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月琴23号・茜丸(3)

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斗酒庵 唐物かで悩む の巻2011.10~ 月琴23号・茜丸 (3)

STEP2 悩ましきその修理


  つまでも悩んでいてもしょおがないので,まずはできるとこからまいりましょう。
  いつものとおり,いつものとおり。
  フレットやお飾り類をはずします。お湯につけて湿らせた脱脂綿をのっけてしばらく置きましょう。
  頑強な部分はその上からラップでくるんで蒸らしてやるとよろしい。

  今回,茜丸のこの作業。珍しく,怒り心頭に達することもなくスムーズに終わりました。
  ボンドとかほとんど使われてなかったですね~再接着の痕跡もほとんどなく,だいたいがオリジナルの接着のままだったようです。保存状態はよろしいほうかと。


  ついで剥がれている面板の再接着へと入ったんですが,これがまあ結構タイヘンで。
  前回書いたようにこの月琴23号,胴体の主材はタガヤサン。もともと材質的に接着が難しいうえに,側板自体の厚みが最大でも5ミリ程度という超薄造り。そもそもくっつきにくいところへ「のりしろ」がせまいものですから,なかなか上手いきません。
  あっちをつければこっちがハガれ,こっちをつければあっちがハガれるてなもんで。
  接合部の歪みを矯正しながらの作業は三日間におよびましたとさ。
  ----なんとか,ネジふせました。(汗)


  さてお次が難題ですね。
  糸倉の割れ欠けをどうにかしなくてはなりません。

  いろいろと考えました。
  まずは常套として,割れ欠け部分にピタリとハマるよう板を削り出して……いやいやいや。
  技術的にこんな複雑な形,一発で削り出すのはムリですね。しかも糸倉の内側。作業にも道具にもかなりの空間的な制限がかかります。またそうした埋め木をピタリとハメこむには,どうしても欠けてる部分のほうもある程度均さなきゃならないのですが,すでに強度的な限界近くまで薄くなっている部分もあるので,そうした整形作業はちょっとしたものでもかなりの危険がともないます。
  今あるヒビ割れ部分を充填接着しつつ,このままの状態で表面をカバーする必要があります。
  しかもタガヤサンはよく暴れ,接着が困難なうえ,強度的には最強という厄介な木材。
  充填接着剤はタガヤサンに匹敵するほど強固でありながら,ある程度の歪みに耐えられるような粘りのある材料が望ましい。
  そう考えると,唐木の板にニカワあたりを使ったおざなりな修繕では,いかに精密に,キレイに直ったとしても,楽器として使用することを考えた場合には,強度的に物足りません。


  多少矜持にはずれるところ無きにしも非ずながら----エポキを使いましょう。
  まずは唐木の細かい粉を作ります。
  今回はタガヤサンの欠片やローズウッドを空砥ぎペーパーの擦り板で削りました。
  これを2液式のエポキの接着剤でよーく練って,木糞漆のような充填接着剤にします。
  エポキは作業が長時間に及ぶことも考えて,硬化時間が9時間のものを使いました。


  これをまず割れ欠け部分に塗り込みます。
  ちょっとするとさらに割れちゃいそうな細かなヒビのあるようなところには,エポキを少し多くしたものを擦りこみ,単なるくぼみやエグレ部分には薄く削った板を入れこみ,木粉を多くしたものを盛り上げます。
  凸凹が埋まったところで,表面をカバーするための黒檀の薄板を接着し,クランプで固定。
  9時間硬化ですが,異物を練りこんでいるので,用心のため数日放置しました。


  養生後,整形。余分な板を切り落とし,削って均します。
  一度の作業では埋まり切らなかった部分があったので,エポキの木粉パテ埋めはこの後数回くりかえされました。


  軸孔の内側にも灰色のパテの線が見えますよね。
  ここにもこんな細かい縦ヒビが入っていたんです。

  修理部分の整形のついでに,糸倉から棹の表面を覆っていた黒い塗料もハガしてしまいます。

  本物のタガヤサン特有の,上等の赤ワインみたいな深い色が,下から現れてきました。
  ほんと,何のために塗ったんだか。
  さらに磨き上げ,油で拭くと----



  うちゅくすい。

  充填補修した部分もそんなには目立たないし,大きなヒビ割れのあったうなじも,このくらいキレイに直りました。
  まあまあ上手くいったのではないか,と。(笑)

  さて,今回の修理はこの糸倉部分の補修が最大の主眼にして難関。
  ほかは部品も比較的揃っているし,深刻なところはありません。


  まずは軸削り。届いたときには三味線の糸巻きがささっていましたからね。
  軸は古式月琴でよくある,深いミカン溝の入った六角丸軸。材質はスダジイ。
  もー手慣れたもンですが,この作業も糸倉が直るまで安心して出来ませんでしたから。

  4本そろったところで,染めて油拭き古色付け。
  今回は軸も快心の出来です---とくに古色付けが(w)。



  山口はオリジナルをそのまま使います。フレットもオリジナルが残ってはいますが,かなり汚れているので新調することといたします。
  高音部のフレットも絃高にあわせて調整したので,オリジナルよりはいくぶん高めになってはいますが,山口が高く,棹も背側にしっかり傾いているので,もともとフレットの低音部はかなりの高さがあり,第1フレットから最終フレットまでの落差は約5ミリと,国産月琴と比べるとかなり大きなものになってます。
  しかし前回の清音斎でもそうだったんですが,これが意外と弾きにくくはないんですね。棹が短いせいもあるかもしれません。

  フレットもまた,軸と同じように染めて古色付けしておきます。







  あとはすべてを組上げて,完成!



  表裏面板のラベル痕には,庵主が修理ラベルを捏造してへっつけました。
  ドラゴンズ・ブラッドの持ち合わせはなかったんで,この赤色はスオウですが,何年かして褪せたらちょうどいいくらいかな?
  絃停はヘビ皮ではなく臙脂色の梅唐草の裂にしました。

  もともと美しい楽器,直して磨けばこの通りです。
  うむ,「美しい」ていうより,「可愛らしさ」がありますよね。
  採寸した上では,ほかの月琴と比べてもそれほど小さくはなかったんですが,なにか小さく感じてしまいます。
  おそらく糸倉が薄かったり,細工がこまかったりというところから,そう見えちゃうんでしょうが。


  まっぷたつだった蓮頭も継いだし,割れ欠けのあった糸倉背はこんなふうになりました。
  ちょっと見,分かんないでしょう。

(おわり)


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