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24号松琴斎(1)

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斗酒庵 油まみれ! の巻2011.11~ 月琴24号 松琴斎 (1)

STEP1 油地獄松琴面板(あぶらじごくまつことのつらいた)



  23号とほぼ同時に始めたのですが,2012年4月現在,まだ修理中であります。

  おお,修理報告がゲンジツに追いつくのは久しぶりだ!

  出品者の写真を見て,楽器のスタイルや意匠から,唐木屋さんあたりの作かなあ,と思っていたのですが----



  こういうラベル,というかその残欠が背にございました。
  四方角を落とした長方形の小さめなラベルで3文字。


  さて,読めます?


  答えはこれ。

  大坂の作家さんで 「松琴斎」 の商標ですね。
  左画像は,以前ほかの楽器についてたラベル。



  明治40年の『関西実業名鑑』「西洋楽器之部」に 「北区老松町 明清楽器諸楽器製造販売 松琴斎 伊杉堂」 とあるお店の楽器ですね。明治後半,関西方面ではそこそこの大手だったらしく,けっこうな数の楽器が残っているようです。

  同じ系列と思われる作家さんに,以前修理したことのある 「松音斎」 というヒトがおります。
  ラベルはほぼ同じ,ただ二文字目が「音」になっているだけです。


  楽器の寸法やフォルムなどもかなり近いのですが,腕前は松音斎のほうがやや上手で作りも丁寧----もしかするとお師匠さんなのかもしれません。

  前にもちょっと書いたことがあるかと思いますが,「松音斎」の楽器には「第貮千四百九十五号」という札が貼ってあるものがあります。
  裏板の墨書に「辛巳」とあるので,こちらは「松琴斎」より少し前,明治10年代前半に活躍した作家さんだと考えられますが,本当だとしたらこの二人だけで,一体どれだけの数作ったのやら。(汗)




  さて,まずは採寸。

  全長: 628mm

  棹 全長:275mm (茎長:195mm,棹茎を含む長:470mm)
  うち糸倉部分:155mm 指板部分 長:14mm 幅:30(最大)/24(最小)mm 
  棹本体太さ:30(最大)/26(最小)mm 

  胴 縦:355/横:358mm 厚:40mm (うち表裏面板厚各 4mm)
  有効弦長:402mm (山口欠損のため推定)


  蓮頭は欠損。
  棹部分の材はおそらくホオ,本体部分の茶色はおそらくカテキュウで染めたもの。
  糸倉はやや短めですが,アールがやや深くとってあり,まとまりの良い姿をしています。

  軸は3本残。一本,先端が痩せたのかやや噛合せの悪いのがありますが,おそらくオリジナル。
  長:115mm,最大径:27mm。六角一本溝で材質はホオかカツラ。

  指板の厚さは1mm,材はおそらく紫檀
  棹茎基部の表面板側に「拾」と墨書があります。


  棹上のフレットは全損,糸倉や棹横の数箇所にネズミの齧った痕が数箇所。



  表面板はほぼ柾目。目摂の意匠は「鸞」,扇飾りは「万帯」

  中央から半月にかけて数本ヒビ。虫害数箇所。

  半月:101×40×h10mm。外絃間:33/内絃間:25mm。
  唐木屋の楽器(9号,18号の記事参照)などとほぼ同様の意匠で,おそらく牡丹


  裏面板は木目のあまりはっきりしないものや節のあるものなどを矧いだ,やや低質の板。矧いだ枚数は不明だが10枚くらいか?

  中央上にラベル残欠。痕跡から推定される元のサイズは,37×25mm。


  側板は4枚接ぎ,材はおそらくクリ
  胴の接合部の歪み等はまあ見られません。
  国産の月琴としてはけっこう分厚いですね。

  棹や胴体のカドっこのあちこちがネズちゅーにカジカジされちゃってるほか,さしたる被害はないようですが…。


  まず,半月のポッケの中と透かし彫りのスキマに,なんにゃら白いワタのようなものが詰まってますね---虫のマユとかのカケラみたいな感じですが…(汗)
  ついでに前面がカジカジされてますね。ここは糸をかけるところですから,ちゃんと修理せんと。

  表面板の虫害は,この手前,絃停の貼ってあった付近に集中しています。
  いづれも大きめの虫孔で目立ちます。かなり食われちゃってるみたいです。


  それより何より----お気づきでしょうか?この表面板と裏面板の色の違い。

  表面板,まっ黄色ですねえ。

  しかも触るとなんか……ベトベトしています。

  油,ですね,こりゃ。
  それも楽器に使う乾性油のようなものではなくて,食用油の類みたいです。

  それもまあ……これでもか!とばかりどっぷり,と。(泣)

  表面はすでに油で飽和状態,板の芯までしみちゃってるみたいですよ。
  胴体上に残ってた象牙製のフレットなんか,油染みで少し透き通っちゃってますわ。

  棹や側板,裏板にはほとんど油染みがありませんから,おそらくは表板をヤったところで----

  「あ,ヤベっ!」

  ----とか気づいたんでしょうねえ。

  えー,よくネオクの古物屋さんが 「古い木製品は油で磨くと好い」 みたいなことを書いてますが---みなさん,覚えといてください!

  油拭きが「好い」かどうかは----モノに選ります。

  木によっては油磨きしちゃダメなものがあるのです。
  白木の類や桐なんかはその最たるもので,桐箪笥なぞは油のついた手では触らないものです。
  油染みができちゃうんですね。しかも容易には除けない。

  修理のとき,棹や側板を最終的に磨くのに亜麻仁油や荏油といった乾性油を使うんですが,このときも面板の木口はマスキングするし,面板表面には極力触らないように注意を払っております。それでも時々,指の痕がついちゃったりすることがありますね。指先に軽く残ったようなごく少量の油でさえ,時にはかなり目立つ染みになっちゃったりすることがあるんですよ。

  油のついた手では月琴を触らない---いいですか,約束ですよ!

  まあその割には庵主,カラアゲ食べながら月琴弾いてたりもしますが(これは慣れです(笑))。


  さて,油まみれのベトつき楽器,月琴24号。
  いかなる修理と相成ることか。

(つづく)


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