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月琴23号・茜丸(1)

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斗酒庵 唐物かで悩む の巻2011.10~ 月琴23号・茜丸 (1)

STEP1 小さくも悩ましい


  さて, 21号,22号がそろって片付き,四畳半住居兼工房のスペースが少し空きました。
  じかしながら,ためこんだ修理待ち月琴は26号までイってまして,ここらでもう一本くらい片付けておかないと,お部屋に庵主の居る空間がまたすぐになくなってしまいそうです。

  自出し月琴23号は,少し小ぶりで端正な楽器。
  カーブの深い糸倉,絶壁のうなじ,短い棹。一見して分かる古式清楽月琴ですが,これが真正の唐物・古渡りなのか,それとも日本で作られた倣製楽器なのか,この時点ではまだ分かりません。
  胴体の表裏にラベルの痕と思われるピンク色の部分があるのですが,紙の部分がすっかりなくなっていて,なんて書いてあったのかはサッパリ分かりません----ザンネン。

  ではまずはいつもどおりの採寸から----


   全長:630mm
   胴径:353mm (縦横ほぼ同じ,円に近い)
   胴厚:35mm (うち表裏面板厚5ミリ)
   棹長:163mm (胴体から蓮頭まで)
   有効弦長:410mm

A)棹部分

  ■蓮頭:損傷あれども欠損ナシ。
  ■糸倉:損傷アリ。

  まずは観察,アタマからまいりましょう。


  蓮頭の意匠は葉っぱと茎からみておそらく「牡丹」。彫りは細かく複雑で,なかなかの腕前です
  真ん中からまっぷたつに割れていますが,糸倉にへっついてる関係で,かろうじて分離はしていない状態。

  ぱっくりとかなり小気味のいい割れかたですが,欠けたところがないのが幸い----くっつければ普通にくっつく感じですね。



  糸倉は横から見て,アールが深めで厚みのある,唐渡り・古式月琴の典型的な形状です。
  弦池は彫り貫きではなく天に間木をはさむ型ですが,左右の厚みが6ミリほどしかなく,華奢で丁寧な造りになっています。
  軸は全損。工房到着時には三味線の細棹なんかでよく使われる軸がささってました。

  今回の修理のメインになるのはおそらく,この糸倉部分の損傷。

  ふつう「糸倉が割れている」というと,軸穴のところから横に割れた場合が多いのですが,この糸倉の場合は「縦に割れて」います。
  楽器正面から見て糸倉の右側面部の棹背がわ,その内側あたりがごっそりと,削ぎ取られたかのように欠けているんですね。

  見たところ,衝撃や打撃による損傷ではありません。

  この楽器は胴や棹がタガヤサンで作られているようなのですが,このタガヤサンという木は「鉄刀木」と書くほどカタくて丈夫なものの,乾燥が難しく,よく「暴れる」ことで有名です。おそらく,この棹を作った木のカタマリ自体が,もともと内部にこういう裂けヒビを持ったものだったのでしょう。楽器が出来たあとしばらくしてから,外からの衝撃ではなく,内部のヒビから木目に沿ってポロリと自然に「欠け落ちた」って感じですね。
  損傷部分の表面はややササクレだってモロモロとしており,これからまだ何とかなっちゃいそうな細かなヒビも数多く見えます。(汗)
  欠損部分はこの側面の軸孔ほぼすべてにかかっていますが,孔自体には演奏・操作の支障となるような「横方向の」割レやヒビはないので,軸を挿せば演奏することも可能な状態……なのではありますが,もともと6ミリしか厚みのない側部,場所によっては軸孔自体の厚みが2ミリくらいになってしまっているところもあります。さすがに「鉄刀木」と書いてタガヤサンというだけあり,その状態でも強度的には問題ありませんが,耐久性の面では不安がありまくりです。
  薄くなった軸孔が軸の摩擦で削られちゃうかもとか,軸孔内部のヒビからさらに裂けちゃうんじゃないかとか。
  弾けなくはありませんが,楽器として「弾き続ける」のにはやっぱり,かなりムリがありそうです。

  とはいえ,ナナメで,エグれて,ガタガタ凸凹のこの複雑な損傷………うーん,どうやって修理しようか。
  悩むところであります。


  うなじは絶壁,山口のところに「ふくら」はなく,棹は糸倉と同じ幅でまっすぐ。
  棹背にはわずかにアールがつけられています。

  棹背に小ヨゴレ。また糸倉の損傷箇所からうなじの部分にかけて,大きめのヒビ割れが一本,そこからさらに棹の部分にも小さなヒビが断続的に延びています。

  やったのが製作者か前所有者かは分かりませんが,この糸倉から棹全体にかけての表面は,黒い塗料で塗られています。
  棹背の部分はタガヤサンの木目が出てますが,ほかの部分は真黒に塗られてるんですね。この塗装は糸倉の損傷箇所にもかかっていますから,塗られたのは糸倉が割れてから後の事ということになりますが,損傷を隠すため,にしてはぜんぜん隠せてないから意味がありませんし,保護を目的としたものにしては,塗膜のないステイン系の塗料のようでありますから,これまた用をなしません。
  意図不明でありますねえ。


  意図不明といえば。棹茎(なかご)をご覧ください。
  真っ赤です。
  古式月琴は一本桁が多いので,自然,茎は長くなるのですが,その長い茎全体が真っ赤に塗られています。
  この色は----スオウじゃないですね。おそらくはドラゴンブラッド(竜血)ではないかと思われます。
  こういうのはハジメテ見ますねえ。ここを赤く塗ってナニか意味があるのか----いくら考えても,分かりませんわ。
  棹基部からの長さは207mm。表面板がわに「上拾二」と墨書。字はなかなか達筆です。赤く塗られてる延長材はマツの類ではないかと思われます。
(つづく)


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