胡琴を作らう!(3)
![]() STEP3 詐欺師たちの日常 ![]() さて,作業日数二日くらいであらましのところができちゃった楽器製作ですが。 まあこのまんまだと,胴体も棹も白っぽくて。なんかどっかで買ってきたキットを組み立てただけみたいでつまりません。 今回の胡琴,SOS団で弾いてもらうつもりで作ったんですが,古い楽器といっしょに演奏してて,こいつだけなんか悪目立ちするのも何となくヤですし,斗酒庵流にちょっと遊ばせてもらうとしましょうか。 ----ですので。 たんに楽器を作ってみたい,という純真な一般の方々には,これ以降の記事は参考にはなりますまい,悪しからず。 まずは軸を染めます。 まあこれはいつものこと。スダジイはそのまんまだとまッ白で面白くないですからね。 ヤシャブシ液にスオウを7:3くらいで混ぜたのを,湯煎で温め,時間を置いて二度ほど,表面に流しかけるようにたっぷり塗って乾かします。乾いたら表面のケバ立ちを,Shinex の#400 くらいでこそぎ落としますが,この時ちゃんと染まってない白っぽいところがあったら染め直して,も一度磨きまで。 スダジイという素材は,硬さ丈夫さの点では問題なし。油分がぜんぜんなくてパサパサしてるので,こういうステインはしやすいんですが,そのぶん素材に粘りがなく,モロい面もあります。 ですので染めが終わったら,かならず軸先を中心に亜麻仁油で拭いて,油分を足してあげましょう。 ![]() つぎにこの白っぽい竹の色をどーにかしましょう。 とはいえ竹というのは,「染め」に関してはけっこう手ごわい素材であります。 表面のガラス質の層は,塗料・染料をハジきますし,竹そのものに油分が含まれているため,木材のように,ただ表面に塗布しただけでは,色が繊維にまでなかなか届かないんですね。 塗ってもハジくし,染みこむ前に乾いてしまいます。 ではどうするか----こうします。 まずはウェスを切って,柿渋の中にどぷん。たっぷり染みこませます。 それを棹と胴体に巻いて,表面をラッピング。 てきとうなレジ袋でくるんで,一晩置くと---- ![]() ![]() 滲みてますねえ。 このところ小物の染めで使ってる技法の応用ですわ。 うまくやるとほぼドブ漬けにしたのと同じくらいの効果があるみたいですね。 乾くと元に戻っちゃいますが,柿渋が滲みてるのは事実。日数がたつと発色して参りましょう。 ![]() 大陸の京胡だとだいたいは飾りは少なく,竿頭も節のところで切ってあるくらいのものですが,古渡の胡琴とか高級品の中には竹に唐木で龍頭の竿頭飾りを継いでたりするものもないではないです。 じつは今回の楽器は最初から銘が決まってて---つまりはそのイメージで作ってるんですが---「金鈴子」と言います。 秋の鳴虫の一種で,正式名は何か知りませんが,上海あたりではコオロギなんかといっしょに,竹筒に蓋をつけたような容器に入れられて売られてました。その竹筒が飼育器であり,虫の音を楽しむ携帯容器でもあるわけですね。 その竹筒の蓋をイメージして作りましょう。 ![]() 上のドームになってる部分はカツラの板から,下には¥100均屋で買った木製ボルトのナット部分を流用しました。 ボルト部分と組み合わせるとこんな感じ。 べつだんネジ止めにしたかったわけではなく,ボルトの直径が,たまたま棹竹のサイズにあっていたからですね。 これも軸と同じくヤシャブシ&スオウ液で染めて油磨きしておきます。 ![]() 籐巻きの保護もふくめて,竿にカシューを二度ほど刷き,磨いたら楽器本体は完成です。 あとは糸を張り,コマ作って千斤を結ぶだけ。 弓はそれぞれお持ちの二胡の弓を使ってもらいますので作りません。今は安い二胡の弓なら,通販で\3000くらい出せば買えますしね。 完成した自作胡琴の全景。 ![]() ![]() 棹頭の飾りはこんな感じになりました。 ![]() 丸い物体に丸い穴をあけて丸い棒を挿しこんだだけなので,そのままだと演奏中に胴体があっちゃこちゃに回って弾きにくいでしょうから,棹の胴体下にささってる部分をちょっと削ぎ,そのスペースぶんの木片を削って胴体に埋め込みました。 これで棹は動かなくなります。いや…考えてみれば最初からそういう風に穴を加工しときゃ良かったんですけどね。(汗)なんせ初作なもので,ずいぶん後になってから気がついたのですよ。 ![]() 棹頭と棹尻は木片で塞いであるわけですが,棹尻のほうにちょっと悪戯を…… 「響き線」を仕込んでみました。国産の清楽器では,月琴のほかにも唐琵琶や阮咸,三絃子(蛇皮線)や瑶琴(和風ダルシマー)にまで,この「響き線」を仕込んでいるものがあります。胡琴に関してはまだ見たことがありませんが,おそらくどっかで誰かが同じようなことをしていそうですからね。先回りして仕込んでみました。 短い直線とバネ線を組み合わせたこの型は,過去に修理した「赤いヒヨコ月琴(太清斎)」の内部構造を参考にしたもので,狭い空間でもある程度の効果が期待できます----もっとも,まだ実際に弾いて実験したわけではないので,ただやかましいノイズになるだけかもしれませんがね。 さてこの自作胡琴がどんな音を奏でるのか? というか,そもそもちゃんと音が出るのかしら? 次のWSでお披露目予定。楽しみであります。 (つづく)
|