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月琴23号・茜丸(2)

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斗酒庵 唐物かで悩む の巻2011.10~ 月琴23号・茜丸 (2)

STEP1 小さくも悩ましい(2)

B)胴体部分

 ■ 側板

  側板の材は棹と同じくタガヤサン。
  4枚を凸凹接ぎ。
  最近修理した「清音斎」も同じ材質でしたが,持ち比べてみますと23号のほうが格段に軽い----なんと側板の厚みが最大でも4~5ミリしかないんですね。タガヤサンは丈夫な材料ですから,ここまで薄くても強度的には問題ありませんが,あの堅い木をこれだけ精密に加工するというのはこれまた大した腕前です。

  棹孔の裏面板がわに割レ。あとは接合部に少し歪みの出ている箇所があるほかはだいたい健全。


  パックリ逝ってますねえ----こちらは糸倉の損傷などと違って,衝撃か圧力による単純な損傷です。上にも書いたとおり側板が薄いとこにきて,この棹孔の裏板側の厚みは3ミリあるかないか。
  弱いとこですからねえ。
  こうなる原因はたいてい,楽器を床に置いて踏んづけたか,楽器の上に座っちゃったような場合ですね。同じような損傷を持った楽器がけっこうあるところを見ると,なんかそういうことしちゃいやすい環境,たとえば酒の席とか宴会の場,あるいはガキんちょが走り回ってるようなところで弾いたかでしょうか……まあ,それだけこの月琴というのが,庶民的で親しみやすいお手軽な楽器だったという証拠でもあるんですがね。(w)


  棹孔は細長くやや大きめ,棹を挿すと左右に1~2ミリほどのスキマが開きます。
  キレイに割れているので,修理はしやすそうです。

  正面から見て右上の接合部より棹孔付近までと,右下接合部から地の側板の半分くらいまで表裏面板がハガれてしまっています。
  タガヤサンは堅く密なので接着が難しいところにきて,この楽器の場合,側板が薄いので「のりしろ」にあたる部分がせまくてくっつきにくそうです。

  棹にもかけてあった黒い塗料が,ここにも塗られているようです。
  棹を黒くした以上,ここも黒くせんとアカんということなのでしょうが,タガヤサンはその色合いと木理の美しい材料。せっかくのその風合をわざわざ隠しちゃうなど,愚の骨頂----これもまた意味不明の加工,と庵主は思いますよ。


 ■ 表裏面板

  唐物の月琴では一枚板が多い,というのは前にも書いたとおりですが,清末のころの量産月琴には矧ぎ板を使ったものもあるようです。ただし日本の量産月琴のように5枚とか7枚とか(ちなみに最高記録は11枚)数多くの小板を矧いだものは少ないようです。また木目は,音響伝導の良さそうな柾目より,景色のある板目のものが多く用いられています。

  23号の表面板は「2枚矧ぎ」だと思われます。左側1/3にあまり木理のない別板を継いでますね。
  裏板は一枚板ですが,ほとんど木目のない柔らかそうな板。あまり上質なものではありません。おそらくは表面板の1/3に継いであるのと同じ板だと思われます。

  表面板中央と,裏板の右肩にラベル痕。
  さらに裏板の上端中央には墨書があります。棹茎と同じく「上拾二」
  表裏面板ともにヨゴレはそれほどでもなく,損傷はほとんどありません。


 ■ 半月/絃停

  絃停はニシキヘビの皮,83×74。上辺の左右を丸く落とし,やや小さめ。左がわが接着しなおされているようです……たぶん,ボンドで。

  半月も薄くて小さめですね。96×37×h9。外弦間:30mm,内弦間:22mm
  上面のやや平らな曲面タイプで,表面には蓮花と唐草が浮き彫り,糸孔には擦れどめに象牙の丸板が嵌め込まれています。
  ポケットになってる部分は幅40mm,加工は精緻で丁寧。
  ちなみにポケットの内側の面板には,国産月琴にあるような「陰月」----小さな空気孔はあけられておりません。


 ■ 山口・フレット・装飾類について


  左右目摂は鳳凰----といいますか正確には「鸞(らん)」ですね。彫りはやや稚拙,ガサガサした感じのする厚めの板で作られています。
  5・6フレット間に扇飾り。意匠はよく見る唐草というか万帯の変形。
  半月の意匠も含めて,清音斎のものと良く似ていますが,こちらの楽器のほうが多少凝ってるかもしれません。

  山口はオリジナル。黒っぽく汚れてますが(もしかすると棹を塗ったときに塗料がかかったのかもせん)材質はツゲ。唐物月琴によく見る背の高い富士山型で寸法は 29×12×h15。

  フレット,柱間飾りともにオリジナルと思われ,ほぼ損傷なく全部残っているのは珍しいですね。清音斎もそうでしたが,棹上の第1~3フレットまでは背が高いのですが,胴体上のフレットは低めです。

  山口の端を起点として各フレットまでの距離は----

4375103135163207227234

  フレットの幅は上から下まであんまり変わらないように見えますが,実際は高音になるほどわずかずつ長くなっています。
  棹上のが30,胴体上の第4フレットで32,最終フレットが37ミリですね。

  柱間飾りは清音斎と違って複数の意匠のものが並んでいます。やや黄色っぽい同じ材質の凍石で作られており,ザクロやモモといった吉祥果のほか,たぶん花やサカナと思われる典型的なパターンのもので構成されています。


C)内部構造



  例によって棹孔からの観察が中心で,完全なものではありませんが。

  内桁は1枚。胴体のほぼ中央に位置し,中央に棹茎の受け孔,右端のほうに響き線を通すための木の葉型の穴のあいているほか,音孔の類はありません。側板についでこの内桁の板も薄く,厚みは5ミリほど。材質は桐なのか松なのか…イマイチはっきり分かりません。表面はガサガサしており,荒板の状態のもののようです。

  響き線は楽器を正面から見て,棹の右横1センチくらいのところ,側板裏に直挿しされています。古式月琴に多い長い弧線ですが,内桁で塞がれてて先端がどこまで行っているのかは不明です。

  内桁の左端裏板がわに指示と思われる墨書きが見えるほかは,とくに署名や指示線などは見えません。

  ざんねん………内部にも作者への手がかりはありませんでした。


STEP2 23号の招待

  すでに書いたようにこの楽器,ラベルの痕はしっかりと残っているのですが,紙の部分がまったくなくなってしまっており,作者への手がかりがほとんどありません。


  ただし,そのラベル痕が裏板だけでなく表面板にもあるというのは,ちょと珍しい。

  裏板のラベルはよくある長方形短冊形ですが,表板のラベルのカタチが特に変わってますね。
  単純な四角でもなければ,良くある四角の上左右を斜めに落とした宝箱型でもない---上下の辺が波打っているような感じになっています。

  庵主,これまでいろいろと結構な数の月琴の画像を集めてきましたが,表板にラベルのあった例は数例もありません。
  その数例の中で,23号表面板のラベル痕にもっとも近いのは----


  このラベルの意匠は,むかしの本(折本---お経の本のように一枚紙を折って綴ったもの)を表したもののようです。
  14号玉華斎の半月の意匠なども,この類ですね。

  篆書なんで読みにくいですが,真ん中に「天華斎」とあります。しかしこの楽器は「天華斎」の作ではありません。
  『福州市志』などによると,清末民初のころの福州には,本家「天華斎楽舗」のほか,その流れを汲む店が何軒かあったようです。この楽器はその一つ「老天華」のもの。裏面のラベルには「茶亭/老天華」と書かれています。
  実見できた例はそれほどないのですが,「老天華」の楽器はほかの天華斎系の楽器やこないだ修理した「清音斎」などとくらべると,概して加工が丁寧でやや華奢な作りのものが多いようです。

  以上,表板のラベル痕が似ているってことと全体の工作・加工の印象じゃ大した証拠にもなりませんが----この23号,もしかすると「老天華」製の楽器,そんなに古いものではありませんが真正の「唐渡り」なのかもしれません。

(つづく)


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