明笛について(4)
![]() STEP3(つづき) 明笛12~15号 ここからしばらく,管体が黒く染められた笛が続きます。べつだん狙ったわけではなく,たまたまなんですが… 明笛12号![]()
黒管で長いものは古い型のものが多いのですが,12号はその中では比較的新しく作られた笛らしく,飾りがやや凝っていて細身,歌口や指穴がほかの明笛よりやや大きく,篠笛に近い作りになっています。 ![]() 笛としてはいわゆる「ブーブー笛」で,響孔の倍音がキツすぎて,耳障りな音が出ます。管体が細めなこともあり,音はやや安定せず,同じ運指で音が出たり,何としても出なかったりします。最高音が最低音と同じ高さになってますが,これはチューナーの性能によるもので,同じ運指で「5B+40」という数値が測定されていることからも,現実には6Cに近い音になっていると考えられます。 管頭飾りの輪がネズミに齧られボロボロであったため,手持ちの角材で再製作。音はすさまじいが,飾りはキレイな笛でした。 明笛13号![]()
長55センチとここまでの中では長い,古いタイプの明笛。 管頭のラッパ飾りがなくなっていたので,ブナ材のパイプに胡粉塗りで代替品を作成。管体数箇所にヒビが入っていたが,すでに漆等で補修済み。 さほどの苦労なく音が出る吹きやすい笛でした。 ![]() ![]() 12号,13号ともに管内は真っ赤に塗られていたのですが,それはオリジナルの塗りではなく,古物商による補修(たんなる顔料…おそらくはベンガラを柿渋で溶いたものを流し込んだもの)だったようで,笛の内塗りに適しているものではなく,息を吹き込んで管内を拭うと,露切りが真っ赤になるくらい,すぐに落ちてしまう弱いものでしたので,一度それを,丸棒の先に Shinex をくくりつけた特製ヤスリでこそぎ落とし,カシューにて塗りなおしましてあります。 ![]() ![]() 明笛14号![]()
管体は黒いがこれは塗りで,歌口や指孔周縁から見える下地より,もとは人工斑竹(竹に薄めた硫酸をふりかけて斑模様をつけたもの)の笛であったと思われます。上塗りされた理由は定かではありませんが,管内にも塗りなおされた痕があり,そちらのほうが先のようなので,指孔もしくは歌口の塗りがはみだしたものを隠すためだったのではないかと考えます。 全体の長さ,また歌口から管頭の飾りまでの間が長いことなどから,比較的古いタイプの明笛でしょう。管体が少し曲がってますが,演奏上さほどの支障はありませんでした。細めでバランスはよく,音は比較的安定しており,出やすい。 管頭管尻の飾りは唐木(と思われる)木材で作られた,ごくシンプルなものである。 ![]() ![]() 明笛15号![]()
13号とほぼ同じ寸法,形態,同様の作りでした(管尻の飾りに牛角製の輪が噛ませてあるところだけが異なる)。 同じように管頭の飾りがなくなっていたので,再製作。 作りはそっくりですが,歌口から指孔までの距離が2センチばかり長いことから,キーは異なり,14号の方に近い。 ![]() ![]() ![]() ここまでの結果から,まずこの楽器には全閉鎖の音が「B」のものと「C」のもの,二種類がある,ということが分かってきました。 中国笛子の古い物と思われる7号の音階に近いものと,西洋音階に近いものなわけですね。 現在の中国笛子には,B管とかF管というように,西洋の管楽器と同じく,キーの異なるものが何種類も用意されています。篠笛や尺八の場合も,歌手または曲の音階の高さにそれぞれ合わせ「何本調子」という具合に,長さの違う,つまりは音域の違う笛がありますが,現在残っている明笛の広告・価格表などから考えると,明治のころの明笛という楽器にはどうやらそうしたキーの差はなく,高級品・低級品,松竹梅のような,材質・加工の差から来る値段の違いしかなかったようです。 大正も末年に作られた6号の修理後の全閉鎖音がBbだということを考えると,全閉鎖B/Cというこの音階の違いは,年代的なものではなく,その笛の用途もしくは製造元の違いによるものではないかと考えられます。 明笛は月琴に比べると,楽器としての命脈が長かったので,いわゆる「楽器屋さん」のうち「琴・三味線店」のような,伝統的な楽器屋さんでは,清楽が廃れた後でもそうした邦楽器に合わせた笛が売られ続けていました。現在も神楽囃子や祭りの笛として,この響孔のある竹笛を使っている地域があり,確認できる限りでは1メーカーが,これに類する笛を作り続けています(ただし邦楽曲に合わせるため複数の調子がある)。 ![]() そうした邦楽器店で作られていた明笛の多くが,庵主の「古い型」と言っている,やや長くて「全閉鎖がBbからB」の笛なのだと思われます。そして月琴とともにヴァイオリンなどの西洋楽器も扱っていたような楽器店,たとえば十字屋や唐木屋,山田楽器店のようなところでは,そうした西洋楽器に合わせる風潮または必要から「全閉鎖C」の笛が売られたろうことは想像にかたくありませんし。また当時「教育玩具」などととして楽器を製造していたような新興の楽器店が,明笛の類の笛を,音楽教育で用いられる「手軽な笛」として扱っていたこともあったようです。これらがCを全閉鎖として,西洋の音階に近く作られている笛なのではないでしょうか。 前回も触れたように,古物として入手できる明笛から,その製造元や製造時期が判明することはほとんどありません。 したがって上記の説は,あくまで推測にしか過ぎません。これらの笛はネオクに出ているときも「明笛」として出品されていることは稀で,古い笛,不明な笛もしくは篠笛の一変形とされていることのほうが多く,その笛が,いつごろから,どのように使われていたという由緒もまず判ることはありません。 庵主はその形態上の特徴と響孔の存在から,「これは明笛の類」と判断して入札しているわけですが,届いてみるとたまに,ただの中国笛子や篠笛だったり,南洋あたりのお土産笛を間違って落札してしまったりすることもありました。従って,ここで紹介されている笛の中には,清楽における「明笛」という楽器の範疇から,多少はずれる可能性のあるものも混じっているかもしれません(まあそもそも楽器を比較してその「範囲」を規定したような文献も見当たらないのですがw)。 ![]() 「全閉鎖BbもしくはB」というのは,第一回で触れた大塚寅蔵の『明清楽独まなび』にある音階表から推定される明治のころの清楽の音階に近いものとなります。ただ「全閉鎖BbもしくはB」であったとしても,邦楽の音階に合わせた場合,音階全体は清楽で使われたものと微妙にズレてしまっている可能性もあるので,音や形態が「古い型」であったとしても,その音階までが完全に「清楽」で使われていた音階のままであるとは限りません。 本来は由緒由来正しく「清楽で用いられた」と判明しているような,各音大や郷土資料館等で保存されている楽器資料から比較検証するのが,確実かつ正確であることは間違いありません。そういう方面での研究者の,きちんとした調査研究の待たれるところでもありますね。 (つづく)
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