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27号初代不識(6)

G027_06.txt
斗酒庵 夢にて出逢う の巻月琴27号 初代不識(6)

STEP6 雨の日に「くろかみ」が聞こえる



  面板がつきました。
  ウサ琴外枠を改造した即製クランプ,バッチリでした。
  薄めのニカワでかなりしっかりムラなく,さらに正確に接着しなおせたと思います。

  これで胴体は箱の状態に戻りましたが,先の回でも述べたとおりこの胴体は,各部材の経年の歪みや収縮によって,上下左右,面板との間に段差ができてしまっておりました。上下に沈み込み,左右に出っ張っていたので,面板を半分に割って,真ん中に細い板を挟みこみ,左右の幅を足したわけですから,現在は面板がぐるりと出っ張っている状態。




  ではこの面板の出っ張りを均してまいりましょう。
  まずはこンくらいゴツめのヤスリで,ゴリゴリっ,とやっていきます。
  もちろん,胴体をキズつけないよう注意しながらの作業ですが,まあ多少はしょうがありません。



  段差が平均1ミリくらいにまでなったところで新兵器登場!
  ----ま,そこらに転がってた端材に,面板の厚みぶんの幅の紙ヤスリを貼っただけのシロモノですが。



  平らな台の上に胴体を乗せて,面板の周縁をコレで削って,側板とほぼ面一にまで落としていきます。
  右画像の上が処理前,下が処理後ですね。
  けっこう時間がかかり,タイヘンな作業でした。




  これでようやく,棹を挿してもスキマが出来たりしなくなりました。

  さあて----最初のほうでも言ったように,今回の楽器は欠損部品がないので,最大かつ最凶の難関であったこの胴体の修理さえ終わってしまえば,あとはホント単純に「組み立てるだけ」であります!



  組み立てる前に,まずは半月や棹の一部を染め直したり,糸巻きを油拭きしたりと,小物の手入れをしときます。




  小物の準備を待つ間に,面板の清掃をしてしまいましょう。
  これが思ったよりタイヘンでしたね……
  ごらんください。これ第一回目の清掃なんですが,ウェスも重曹液も,たちまち真っ黒クロスケでございます!



  オリジナルの染め液は,ヤシャ液自体がかなり濃いめ,しかも砥粉も多めのじつに濃ゆいものだったらしく,拭いても拭いてもキリがありません。さらに,石田義雄自身が矧いだと思われる(前々回参照)この面板,一見ふつうの柾目板っぽく見えるのですが,あちこちに細かな節目があったり逆目になった箇所があり,Shinexがそういうところにひっかかって,なかなかヨゴレがうまく落せません。
  器体への影響も考え,けっきょ変色したく表面を二回ほど落としただけで(いつもの楽器にくらべると,まだかなり地黒だったのですが),あとはヤシャブシと砥粉で表面を新たに染め直して誤魔化すことにしました。



  面板の清掃が終わったところで,まずは半月を再接着します。
  スオウで染め直し,重曹液で発色,亜麻仁油を拭いてワックスで仕上げました。

  こうなっちゃうともう,とてもこれが白太の多い「ギリギリ紫檀」だなんて思えませんね。(第3回記事参照)

  棹を挿し,あらためて楽器の中心線を出してから位置を決めます。
  面板は真ん中にスペーサーを噛ませてるし周縁も削ったので,オリジナルの接着痕は当てになりませんが,実際はそんなに違いが出ませんでしたね。右に1ミリズレたかどうかといった程度です。



  つぎは面板の木口をマスキングして,胴体の補彩。面板の整形作業でキズのついたあたりや,色の薄くなったところは,スオウに砥粉を混ぜたものを塗りつけます。
  染め液は「染料」ですので,そのままだと木地に染みこんじゃって表面に残りませんが,砥粉を混ぜることで「顔料」っぽく,ある程度表面に残って下地を隠してくれるようになります。



  ----庵主,これまではこの補彩を,ずっと染め液だけでやってきたんですが,今回の27号,オリジナルの塗装が良く残っているので,仔細に観察したところ,下地の木目が少し隠れていることに気がつきました。また表面も,胴体の材料であるホオの木の,もともとの質感からすると,やや平坦になっているようです。
  媒染液に反応することから,使われているのはスオウやカテキューといった「染料」なのは間違いないのですが,通常染め液をただ塗って磨いただけではこうはなりません。

  表から見えないようなところを少しこそいでみますと,染料はちゃんと下地に滲みてますが,表面に色だけが顔料のような粉になっている層が,わずかにあることに気がつきました。
  それで砥粉でテストしてみますと,これがバッチリ----さらに砥粉の成分によるものか,スオウ液は砥粉を混ぜると,アルカリ媒染をした時と同じような赤紫色に変色します。それを試験的に板に塗ってみますと,乾くといくぶん白っぽくなるものの,二度ほど重ねてから磨くと,画像にある棹の基部で隠れていた部分,オリジナルの塗装とほぼ同等の色合いが得られることが分かりました。
  染めただけより表面が平坦になっているのも,これで説明がつきますしね。


  スオウ+砥粉の補彩塗料が乾いたところで,ウェスに少量の亜麻仁油をつけて擦りこんだら,胴体色の復活!
  仕上げは半月と同じく,蜜蝋のワックスで磨き上げます。





  このころ,夢の佳菜ちゃんに少し変化が。
  ----月琴を弾き始めました。



  月琴を抱えたまま,廊下で居眠りしてたのも見ましたし,離れの濡れ縁で風呂上りのまッパのまま弾いてた時にはさすがに叱ろうかと思いました。

  使ってる月琴は,庵主のリアルで持っているものではないようですが,しっかり確かめたわけではないので分かりません。少なくとも江戸時代のとか唐渡りのではなく,明治時代の楽器のようですが……

  佳菜ちゃんに月琴の弾き方を教えているのは庵主でなく,庵主の奥さん(夢のヨメだが…)のようです。



  じつはあまりちゃんと会ったことがナイ(……)のですが,この「奥さん」,どうやら元粋筋の人らしく,教えてる曲は清楽より端唄小唄が多い。
  裏の離れの奥さんの部屋から,「くろかみ」が聞こえてきます。
  佳菜ちゃんはふだん無口で,ちゃんとした声も聞いたことがないんですが,その歌声はハスキーながら思ったより子どもらしかったですね。



  ただこの「奥さん」,悪戯好きというか,服装の趣味が多少アレなところがあって(前々回の黒ゴスなんかはこのヒトの仕業らしい),



  雨の日に駅までカサをとどけに来た佳菜ちゃんの雨合羽が「アマゾンヤドクガエル」の模様になっておりました。

  「まさか,傘の先にクラーレとか塗ってないだろうな!?」
  と,言ったところ----



  ……子どもたちへの悪影響を考えると,早いところ,お母さんから引き離したほうが良いのかもしれません。

(つづく)


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