22号鶴寿堂(4)
![]() STEP3 天までとどけ ![]() さて,22号・鶴寿堂2,胴体が箱に戻りました。 あちこち接着し直しましたので,一日二日,接着箇所の養生をして,様子を見。ふたたび割れたり剥がれてきたりしないのを確認したら,まずは面板の清掃。 一回目で書いたようこの楽器の表裏面板は,左右に幅の足りないぶんをわずかに継いだだけの,ほぼ一枚の板で出来ています。 表板の上半分はやや目も詰んで堅めですが,中央下半分,大きく盛り上がった木目の「山」のあたりは,ややボソボソと柔らかめになっています。 5号月琴でもそうでしたが,林治兵衛さんはこのように楽器のど真ン中に大きな木目の「山」をもってくるのが好きなようで,これもまたネックの加工の美しさとともに,彼の楽器の特徴のひとつ----たぶん美観的な好みでやってるだけ,とは思いますが,ちょうど弦を弾くあたりが柔らかく周りが堅くなってるので,他の作者の楽器に比べると,いくぶん音が「前に」出てる気がしますね。 ![]() ヨゴレ自体は薄く,例によって重曹水を使い Shinex で全体を二回ほどこそいだら,だいたいキレイになりました。 さあここまでくれば,あとは部品を戻すだけ。 今回は軸削りもありませんので,気が楽ですねー。 22号の修理は接着のし直し,というかここまでの再組み立てがほとんどで,欠損部品は山口とフレットに,あとは扇飾りだけです。 まずは大好きな小物作りからまいりましょう~。 5号月琴では,蓮頭は彫りのないカヤの板,半月も同様に素材の柾目を活かしただけのもので,装飾は左右の目摂と扇飾りだけでした。 ![]() ![]() 22号には唐木で出来た精緻な彫りの葡萄紋の蓮頭と,荷花を浮かせ彫りにした半月がついていました。左右の目摂は仏手柑で,これも唐木で出来ています----5号も22号も,主材はカヤで同じですが,こうして見ると22号のほうがいくぶん豪勢なわけですね。 ![]() ![]() ![]() ![]() オリジナルでは扇飾りのところに,綿入りのちりめんで作られた扇形のお飾りが,糊でへっつけられていました。これはもちろん後補----たぶん正月飾りの一部だったんじゃないかと思いますねえ。日焼け痕もはっきりしていないので,オリジナルの意匠は不明です。また,このサイズの月琴ですと,よく面板中央に円形の飾りがついているのですが,こちらはそもそもついていたかどうかも不明。 これだけの楽器ですから,一通りのお飾りはそろえてあげたいですね。ブドウ,ブシュカン,ハスの花,と植物尽くしですからね。基本,この路線でまいります。 ![]() 左右目摂が仏手柑で,あと二つがないわけですから。 ここはまた「三多(サンタ)」といきましょうか。ちなみにこの修理をしてるのは12月も終わりごろ,ちょうどクリスマスの時期でありますが,ここでいう「サンタ」はもちろんサンタクロースのことではなく,中国の伝統的な吉祥図の一つで,ザクロ・ブシュカン・モモの三つの果実をいっしょに描いたお目出た図柄のことです。左右の目摂でブシュカンは出揃ってますから---- のこるはザクロとモモ。 まずは「ザクロ」で扇飾りを作りましょう。 オリジナルの飾りは堅い唐木の薄板を刻んだ本格的なものですが,庵主,唐木の彫刻はニガテなので,いつものとおりホオの薄板を刻んで,あとは染めで誤魔化そうと思います。
![]() 山口もオリジナルがないので元のカタチは不明ですが,当時の国産月琴で同じようなタイプのものを参考に,単純な縦割りカマボコ型にしておきます。最初ツゲとコクタンで二種類作ってみたんですがどうも似合わず,赤っぽいカリンで作ったのがいちばん馴染んだのでこれにしました。 フレットもまあ見事に一本も残ってないので(治兵衛さん,接着ヘタだから…)もとの材質や高さは不明なのですが,これだけの材質と加工のもので,竹ということもなかろうと思い,象牙で製作。 ![]() 前回書いたように,この楽器は棹の傾きが若干足りないため,そのままだとフレットの高低差が少なく,やや弾きづらい楽器になってしまいますので,まずは半月にゲタを噛ませて絃高を下げます----かなり厚めのゲタになりましたが,これでようやく最終フレットの高さが平均値(5ミリ程度)といったところ。 このへんは後に作られた5号の工作のほうが,はるかに勝ってますね。詳しくは5号の「再修理記」などご覧頂きたいのですが,5号の絃高はかなり低く,より実用的に弾きやすさを追求した工作になっていました。 開放での調弦が4C/4Gの時,オリジナルのフレット位置(接着痕)での音階はこうなりました。 第1・2フレットと7・8フレットの位置には,複数の接着痕やケガキによる目印がついています。各弦音下段がそうした別位置での測定値となります。
測定が済んだらフレットをオリジナル位置(左)からSOS団仕様の西洋音階に近い位置(右)に直し,お飾りと絃停をへっつけて---- ![]() ![]() クリスマス直前の12月23日,月琴22号鶴寿堂2,修理完了いたしました! ![]() 接着の問題をのぞけば,鶴寿堂・林治兵衛さんの加工・工作にはほとんどカンペキなので,弾き具合と音色には文句のつけようもありません。 ![]() ![]() 面板の清掃で分かったんですが,この楽器にはもともとほとんど弾かれた形跡がありません。表面板に斜めに走った擦痕が数箇所ありましたが,いずれも「演奏痕」とは言えない程度のものです。 裏板には子どもの手によると思われる悪戯書きが数箇所,もしこの楽器を子どもに与えたのなら,ずいぶん勿体無いことしたもんですねー。(汗) 半月の下,中央縁周にある大きなカケ傷は,あえて埋めずにそのまま残しました。 ここまで見事だと,ちょっとした景色ですもんね。 ![]() ![]() ふだん中級・普及品の月琴を使っていると,かなり膝に重みかかり,胴体の厚みにやや違和感を感じますが,バランスは悪くありません。5号月琴と違って内部構造は一本桁,響き線も真鍮の一本線ですが,深みのある温かな音と余韻は,ほんとにサスガという気がします。 こういう楽器は弾ける人に弾いてもらいたいので,22号,庵主の独断によりSOS団の「師範代」かわむさんにおっつけることといたしました。 末永く弾いてやってください。(w) ![]() 深川の「そら庵」さんで月一ペース開催されている清楽月琴のワークショップ----正式名称は 「誰でも弾けるようになるけど何の役にもたたない清楽月琴ワークショップ@そら庵」 ですが----最近はメンバーも増え,庵主,いつのまにかなんの資格もないのに「お師匠サマ」に祭りあげられてしまいますた。 祭られた以上,ご利益が疫病だろうが貧乏だろうが霊威を施さないというのも八百万神道の徒として申し訳ないので,拝命し,それなりに頑張って,月琴音楽の普及にいささか尽力しておりますが,庵主の「お師匠サマ像 (イメージ)」といたしましては,ふだんは会場のいちばん隅っこの方でただ飲んだくれていて,「お師匠サマ~この曲,ここどうやって弾くン?」とか言われた時,半泥酔眼 ヨロヨロと立ち上がり,ちょちょッと教えてまた酒席に戻る----というのが理想なので,最近,基本練習の指導は彼ら師範代クラスのお二人にまかせっきりであります。 月琴を持ったり弾いたりするのもハジメテという方々。 清楽月琴WS@そら庵は自由乱入・退席自在。 お店の方になにか飲み物でも食べ物でもご注文いただければ,WSの参加費はとくにございません。 弾き方は,各師範代が(たまにはお師匠も)やさしく,丁寧に指導いたします。 月に一度,隅田川河畔のカフェでお昼頃からゆるゆると。 お気軽にご参加くださーい。(宣伝) (月琴WS開催の日時等は こちら の "information" もしくは "calender" にてご確認を。) (つづく)
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