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1号再修理(3)

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斗酒庵 過去の亡霊と対峙す の巻2012.3月~ 月琴1号再修理 (3)

  さて,1号月琴再生修理。
  複製した棹も作り,裏板も貼り直して,本体のほうの作業はだいたい済みました。


  あとはまあ,恒例の「小物の王国」ですね。

  まずは蓮頭を作りましょう。

  従前は紫檀の一枚板を雲形に削って貼り付けてましたが,今はいろいろと参考資料もあるので。
  石田不識の普及品月琴によくついてるデザインのものを。


  これですね----写真の黒いほうは,最近入手した27号佳菜ちゃんについていたもの。
  「蓮に波唐草」のタイプを抽象化していったようなモノだと思うのですが,紋様としての正式名称は不明です。
  石田不識のほか,田島勝,山田縫三郎(清琴斎)の楽器でも似たような意匠の蓮頭がついていた例があり,中級品の月琴ではわりと普及していたデザインだと思われます。

  桂の板を切って削って,染めはスオウにオハグロ液で鉄媒染。

  唐木のものは別として,当時の月琴の中級品では,胴体や棹に必ず何らかの染めを施して高級感をだしていることが多いのですが,その染めに二種類あって,(福島)芳之助なんかはカテキュー(阿仙薬)派,石田不識とか山形屋(石村)雄蔵なぞはスオウ派ですね。


  棹を抜いたとき,その基部に隠れていた棹孔の周辺が赤茶ならカテキュー,赤紫色ならスオウですわ。
  本体はカテキュー,飾りはスオウというような場合もありますから,一概に派閥があったようなわけでもなく単に製作者の好みでしょう。


  あとは目摂と扇飾り。

  最初に修理したとき,オリジナルの飾りを濡らしたら青インクのような汁がとめどもなく滲み出してくるので何かと思ったものですが,今考えるとあれもスオウの染め汁だったわけですね。
  スオウの欠点としては,耐水性がないこと,そして保存状態によっては褪色が激しいことがあげられます。
  左の写真は以前ネオクで出た楽器の目摂。
  そういえば最初の修理のとき,「青インク,とらなきゃ!」っと思って,庵主もこんなふうにしちゃいましたねえ。



  その後,何度も付けたり剥がしたりしたのもあり,オリジナルのお飾りはかなりボロボロになっています。
  表面をカシューで固めてなんとか止めてますが,どれもヒビ割れてバラバラに近い状態なのです。

  そこで今回は,これらのお飾りを複製することにいたしました。


  素材はオリジナルと同じホオの薄板。
  ふたたび(つか何度目だか…)剥がしたお飾りをツギハギし,板に輪郭を写し取って切り抜き,オリジナルを見ながら彫ってゆく----まあ,いつもやっていることなんですけどね。

  これで彫りに入る前までは,あれから修理した楽器およそ30本あまり……あのころのあたいとは違うのだよ!

  とゆー自信もあったのですが…


  ……まいりました。
  やっぱりぜんぜんかないません。(多汗)



  左右の目摂は菊。

  この部品で定番の「菊」のデザインは,左の参考図のように,横向きで花笠みたいになっているものなんですが,ある時期の石田義雄は,この1号や27号,先にあげた画像の楽器のように,オリジナルの「正面を向いた菊」のデザインを用いています。

  ほかに同じようなデザインの目摂もないので,長い糸倉,4フレット目が棹上にある長い棹,半月下縁の切り削ぎと並んで,この「正面を向いた菊」も,彼の作品であることを示す独自の特徴なんですね。




  扇飾りはコウモリ。

  全体の輪郭がこのお飾り定番の意匠,「万帯」(←画像)の変形にもなっています。
  こういうコウモリの類例はほかでは見たことがありませんから,これもまた不識オリジナルのデザインですねえ。
  石田不識はどうも,このコウモリというものが好きらしく,8号では蓮頭にコウモリが透し彫り,27号でも扇飾りのところにそのまんまのコウモリがついています。ネオクに出た楽器では,蓮頭と扇飾りの両方がコウモリだった例も見たことがあります。

  まあ,この菊にしろコウモリにしろ,一見するとコドモが描く絵みたいなデザインなんですが,これらのお飾り----「彫り」が「異様」です。

  他の作者のお飾りとどう違うのか……というと,彫刻とかやったことのない人にはなかなか説明しがたいんですが。


  そうですね,まず 「刀の入り方」 が違うんです。
  たとえばふつうのヒトなら,右から左に削るところをその逆してみたり,上から下に削ぐところを真横から削っていたり,という具合ですかね。こういうカタチなら,こうこう削ればいいよなーと思ってオリジナルをよく見ると,まったく違う彫り方になってたりするわけで。

  輪郭的にカタチだけ似せるのなら,どう彫って削っても同じなわけですが,こういう半立体物では,彫りの角度や方向によって,出来上がる 「陰影」 に大きな違いが出来てしまいます。
  完全に3Dになっている彫刻よりも,こうしたレリーフ的なモノのほうが彫りの陰影による効果が強く出るので,いくら輪郭をそっくりにしても,彫りのほうをちゃんとトレースできてないと,結果としては似ても似つかないものになってしまうわけですね。


  いや,このヒト,じつは左利きなんじゃないのかな----という気もします。
  何か作業台に特殊なものを使っているとかなのかもしれませんが,同じように同じ方向から彫ろうとすると,腕をカギ型に曲げて,かなり不自然な格好でやらなければならないことが多くありました。
  「反対がわから彫りゃあいいだけなんじゃね?」などとおっしゃる方も中にはいらっしゃるでしょうが,木の板には「目」とゆーものがあり,お飾りにはそれぞれカタチというものがあります。
  あるカタチのものに,あるラインをある方向に入れようとする場合,対象を手で押える位置や,刀を入れる角度は誰でもふつうはそう違いがありません。
  ここを押えて,こっちからあっちへ----特別な理由のない限り,そのほかの角度でやろうとはあまり考えないものです。


  庵主はこういう小物の製作が好きなので,どんなお飾りでも1コ数時間で彫り上げる自信があったのですが,この彫りのトレースには大いに手間取り……

  今回はなんと----たかだか3コに4日間!
  しかも,かなり頑張ったのに,庵主的に80%くらいの出来,としかなりませんでした…ううう。

  まあずっと見続けてきた庵主意外には判りますまい,というくらいにはなってると思いますし,あとは染めちゃえばもう……と言ったところでアクマの声に負けて妥協いたします。


  オリジナルではおそらく,この3コの飾りのほか,中央に円飾りがついていたらしく,今でも第8フレットの下あたりにうっすらとその接着痕が見てとれます。
  たぶん8号のと似たような,蓮華円の透かし飾りだったと思います。
  今回はこれも付けてやろうかと,庵主オリジナルのデザインなものの,いちおう彫ってみたんですが,長いこと中央飾りなしで弾いてきたもので,イザ付けてみるとどうも違和感が……相手がモノとはいえ,付き合いが長いとそれはそれでメンドウなもんですねえ。


  ツゲの山口に,竹のフレット。
  自分使いの楽器だから,ということもありますが,実用第一。

  今回も複製棹ですが,角度等の設定は原作どおり。
  半月にゲタもナシですが,絃高もフレットもバリ低目です。

  最後に,絃停にとっておきの緑の花唐草を貼って。

  2012年4月末。
  庵主にとっての始原の月琴にして,マイベターハーフ。
  月琴1号,再生修理完了!!!


  数年ぶりに弾いてみましたが,やはりいい楽器ですね。
  まあ,いちばん弾いていた期間が長かった,という手慣れ感もありますが。


  やや縦長に四角張った薄い胴体,長い棹,大きく角度のついた糸巻き。
  この楽器としてはやや大柄な部類ですが,バランスは良く,立奏してもポジションがほとんどズレません。
  音は大きく,くっきりとしており,太目直線の響き線の効きがかなり良いので,けっこう強い余韻が出ます。

  石田不識が薩摩や筑前などの近世琵琶を本格的に作るようになったのは,おそらく清楽が廃れて,月琴などの清楽器が売れなくなってからのことだとは思いますが,8号の工作などからその唐木の扱いを見るに,もともと琵琶師だったのかもしれません。
  茎を無垢にしたり,半月の下縁を切り落としにしたり……少なくとも「三味線屋」ならやらないだろう加工が多いのです。


  そのためか,1号の音は「月琴の音」というより,琵琶のそれに近いですね。
  音色そのものではなく,音の出る方向や余韻のかかりかたに,そういう感じがします。
  まっすぐ,前向きなんですよ。余韻もあまり拡散せず,面板から前方向へ飛んで減衰していきます。

  デンジロウ先生の空気砲を思い浮かべてください。

  30本以上の楽器を見て,弾いてきた今となっては,こりゃ「月琴の音」としてはどうかなー?と思う部分もかなりありますが,楽器の音として,これはこれで素晴らしい。
  庵主,この楽器を手に入れた当初は清楽をいっしょにやるような仲間もなかったもので,主としてジャズの人なんかに良く遊んでもらいました。音数がなにせ13コしかないもので,コードチェンジのたびにアワアワ,ソロふられるたびにオロオロ----しかしそうした,この楽器としてはもちろんイレギュラーな音楽場面であっても,かなりくらいついていけたのは,この音色のおかげだと思いますね。

  おかえり。
  そしてまた----ヨロシク。

(おわり)


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