音の高さ,「C」は「ド」,「G」は「ソ」ですね。
  まだ本格的な調弦ではないんで,かなり高くなっちゃってもだいじょうぶです。
  太いほうも低いほうも1音くらい高くたってかまいません。

  糸はピンと張ってますね?

  そしたら下の図のように,糸の下に指を入れて持ち上げるようにシゴいてやってください。
  山口から半月のところまで,グイグイと。
  一めぐりくらいしたら,チューナーで音を測りましょう----当然音は下がってますわな。
  そしたらまた糸巻きを締めて「4C」「4G」ちょい過ぎくらいまで上げてやります。
  これを3~4回くりかえすと,だんだん音の下がる幅が小さくなってきて,シゴいても「4C」「4G」からそんなに遠くない音に落ち着いてきます。
  糸巻きに巻かれた余分な糸の巻きが固くしまってユルみにくくなるのと,糸自体があるていど伸びて,楽器に「慣れてくる」からです。



  まあ毎日弾くたびにキッチリ調弦していれば,こういうことをしてなくても,およそ一週間ほどで「4C」「4G」くらいからそんなに狂わなくなりますが,そんなに待ってられませんよね。


D.音合わせ(調弦)

  では音を合わせましょう----

  基本的に,月琴のチューニングというのは2種類しかありません。
  低音弦と高音弦の関係が5度(ド-ソ)なのと,4度(レ-ソ)の2種類です。
  清楽の演奏などでは通常,5度の関係(上合調もしくは小工調という)のほうが多く使われています。
  半音の位置が変わるため,5度だと弾けない曲も,4度のチューニング(尺合調)にすると弾けるような場合もあります。現在の中国民楽やポップスなどに合わせるときには,4度のチューニングも試してみてください。

  明笛などが加わって清楽オーケストラとなるときは,明笛の指孔を全部塞いだ音(合:ホォ)に高音弦を合わせますが,自分の声や誰かの歌に合わせるようなときは,「間が5度もしくは4度」にさえなっていれば,低音が「ド」である必要はありません。レ-ラでもミ-ドでもかまわないわけです。

  調弦の順番は,低音からでも高音からでも構いません。
  内弦からでも外弦からでも,やりやすいほうからどうぞ。

  チューナーを使って1本を「4C」か「4G」に合わせたら,つぎは2本いっしょにハジきながら,もう1本を,チューナーで合わせた弦と同じ音にそろえてゆく----2本の弦音が1つの音に聞こえるようになったら完了!もう一組の2本を調弦しましょう!

  …とまあ,書くとすればこれしきなのですが,これがまた何とも難しいんですよ。

  月琴という楽器は,太いの細いの2本づつが同じ音なので,弦が4本あっても,実質たった2本しか弦がない単純な楽器と同じなわけですが,この「一組の弦を同じ音に調整する」ってのは,じつはギターみたいに6本をそれぞれ違う音に合わせるのより,かえって厄介かもしれません。

  最初のうちはぜんぶチューナーで合わせて構いませんが,チューナーというのはしょせん機械なんで,ニンゲンの耳と同じには反応してくれません。ぜんぜんズレて2つの音に聞こえるのに,チューナーで測ると同じくらい,なんてことはしょっちゅうです。

  基本は自分の耳を信じて,2つの音を1つの音に。
  だんだんとチューナーを使う回数を減らしてゆく----耳を鍛えるのが,上達への早道です。

  ちなみに調弦するとき,糸巻きの握り方は前回も書いたとおりかならず----
軸の握り方(◎)   軸の握り方(裏ワザ)

  ----ですよ。

  音合せはかならず,片手で糸を弾き「ながら」,実際の音を耳で聞き「ながら」,糸巻きを操作し「ながら」やってください。
  初心者でときおり,糸巻きを回して「から」弦を弾き,チューナーで音を調べて「から」また糸巻きを回して……ということをしてる人がいますが,マシンペグに金属弦の近代的な楽器と違って,月琴の調弦は微妙かつ繊細(というか構造があまりにも単純・原始的)なため,調弦のとき一瞬でも糸巻きから手を離すと,次に糸をはじくまでの間に音が狂ってしまい,いつまでたっても音合せが終わらないという始末になります。
  楽器を立てた演奏姿勢だと,糸巻きを回しにくい,力が入れられないという場合は,膝や机の上に楽器をのせ,横にしてやってもかまいませんが----

  月琴の音合せは「ナガラ弾き」が基本。
   「カラカラ弾き」は無間地獄への第一歩と知るがいい!
  ほーほほほほほ!(悪魔的に)

  ----ということだけはココロエテいてくだしゃんせ。

音一覧
  C/Gにチューニングした時の音の一覧は右図(クリックで拡大)。
  実質13コしか音がありません。
  間5度のチューニングの場合は低音弦の第4フレット,4度の場合は第3フレットの音が,高音弦の音と同じになります。
  ギターなんかで慣れちゃってる人は,低音弦の開放だけチューナーで合わせたら,あとはギターと同じにフレットを押えて,高音弦の音を合わせてみてください。作りが単純な楽器なので,そのほうがより楽器に合った音が出ます。

  なお楽器をあまりやったことのない人!チューナーを使って音を合わせるとき神経質に「ピッタリ」にする必要はありませんよ。絹弦は伸びやすいんで,はじめ20%~30%くらい高めにしておいたほうが,弾いているうちに伸びてちょうどよくなります。

  ちなみに,楽器に損傷がなければ,月琴という楽器は,演奏後に糸をゆるめるような必要は,あまりありません。

  何ヶ月も弾く予定がない,とか,長距離を持ち運ぶような場合は別ですが,部屋の中で弾いては壁に戻すような程度の使用でしたら,張りっぱなしで構いません。
  糸を替えるのも,ライブで曲を披露する,ある日とつぜんスティーブ・レイボーンのバックで月琴を弾くことになった,とかいうような場合をのぞき,切れちゃうまでそのままで結構。
  山口(トップナット)がわで糸が切れちゃった場合はどうしようもありませんが,半月(テールピース)がわで糸が切れた場合には,糸巻きに余分がありますから,一度糸をはずして張りなおせば3回ぐらいはイケます。(意外と経済的)
  ただし何度も切れた弦は,糸が細くなってゆくので,もう一本の弦とピッチが合わなくなってきます。そうなると調弦に多少苦労するかもしれませんので,替えるときにはケチらず2本いっしょに替えちゃったほうがイイかもしれません。


(つづく)

改訂版・月琴の弾き方(1)

PLAY01.txt(2012)
斗酒庵流 明清楽月琴演奏法改訂版・月琴の弾き方(1)

  前回,この記事を書いたのが2007年のことですからねえ。
  そのとき生まれた子がいたら,もう5歳くらい?
  月日が流れるのは早いものですにゃ…げほげほ。

  当時はこんなマイナー楽器の扱い方,どうせ誰も読まない,使わないだろうと,かなりテキトーに書きましたので。読みにくい部分,意味の分かりづらいところなど多々あったかと思われます。深川で続けている月琴のWSももう2年だか3年目に突入,修理した楽器を知り合いにおしつけ,自己増殖的行為を続けているうち,気がつけば,周囲に月琴の弾き手が20人くらいいたりするということになりました。

  21・22号の修理も終わり,数年来懸案だった明笛の調査も一段落。
  ここらで一つ二つ,旧悪をはらっておきましょう。

  なお,「月琴の弾き方」つーても,「清楽月琴」のハナシですんで。
  現在主流の中国月琴の方々には役立ちません…あしからず。



STEP1 糸のかけかた

  月琴は「弦楽器」でありますから,糸が張られてなければただの箱なわけで。
  すべからく弦楽器の扱いは,糸を張るとこから。
  まずはどんな糸を,どんなふうに楽器にかけてやればいいのか----そのへんとこからはじめましょう!

1. 糸を買おう!

修理月琴に残っていた古い糸
  月琴には「三味線の糸」を使います。

  往時この楽器が流行していたころには,専用の糸というものもあって,そこらの楽器店で買えたのでしょうがね。今現在は伝統的な邦楽器の糸を製造販売しているところ(たとえば京都の鳥羽屋さんなど)でしか扱っておりません。
  もっとも,月琴専用の糸と三味線の糸との違いは,縒りかた番手(太さ)の差が少々と,表面に塗られている糊が黄色でなく白な事くらいですから,基本的には「三味線の糸」でまったく構いません。
  庵主もずっとそれで通しておりますが,さして問題はございませんよ。

糸
  「三味線の糸」と一口に申しましても,お座敷三味専用の細いものから,津軽三味線に使われる荷物紐みたいな太いものまで,材質も伝統的な絹から,ナイロン,テトロンなど化学繊維のものまでさまざまですね。

  楽器が健全で,特に糸倉に損傷がないのでしたら,ナイロンやテトロンの弦を試してみるのも一興ですが,基本的にはむかしの専用弦に近い「絹の糸(絹弦)」をお勧めします。

  糸の番手(太さ)は「13-2」と「12-3」。

  それを2本づつ使います。
  最初の13とか12,と言うのは糸の太さを表します。三味線糸では番手が大きくなるほど太い糸です。つぎの「2」とか「3」というのは「二の糸」「三の糸」という意味。「2」のほうが太い弦,「3」のほうが細い弦です。
  これは長唄などで使われる,比較的細い糸の組み合わせなのですが,もし音が気に食わないようでしたら,1~2号太いの細いのを使っても構いません(もっとも絹弦の三の糸はたいてい,12-3が最も細い番手になってます)。

  ご近所に三味線屋さんや楽器店の大きなところがあれば,直接購入することも可能ですが,今はネットの通販でかんたんに手に入りますし,おそらくそちらのほうが,安いものから高いものまで,いろいろ選んで買えると思います。
  庵主がふだん使っている「ふじ糸」の絹弦は,13-2が10本1セットで千五~六百円,12-3が千円くらいです。

  太いほうの弦は滅多なことでは切れませんが,細いほうは(特に最初のころは)もーしょっちゅうプッツンしますので,ちょっと多めに買っておくことをお勧めします。


2. 糸を張ろう!
国図近デジ『大清楽譜』より
  さて,では糸を楽器に張りましょう!

  月琴の糸は四本ですが,左右に2本づつ同じ太さの糸が張られます。音楽用語で言うと「4弦2コースの複弦楽器」ということになりますな。弦は少ないですが,要はリュートやマンドリンなどと同じ仲間の楽器なわけです。

  楽器を正面から見て,左右外側の弦を「外弦」,内側2本を「内弦」としましょう。
  どこからはじめても構わないとは思いますが,庵主はいつも高音外弦(細いほう,楽器を正面から見ていちばん右側)から張ってゆきます。これは庵主がさいしょのころ,安物のギター・チューナー(低音開放弦の「C(=ド)」が測れない)を使って調弦していたことからくる癖ですので,みなさんはやりやすいところからやってください。

  基本的には庵主と逆に,左端の低音の外絃から張っていったほうが,次の弦を張るとき,前の弦がジャマになりにくいと思いますよ。

  A.半月への取付け

  まずは丸くまとめられた三味線のお糸をほどきます。

  糸の片方の端に,赤とか銀色で色がつけてありますね。どっちをどっちに使ってもかまいませんが,庵主は色を塗ってあるほうを軸(糸巻き)がわに巻き取っています。

  まずはこれを「半月」(胴体上にへっついているテールピース)に結びつけましょう。手順は以下----



 1) 色のついていないほうの端(A)に,単(ひとえ)結びの輪を作りましょう。

 2) 半月の糸穴に,色のついてるほうの先端(B)を通します。(上から)



 3) さっき作った輪(A)の中に,色つきのほう(B)を通します。(下から)



 4) 通した糸の両方をひっぱりながら,輪を縮めてゆきます。

  この時,ひとえ結びの輪の「結び目」のところを,糸穴の縁にひっかけて,結び目の部分が穴の中にちょっと沈み込むよう,ひっぱる角度とか力を加減してください。

 5) 輪がほどよく縮んだところで,両端を軽くひっぱって完成。

  言っちゃえば,ひとえ結びの輪をただ半月にひっかけてるだけなので,最初のころはなんとなく危なげに感じますが,基本的には三味線や琵琶の糸の結わえかたもこれと同じですし,このあと弦をしぼってゆくと自然に締まって固まって,ハズれることはまずありません----ご安心を。


  B.糸巻きへの取付け
国図近デジ『大清楽譜』より
  エレキギターとかですと,低音の弦は一番下のペグに,高音弦は一番上のペグに巻き取りますが,月琴は向かって左端,低音の外絃が一番上の糸巻き,以下,左から右へ順繰り,一番右の高音外絃は一番下の糸巻きで巻き取ります。多少ピタゴラスの定理とかに逆らってる気もしますが,ギターほど弦の長さのない楽器なんで,音程への影響はそんなに考えなくてもいいんですよ。

  まあどうしても気になる方は,べつだんこれと逆になさっても結構(ww)。

  糸巻きへの結いつけ方は,下図を参照(クリックで拡大),糸巻きの棒の右側が,楽器の正面ですね。

  このほうが糸がユルみにくいのですが,楽器によっては軸の糸孔が小さすぎて,この「二度通し」ができないかもしれません。その場合は,もっと簡単に,孔に糸を通して巻き込むだけでもかまいません。

糸巻きへの結いつけ方

  糸を糸巻きに通したら,あとは糸巻きを回して,余分な糸を巻きとります。
  言っちゃえば単純なことですが,ここでご注意。
  糸巻きに糸がキッチリ巻きとられてないのは,いつまでたっても音が合わない原因の一つになりますから,ちょっと丁寧に。

  三味線や沖縄三線の調弦ではこのとき,軸先を糸倉から浮かし,糸巻きを多少フリーな状態にして大体の糸を巻き取り,最後に「ギュッ」と押し込んで止める,ということをします。しかし月琴は琵琶と同じで,糸巻きは浮かさず 「ドライバーでネジ回し」 の要領で巻きとります。

軸の握り方(×)
  糸巻きを回すときの 「いちばんダメな握り方」 は,右みたいにただつかんで回すやり方。
  ギターのペグなどと違って,月琴の糸巻きはただ穴に差し込んであるだけのモノなので,こんな風な手つきでグルグル回していると,先端が糸倉から浮き上がって,巻きがユルくなっちゃいます。

  上に書いたよう 「ドライバーでネジ回し」 の感じですよ。
  かならず糸巻きのお尻に力をかけ,糸倉に糸巻きを押し込むような感じで回してください。

  もっとも,あんまり力まかせにギリギリやると,糸倉が割れちゃったりしますからね----チカラ加減はほどほどに。

軸の握り方(◎)
  右側の糸巻きを回すときは写真のように,かならず親指を反対側の糸倉に,小指を糸巻きのお尻にひっかけて,握りこむようにしながらやってください。

  反対側の,左の糸巻きを回すときは,今度は親指じゃなく,小指を糸倉にかけるのが本当なんですが,庵主は手がきわめて小さく握力もそんなにないため,左側の糸巻きを回すときは下の写真みたいに,軸先が浮かないよう,右側の糸巻きを膝の上に当ててやることが多いですね。

  同じように握力に自信がなかったりする方は,左側の糸巻きを回す時も,肩とか胸に当てながら巻いてみてください。

軸の握り方(裏ワザ)
  なお,三味線の絹弦の表面には,糸を強化するためデンプン糊の類が塗布されています。
  それでなんだか細いほうの弦など,見た感じテグスのようにツルリ,カッチリとしているわけなんですが,張るときに糸がねじれたり丸まったりしてると,そこから折れて,糸が切れやすくなってしまいますので,余分な糸をある程度のところまで巻き切るまでは,糸をうまくあやしながら,糸の途中で折れ目とか結び目ができちゃわないように注意してください。

  巻き取りは均等にウツクシク----な必要はたいしてありませんが,あんまり片寄ってたりすると,音合せがしにくくなっちゃったりするので,まあまあ心得ていてください。
  あくまで「理想」といたしましては,糸倉を横から見た時にはさながら「ビルマの竪琴」のように,正面から見た時にはあたかも「翼をたたんだ鳳凰」のように見えるのが美しいかと……(Wow...マニアック!)。

  さて,月琴を弾く準備,実はここからがイバラの道。
  カクゴしてついてきてください~。



(つづく)

明笛について(6)

MIN_06.txt
斗酒庵 明笛を調べる の巻明笛・清笛-清楽の基本音階についての研究-(6)

STEP3(つづき) 明笛20~25号

  20本を越しまして。楽器マニアでもない庵主にとりましては,研究のためとはいえ,大して好きでもなく,吹きこなせもしない楽器を持ち続けることが,かなりプレッシャーであります。
  さっさと調査を片付けて処分しちまいたい気持ちでいっぱいなものの,なんせ修理から音測まで,ほとんど一人で作業してるものでなかなか終わりません。がっでむ笛吹きども。
  夏に柳静さんに預けて調査してもらったぶん,16号あたりまでは,データと画像を録った後,かなりさばけたんですが。あっちこっちに配っても配っても,気がつけばナゼカまた増えておりまして(「なら買うな」という意見もありますが,こういう調査のデータとしては,より数のあったほうが良いのでつい買っちゃっています)。

  一人で一度に何本も吹けるわけでもないし,庵主は音の出るのが2~3本もあれば結構。今後も実験に協力してくれる方や,SOS団で演奏していただける方がおりますれば,余ってる分はさしあげますからね。


明笛20号

 口 ●●●●●● 合/六 5C#+40-5D-40
 口 ●●●●●○ 四/五 5E-20
 口 ●●●●○○  5F#-40
 口 ●●●○●○  5G+20
 口 ●●○○●○  5A+25
 口 ●○○○●○  5B+25
 口 ○●●○●○  5D-20
 (口は歌口,●閉鎖,○開放)

  明笛20号は細身できれいな笛。工房到着当初は,歌口と響孔の一部がネズミに齧られており,修理はしましたが調整が難しく,なかなか安定した音が吹き出せるようになりませんでした。一月ばかり試行錯誤して,何とかまともに音が出せるようになりましたが,全閉鎖の音が安定しない……というより,どうやらもともとこういう音階の笛のようですね。
  歌口の下に青いシールで「一号春雨」とあります。管頭のシールはなくなっていますが,このシールの字体やデザイン,また管内の塗り,歌口や指孔の加工などの特徴から,おそらく前回紹介した16号と同じ「コクコー」の笛と思われます。


  歌口は大きめで,篠笛サイズ。管体が細いわりに指孔がやや大きいため,庵主の小さい指だと少し余り,押えにくいですね。歌口を修理したことを含まなくても,もともと吹きにくい笛だったのでしょう。ほとんど使用された痕跡がありませんでした。清楽の運指でも,ほかの笛の音階とは少しズレがあるように思います。全閉鎖の音を起音として,ドレミに近い音階を吹き出そうと思うと----

 口 ●●●●●●  ド
 口 ●●●●●○  レ
 口 ●●●●○○  ミ
 口 ●●●◎○○  ファ
 口 ●●○○●○  ソ
 口 ●○○○●○  ラ
 口 ◎○○○●○  シ
 口 ○●●●●●  ド
 (◎ は半開け)

  ---と,半開放を使う必要があります。難しいですね。「清楽の音階」の資料とはなりませんが,明笛という楽器の一例としてあげておきます。


明笛21号


 口 ●●●●●● 合/六 5C#-25
 口 ●●●●●○ 四/五 5Eb-5
 口 ●●●●○○  5E+25
 口 ●●●○●○  5F#-12
 口 ●●○○●○  5G#-30
 口 ●○○○●○  5Bb-23
 口 ○●●○●○  5B-30

  全閉鎖Cの笛のうち,現在庵主がメインで使っている1本。歌口周縁など数箇所に補修塗りの痕,そのほか管体の色が濃いのも,管体表面にニスか生漆をかけたものと思われます。
  かなり吹きやすい笛で,ニガテな庵主でもちゃんとした音が出せ(「かなり」でも,たかだかドレミですが…),音階はかなり西洋音階に近い。

  ちなみに下左画像のように,この手の笛の管頭飾りは多く分解できるようになっています(左21号,右は明笛1号の管頭飾り)。ここから管頭の詰め物を動かして調律するための工作と思われますが,管頭の詰め物(新聞や古紙を丸めたもの 参照)は大抵,歌口のところで一端が塗り固められていますので,近代的な笛と違い,加工後の調整はほとんどできません。




明笛22号

 口 ●●●●●● 合/六 5C-40
 口 ●●●●●○ 四/五 5D-45
 口 ●●●●○○  5Eb+35
 口 ●●●○●○  5F
 口 ●●○○●○  5G
 口 ●○○○●○  5A
 口 ○●●○●○  5B+20

  ナゾの一本。姿形は明らかに篠笛ですが,響孔,露切り孔,飾り紐を通す孔もあり,仕様としては間違いなく明笛です。
  管体は皮付き竹,管頭,管尻ともに飾りはなく,管頭の処理は篠笛と同じ。
  指孔と露切り孔の間に「笛竹」という焼印が見えますが,いつごろの,どこのメーカーなのかは不明です。
  清楽の運指で吹くと,全閉鎖「合」がBからCの間あたり,中音域「上」を中心にやや高めで,清楽の音階よりは民謡笛や篠笛などの音階のほうに近いかもしれません。
  管内にもと明るい色の朱漆が塗られていましたが,元の塗りがかなり雑だったのと,歌口周縁を中心にかなり劣化していたことから塗り直しました。計測値は補修後のもの。
  皮付き竹のため今ひとつ時代が不明。比較的近年に篠笛の製作者が作ってみたものかもしれません。
  計測すると5Cと高いほうですが,響孔の効果は薄く,倍音があまり出ないので筒音は低めに聞こえます。歌口の作りなどが篠笛のほうに近いので,そちらの奏者は吹きやすいと言っていました。庵主でもけっこう音が出ますので,比較的吹きやすい一本だと思います。




明笛24号


 口 ●●●●●● 合/六 5C#-5
 口 ●●●●●○ 四/五 5Eb+6
 口 ●●●●○○  5F-35
 口 ●●●○●○  5F#+15
 口 ●●○○●○  5G#-30
 口 ●○○○●○  5Bb+15
 口 ○●●○●○  6C-23

  23号は中国笛子の古いものでした(ハズレ…)。24号は1,9,16,21号などとほぼ同型の笛です。工房到着当初は表面も白っぽく煤け,管内は顔料系の塗装が劣化して吹奏可能な状態ではなかったため塗り直してから測定しました。管側部に,保存中についたと思われる染みがあり,また下から2-3番目の指孔の間にヒビがありましたが,こちらはすでにウルシで充填補修済みでした。古い時代の修理でしょう。
  21号とほぼ同じサイズと作りで,比較的音の出しやすい一本でした。




明笛25号


 口 ●●●●●● 合/六 4B+15
 口 ●●●●●○ 四/五 5C#
 口 ●●●●○○  5Eb-25
 口 ●●●○●○  5E+30
 口 ●●○○●○  5F#+25
 口 ●○○○●○  5G#+20
 口 ○●●○●○  5Bb+30

  これも多少ナゾのある笛です。全長55センチと13~15号あたりとほぼ同じ長さで,歌口から管頭が長いことからみても,古い型の明笛であることは間違いありません。ネオクの写真で見たときには,素人作りっぽく感じられたのですが,実際に手にとって見てみると,歌口・指孔の加工,内部の塗り等は明らかにプロの仕事になっています。
  このサイズの明笛で,管体が皮付き竹なのははじめて。管頭飾りと管体の接合部のみ,皮がぐるりと削がれていたので,当初,ほかの古い明笛の飾りを使って管体のみ,すげ替えたかとも疑いましたが,飾りと管体の加工,そして全体の古色に統一性があり,はじめからこの姿であったものと推測されます。

  一番上から5番目の指孔にかけてヒビ割れがあり,2番目と3番目の指孔の間でもっとも広く,0.5ミリ以上も開いていましたが,幸い管内まで貫通はしていませんでした。地の粉をエポキシで練り,充填,パイプバンドで締めて固定し,乾燥後整形してあります。
  工房到着当初,歌口や指孔からのぞくと中がかなり汚れていたのですが,このヒビ割れがあったため内部の清掃ができず,管内の状態ははっきりと分かりませんでした。ヒビ割れの充填後,水を通して内部を洗ったところ,管内は朱漆できわめて丁寧に塗られ,磨かれており,歌口周縁に少し劣化がみられる程度で,塗膜自体はかなりしっかりとしていました。
  ほかに深刻な劣化・損傷もなくヒビ割れも深くはなかったため,補修はしましたが,かなりオリジナルに近いコンディションだと思えます。
  22号も同じなのですが,皮付き竹というのは保存が良いと古色がつきにくいため,古物なのか新物なのか今ひとつ分かりません。しかし管内に付着していたヨゴレ,上下木部の状態,また指孔や歌口を開けるのに,ドリル等ではなく錐と焼き棒が使われているようなので,少なくとも最近のものではないと思われます。





  とりあえず今期までの報告はここまで。
  データが貯まったら,また随時発表いたします。

  今のところは,古い型の明笛にしぼって言うなら,通常の吐気による運指上の最低音,全閉鎖の「合」は「B」,最高音「凡」は「Bb」のことが多く,この表よりは半音ほど高いような気がしますね。

合/六四/五
A#/BbD#/Eb

(つづく)

明笛について(5)

MIN_05.txt
斗酒庵 明笛を調べる の巻明笛・清笛-清楽の基本音階についての研究-(5)

STEP3(つづき) 明笛16~19号

明笛16号


 口 ●●●●●● 合/六 5C-25
 口 ●●●●●○ 四/五 5D
 口 ●●●●○○  5Eb+31
 口 ●●●○●○  5F+11
 口 ●●○○●○  5G+15
 口 ●○○○●○  5A-10
 口 ○●●○●○  5B-24
 (口は歌口,●閉鎖,○開放)

  管頭下に貼られたシールに「KOKKO/コクコー明笛」歌口下に「四号松〓」(おそらく「松島」であろう)と書かれたシールが残っています。全閉鎖C,ほぼ西洋音階に近い音が出る。
  歌口や指孔は大きめで,管内は朱漆ではなくラッカーの類の塗料,管全体もニスで塗られているようです。保存状態は良好で音も比較的出しやすいのですが,12号と同じく響孔の効果が強くいわゆる「ブーブー笛」で,吹いているとかなり耳障りな音であります。



  このあたりから,庵主,ようやくドレミが出せるようになり,直接チェックをはじめております。(w)

明笛17号


 口 ●●●●●● 合/六 4B-20
 口 ●●●●●○ 四/五 5C#-25
 口 ●●●●○○  5D+20
 口 ●●●○●○  5E
 口 ●●○○●○  5F#-15
 口 ●○○○●○  5G#
 口 ○●●○●○  5Bb-15

  管頭の飾りはブナ材による補作なのでもとの全寸は不明ですが,管体の寸法から考えて古い型の明笛と考えられます。管尻の接合部には,もとベッコウか牛角の薄いリングが嵌められていたものだろう。今回はベッコウの端材で補作。比較的吹きやすく,扱いやすい笛だった。




明笛18号


 口 ●●●●●● 合/六 4B-30
 口 ●●●●●○ 四/五 5C#+25
 口 ●●●●○○  5D+20
 口 ●●●○●○  5E-30b-10
 口 ●●○○●○  5F#
 口 ●○○○●○  5G#
 口 ○●●○●○  5Bb

  管頭と管尻の飾りは唐木,古雅で姿は良い。しかし管体がきわめて細く,歌口,指孔も狭く,かなり扱いにくい笛でした。音は出ないでもありませんが,あまり安定しません。とくに高音部は「何とか…」という感じで,かすれたり続かなかったりしたので,この測定結果は多少信用がおけませんが,これもまた古い型に属する一本だろうことは間違いないでしょう。




明笛19号


 口 ●●●●●● 合/六 5C+16
 口 ●●●●●○ 四/五 5D+15
 口 ●●●●○○  5Eb-23
 口 ●●●○●○  5F-10
 口 ●●○○●○  5Gb-15
 口 ●○○○●○  5A
 口 ○●●○●○  5Bb+20

  夏休みの帰省中,地元の古道具屋さんにて発見・購入。「明笛が追いかけてきた!」---と,多少畏怖まで感じるように。

  全寸は古い型の明笛に近いが,管頭・管尻の飾りがともに木製の挽き物,その彩色も含めていかにも玩具くさい。
  管体はやや太く,歌口はやや大きいが指孔は小さめ。ヨゴレも少なく保存状態も良かったが,おそらく大正時代以降の,教育玩具的な楽器を製作していたメーカーのものと思われます。
  音はよく出て,吹きやすい。響孔の効果はややおとなしめでふつうの竹笛の音に近い。西洋音階により近く,半開きの「口 ●●●●◎○」でほぼ5Eに近い音が出る。また清楽の運指では通常の吐気で,最高音が5Bbまでしか出せないが,「口 ○●●●●●」で,6Cまで出すことが出来ました。



(つづく)

明笛について(4)

MIN_04.txt
斗酒庵 明笛を調べる の巻明笛・清笛-清楽の基本音階についての研究-(4)

STEP3(つづき) 明笛12~15号

  ここからしばらく,管体が黒く染められた笛が続きます。べつだん狙ったわけではなく,たまたまなんですが…

明笛12号


 口 ●●●●●● 合/六 5C+20
 口 ●●●●●○ 四/五 5D#-40
 口 ●●●●○○  5E
 口 ●●●○●○  5F#
 口 ●●○○●○  5G+30
 口 ●○○○●○  5A+40
 口 ○●●○●○  5C-15
 (口は歌口,●閉鎖,○開放)

  黒管で長いものは古い型のものが多いのですが,12号はその中では比較的新しく作られた笛らしく,飾りがやや凝っていて細身,歌口や指穴がほかの明笛よりやや大きく,篠笛に近い作りになっています。

  笛としてはいわゆる「ブーブー笛」で,響孔の倍音がキツすぎて,耳障りな音が出ます。管体が細めなこともあり,音はやや安定せず,同じ運指で音が出たり,何としても出なかったりします。最高音が最低音と同じ高さになってますが,これはチューナーの性能によるもので,同じ運指で「5B+40」という数値が測定されていることからも,現実には6Cに近い音になっていると考えられます。
  管頭飾りの輪がネズミに齧られボロボロであったため,手持ちの角材で再製作。音はすさまじいが,飾りはキレイな笛でした。


明笛13号


 口 ●●●●●● 合/六 5C-25
 口 ●●●●●○ 四/五 5C#-10
 口 ●●●●○○  5D+15
 口 ●●●○●○  5E
 口 ●●○○●○  5F#-30
 口 ●○○○●○  5G#-40
 口 ○●●○●○  5A-10

  長55センチとここまでの中では長い,古いタイプの明笛。
  管頭のラッパ飾りがなくなっていたので,ブナ材のパイプに胡粉塗りで代替品を作成。管体数箇所にヒビが入っていたが,すでに漆等で補修済み。
  さほどの苦労なく音が出る吹きやすい笛でした。


  12号,13号ともに管内は真っ赤に塗られていたのですが,それはオリジナルの塗りではなく,古物商による補修(たんなる顔料…おそらくはベンガラを柿渋で溶いたものを流し込んだもの)だったようで,笛の内塗りに適しているものではなく,息を吹き込んで管内を拭うと,露切りが真っ赤になるくらい,すぐに落ちてしまう弱いものでしたので,一度それを,丸棒の先に Shinex をくくりつけた特製ヤスリでこそぎ落とし,カシューにて塗りなおしましてあります。




明笛14号


 口 ●●●●●● 合/六 4B
 口 ●●●●●○ 四/五 5C+25
 口 ●●●●○○  5D-25
 口 ●●●○●○  5Eb-10
 口 ●●○○●○  5F
 口 ●○○○●○  5G
 口 ○●●○●○  5A+15

  管体は黒いがこれは塗りで,歌口や指孔周縁から見える下地より,もとは人工斑竹(竹に薄めた硫酸をふりかけて斑模様をつけたもの)の笛であったと思われます。上塗りされた理由は定かではありませんが,管内にも塗りなおされた痕があり,そちらのほうが先のようなので,指孔もしくは歌口の塗りがはみだしたものを隠すためだったのではないかと考えます。
  全体の長さ,また歌口から管頭の飾りまでの間が長いことなどから,比較的古いタイプの明笛でしょう。管体が少し曲がってますが,演奏上さほどの支障はありませんでした。細めでバランスはよく,音は比較的安定しており,出やすい。
  管頭管尻の飾りは唐木(と思われる)木材で作られた,ごくシンプルなものである。




明笛15号


 口 ●●●●●● 合/六 4B+40
 口 ●●●●●○ 四/五 5C
 口 ●●●●○○  5D-25
 口 ●●●○●○  5Eb+40
 口 ●●○○●○  5F+30
 口 ●○○○●○  5G+20
 口 ○●●○●○  5A#-25

  13号とほぼ同じ寸法,形態,同様の作りでした(管尻の飾りに牛角製の輪が噛ませてあるところだけが異なる)。
  同じように管頭の飾りがなくなっていたので,再製作。
  作りはそっくりですが,歌口から指孔までの距離が2センチばかり長いことから,キーは異なり,14号の方に近い。






  ここまでの結果から,まずこの楽器には全閉鎖の音が「B」のものと「C」のもの,二種類がある,ということが分かってきました。

  中国笛子の古い物と思われる7号の音階に近いものと,西洋音階に近いものなわけですね。
  現在の中国笛子には,B管とかF管というように,西洋の管楽器と同じく,キーの異なるものが何種類も用意されています。篠笛や尺八の場合も,歌手または曲の音階の高さにそれぞれ合わせ「何本調子」という具合に,長さの違う,つまりは音域の違う笛がありますが,現在残っている明笛の広告・価格表などから考えると,明治のころの明笛という楽器にはどうやらそうしたキーの差はなく,高級品・低級品,松竹梅のような,材質・加工の差から来る値段の違いしかなかったようです。
  大正も末年に作られた6号の修理後の全閉鎖音がBbだということを考えると,全閉鎖B/Cというこの音階の違いは,年代的なものではなく,その笛の用途もしくは製造元の違いによるものではないかと考えられます。
  明笛は月琴に比べると,楽器としての命脈が長かったので,いわゆる「楽器屋さん」のうち「琴・三味線店」のような,伝統的な楽器屋さんでは,清楽が廃れた後でもそうした邦楽器に合わせた笛が売られ続けていました。現在も神楽囃子や祭りの笛として,この響孔のある竹笛を使っている地域があり,確認できる限りでは1メーカーが,これに類する笛を作り続けています(ただし邦楽曲に合わせるため複数の調子がある)。

  そうした邦楽器店で作られていた明笛の多くが,庵主の「古い型」と言っている,やや長くて「全閉鎖がBbからB」の笛なのだと思われます。そして月琴とともにヴァイオリンなどの西洋楽器も扱っていたような楽器店,たとえば十字屋や唐木屋,山田楽器店のようなところでは,そうした西洋楽器に合わせる風潮または必要から「全閉鎖C」の笛が売られたろうことは想像にかたくありませんし。また当時「教育玩具」などととして楽器を製造していたような新興の楽器店が,明笛の類の笛を,音楽教育で用いられる「手軽な笛」として扱っていたこともあったようです。これらがCを全閉鎖として,西洋の音階に近く作られている笛なのではないでしょうか。

  前回も触れたように,古物として入手できる明笛から,その製造元や製造時期が判明することはほとんどありません。
  したがって上記の説は,あくまで推測にしか過ぎません。これらの笛はネオクに出ているときも「明笛」として出品されていることは稀で,古い笛,不明な笛もしくは篠笛の一変形とされていることのほうが多く,その笛が,いつごろから,どのように使われていたという由緒もまず判ることはありません。
  庵主はその形態上の特徴と響孔の存在から,「これは明笛の類」と判断して入札しているわけですが,届いてみるとたまに,ただの中国笛子や篠笛だったり,南洋あたりのお土産笛を間違って落札してしまったりすることもありました。従って,ここで紹介されている笛の中には,清楽における「明笛」という楽器の範疇から,多少はずれる可能性のあるものも混じっているかもしれません(まあそもそも楽器を比較してその「範囲」を規定したような文献も見当たらないのですがw)

  「全閉鎖BbもしくはB」というのは,第一回で触れた大塚寅蔵の『明清楽独まなび』にある音階表から推定される明治のころの清楽の音階に近いものとなります。ただ「全閉鎖BbもしくはB」であったとしても,邦楽の音階に合わせた場合,音階全体は清楽で使われたものと微妙にズレてしまっている可能性もあるので,音や形態が「古い型」であったとしても,その音階までが完全に「清楽」で使われていた音階のままであるとは限りません。
  本来は由緒由来正しく「清楽で用いられた」と判明しているような,各音大や郷土資料館等で保存されている楽器資料から比較検証するのが,確実かつ正確であることは間違いありません。そういう方面での研究者の,きちんとした調査研究の待たれるところでもありますね。
(つづく)

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