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24号松琴斎(5)

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斗酒庵 油まみれ! の巻2011.11~ 月琴24号 松琴斎 (5)

STEP6 油地獄再び!

  そう----ご覧のとおり,一度は完成したのですよ。

  失敗その1。試奏しようと糸を張りなおしたら,低音部に少しビビりが出ていたんでフレットを削ったんですが。

  削りすぎちゃいました。(泣)
  第2,第3フレット,作り直しです。(泣

  この作業のため,せっかく完成したのに二日ばかり弾けず,修理フックにぶるさがったままでありました。

  まあフレットは,言ったら消耗品みたいなもんですからまだ良いのですが,真の悲劇はその後。
  フレットの再作成も終わり,こんどこそ試奏だァ!---と,壁のフックから楽器をおろして,手近でふと見ると。

  お飾りの周囲に,なにやら不穏な影が…
  わわわわうわっ!油だ!----油ジミだよこれっ!

  たしかに,染め直すとき染め液がハジかれたりもしましたが,表板ほど表面にベトつきもなかったし,小さな薄い部品なので,まあ問題はなかろうと軽く考えていたのですが……っ!!

  貼り付けてから二日三日で,左右目摂では周縁から最大で1センチくらいの範囲まで,扇飾りのまわりなぞは,ほぼ第5フレットと第6フレットの間の空間いっぱいにまでシミが広がってしまっていました。

  ----コリャ大変!


  まずは原油の流出源であるお飾りを除去。
  次に,表面板のシミの出来た範囲を,エタノールや中性洗剤で吹き擦り続けます。

  はあはあ……かなり時間がかかりました。


  はずしたお飾りは中性洗剤でジャブジャブ洗い,乾いたところで裏面をこそいでエタノールで拭い,柿渋を二三度染ませました。柿渋は油と反応して固化するので,ふつうはこれでオイルフェンスみたいになるのですが……
  処置後,用心のため,白い和紙を敷いて,二日ばかり重石をかけたら----まだうっすらとシミができやがったとです。(泣まあ,前に比べると流出量は微々たるものでしょうが,これでもまた桐板にシミがつくだろうことは明白。

  こ~ぶ~つ~や~めええ。

  たかがこんな小物に,いったいどんだけの量の油しませやがったァ!?

  おまけにこの油,やはり工芸などで使う「乾性油」ではなく,乾かない食用油の類みたいですね。
  そうすると柿渋との反応もあまり期待できません。

  ええい,最終手段じゃ。



  茹でます。

  第一液は水に重曹と木灰液をブチこんだアルカリ溶液,煮立ったところで界面活性剤,要するに家庭用の中性洗剤を一垂らし。染み出した油分を分離させます。そのまましばらく漬け置き。
  洗浄液は,染めに使ったスオウと反応してたちまちムラサキ色に,ついで油分で白濁して,ブルーベリー味のフルー○ェ風色合いになりました----オソロしや。

  二時間ほどおいて丹念に水洗いし,ふたたび釜茹でます。
  第二液は第一液に洗剤を入れないだけのアルカリ溶液。


  黒檀や紫檀といった材は,もとから材そのものに油分を多く含んでいるのですが,むかしそういう高級材を運ぶとき,温度・湿度変化などで割れが入ったりしないよう,表面をグリスのような油でコーティングしたり,油のプールにつけこんだまま輸送したそうです。
  いまはどうなってるのか知りませんが,油まみれのまま売るというわけにもいきませんからね。それを強アルカリの溶液を満たしたプールに漬け込んで「脱脂」という作業をしたそうです。

  今回のはそういう唐木屋さんから得た知識の応用。
  素人の身分でなんにゃら言う強アルカリの薬品を使うわけにもいかないので,重曹や木灰液といったご家庭アルカリ液で脱脂,効率的に油を浮かせるため,コンロの熱をちょっと借りました。

  第二液による煮沸を二~三度くりかえし,水に一晩漬け置き,いちおう油分による白濁も,表面に浮く油膜もなくなったようなので,水から出して乾燥させます。
  乾燥後,用心のためもう一度,油が染み出してこないか和紙を敷いてチェックしましたが,今度は同じ日数置いても油ジミはできなかった模様---うーん,でもまだ少し,何となく心配。(^_^;)

  せっかくなのでこの機会に,左目摂の欠けてた羽根の先端を補修。
  しかるのち,スオウとオハグロ液の上澄みで染め直しました。



  悪事魔多し----この作業中にさらなる失敗をしてまいました。

  扇飾りが----なくなっちゃいました。乾燥中にぽろっと落ちて,「ああ,あのあたりに落ちたな。」って見えてたくらいなんですが,後刻いくらさがしても見つからず。

  結局,ええい,と再製作。

  作業時間は40分ほど,完成まで2日----考えてみますと。目摂もこんな作業しないでいッそ作り直しちゃったほうが,よっぽど早かったかもしれません。ちくそー。

  油抜きでハジマリ,油抜きでオワった修理……まさに「油地獄」でありました。
  2012年4月末日,24号松琴斎,修理完了。




  棹・軸・表面板と,複製や交換した部分はかなりあるものの,月琴の音のほとんどを決める胴体の主構造や響き線,側板部分にはもとから損傷もほとんどなかったので,原作の音色はそれほど損なわれていないとは思います。

  西洋音階に合わせたこともありますが,棹をオリジナルより若干背側へ傾けたため,有効弦長はほとんど変わらないものの,フレットの位置が若干オリジナルとは違っています。
  とくに,オリジナルでは胴体の最端に位置していた第4フレットは,5ミリほど楽器中央側になりました。

  短めの棹,厚い胴体などに好みが分かれるところかと思いますが,床に横向きに立てて支えナシで自立するくらいバランスは良く,原作者工夫の棹断面,フレットの低さもあって,弾きやすい楽器に仕上がっていますね。


  音色はまあ 「ギリ平均点」,と言ったところでしょうか----今の時点で,このクラスの楽器でこれだけ損傷があって,なおこの音が出てれば文句はないとこですが,けして 「すンばらしく好い音の名器」で,ない ことだけは確かです。

  胴体に厚みがあるぶん,柔らかく,深みのある音がします。響き線の効きは良く,室内では余韻がうるさいぐらい耳に残るのですが,野外で弾くと意外と響かない。音がちゃんと前に出てません。表面板が新しいので,まだ多少正面方向への音ヌケが悪いせいもあるようですね。

  コンサートやギグでバリ弾くのには向かないかもしれませんが,ふだん使いの楽器としてはちょうど宜しいかと。
  遊んでやっている間に,音はいくらか良くなってゆくと思われます。
  修理の手間の割には,ちょっと辛口評価になりますが,楽器もさまざまですからねえ。(汗)

(おわり)


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