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22号鶴寿堂2(2)

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斗酒庵 鶴寿堂と再会す の巻2011.10~ 月琴22号・鶴寿堂 (2)

STEP2 懐かしい光景にふたたびめぐりあえた


  ええ,もーバラバラなわけですよ。

  22号,修理----この有様であります。

  月琴5号の時にも書いたとは思いますが鶴寿堂・林治兵衛さん,その楽器は美しく,工作の腕も確かなのですが唯一の欠点が----接着がヘタ。
  今回の楽器を見ましても,山口にオリジナルのフレットは全部剥離,面板も前所有者のもとにあったころ,すでにあちこちハガれ浮いていたものと思われます。

  鶴寿堂の月琴の部材は主として「そくい」---お米を練って作った糊---で接着されています。「お米を練った」などと書くと,何か子どもの遊びに使うものみたいですが,「そくい」というものは,例えば刀剣の「鞘」,三味線の皮貼りなど,楽器や木工芸の世界では古くから使われている一般的な接着剤の一つです。
  その接着力は強固で,ニカワと比べると虫がつきにくいという利点もありますが,作るのに多少手間がかかり(本格的には…米粒を練って練って寝かせて晒して数年間)一度剥離すると二度とくっつきません。
  上手に使えばニカワ同様,千年保つような強固強健な接着が可能なのですが……


  何度も書いているように,接着の上手な人は「接着剤の層」を作りません。接着面をよく湿らせて,木の表面に「接着剤の染みこんだ層」を作り,その面同士をぴったりと合わせて固定するのが,もっとも強固な接着法です。そうして巧みに接着された場合,接着された部分には空気も入らないので,部材自体が劣化しない限りハガれることはまずありません。
  そくいによる接着も,ニカワと同じく「薄く塗り,軽い圧」が最上かつ基本なのですが,この楽器の場合,面板の周縁にも胴体の接合部にも,まあこってりどっさりと,ハミ出すほどに塗ったくってあります。これだと木と木の間にそくいの層が出来ており,部材はその層の両面にくっついてるわけで,そくいの層が外気に触れてるところから劣化して,ハガれるわけですね。


  はじめは面板のハガれている部分だけ再接着しようと思ってたんですが,アチラがつけばコチラがハガれ,コチラがつけばその先がハガれる----とまあ何時までもキリがないので,まさにオーバーホール,胴体はバラせるだけてってー的にバラし,ほとんど接着をイチからやり直すことにいたしました。
  こういう場合,本来なら接着剤もオリジナルと同じく「そくい」を使用するのがスジというものですが,庵主の不得手と経験不足につき,手慣れたニカワでの接着に替えさせていただきます。

  では,あべりべりばらばら,っと。内部観察というか,分解記録をどうぞ。


  こちらは表面板の裏側。
  すみません,墨書はたぶん「玄襄/花裏六」だと思いますが正直自信ナシ。


  裏面板もちょうどヒビの入ってたところを残して,カンタンにハガれました。
  ちょっと見えにくいとは思いますが,真ん中のあたり,内桁との接着部の端に,前の所有者が打った竹釘が突き出ています。


  こちら裏面板墨書。

  「物外逍遥/大観花裏六/鶴寿堂製/明治三十二年四月」

  二行目の読み解きが多少自信ありませんが(「花裏六」ってナニ?),まあ要するに,禅坊主っぽいことを書いてみたかったのでしょうね。月琴5号が「明治37年」でしたから,この楽器はその5年前の作ということになりますが,5号のに比べるとこちらの墨書はかなり下手っぽい……5年の間に一気に成長したわけですね。何があったのでしょう。


  表裏の板をへっぺがしちゃうと,この楽器の胴体って,ほんとタダの輪っかですよねえ。

  面板の周縁はもちろん,胴材裏表と内桁表裏の接着面は筆でお湯を含ませながら刃物でこそぎ,四隅の接合部も濡らした脱脂綿を当ててふやかし,劣化した「そくい」をできる限り除去します。

  表面板から再接着。もともと中心線が書いてありましたのでこれを目印に,さらに四隅の接合部を動かして板の周縁にうまく入れこみましょう。そしてクランプとゴムで固定。



  表面板がくっついたところで,つぎは接合部を始末します。
  部材間にはさまっていた「そくい」の層をかなり落としてしまったので,あちこちにスキマができてしまいました。そのスキマには突き板を削いで埋め込んでいきます。接合部の充填接着と,化粧板の浮いているところも再接着しちゃいますね。
  一晩置いて,埋め込んだツキ板を整形。
  さらに補強のため接合部内側に和紙を重ね貼りし,柿渋を塗っておきます。



  裏板を貼る前に,棹の調整もしておきましょう。
  5号月琴では,茎と桿本体との接合部が割れていたのに数年気づかず,小春師匠に音合せでずいぶん苦労させちゃった(「8号再修理」参照)わけですが---さすが同じ作者,まったく同じところが同じような状態になってますねえ。棹基部V字の背面側のほうの接着がハガれて(もしかすると最初からちゃんとついてなかったかもしれない)しまっています。



  このままだと音合せのとき,糸の張力で棹が前にお辞儀するので,なかなか合わないわけですね。
  この接合部ももとの工作が多少粗くて,かなりヒドいスキマができてます。ここにもツキ板を埋め込み,ニカワを垂らしこんでいっしょにぎゅぎゅーっと締め上げましょう。

  この棹基部の不具合が原因だと思いますが,棹がお辞儀していたせいで,胴体と棹背の接合部にスキマができてしまっています。何度も書いているよう,この楽器の理想として棹は背面側に少し傾いている状態が望ましいのもありますし,ここは調整しておく必要があります。
  茎の先端を削り,スペーサーを接着します----かなり削っちゃいましたねえ。茎取り替えたほうが良かったかもせん。(汗)



  さて次に裏面板を貼れば,胴体は箱に戻るわけですが,こっちは内部から見ながらの位置の調整はできないし,板の表面には目印もないので,位置合わせは表面板よりずっと難しいのですが----さいわい前の所有者がハガれた面板を止めようと打ち付けた竹釘の痕があります。




  これを使いましょう----

  竹の端材を細く削って釘孔に差込み,接着の際のガイドにするわけです。

  接着面にじっくりお湯を含ませニカワを塗って,面板の穴を竹釘に合わせたら,クランピングだほいさッさ----オープン修理恒例,3倍早そうな「赤いワラジ虫」の登場です!

(つづく)


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