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24号松琴斎(3)

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斗酒庵 油まみれ! の巻2011.11~ 月琴24号 松琴斎 (3)

STEP4 嗜好の世界


  複製棹がほぼ完成したので,オリジナルの茎を移植します。
  外に出ていた棹の本体部分は,枯れ木のようにスカスカのパサパサ状態になってしまっているのですが,胴内にあったこの部分は劣化していません。
  まあ茎ぐらい新しく作ってもいいのですが,少しでもオリジナルを残しておきたいですしね。

  棹の基部を水を含ませた脱脂綿でくるみ,約二日。


  ようやくはずれました----かなり雑な内部構造の24号ですが,ここの接合の工作だけは,かなりきっちりとしたものでした。接着面のニカワはまだ活きていて,このまま挿せばまだ何度でもくっつきそうです。

  複製した棹基部の刻みを調整するのに三日ばかりかかりましたが,なんとかオリジナルと同じようにくっつきました。(ぜったい新しいの作ったほうが早かっただろうなあ-笑)
  さすが「移植手術」だけに,非常に微妙かつ精緻なる作業となりましたねえ。


《閑話休題--内部構造と棹茎の長さについて》

  24号の茎はやや長め。上桁がそれだけ中央に寄って配置されているということですね。

  作家さんにもよりますが,明治初期の国産月琴ではまだ唐物の影響が強く,内桁も一本だったりするので,棹茎は長めのものが多いようです。明治後半の山田縫三郎や石田不識の楽器では,上桁がもう少し上になり,棹茎は比較的短くなっています。

  この変化の原因としては,響き線の形状の変化が考えられます。唐物月琴や初期の国産月琴の響き線には,楽器の肩あたりから出て,ほぼ内側を半周するような長い弧線が使われていましたが,次第に楽器中央に位置する直線や曲がりの浅い弧線が主流になってきます。

  国産の月琴が普及してゆく過程で,なぜ前者が廃れるようになっていったのか,理由は今ひとつ分かりませんが,こうした響き線の振動の方向や幅の違いが,内部構造の変化に影響しているだろうことは考えに難くありません。


  24号は明治の後期に作られたものと推定されますが,この内部構造や短めの棹,厚い胴体などには,まだ若干唐物の影響が残っています。
  ただしこれは時代的な潮流とは関わりなく,おそらくは作り手の伝系の影響でしょう。第一回目で書いたように「松琴斎」の少し前に「松音斎」という作家さんがおり,加工の精度は異なりますが,全体の構造や寸法,内桁の配置(下桁が傾いてるとこまで!)などがかなり似通っていて,たぶん関係があると思われますので。



  さて,虫食いだらけ油まみれの表板をひっぺがしたので,代わりの板を貼りつけます。

  おっと,その前に。

《閑話休題2--表面板の材質について》

  面板の楽器内側の部分にはヤシャブシ等による染めが施されておらず,板の矧ぎ目が見分けやすいので数えてみたんですが……すごいですね,表裏同じく,なんと12枚もの板を継いでいます。
  小板をつなぐ手間を考えたら,矧ぎの少ない板よりかえって高くつくんじゃないかとも思いますが,石田不識の1号でも10枚くらいは矧いだのを使ってますから,当時はそれほど珍しいことではなかったのかもしれません。

  面板の桐板は,唐物では一枚板が多いということも,前何度か書きましたよね。
  国産の月琴では,この表面板の質にも時代的な変遷が若干存在しています。
  すなわち唐物から比較的初期の国産楽器では板目の板が多く,お箏などと同様それを一種楽器の「景色」として鑑賞したり,特定の板目を製作者の個性のように使っていた感もあるのですが,明治後期の楽器ではほとんどが柾目の板が使用されるようになっています。
  板目ですと,木目がうまくつながるように一枚の板にするのも大変なので,矧ぎの枚数は多くても5~6枚程度ですが,柾目の板の場合は直線的なので簡単なのか,この楽器の板のように矧ぎの枚数が格段に増えてきます。

  ギターやバイオリンなんかの例にあてはめて考えれば,弦楽器としての共鳴板,音色的にはある意味いちばん大切な箇所である表面板に,音伝導の良い柾目板が好まれるようになったというのは理解できるものの,月琴の場合,共鳴空間自体が小さいので,実際には柾目板と板目板の間にさほど顕著な音色上の格差は生じません。
  また,単純に見た目が「柾目」とは言っても,これだけ多くの小板を継ぎ接ぎしたものが,果たしてどれだけ柾目としての特性を発揮できるのかについても疑問があります。

  そこからするとこの変化もやはり,一本桁から二本桁が主流となっていったのと同様,中日職人間の感性とか嗜好の違いとかいうものの影響のほうが強かったのじゃないかと思いますね。


  代えの板は以前ウサ琴の製作用に購入した桐板。
  ちなみにこちらは,ほぼ柾目なところは同じで3~4枚矧ぎ程度----オリジナルよりは上等ですね。
  少し大きめに切りだして,胴体に貼りつけます。

  この板,欠点といえば1ミリ程度厚いことで。
  さて以前にも書いたと思いますが,棒や角材を削るのと違って,板の面を削って薄くするのはけっこう大変な作業です。
  桐板は木材の中ではごく柔らかい部類ですが,これを手道具だけで1ミリ薄くするのですよ。

  やってみぃ。
  SAN値だだ下がりしますからね!

  さて,木は濡らすと柔らかくなります,柔らかくしたところで加工すると少しはラクになるわけで---
  「楽器の板」の加工としてはかなりギリギリな手段となりますが,今回はその方法でいってみました。
  板の表面にハケでさッと水を含ませ,半丸の鬼目ヤスリで繊維に対して垂直方向へキズをつけ,アラカンなどで均してゆきます。


  あまり水分が滲みちゃうと厄介なので,ハケで刷いてはタオルで拭き取り,滲み過ぎないうちにその層を削り取る…なんか曲芸みたいなことをくりかえすこと約4時間。オリジナルの板とほぼ同じ厚みになったところで終了。

  上が24号の加工済み表板,下は同時修理中の1号月琴の裏板,未加工。
  こんくらい削ったんですが……後遺症として二日ばかり,腕が上がらなくなりましたとさ。(泣)


  粗削りの終わった表面板はさらに,長めの角材にペーパーを貼った特大の紙ヤスリブロックで表面を均し。
  周縁を整形して,オリジナルの板から陰月(空気穴)の位置を写し,穴を一つあけておきます。
  24号のはやや小さめで,直径5ミリ程度でした。


(つづく)


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