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24号松琴斎(2)

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斗酒庵 油まみれ! の巻2011.11~ 月琴24号 松琴斎 (2)

STEP2 続・油地獄松琴面板


  まあ,いろいろと薬剤も使って,油ヌキをしてみようとはしたんですが。
  なんせハンパないくらい使われちゃってるもンでまあ,油が滲みこんじゃってて,どげにもこげにも…

  ----ご覧ください。
  洗浄液が油分で濁って,真っ白に乳化しました。

  このまま固めたらセッケンが出来そうです。(泣)

  油滲みだけでなく,虫食い穴のほうも,ホジっくってたら際限がなくなりました。


  半月の裏なんか完全にエグられてます----半月の透彫りのスキマに詰まってたあの白い綿毛のようなものは,やはり虫のマユだったみたいです。サナギのカケラも出てきたもんね。(汗)

  虫の食害は,絃停付近だけでなく内桁の接着部や周縁部など,ニカワの使われている部分全般に及んでおり,あっちもこっちもかなり縦横無尽に食べられて,スカスカになっていました。

  これ以上ホジると板がボロボロになりそうですし,度重なる洗浄や薬剤による側板や内部構造への影響も心配ですので----


  エイッ!

  こういう時,ふだんから乱暴な修理をしてますと非難が少なくてイイですね。(ほんとうにイイのか?)
  ひさしぶりに張替え修理---ここまで大々的なのはええと,9号早苗ちゃん以来でしょうか。

  おかげでひさしぶりに月琴の内部構造がノゾけました。


  上桁:棹孔の上辺から 135mm,中央に棹茎の受け,左右にツボギリでえぐった音孔が一つづつ。
  下桁:同じく 285mm。
  いづれも左右端を側板裏に単純接着,上桁は左右に木片による支えあり。

  響き線:弧線1本,基部は楽器に向かって右側,上桁を支える木片に四角釘で固定。
  基部と先端付近にややサビ浮くも健全。焼きは甘いが反応は上々。


  第一回でも言ったようにこの楽器,材質や構造の点では以前修理した東京の老舗・唐木屋の楽器に近いのですが,側板内側や内桁のガサつき加減などは唐木屋の比じゃありませんね。見えないと思ってまあ雑なこと。


  とくに何ですか,この情けない上桁の支えは?

  ----左側のですね。わたしも端材を大切にとっとくほうですが,いくらなんでもこりゃナイかなあ。
  下桁も若干,取付が斜めになってるみたいですね。おまけに音孔もないただの板です。

  まあ師弟で何千本って数作ってるんですから,しょうがない,っちゃあしょうがありませんが。

  それでもご覧ください----表面板との接着面の左右端をわずかながら切り落としてあります。
  何度も書いているように,庵主にはいまだこの理由が分かりかねるのですが,ここまでテキトウな加工をしていながら忘れてないところを見ると,やっぱり何かあるんでしょうね。
  ただしこの楽器の場合,ニカワの盛りすぎで4箇所のうち半分がほとんど埋まっちゃってましたから,何か「理由」があったとしても,「効果」のほうがちゃんとあったとも思えないのですが(笑)。


  裏板のほうは油も使われておらず,虫害も少なくて。もっとも被害のある片方の端を切除するのと,1~2箇所をエグった程度で済みました。

  両面張替えとまではならず,まずは不幸中のサイワイ。


STEP3 立枯棹還魂阿仙染(かれざおよみがえりのあせんぞめ)


  さて,棹なんですが----

  糸倉や指板の角をあちこちカジられちゃってるほか,あまり被害はないものの,一番下の軸孔に少しヒビが入ってしまっておりました。このまま修理しても使えなくはないとは思いますが,保存状態の悪さから若干木そのものが枯れて劣化しており,修理してもあまり寿命は長くなさそうです。

  21号に次いで,複製することとしましょう。
  もっとも例によって3ピースの寄木細工になっちゃいますが。

  材料は前と同じく,カツラの板とサクラ。
  サクラの板を中心にして,左右にカツラを貼ります。


  同時進行で1号月琴の棹も作ってたんですが,おかげでいくつか面白いことに気がつきました。

  関東の作家さんでは,棹の断面は図左のような,背の丸まったタイプの棹が多いんですね。
  そして棹背は直線的で,棹の太さ,というか厚み自体は,糸倉との付根から胴体接合部まであまり変わりません。
  実用本位,質実剛健,といったとこでしょうか。

  これに対し,関西の作家さんの作風は多様です。
  ただ棹に限って言うなら,傾向として,断面はもうちょっと四角張っているか,もしくは胴体接合部の手前で四角くなり,棹背にアールがついていたりして,関東の月琴の棹に比べるとやはり,どことなく優雅なフォルムのものが多いようです。


  24号の棹は一見,普及品の実用月琴にありがちな平凡なデザイン。
  製作者は前回も書いたとおり大阪の方,棹背そのものはほとんど直線的ですが,やはりほんのわずかながらアールがついており,胴体との接合部手前で少し立ち上がっています。
  そして断面が図右のように,棹背に向かってすぼんでるのです。
  ギターでいうところのUシェイプとVシェイプみたいですね。
  棹自体がやや短めなこともあって一見すると少し太めに見えるんですが,実際に握ってみると,意外と細身に感じます。

  これはこれで考えられたデザインのようですね。
  明治後半,月琴の弾き手は子どもや手の小さな女性が多かったので,受けたかもしれません。

  棹を複製するときは,たんに測って寸法を写すだけでなく,立体としてのオリジナルを触り,なぞりながら作業をします。でなきゃこんなところは,いつものようにただ修理してただけでは気づかなかったかもしれませんね。


  今回の棹は「カテキュウ」というものを使って染めてます。

  左画像,棹の手前にある黒いカタマリがその材料。
  アセンともいうこの染料は,南洋の植物の汁を煮しめたエキスで,お湯で簡単に溶けます。
  その煮汁で染めるわけですが,主な成分はふだん使ってるヤシャブシなんかと同じタンニン。セルロース類との相性が良いとかで,木材表面へもよく浸透します。日本でも江戸時代にはもう薬・染料として輸入されていたそうで,月琴でも茶系の染めのものにはかなり使われているみたいです。

  仁丹の主成分の一つだ,なんて記事も読んだなあ。
  こんどちょっと齧ってみましょう。

  糸倉の長いほうが1号の棹。こちらには赤味を出すためスオウも使ってるんですが,色の違い,分かるかなあ?

(つづく)


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