26号菊芳3(4)
![]() STEP4 半分の月がのぼる空 今回の修理最初の,かつ最大の難所を越えたところで,さて次とまいりましょう。 こまごまと,色々なものを修理したり,作ったり。 ![]() まずは半月の補修から。 第一回の記事でも書きましたが,どうやら古物屋さんが琵琶の弦を通すため,半月の糸孔をグリグリっと広げちまったらしく,高音側の糸孔がちょっとカワイそうなことになってしまっております。 まあもちろん,このボサボサになった加工痕をヤスリかペーパーで均す程度でも,使用上さほどの支障はナイとは思われますが,この斗酒庵,そんな手抜きはできませぬ!(エラそーに…) ![]() ![]() ![]() ![]() まず用意するのはコレ。 象牙の端材,ですね。5ミリ角ほどのものを削って,丸棒をこさえます----んでそれにコウ… ドリルで穴をあけ,パイプ状にするんですね。 次に傷んだ糸孔の周縁を,ドリルでエグります。 貫通しないぐらい,0.8ミリくらいの深さになったところに,先ほどの象牙パイプを輪切りして---- ----埋め込む,と。 糸孔が広がるのをふせぐ手段として,月琴でもよく使われる工作ですから,まあやって悪いことはありますまい。 ニカワで接着固定したら,平らに均して,作業箇所を補彩しておきます。 ほい,まずひとつ完了。 ![]() ちなみに修理作業のため絃停の布をハガしたら,裏打ちの紙としてこんなのが出てきました。 庵主ミミズ(草書)が読めないため,何が書いてあるのかまったくですが……手紙かな?…何かの注文表かな?……読める方いましたら教えてくださいな。 ![]() おつぎは糸倉の鼠害の補修です。 「鼠害」…要するにネズミがガジガジっと齧った痕ですね。 糸倉左右の根元のあたり,弦池の左右が齧られています。 いづれも糸倉の強度に影響するほどのキズではないのですが,楽器に向かって左のほうが少し目立つくらいなので,補修しておきましょう。 ガタガタになっている齧り痕をヤスリで少し均し,カツラの端材を削って接着します。 場所が曲面なので,少し固定しにくかったですね。 補修材をマスキングテープで軽く巻いて止め,その上からゴムをかけて圧着固定しました。 あとは乾いたら整形っ……と。 ![]() ![]() おつぎ,これはやらなくても良いのかもしれませんが……… ![]() 扇飾りを作ります。 これも第一回の記事で書いたとおり,この楽器の扇飾りは意味不明なほど薄っぺらです。 ハガしてみたら,染料で染めたときのシミがついてたので,この工作,オリジナルなんでしょうね。 このまま戻してもいいんですが,庵主,こういう意味不明の工作にはどうしてもガマンがなりません。 どっちを付けるかは最後に決めるとして,とりあえず,複製。 ![]() つぎは蓮頭ですね。 オリジナルは割れて,上半分しか残ってません。 芳之助の楽器はどうも,この蓮頭の接着が弱いのか,あるいはこの楽器同様,どっかにぶつけてついぶッ壊してしまうような乱暴なオーナーが多いのか,この部品の生存率が低く,参考になるような例がありません。 しかしながら生き残っていたこの上半分から,これが蓮の花に二股になった波唐草をあしらった,中級月琴によくつけられる意匠のものであろうことは分かりますので,他の作者の楽器についている同様の飾りから,大体のデザインを推測してやってみましょう。 素材はカツラの板,このところよく作ってた複製棹の端材ですね。 だいたいのデザインをざっと書き写し,削り込んでいきます。 ![]() 染めはスオウ,媒染に使ったオハグロの上澄み液を少し希釈して,いつもの真黒でなく「焦げ茶」に近い色に染め上げます。 庵主,計測器具とかで量るようなことはできないので,何%の液をどのくらい塗るとどうなるのか,とかいう詳細や,その仕組みまではてんで分からないんですが。スオウは特に,媒染剤に対する反応が早くて顕著なんで,あややの間に色が変わっていくのが間近に見れて。このあたり 「染色ってバケ学の世界なんだ…」 と,いつもながら思い知りますね。 ![]() おつぎ,山口(トップナット)を削りましょう。 フレットはオリジナルの象牙のをそのまま使うつもりなので,ここはあんまり色の濃くない素材がいいですね。 象牙のカタマリがあればそれで作ってもいいんですが,さすがに勿体無い。 ツゲと象牙の端材のコンボ。 糸の出口,真っ直ぐになっているところに象牙の端材を埋め込んだ,ひさしぶりの斗酒庵式山口です。 今回,本体のツゲ材はあえて染めず,骨っぽいナチュラルカラーのままにしてみました。 ![]() さて最後は糸巻きが1本です。 工房到着時についていた4本のうち3本は,間違いなく月琴の軸ではあるものの,他の楽器から移植されたもので,軸孔にきちんと合っていません。しかし材質や工作は悪くなく,長さも12センチちょっと,月琴の糸巻きとしてはやや長めなので,軸先を調整して,ちゃんと糸倉に噛合うようにすればじゅうぶんに使えそうです。 残るは1本。 古物屋さんあたりが急ごしらえで作ったにしてはまあまあな出来ですが,材質的にも工作的にも実用に供しうるようなシロモノではありません。 ![]() いつもいちばん辛悩な作業である軸削りが,たった一本で済むというのはウレしいことですね。 素材はおなじみ¥100均屋で買うスダジイの丸棒,扇飾り同様にスオウ染めオハグロ媒染ですが,こちらは他の3本と合わせるため真黒に。 仕上げにカシューで塗りこめます。 ちなみに右画像上がもとついてた補作の軸,下が庵主製作のものです。 いちばん厄介な胴体の修理はすでに終わってるし,これで欠損部品もだいたい揃いました。 あとは組み立てて,フレッティングくらい……なのですが。 芳之助の尻ン拭い(しんのごい)----まだ少々残っておりました。 (つづく)
|