明笛について(6)
![]() STEP3(つづき) 明笛20~25号 20本を越しまして。楽器マニアでもない庵主にとりましては,研究のためとはいえ,大して好きでもなく,吹きこなせもしない楽器を持ち続けることが,かなりプレッシャーであります。 さっさと調査を片付けて処分しちまいたい気持ちでいっぱいなものの,なんせ修理から音測まで,ほとんど一人で作業してるものでなかなか終わりません。がっでむ笛吹きども。 夏に柳静さんに預けて調査してもらったぶん,16号あたりまでは,データと画像を録った後,かなりさばけたんですが。あっちこっちに配っても配っても,気がつけばナゼカまた増えておりまして(「なら買うな」という意見もありますが,こういう調査のデータとしては,より数のあったほうが良いのでつい買っちゃっています)。 一人で一度に何本も吹けるわけでもないし,庵主は音の出るのが2~3本もあれば結構。今後も実験に協力してくれる方や,SOS団で演奏していただける方がおりますれば,余ってる分はさしあげますからね。 明笛20号![]()
明笛20号は細身できれいな笛。工房到着当初は,歌口と響孔の一部がネズミに齧られており,修理はしましたが調整が難しく,なかなか安定した音が吹き出せるようになりませんでした。一月ばかり試行錯誤して,何とかまともに音が出せるようになりましたが,全閉鎖の音が安定しない……というより,どうやらもともとこういう音階の笛のようですね。 歌口の下に青いシールで「一号春雨」とあります。管頭のシールはなくなっていますが,このシールの字体やデザイン,また管内の塗り,歌口や指孔の加工などの特徴から,おそらく前回紹介した16号と同じ「コクコー」の笛と思われます。 ![]() ![]() 歌口は大きめで,篠笛サイズ。管体が細いわりに指孔がやや大きいため,庵主の小さい指だと少し余り,押えにくいですね。歌口を修理したことを含まなくても,もともと吹きにくい笛だったのでしょう。ほとんど使用された痕跡がありませんでした。清楽の運指でも,ほかの笛の音階とは少しズレがあるように思います。全閉鎖の音を起音として,ドレミに近い音階を吹き出そうと思うと----
---と,半開放を使う必要があります。難しいですね。「清楽の音階」の資料とはなりませんが,明笛という楽器の一例としてあげておきます。 明笛21号![]()
全閉鎖Cの笛のうち,現在庵主がメインで使っている1本。歌口周縁など数箇所に補修塗りの痕,そのほか管体の色が濃いのも,管体表面にニスか生漆をかけたものと思われます。 かなり吹きやすい笛で,ニガテな庵主でもちゃんとした音が出せ(「かなり」でも,たかだかドレミですが…),音階はかなり西洋音階に近い。
ちなみに下左画像のように,この手の笛の管頭飾りは多く分解できるようになっています(左21号,右は明笛1号の管頭飾り)。ここから管頭の詰め物を動かして調律するための工作と思われますが,管頭の詰め物(新聞や古紙を丸めたもの 参照)は大抵,歌口のところで一端が塗り固められていますので,近代的な笛と違い,加工後の調整はほとんどできません。
![]() ![]() 明笛22号![]()
ナゾの一本。姿形は明らかに篠笛ですが,響孔,露切り孔,飾り紐を通す孔もあり,仕様としては間違いなく明笛です。 管体は皮付き竹,管頭,管尻ともに飾りはなく,管頭の処理は篠笛と同じ。 指孔と露切り孔の間に「笛竹」という焼印が見えますが,いつごろの,どこのメーカーなのかは不明です。 清楽の運指で吹くと,全閉鎖「合」がBからCの間あたり,中音域「上」を中心にやや高めで,清楽の音階よりは民謡笛や篠笛などの音階のほうに近いかもしれません。 管内にもと明るい色の朱漆が塗られていましたが,元の塗りがかなり雑だったのと,歌口周縁を中心にかなり劣化していたことから塗り直しました。計測値は補修後のもの。 皮付き竹のため今ひとつ時代が不明。比較的近年に篠笛の製作者が作ってみたものかもしれません。 計測すると5Cと高いほうですが,響孔の効果は薄く,倍音があまり出ないので筒音は低めに聞こえます。歌口の作りなどが篠笛のほうに近いので,そちらの奏者は吹きやすいと言っていました。庵主でもけっこう音が出ますので,比較的吹きやすい一本だと思います。 ![]() ![]() 明笛24号![]()
23号は中国笛子の古いものでした(ハズレ…)。24号は1,9,16,21号などとほぼ同型の笛です。工房到着当初は表面も白っぽく煤け,管内は顔料系の塗装が劣化して吹奏可能な状態ではなかったため塗り直してから測定しました。管側部に,保存中についたと思われる染みがあり,また下から2-3番目の指孔の間にヒビがありましたが,こちらはすでにウルシで充填補修済みでした。古い時代の修理でしょう。 21号とほぼ同じサイズと作りで,比較的音の出しやすい一本でした。 ![]() ![]() 明笛25号![]()
これも多少ナゾのある笛です。全長55センチと13~15号あたりとほぼ同じ長さで,歌口から管頭が長いことからみても,古い型の明笛であることは間違いありません。ネオクの写真で見たときには,素人作りっぽく感じられたのですが,実際に手にとって見てみると,歌口・指孔の加工,内部の塗り等は明らかにプロの仕事になっています。 このサイズの明笛で,管体が皮付き竹なのははじめて。管頭飾りと管体の接合部のみ,皮がぐるりと削がれていたので,当初,ほかの古い明笛の飾りを使って管体のみ,すげ替えたかとも疑いましたが,飾りと管体の加工,そして全体の古色に統一性があり,はじめからこの姿であったものと推測されます。 一番上から5番目の指孔にかけてヒビ割れがあり,2番目と3番目の指孔の間でもっとも広く,0.5ミリ以上も開いていましたが,幸い管内まで貫通はしていませんでした。地の粉をエポキシで練り,充填,パイプバンドで締めて固定し,乾燥後整形してあります。 工房到着当初,歌口や指孔からのぞくと中がかなり汚れていたのですが,このヒビ割れがあったため内部の清掃ができず,管内の状態ははっきりと分かりませんでした。ヒビ割れの充填後,水を通して内部を洗ったところ,管内は朱漆できわめて丁寧に塗られ,磨かれており,歌口周縁に少し劣化がみられる程度で,塗膜自体はかなりしっかりとしていました。 ほかに深刻な劣化・損傷もなくヒビ割れも深くはなかったため,補修はしましたが,かなりオリジナルに近いコンディションだと思えます。 22号も同じなのですが,皮付き竹というのは保存が良いと古色がつきにくいため,古物なのか新物なのか今ひとつ分かりません。しかし管内に付着していたヨゴレ,上下木部の状態,また指孔や歌口を開けるのに,ドリル等ではなく錐と焼き棒が使われているようなので,少なくとも最近のものではないと思われます。 ![]() ![]() ![]() とりあえず今期までの報告はここまで。 データが貯まったら,また随時発表いたします。 今のところは,古い型の明笛にしぼって言うなら,通常の吐気による運指上の最低音,全閉鎖の「合」は「B」,最高音「凡」は「Bb」のことが多く,この表よりは半音ほど高いような気がしますね。
(つづく)
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