26号菊芳3
![]() STEP1 馬喰町からの使者 ![]() さて,なんにゃら溜まってしまった月琴修理。 せめて修理報告だけでも,の在庫一掃のため,次なる一面はこれ。 自出し月琴26号。 楽器のスタイルにどことなく見覚えを感じたのと,出品者さんの画像にラベルの一部がチラリと見えたため,ちょっと無理して購入いたしました。競り合った方ごめんなさい。 ![]() で,その問題の「ラベル」というのが,コレ。 いや,「残片」というか,「破片」というか。(^_^;) ![]() …拡大しますね。 もー「文字」というより,「文字の一部」しか残ってません。 しかしながら,資料集めには定評のある斗酒庵工房。 過去の資料をシラミ潰しで見比べること三日。 ----ついに発見いたしました。 ![]() これだーっ!! ラベルの色は褪せちゃったのか,ミドリとピンクでエラく違ってますが,文字のカタチは間違いなく一致。なんせ同じサイズにして,レイヤーでかぶせたら,ほぼピッタリ重なりましたからね。 写真はこの間再修理の終わった16号於兎良のもの。 ふむ,そうするとこの月琴は,当修理報告登場3面め,日本橋区馬喰町4-7「菊屋(菊芳)」こと福島芳之助さんとこの楽器ということになりますな!! 太めの棹,長いうなじなど,外見も菊芳の楽器の特徴と一致します。 ではまずは,組み立てて測ってみましょう。 ![]() [採寸]
全長:640(除蓮頭) 胴径:353 胴厚:36
棹 全長:287 糸倉:130 幅:31 弦池:115×14 棹基部-茎先端:173 指板相当部分の最大幅:31,最小幅:26 山口下縁から各フレット下縁までの間隔(山口接着後より推定): 1)56 2)86 3)116 4)150 5)182 6)222 7)245 8)274 有効弦長(推定):420 ![]() ![]() 蓮頭は損傷して上半分だけ残存。 この蓮の花の下に,二股になった波唐草のついた,中級の楽器でよく見るデザインだったと思います。 糸倉に深刻な損傷はありませんが,弦池の左右を少しネズミに齧られているほか,軸穴の周辺に圧迫痕,弦池下端にかなり深めの糸擦れ痕など,使用によるキズがかなりついています。 ![]() 糸巻きは4本,いちおうそろってはいます。 うち3本は間違いなく月琴の糸巻きですが,他の楽器から移植されたもので,軸先は飛び出ているし,太い方はまったく噛合っていません。材質はおそらくカツラかホオでしょう。 画像上から3番目の1本は,おそらく楽器屋ではないシロウトさんの作。割と良く出来ていますが,材質的にも工作的にも実際に使えるようなものではありませんね。こちらはラワンかラミンか…あるいは軽軟な針葉樹の類かもしれません。 ![]() ![]() 山口は欠損。四角い木片が貼り付けてあります。 棹は指板のないタイプで,フレットの間に墨で工尺譜の符字と思われる書き込みが見えます。 三味線なんかでも初心者で同じようなことをするヒトがいますが,お師匠さんとかに見つかると怒られますよ。(^_^;) 楽器正面からだとそうでもないんですが,糸倉も棹部分も横から見るとやや太めで,いかにも頑丈そうに見えますね。 ![]() ![]() 胴側部は4つの部材を木口で接着しただけの簡単なもの,塗ってあるので材質は分かりませんが,ホオかカツラでしょう。 ちょっと前に紹介したとおり,棹穴の周縁に残っている当初色から,カテキュー(阿仙)で染めてあるのだと思います。 天地の側板が一度はずれかけたようで,棹孔を中心とした表面板の左右と,楽器下縁部分に再接着の痕や再度の剥離が見られ,一部には少しだけ段差がついています。 かなり深めの打圧痕が数箇所,そのほか側部の面板との接合部に刃物を入れようとした切込みが数箇所見られますが,そこから板をハガしたような形跡はありません。 ![]() 表面板はほぼ柾目の板で構成されていますが,中心部分に一枚,大きな山のある板目板が使われてますね。多少「景色」をつけたのでしょう。 楽器左肩にヒビ割れ,長さ11センチほど。さほど広くはないです。 中心部フレットの左右にも工尺譜の符字,あと左端の方になにやら小さな字で墨書が見られますがいづれも署名や所有者名とかではないようです。解説用の楽器にでも使ってたのかしらん? ![]() ![]() ![]() 目摂は仏手柑。彫りは丁寧ですね。デザインもよくあるおざなりなものじゃなく,オリジナルっぽいです。 扇飾り。こちらはよく見る「万帯」のデザインなんですが----なんじゃあ,この薄さわあっ!! 0.5ミリくらいでしょうかね……たしかにこの部品,背の低い高音フレットの間にありますから,庵主もそれなりに削りますが----いや,何もここまで紙みたいにせんでも。 さて,もとからだったんでしょうかね,それとも前の所有者さんのシワザでしょうか? オリジナルのフレットは棹上に2本,胴体上のが3本残っています。第1,2および最終第8フレットの部分には木の板で作ったものが貼り付けてありますが,使用した形跡はありません。 オリジナルは象牙のようですが,胴体上の第5フレットのみ工作がやや異なり,他のものより薄めになっています。 材質も異なるようで,もしかすると鹿角か骨材の類かもしれません。 ![]() 半月は半円板状。95×44×h10。上面下縁にメアンドロス紋----中国でいうと「雲龍紋」,ラーメン丼のふちによく見る,渦巻き模様が彫りこんであります。 推定される外弦間は37,内弦間は29。内外の弦間がやや広くとられているようです。 板自体に損傷はないんですが,糸孔が…特に高音部の糸孔がエグられてますね。 ![]() 工房到着当初,この楽器には琵琶の弦と思われるぶッ太い糸が張ってありました。これも古物屋あたりが楽器の体裁を保つためにやったことだとは思いますが,その糸をムリヤリ通して結ぶために,糸孔をグリグリッ,っと広げちまったもンだと思われます。その工作も,錐やドリルと言ったちゃんとした工具を使ってくれればまだ良かったんですが,どうやらクギの先か何か,そんなようなものでやらかしたみたいですね。穴の周縁がボサボサになってめくれあがっていますわい。 なんかさすがに痛々しいなあ。この部分,要修理です。 絃停には白っぽい布が貼り付けてあります。110×83。ボロボロで,紋様も良く分かりませんが,糸目から見て,おそらく元はけっこうな錦布だったと思われます。 ![]() 裏面板には表と違ってあまり木目の鮮明でない板目のものが使われています。 板にヒビ割れ等はありませんが,中央左下に大き目の孔があり,そこから続くキズが地の側板にまで入っています。虫害などによるものではなく,人為的につけられた工作痕(?)のようなものだと思われますが目的は不明です。 ![]() (つづく)
|