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25号しまうー(仮)
G025_01.txt
月琴25号 しまうー(1)
STEP1 しましましまの陰謀
さて,なんだかこのところ壊れて帰ってくる楽器やら,過去の亡霊やらが多くて,修理報告もなかなかつぎに進めない感じです。
現在,工房にはこのあいだ修理した24号を含め,自腹で購入した資料用の月琴が5面ばかり転がっております。
今期はけっこう製作者の判明している楽器が多いので,修理過程からは,国産月琴の時代的変遷や,明治工人の技巧や製作状況を考えるのに良いデータがいろいろ得られるとは思うのですが,もうすぐ夏になるとニカワも腐っちゃうし,暑くてまともな修理もできなくなるので,いくつかの楽器については,先に基本的なデータだけを公開しておこうと思います。
まず25号から,仮に付けた銘は「しまうー」。
[採寸]
全長:628 胴径:350 胴厚:41
棹 全長:446 糸倉:160 基部-茎先端:173
指板相当部分の最大幅:30,最小幅:28
糸倉の先端で幅:35
山口下縁から各フレット下縁までの間隔:
1)45 2)75 3)105 4)135 5)164 6)209 7)234 8)262
有効弦長:404
蓮頭欠損。糸倉の接着面と思われる部分に白色の付着物。部材には及んでいませんが,その付着物の表面に虫の食害痕無数。
軸はおそらくトチ。4本存。山口はおそらく紫檀製,高さ11.5。
棹材は不明。クリのような木目なのですが,比重が重く,硬いことから,
タモの類
ではないかと思われます。
棹茎の延長材はおそらくヒノキ,表面に中心線,根元に 「八」 と墨書。
胴体の側板は16号と同様の虎杢のトチ----
と見えますが,
外側に厚さ1ミリほどのツキ板をめぐらせたもの。
ですので,胴体側部には部材の接合部が見えません。
楽器下縁部に,そのツキ板が内材から剥離してわずかに浮いている部分があります。
表裏面板には玉杢の浮いた複雑な木理の桐板が使用され,裏面に刻書
「雅不俗之楽不淫/是月琴乎/玩音堂主人」
。
「玩音堂主人」については現在のところ不明。鋭意調査中ですが,作者というわけではなさそうですね。
フレットは棹上のものも胴上のものも煤竹ですが,当初品かどうかは不明。
第2フレットは後補,第3フレット欠損。
目摂は庵主が
「獣頭唐草」
と呼んでいるタイプのものですね。先のとんがった,一見ただの植物紋様のようですが,中央あたりによく獣の頭部や開いた口になったような部分があります。おそらくは雲龍紋とかの一種だと思いますが,定かではありません。
扇飾りはなく,小さな菊花の彫り物が付いています。ほかに柱間飾りなどが付いていたかどうかは不明。少なくともはっきりとした痕跡は見当たりません。
半月は小さく,半葉形で,上面だけを平らにした曲面板タイプ。100×35×h8。装飾はありません。
このカタチは唐物もしくは倣製の廉価版月琴に類例が多いですね。
糸孔の間隔は意外と狭め。外弦間:29,内弦間:24,内外弦間:約3
どうしたわけかヒドく虫害に食われていて,ボロボロにされています
----ほら,ポロリっと
(うわあぁあああっ!)。
面板のほうはそんなに食われていないのに,ここだけというのもちとフシギですね。
カツブシででもできてるのかしらん?
絃停はなにやら更紗の類のように見えますがどうでしょう?
比較的初期のころの国産月琴と思われます。
蓮頭が正面を向くほどアールのキツい糸倉,絶壁になった糸倉うなじ,やや厚い側板----材質は異なりますが,これと良く似た工作の楽器をほかに二面ほど見たことがありますので,あるていど流通していた作家の楽器だと考えられます。
上にも述べたように,側板は見た感じいかにも高級そうな虎杢のトチ,なのですが,それにしては16号に比べ格段に軽い----ので,あらためて観察してみたら。内材はなんと,
ヒノキかサワラ
と思われる針葉樹で出来ていました。
しかも棹孔から観察した限りにおいて,この内部構造は,一般的な月琴で見られるような,いくつかの部材を組み合わせて円形にする工法ではなく,厚さ5ミリほどの一枚の板材を撓めた,
曲げ木で作られている
ようです。
側部内面の棹孔直下,楽器の下縁の中心に,その接合部と思われる筋が確認できます。
この報告書でも何度か書いてきましたが,一部の音楽・楽器解説書には「月琴の胴体は板を撓めた,曲げ木で作られている」とあるものの,古い唐物もふくめほとんどの月琴は,一般的に円のちょうど1/4になるような部材を板や角材から切り出し,それを組み合わせることで円形の胴体を作り上げています。
「清音斎」の時に紹介した,舞台の小道具と思われる楽器(?)なども胴体は薄いスギかヒノキの曲げワッパで出来ていましたが,それにしろ本楽器の例にしろ,いままで庵主が
「誤謬」
としてきた,月琴の構造に関する説をひっくりかえせるようなものではなく,むしろこの楽器としては
かなり特殊な工法例
であると考えられますが,
マジ,曲げ木で作ってあったのを確認したときには,正直,驚きましたねえ。
庵主の実験楽器,ウサ琴の胴体もスプルースを円形に曲げた加工材で出来てますが,100年前にほぼ同じことをしていた作家がいたわけですねえ----ある意味感動です。
凝った材質,凝った工法で作られてはいますが,楽器としては
「お飾り」
に近い部類のようです。
絃停の周りにバチ痕はなく,山口や,ボロボロにはなっていますが半月にも,糸擦れのような使用痕はほとんど見られません。
庵主のウサ琴から考えて,内材がヒノキやサワラであっても,工夫してあればそれそこ楽器としては成立するのは分かってますが,さて,弦を張ってほんとにちゃんと音が出るのやら。
蓮頭の接着部と裏面板のヒビ割れ周辺,そのほか側板と面板の剥離箇所などに
白っぽい物体
が付着しています。
なんでしょうねえ……木工パテの類でしょうか?…胡粉のようにも見えますが。
修理としては,これらを除去するのが大変そうなほか,半月を再製作しなければなりませんね。
しかし,全体としては欠損部品も少ないほうで,さほどの苦労はなさそうです。
国産月琴の古い型であることは間違いなく,内桁に丸孔をいくつも穿つなどの点が江戸時代に作られた13号(西久保石村作)に似てなくもないので興味はあるのですが,曲げ木の内部構造や,先に書いた木工パテのような物質の付着をふくめ,いくつか気になる点があるため,本格的な作業に入るのは少し調べてからにしたいですね。
よって,この楽器の修理はとばして,次回からは26号以降の修理報告を先行させてまいります。
(つづく)
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