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27号初代不識(3)

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斗酒庵 夢にて出逢う の巻月琴27号 初代不識(3)

STEP3 死者の船がゆく

  27号の到着で,1号の再修理はかなりうまくいきました。

  なんせほぼ同時代,ほとんど同じレベルの楽器です。各部の構造や加工工作など参考にならないところがないくらい----こういう時は実物に勝るデータはないもの,ありがたいことです。
  1号が「十一」27号が「二十七」番目の作として,その間は一年あったでしょうか。月琴音楽隆盛期,このクラスの楽器はある程度の数を作らないとペイしなかったはずなので,もしかすると同じ年のうちに作られた二面なのかもしれません。

  さて,1号の修理は油虫・24号とほぼ同時期で,お次には菊芳作の26号の修理が入りました。
  そしていよいよこの楽器----修理前から何やらインネンめいたことの重なる,初代不識,27号の修理へとまいります。

  前回書きましたように,27号は欠損部品がほとんどなく,糸巻きもお飾りもオリジナル,という,その意味ではこの楽器としてキセキ的な保存状態でありました。しかし,部品はそろっているものの,近年にどうやら一度,ほぼ完全バラバラ状態になったらしく,前修理者によって,胴体のかなりの部分が再接着されています。
  工作誤差が最大でも2ミリくらい,というのはまあ,シロウトさんとしては褒めてあげたいレベルなれど。
  面板の割れ,側板のウキ,沈み込み,各接合部の接着不良,部材自体の歪みによる変形……と,あげたらキリのない小さな不具合が満載で,「楽器のカタチのお飾り」としてならともかく,実際に使用できるというレベルの「修理」にはとても遠い状態であります。

  欠損部分のある修理なら,その欠けたりなくなったりした部分を補ってやればいい,逆に言うたらそれだけで済むんですが,今回の楽器にはそういう足りない部分はなくって,前修理者の組み立てそれ自体が不具合の原因,問題なのですから,これを直すためには部分部分だけの場当たり的な修理ではどうにもなりません,つまり----

  も一度,バラバラにして,今度はちゃんと組みなおす。
  完全に,オーバーホール修理,その一本道しかないわけで……(^_^;)

  1号の修理では,たかがお飾り一つの再現にさえあれだけ苦労した初代不識の楽器。
  それをこんどはマルっと修理でござんす………ほんニあたしに,出来るんでしょか?



  まずはお飾り類をハガします。胴体中央の構造物はほぼ全部ボンドで再接着されています。
  コウモリ飾りはこう…絃停の下なんて,こんなです!



  棹上は山口と第4フレットのみおそらくオリジナルと思われるニカワづけで,ほかは見ての通り。
  濡らすと,白いアクマが浮き出てきます。
  指板相当部分がちょっと白っぽくなっているのも,その再接着の作業の時,はみ出たボンドを拭ったため,表面に薄くボンドがついてしまったもののようです。
  真下をヒビ割れが貫通しているので,半月もハズしてしまいます。
  ここはオリジナルの接着。さすが名工,接着面のニカワが活きているほど,丁寧な工作でしたね。


  この半月,紫檀は紫檀なんですが……裏っかえすとご覧のように,白太という紫檀っぽくない部分がずいぶん混じってます。
  言うなら「ギリギリ紫檀」って程度の材料なんですが……

  昔の人はエラいですねえ,こんなのまで染めてムダなく使っちゃう。こういうのも一つの努力,一つの技術ですよね。
  いまの邦楽器職人さんなんかのほうが,妙に材質にばかりこだわっていて,そのせいで楽器の値段がトンでもなくなってる気もしますね。



  さてハガせるものをハガしたところで,器体への影響を少なくするため,二三日おいて濡らした箇所を乾かし,いよいよ胴体の分解に入ります!


  前修理者さんの組上げは,楽器のカタチになってりゃいいという程度のものなので,再接着箇所のあちこちにスキマがあります。
  そうしたスキマに筆で水をたらし,刃物を入れて,少しずつ少しずつ…



  まずは表面板がハガれました。
  剥離のさい,当初あった真ん中の大きなヒビ割れではない箇所から分離してしまいましたが,まずまず無事。
  楽器の内部が白日の下に晒され----あ,まあ1号とほぼ同じですね。

  内桁は二本。通常はヒノキやスギといった針葉樹の板で作られますが,石田不識の月琴ではこうして,胴体や棹と同じ素材で作られています。棹を糸倉の先から茎までムクで削りだすのとコレが,不識の月琴の特徴というかコダワリの一つみたいですね。
  荒板に近い状態ではありますが,全体に加工は丁寧なほう。上下ともに胴材にミゾを切ったハメこみ固定になっています。



  響き線は直線が一本。線はやや太めで,基部は胴体と同じ材の木片に埋め込まれ釘で固定されています。基部の木片も端材を適当に使ったようなものではなく,きちんと加工されたもの。胴材にミゾを切ってハメこまれています。
  ただし,1号ではこの基部の木片は,側板の高さと面一,表裏面板に触れていたのですが,この楽器では,ほかの作者の多くの月琴同様,面板から1ミリほど離されていました。

  1号から27号に到るまでの進歩……ってとこでしょうかね?

  上桁の真ん中,棹茎の受け孔に,ホオの薄板でスペーサーが噛まされていました。
  ほっ…やっぱり名工・不識もヒトの子,こんな工作の辻褄合わせもしてるんですねー。



  表面板がなくなったので,今度は側板の横からではなく,裏側から濡らして裏板をハギとりましょう。
  濡らすと出てくる白いヤツ……こりゃあ後の始末がタイヘンですよぉ(泣)。
  接着面にボンドが残っていると,再接着のとき,ニカワがちゃんと滲みこまなくて,ちゃんと接着できないんですね。
  ですから,はがした部材の接着面から,ボンドの残りをていねいにていねいにこそげ落としておかなきゃならない----これがけっこうタイヘンな作業なのですわ。

  裏板から側板をへっぱがしてゆきます。
  側板の接合部は4箇所とも,内桁をハメこんだミゾにもこってりとボンドが盛られておりました。



  さて,これで完全にバラバラですね。
  あっちにもこっちにもついたボンドをとにかくこそぎまくり,組み合わせの向きや左右が分かるよう印をつけて,またしばらく乾かしておきます。


  いつも思うことですが----こうして見ると,部品数も少なく,本当に単純な構造の楽器なんですね,月琴って。
  これに糸巻きや蓮頭などのお飾り足したとしても,全部で30ないくらいの部品で構成されてるわけですわ。

  バラした部品を積み重ねて遊んでいたら,ちょうど船みたいなカタチになりました。
  魂を運ぶエジプトの「太陽の船」ならぬ,「月の船」ってとこですね----

  内部構造も含めた修理のためのフィールドノート。
  今回はこんなのです----



  クリックで拡大してご覧ください。



  今日の佳菜ちゃん。


  縁側に腰掛けて,アイス食ってました。
  「おまえ昨日バラバラにされただろう?」的な質問をしたと思うんですが,ちらっとこっちを見ただけで,またアイス舐めはじめました。 

(つづく)


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