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胡琴を作らう!(1)

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斗酒庵 胡琴を作る の巻2012.2~ 胡琴を作らう!(1)

STEP1 まずわ修理をしてみやう

  さて。
  じつのところこの時点で23号月琴の修理も終わってますし,書かなきゃならないことは,ほかにもイロイロあるのでございますが----

  とりあえずまた横道にそれますです,ハイ。

  清楽の楽器で有名なのはなんといっても「月琴」ですが,最盛期には弦楽器だけでも唐琵琶に阮咸,瑶琴,三弦子など,さまざまな楽器が使われておりました。当時はまあ,全国に女子十二楽坊があったみたいな状況だったわけですねえ。


  何度か書いているように,短い棹で丸い胴体の「月琴」という楽器は本来,中国の楽器ヒエラルキーの中では最下層に属す「俗っぽい」楽器で。主としてお女郎さんとか乞食とか門付けの芸人なんかが弾くものでありました。
  清楽ではまず使われない七絃琴(古琴)を最上位に,琵琶,阮咸などは,宮廷音楽でも使われる比較的「雅な」楽器だったわけですが,月琴,三弦子などはどちらかというと「俗っぽい」「淫声」な楽器で,士大夫の触れるようなモノではないと,本来はされていたようです。

  清楽で使われる弦楽器のうち,そうした月琴,三弦子と並んで,同じように「俗っぽい」系の楽器だったものの一つに「胡琴」というものがあります。

  現在中国の楽器用語的に「胡琴」といえば,通常の二胡や中胡,板胡など,あの類の二弦(もしくは四弦)弓奏の擦弦楽器(さつげんがっき)をひっくるめた総称でありますが,清楽で「胡琴」といえば,主に竹で出来た小さな二胡。現在の中国楽器で言うと「京胡(チンフー)」というものになります。


  これもまた何度も書いてますが,庵主,弦をハジく系の楽器,すなわち「撥弦楽器(はつげんがっき)」の類ですと,なんにゃら弾けるのですが,コスる楽器と,ぷーぷー吹く楽器はいまいちニガテなので,なるべく触れないようにはしてるんですが,胡琴(もしくは提琴)と月琴という組み合わせは,清楽の合奏でよく見られたということもあり,譜本によっては「胡琴の部」「胡琴曲」など,この楽器のパートを特に分けたりしているものもあるので,曲の再現や復元するうえで,それらについての知識・考証は,やはり避けてばかりもいられない楽器なのであります。

  庵主,じつは大昔,中国旅行の土産のひとつとして京胡を買ってずっと持っておりましたが,けっきょく弾けずに他人に譲っちゃいました----そのころはまだ,清楽にも,その,月琴にもさしてかかわっていませんでしたからねえ。
  その折の楽器の記録は残ってないんですが,

  も一つじつは,数年前,古い胡琴の修理をしたことがございまして。
  まずはその記録から見てもらいましょうかな?



  これが胡琴。
  基本的には長さ48センチ,太さ2センチほどの竹製の棹を,直径6センチくらいの竹筒に挿しただけの楽器……いと単純ですな~(^_^;)。



  胴体の筒前面に張られていた皮が破れてるのと,糸巻きが一本なくなっちゃってましたが,竹で出来た本体部分にはさしたる損傷もなく,保存状態は良いほうと言えます。




  琴筒の内側にラベルが貼ってありました。
  赤い楕円形の紙に木版で,上に「京都」,中段右から「天津営業大」「雅韻斎」「街昇平〓傍」,下段には「魏記」とあります。
  読みやすいように組みなおしますと 「京都魏記/天津営業大街昇平〓傍/雅韻斎」。
  「営業大街」は天津の地名,「昇平」なんちゃら(一字解読不能)はたぶん官営の劇場じゃないかと思うんですが,そのそばにある「魏」姓の楽器屋さん「雅韻斎」の作,ということですね。天津の「魏家」は名物の凧作りで有名ですから,同じく竹を使うこんな楽器を作ってた人がいたとしてもフシギはありません。



  琴筒に巻きつけてある布をハガしたところ,オリジナルの皮の端っこが出てきました。現在の「京胡」には,黒いヘビの皮が張られていることが多いんですが,この楽器には通常の二胡などと同じようなニシキヘビの皮が張られていたようです。

  これがかなり薄いんですねー。
  ハガしたら,紙みたいにペラペラでした。
  現在の二胡は金属弦を張ることもあって,もっと厚手の皮を張ってますが,戦前には絹弦などが主流でしたので,こんな薄々の皮でも良かったんでしょうねえ。




  琴筒の周縁をキレイにして,軸を削ります。
  左手前が月琴の軸。くらべるとやっぱ長いですよねえ。

  あっ!いけねえ……
  ついいつもの月琴修理のクセで,糸巻きを六角形にしてしまったんですが----よく見たらこの糸巻き,八角形ですわい。
  ……まあいいか,よーく見ないと分からないし,使用上さして支障もあるまい。

  胡琴の修理,最大のヤマ場は皮の張替えですな。

  ふつうは材料もないし,楽器屋さんに頼むところですが……

  手許にちょいと,月琴の絃停に使ったヘビ皮がありまして。

  Web覗いたら二胡の皮の替え方とか書いてあるサイトもありましたので,一丁やったれ!と----けっきょく自分でやっちゃいました。
  手順は----

  1)ヘビ皮を水に漬けて柔らかくする。
  2)皮の端8方に短く切った竹棒を縫い付ける。
  3)琴筒の口と周縁にニカワを塗る。

  あとは琴筒を台に固定して竹棒に糸をかけ,しめあげてピンと張り,乾かす---といったとこでしょうか。
  皮さえ入手できちゃえばそんなにムズかしいことではありません。あとは作業台ですかね。庵主の使ってるこの台は,¥100屋で売ってたナベシキ。真ん中に板を置いて両面テープを貼り,作業中に琴筒が動かないようにしてあります。こんなもんですが,プロの職人さんの方法や道具も,実はこれとあんまり変わらなかったり(w)。


  一晩置いて,皮が乾いたら余分を切り落とし,布を巻いて完成です!
  オリジナルの布はかなり色あせてましたが,同じ藍染めの古い布を日暮里で見つけてきました。


  この楽器,胡琴族のなかでも古株ではあるのですがちょいと特殊で,大陸のほうでも上手に弾くのが難しいことで有名なモノらしいです。第一に琴筒がきわめて小さいため,いい音の出るスィート・スポットがやたらとせまい---つまり演奏姿勢や弓の扱いがシビアなわけ。第二に棹も短いので音階の間隔がせまい----わずかな運指の違いでズレちゃうわけです。
  古い清楽の演奏でも,ガラスを引っ掻いたというか,ノコギリ挽きというか,黒板を爪でキーッ!みたいなけっこうスサまじい音で鳴らしてますね。

  上にも書いたよう,庵主,自分では弾けない楽器なので,修理したこの胡琴は現在,SOS団のメンバーで二胡やってるお銀さんに押し付け,弾いてもらっております。


  弦は月琴と同じ,三味線の絹弦の二の糸と三の糸を張り,最初のころは京胡のコマ(左画像,大きさは背景の新聞の活字と比較してご想像ください)を使って弾いてもらったのですが,その,オリジナルに合わせて薄くした皮が,やっぱり薄すぎたらしく----絹弦を使っててもなんかブチ抜けそうなのと,お銀さんのウデをもってしても弾きにくく,やはり出てくる音があまりにもあまりだったため,お銀さんの要望により,庵主,特製の「デカ駒」を作ってみました(同じく大きさは背景の定規をご覧ください)。

  コマの接地部分を大きくして弦の圧力を分散させ,スィート・スポットをちょいと広げたわけですね。


  ----この工夫が結構ヨロシかったようで。

  本来エラい音の楽器のハズのこいつが,現在はなんにゃら「京胡」とは思えぬほど,上品な音で鳴らしてもらっております。
  ほんにありがたいことで。

  まずは楽器の説明がてら,修理報告。

  次回はいよいよ,これの自作に取り掛かることといたします。

(つづく)


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