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24号松琴斎(2)

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斗酒庵 油まみれ! の巻2011.11~ 月琴24号 松琴斎 (2)

STEP2 続・油地獄松琴面板


  まあ,いろいろと薬剤も使って,油ヌキをしてみようとはしたんですが。
  なんせハンパないくらい使われちゃってるもンでまあ,油が滲みこんじゃってて,どげにもこげにも…

  ----ご覧ください。
  洗浄液が油分で濁って,真っ白に乳化しました。

  このまま固めたらセッケンが出来そうです。(泣)

  油滲みだけでなく,虫食い穴のほうも,ホジっくってたら際限がなくなりました。


  半月の裏なんか完全にエグられてます----半月の透彫りのスキマに詰まってたあの白い綿毛のようなものは,やはり虫のマユだったみたいです。サナギのカケラも出てきたもんね。(汗)

  虫の食害は,絃停付近だけでなく内桁の接着部や周縁部など,ニカワの使われている部分全般に及んでおり,あっちもこっちもかなり縦横無尽に食べられて,スカスカになっていました。

  これ以上ホジると板がボロボロになりそうですし,度重なる洗浄や薬剤による側板や内部構造への影響も心配ですので----


  エイッ!

  こういう時,ふだんから乱暴な修理をしてますと非難が少なくてイイですね。(ほんとうにイイのか?)
  ひさしぶりに張替え修理---ここまで大々的なのはええと,9号早苗ちゃん以来でしょうか。

  おかげでひさしぶりに月琴の内部構造がノゾけました。


  上桁:棹孔の上辺から 135mm,中央に棹茎の受け,左右にツボギリでえぐった音孔が一つづつ。
  下桁:同じく 285mm。
  いづれも左右端を側板裏に単純接着,上桁は左右に木片による支えあり。

  響き線:弧線1本,基部は楽器に向かって右側,上桁を支える木片に四角釘で固定。
  基部と先端付近にややサビ浮くも健全。焼きは甘いが反応は上々。


  第一回でも言ったようにこの楽器,材質や構造の点では以前修理した東京の老舗・唐木屋の楽器に近いのですが,側板内側や内桁のガサつき加減などは唐木屋の比じゃありませんね。見えないと思ってまあ雑なこと。


  とくに何ですか,この情けない上桁の支えは?

  ----左側のですね。わたしも端材を大切にとっとくほうですが,いくらなんでもこりゃナイかなあ。
  下桁も若干,取付が斜めになってるみたいですね。おまけに音孔もないただの板です。

  まあ師弟で何千本って数作ってるんですから,しょうがない,っちゃあしょうがありませんが。

  それでもご覧ください----表面板との接着面の左右端をわずかながら切り落としてあります。
  何度も書いているように,庵主にはいまだこの理由が分かりかねるのですが,ここまでテキトウな加工をしていながら忘れてないところを見ると,やっぱり何かあるんでしょうね。
  ただしこの楽器の場合,ニカワの盛りすぎで4箇所のうち半分がほとんど埋まっちゃってましたから,何か「理由」があったとしても,「効果」のほうがちゃんとあったとも思えないのですが(笑)。


  裏板のほうは油も使われておらず,虫害も少なくて。もっとも被害のある片方の端を切除するのと,1~2箇所をエグった程度で済みました。

  両面張替えとまではならず,まずは不幸中のサイワイ。


STEP3 立枯棹還魂阿仙染(かれざおよみがえりのあせんぞめ)


  さて,棹なんですが----

  糸倉や指板の角をあちこちカジられちゃってるほか,あまり被害はないものの,一番下の軸孔に少しヒビが入ってしまっておりました。このまま修理しても使えなくはないとは思いますが,保存状態の悪さから若干木そのものが枯れて劣化しており,修理してもあまり寿命は長くなさそうです。

  21号に次いで,複製することとしましょう。
  もっとも例によって3ピースの寄木細工になっちゃいますが。

  材料は前と同じく,カツラの板とサクラ。
  サクラの板を中心にして,左右にカツラを貼ります。


  同時進行で1号月琴の棹も作ってたんですが,おかげでいくつか面白いことに気がつきました。

  関東の作家さんでは,棹の断面は図左のような,背の丸まったタイプの棹が多いんですね。
  そして棹背は直線的で,棹の太さ,というか厚み自体は,糸倉との付根から胴体接合部まであまり変わりません。
  実用本位,質実剛健,といったとこでしょうか。

  これに対し,関西の作家さんの作風は多様です。
  ただ棹に限って言うなら,傾向として,断面はもうちょっと四角張っているか,もしくは胴体接合部の手前で四角くなり,棹背にアールがついていたりして,関東の月琴の棹に比べるとやはり,どことなく優雅なフォルムのものが多いようです。


  24号の棹は一見,普及品の実用月琴にありがちな平凡なデザイン。
  製作者は前回も書いたとおり大阪の方,棹背そのものはほとんど直線的ですが,やはりほんのわずかながらアールがついており,胴体との接合部手前で少し立ち上がっています。
  そして断面が図右のように,棹背に向かってすぼんでるのです。
  ギターでいうところのUシェイプとVシェイプみたいですね。
  棹自体がやや短めなこともあって一見すると少し太めに見えるんですが,実際に握ってみると,意外と細身に感じます。

  これはこれで考えられたデザインのようですね。
  明治後半,月琴の弾き手は子どもや手の小さな女性が多かったので,受けたかもしれません。

  棹を複製するときは,たんに測って寸法を写すだけでなく,立体としてのオリジナルを触り,なぞりながら作業をします。でなきゃこんなところは,いつものようにただ修理してただけでは気づかなかったかもしれませんね。


  今回の棹は「カテキュウ」というものを使って染めてます。

  左画像,棹の手前にある黒いカタマリがその材料。
  アセンともいうこの染料は,南洋の植物の汁を煮しめたエキスで,お湯で簡単に溶けます。
  その煮汁で染めるわけですが,主な成分はふだん使ってるヤシャブシなんかと同じタンニン。セルロース類との相性が良いとかで,木材表面へもよく浸透します。日本でも江戸時代にはもう薬・染料として輸入されていたそうで,月琴でも茶系の染めのものにはかなり使われているみたいです。

  仁丹の主成分の一つだ,なんて記事も読んだなあ。
  こんどちょっと齧ってみましょう。

  糸倉の長いほうが1号の棹。こちらには赤味を出すためスオウも使ってるんですが,色の違い,分かるかなあ?

(つづく)


24号松琴斎(1)

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斗酒庵 油まみれ! の巻2011.11~ 月琴24号 松琴斎 (1)

STEP1 油地獄松琴面板(あぶらじごくまつことのつらいた)



  23号とほぼ同時に始めたのですが,2012年4月現在,まだ修理中であります。

  おお,修理報告がゲンジツに追いつくのは久しぶりだ!

  出品者の写真を見て,楽器のスタイルや意匠から,唐木屋さんあたりの作かなあ,と思っていたのですが----



  こういうラベル,というかその残欠が背にございました。
  四方角を落とした長方形の小さめなラベルで3文字。


  さて,読めます?


  答えはこれ。

  大坂の作家さんで 「松琴斎」 の商標ですね。
  左画像は,以前ほかの楽器についてたラベル。



  明治40年の『関西実業名鑑』「西洋楽器之部」に 「北区老松町 明清楽器諸楽器製造販売 松琴斎 伊杉堂」 とあるお店の楽器ですね。明治後半,関西方面ではそこそこの大手だったらしく,けっこうな数の楽器が残っているようです。

  同じ系列と思われる作家さんに,以前修理したことのある 「松音斎」 というヒトがおります。
  ラベルはほぼ同じ,ただ二文字目が「音」になっているだけです。


  楽器の寸法やフォルムなどもかなり近いのですが,腕前は松音斎のほうがやや上手で作りも丁寧----もしかするとお師匠さんなのかもしれません。

  前にもちょっと書いたことがあるかと思いますが,「松音斎」の楽器には「第貮千四百九十五号」という札が貼ってあるものがあります。
  裏板の墨書に「辛巳」とあるので,こちらは「松琴斎」より少し前,明治10年代前半に活躍した作家さんだと考えられますが,本当だとしたらこの二人だけで,一体どれだけの数作ったのやら。(汗)




  さて,まずは採寸。

  全長: 628mm

  棹 全長:275mm (茎長:195mm,棹茎を含む長:470mm)
  うち糸倉部分:155mm 指板部分 長:14mm 幅:30(最大)/24(最小)mm 
  棹本体太さ:30(最大)/26(最小)mm 

  胴 縦:355/横:358mm 厚:40mm (うち表裏面板厚各 4mm)
  有効弦長:402mm (山口欠損のため推定)


  蓮頭は欠損。
  棹部分の材はおそらくホオ,本体部分の茶色はおそらくカテキュウで染めたもの。
  糸倉はやや短めですが,アールがやや深くとってあり,まとまりの良い姿をしています。

  軸は3本残。一本,先端が痩せたのかやや噛合せの悪いのがありますが,おそらくオリジナル。
  長:115mm,最大径:27mm。六角一本溝で材質はホオかカツラ。

  指板の厚さは1mm,材はおそらく紫檀
  棹茎基部の表面板側に「拾」と墨書があります。


  棹上のフレットは全損,糸倉や棹横の数箇所にネズミの齧った痕が数箇所。



  表面板はほぼ柾目。目摂の意匠は「鸞」,扇飾りは「万帯」

  中央から半月にかけて数本ヒビ。虫害数箇所。

  半月:101×40×h10mm。外絃間:33/内絃間:25mm。
  唐木屋の楽器(9号,18号の記事参照)などとほぼ同様の意匠で,おそらく牡丹


  裏面板は木目のあまりはっきりしないものや節のあるものなどを矧いだ,やや低質の板。矧いだ枚数は不明だが10枚くらいか?

  中央上にラベル残欠。痕跡から推定される元のサイズは,37×25mm。


  側板は4枚接ぎ,材はおそらくクリ
  胴の接合部の歪み等はまあ見られません。
  国産の月琴としてはけっこう分厚いですね。

  棹や胴体のカドっこのあちこちがネズちゅーにカジカジされちゃってるほか,さしたる被害はないようですが…。


  まず,半月のポッケの中と透かし彫りのスキマに,なんにゃら白いワタのようなものが詰まってますね---虫のマユとかのカケラみたいな感じですが…(汗)
  ついでに前面がカジカジされてますね。ここは糸をかけるところですから,ちゃんと修理せんと。

  表面板の虫害は,この手前,絃停の貼ってあった付近に集中しています。
  いづれも大きめの虫孔で目立ちます。かなり食われちゃってるみたいです。


  それより何より----お気づきでしょうか?この表面板と裏面板の色の違い。

  表面板,まっ黄色ですねえ。

  しかも触るとなんか……ベトベトしています。

  油,ですね,こりゃ。
  それも楽器に使う乾性油のようなものではなくて,食用油の類みたいです。

  それもまあ……これでもか!とばかりどっぷり,と。(泣)

  表面はすでに油で飽和状態,板の芯までしみちゃってるみたいですよ。
  胴体上に残ってた象牙製のフレットなんか,油染みで少し透き通っちゃってますわ。

  棹や側板,裏板にはほとんど油染みがありませんから,おそらくは表板をヤったところで----

  「あ,ヤベっ!」

  ----とか気づいたんでしょうねえ。

  えー,よくネオクの古物屋さんが 「古い木製品は油で磨くと好い」 みたいなことを書いてますが---みなさん,覚えといてください!

  油拭きが「好い」かどうかは----モノに選ります。

  木によっては油磨きしちゃダメなものがあるのです。
  白木の類や桐なんかはその最たるもので,桐箪笥なぞは油のついた手では触らないものです。
  油染みができちゃうんですね。しかも容易には除けない。

  修理のとき,棹や側板を最終的に磨くのに亜麻仁油や荏油といった乾性油を使うんですが,このときも面板の木口はマスキングするし,面板表面には極力触らないように注意を払っております。それでも時々,指の痕がついちゃったりすることがありますね。指先に軽く残ったようなごく少量の油でさえ,時にはかなり目立つ染みになっちゃったりすることがあるんですよ。

  油のついた手では月琴を触らない---いいですか,約束ですよ!

  まあその割には庵主,カラアゲ食べながら月琴弾いてたりもしますが(これは慣れです(笑))。


  さて,油まみれのベトつき楽器,月琴24号。
  いかなる修理と相成ることか。

(つづく)


月琴23号・茜丸(3)

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斗酒庵 唐物かで悩む の巻2011.10~ 月琴23号・茜丸 (3)

STEP2 悩ましきその修理


  つまでも悩んでいてもしょおがないので,まずはできるとこからまいりましょう。
  いつものとおり,いつものとおり。
  フレットやお飾り類をはずします。お湯につけて湿らせた脱脂綿をのっけてしばらく置きましょう。
  頑強な部分はその上からラップでくるんで蒸らしてやるとよろしい。

  今回,茜丸のこの作業。珍しく,怒り心頭に達することもなくスムーズに終わりました。
  ボンドとかほとんど使われてなかったですね~再接着の痕跡もほとんどなく,だいたいがオリジナルの接着のままだったようです。保存状態はよろしいほうかと。


  ついで剥がれている面板の再接着へと入ったんですが,これがまあ結構タイヘンで。
  前回書いたようにこの月琴23号,胴体の主材はタガヤサン。もともと材質的に接着が難しいうえに,側板自体の厚みが最大でも5ミリ程度という超薄造り。そもそもくっつきにくいところへ「のりしろ」がせまいものですから,なかなか上手いきません。
  あっちをつければこっちがハガれ,こっちをつければあっちがハガれるてなもんで。
  接合部の歪みを矯正しながらの作業は三日間におよびましたとさ。
  ----なんとか,ネジふせました。(汗)


  さてお次が難題ですね。
  糸倉の割れ欠けをどうにかしなくてはなりません。

  いろいろと考えました。
  まずは常套として,割れ欠け部分にピタリとハマるよう板を削り出して……いやいやいや。
  技術的にこんな複雑な形,一発で削り出すのはムリですね。しかも糸倉の内側。作業にも道具にもかなりの空間的な制限がかかります。またそうした埋め木をピタリとハメこむには,どうしても欠けてる部分のほうもある程度均さなきゃならないのですが,すでに強度的な限界近くまで薄くなっている部分もあるので,そうした整形作業はちょっとしたものでもかなりの危険がともないます。
  今あるヒビ割れ部分を充填接着しつつ,このままの状態で表面をカバーする必要があります。
  しかもタガヤサンはよく暴れ,接着が困難なうえ,強度的には最強という厄介な木材。
  充填接着剤はタガヤサンに匹敵するほど強固でありながら,ある程度の歪みに耐えられるような粘りのある材料が望ましい。
  そう考えると,唐木の板にニカワあたりを使ったおざなりな修繕では,いかに精密に,キレイに直ったとしても,楽器として使用することを考えた場合には,強度的に物足りません。


  多少矜持にはずれるところ無きにしも非ずながら----エポキを使いましょう。
  まずは唐木の細かい粉を作ります。
  今回はタガヤサンの欠片やローズウッドを空砥ぎペーパーの擦り板で削りました。
  これを2液式のエポキの接着剤でよーく練って,木糞漆のような充填接着剤にします。
  エポキは作業が長時間に及ぶことも考えて,硬化時間が9時間のものを使いました。


  これをまず割れ欠け部分に塗り込みます。
  ちょっとするとさらに割れちゃいそうな細かなヒビのあるようなところには,エポキを少し多くしたものを擦りこみ,単なるくぼみやエグレ部分には薄く削った板を入れこみ,木粉を多くしたものを盛り上げます。
  凸凹が埋まったところで,表面をカバーするための黒檀の薄板を接着し,クランプで固定。
  9時間硬化ですが,異物を練りこんでいるので,用心のため数日放置しました。


  養生後,整形。余分な板を切り落とし,削って均します。
  一度の作業では埋まり切らなかった部分があったので,エポキの木粉パテ埋めはこの後数回くりかえされました。


  軸孔の内側にも灰色のパテの線が見えますよね。
  ここにもこんな細かい縦ヒビが入っていたんです。

  修理部分の整形のついでに,糸倉から棹の表面を覆っていた黒い塗料もハガしてしまいます。

  本物のタガヤサン特有の,上等の赤ワインみたいな深い色が,下から現れてきました。
  ほんと,何のために塗ったんだか。
  さらに磨き上げ,油で拭くと----



  うちゅくすい。

  充填補修した部分もそんなには目立たないし,大きなヒビ割れのあったうなじも,このくらいキレイに直りました。
  まあまあ上手くいったのではないか,と。(笑)

  さて,今回の修理はこの糸倉部分の補修が最大の主眼にして難関。
  ほかは部品も比較的揃っているし,深刻なところはありません。


  まずは軸削り。届いたときには三味線の糸巻きがささっていましたからね。
  軸は古式月琴でよくある,深いミカン溝の入った六角丸軸。材質はスダジイ。
  もー手慣れたもンですが,この作業も糸倉が直るまで安心して出来ませんでしたから。

  4本そろったところで,染めて油拭き古色付け。
  今回は軸も快心の出来です---とくに古色付けが(w)。



  山口はオリジナルをそのまま使います。フレットもオリジナルが残ってはいますが,かなり汚れているので新調することといたします。
  高音部のフレットも絃高にあわせて調整したので,オリジナルよりはいくぶん高めになってはいますが,山口が高く,棹も背側にしっかり傾いているので,もともとフレットの低音部はかなりの高さがあり,第1フレットから最終フレットまでの落差は約5ミリと,国産月琴と比べるとかなり大きなものになってます。
  しかし前回の清音斎でもそうだったんですが,これが意外と弾きにくくはないんですね。棹が短いせいもあるかもしれません。

  フレットもまた,軸と同じように染めて古色付けしておきます。







  あとはすべてを組上げて,完成!



  表裏面板のラベル痕には,庵主が修理ラベルを捏造してへっつけました。
  ドラゴンズ・ブラッドの持ち合わせはなかったんで,この赤色はスオウですが,何年かして褪せたらちょうどいいくらいかな?
  絃停はヘビ皮ではなく臙脂色の梅唐草の裂にしました。

  もともと美しい楽器,直して磨けばこの通りです。
  うむ,「美しい」ていうより,「可愛らしさ」がありますよね。
  採寸した上では,ほかの月琴と比べてもそれほど小さくはなかったんですが,なにか小さく感じてしまいます。
  おそらく糸倉が薄かったり,細工がこまかったりというところから,そう見えちゃうんでしょうが。


  まっぷたつだった蓮頭も継いだし,割れ欠けのあった糸倉背はこんなふうになりました。
  ちょっと見,分かんないでしょう。

(おわり)


月琴23号・茜丸(2)

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斗酒庵 唐物かで悩む の巻2011.10~ 月琴23号・茜丸 (2)

STEP1 小さくも悩ましい(2)

B)胴体部分

 ■ 側板

  側板の材は棹と同じくタガヤサン。
  4枚を凸凹接ぎ。
  最近修理した「清音斎」も同じ材質でしたが,持ち比べてみますと23号のほうが格段に軽い----なんと側板の厚みが最大でも4~5ミリしかないんですね。タガヤサンは丈夫な材料ですから,ここまで薄くても強度的には問題ありませんが,あの堅い木をこれだけ精密に加工するというのはこれまた大した腕前です。

  棹孔の裏面板がわに割レ。あとは接合部に少し歪みの出ている箇所があるほかはだいたい健全。


  パックリ逝ってますねえ----こちらは糸倉の損傷などと違って,衝撃か圧力による単純な損傷です。上にも書いたとおり側板が薄いとこにきて,この棹孔の裏板側の厚みは3ミリあるかないか。
  弱いとこですからねえ。
  こうなる原因はたいてい,楽器を床に置いて踏んづけたか,楽器の上に座っちゃったような場合ですね。同じような損傷を持った楽器がけっこうあるところを見ると,なんかそういうことしちゃいやすい環境,たとえば酒の席とか宴会の場,あるいはガキんちょが走り回ってるようなところで弾いたかでしょうか……まあ,それだけこの月琴というのが,庶民的で親しみやすいお手軽な楽器だったという証拠でもあるんですがね。(w)


  棹孔は細長くやや大きめ,棹を挿すと左右に1~2ミリほどのスキマが開きます。
  キレイに割れているので,修理はしやすそうです。

  正面から見て右上の接合部より棹孔付近までと,右下接合部から地の側板の半分くらいまで表裏面板がハガれてしまっています。
  タガヤサンは堅く密なので接着が難しいところにきて,この楽器の場合,側板が薄いので「のりしろ」にあたる部分がせまくてくっつきにくそうです。

  棹にもかけてあった黒い塗料が,ここにも塗られているようです。
  棹を黒くした以上,ここも黒くせんとアカんということなのでしょうが,タガヤサンはその色合いと木理の美しい材料。せっかくのその風合をわざわざ隠しちゃうなど,愚の骨頂----これもまた意味不明の加工,と庵主は思いますよ。


 ■ 表裏面板

  唐物の月琴では一枚板が多い,というのは前にも書いたとおりですが,清末のころの量産月琴には矧ぎ板を使ったものもあるようです。ただし日本の量産月琴のように5枚とか7枚とか(ちなみに最高記録は11枚)数多くの小板を矧いだものは少ないようです。また木目は,音響伝導の良さそうな柾目より,景色のある板目のものが多く用いられています。

  23号の表面板は「2枚矧ぎ」だと思われます。左側1/3にあまり木理のない別板を継いでますね。
  裏板は一枚板ですが,ほとんど木目のない柔らかそうな板。あまり上質なものではありません。おそらくは表面板の1/3に継いであるのと同じ板だと思われます。

  表面板中央と,裏板の右肩にラベル痕。
  さらに裏板の上端中央には墨書があります。棹茎と同じく「上拾二」
  表裏面板ともにヨゴレはそれほどでもなく,損傷はほとんどありません。


 ■ 半月/絃停

  絃停はニシキヘビの皮,83×74。上辺の左右を丸く落とし,やや小さめ。左がわが接着しなおされているようです……たぶん,ボンドで。

  半月も薄くて小さめですね。96×37×h9。外弦間:30mm,内弦間:22mm
  上面のやや平らな曲面タイプで,表面には蓮花と唐草が浮き彫り,糸孔には擦れどめに象牙の丸板が嵌め込まれています。
  ポケットになってる部分は幅40mm,加工は精緻で丁寧。
  ちなみにポケットの内側の面板には,国産月琴にあるような「陰月」----小さな空気孔はあけられておりません。


 ■ 山口・フレット・装飾類について


  左右目摂は鳳凰----といいますか正確には「鸞(らん)」ですね。彫りはやや稚拙,ガサガサした感じのする厚めの板で作られています。
  5・6フレット間に扇飾り。意匠はよく見る唐草というか万帯の変形。
  半月の意匠も含めて,清音斎のものと良く似ていますが,こちらの楽器のほうが多少凝ってるかもしれません。

  山口はオリジナル。黒っぽく汚れてますが(もしかすると棹を塗ったときに塗料がかかったのかもせん)材質はツゲ。唐物月琴によく見る背の高い富士山型で寸法は 29×12×h15。

  フレット,柱間飾りともにオリジナルと思われ,ほぼ損傷なく全部残っているのは珍しいですね。清音斎もそうでしたが,棹上の第1~3フレットまでは背が高いのですが,胴体上のフレットは低めです。

  山口の端を起点として各フレットまでの距離は----

4375103135163207227234

  フレットの幅は上から下まであんまり変わらないように見えますが,実際は高音になるほどわずかずつ長くなっています。
  棹上のが30,胴体上の第4フレットで32,最終フレットが37ミリですね。

  柱間飾りは清音斎と違って複数の意匠のものが並んでいます。やや黄色っぽい同じ材質の凍石で作られており,ザクロやモモといった吉祥果のほか,たぶん花やサカナと思われる典型的なパターンのもので構成されています。


C)内部構造



  例によって棹孔からの観察が中心で,完全なものではありませんが。

  内桁は1枚。胴体のほぼ中央に位置し,中央に棹茎の受け孔,右端のほうに響き線を通すための木の葉型の穴のあいているほか,音孔の類はありません。側板についでこの内桁の板も薄く,厚みは5ミリほど。材質は桐なのか松なのか…イマイチはっきり分かりません。表面はガサガサしており,荒板の状態のもののようです。

  響き線は楽器を正面から見て,棹の右横1センチくらいのところ,側板裏に直挿しされています。古式月琴に多い長い弧線ですが,内桁で塞がれてて先端がどこまで行っているのかは不明です。

  内桁の左端裏板がわに指示と思われる墨書きが見えるほかは,とくに署名や指示線などは見えません。

  ざんねん………内部にも作者への手がかりはありませんでした。


STEP2 23号の招待

  すでに書いたようにこの楽器,ラベルの痕はしっかりと残っているのですが,紙の部分がまったくなくなってしまっており,作者への手がかりがほとんどありません。


  ただし,そのラベル痕が裏板だけでなく表面板にもあるというのは,ちょと珍しい。

  裏板のラベルはよくある長方形短冊形ですが,表板のラベルのカタチが特に変わってますね。
  単純な四角でもなければ,良くある四角の上左右を斜めに落とした宝箱型でもない---上下の辺が波打っているような感じになっています。

  庵主,これまでいろいろと結構な数の月琴の画像を集めてきましたが,表板にラベルのあった例は数例もありません。
  その数例の中で,23号表面板のラベル痕にもっとも近いのは----


  このラベルの意匠は,むかしの本(折本---お経の本のように一枚紙を折って綴ったもの)を表したもののようです。
  14号玉華斎の半月の意匠なども,この類ですね。

  篆書なんで読みにくいですが,真ん中に「天華斎」とあります。しかしこの楽器は「天華斎」の作ではありません。
  『福州市志』などによると,清末民初のころの福州には,本家「天華斎楽舗」のほか,その流れを汲む店が何軒かあったようです。この楽器はその一つ「老天華」のもの。裏面のラベルには「茶亭/老天華」と書かれています。
  実見できた例はそれほどないのですが,「老天華」の楽器はほかの天華斎系の楽器やこないだ修理した「清音斎」などとくらべると,概して加工が丁寧でやや華奢な作りのものが多いようです。

  以上,表板のラベル痕が似ているってことと全体の工作・加工の印象じゃ大した証拠にもなりませんが----この23号,もしかすると「老天華」製の楽器,そんなに古いものではありませんが真正の「唐渡り」なのかもしれません。

(つづく)


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