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27号初代不識(4)
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月琴27号 初代不識(4)
STEP4 足摺岬に灯がともる,あれは紀の国みかん船
さて,27号,剥離・分解の作業で濡らした部材も乾燥したところで,いよいよ組み立てに入ります。
まずは面板の矧ぎ直しから。
当初目立っていた,半月の下を貫通する中央付近のヒビ割れは,剥離の作業中にほとんど見えなくなり,反り直しのため板を濡らして重石かけたら,ほぼ見えなくなりました----自然にまた,くっついちゃったんだね。
完全に分離しているのは一箇所のみですが,いちばん右端の小板もかなりヤバい。
さらに板の左右を持ってちょっと反らせると,いくつもスキマが出てくるので,そこにいちいち筆でニカワを流し込み, 作業版に固定して左右からかるく圧をかけ,継ぎなおします。
裏から見ると,加工のアラ…というか,板のアラが目立ちますね。
表からはあまり分からないんですが,木端口がところどころエグれてたり,欠けたりしてるような小板がけっこう使われてます。
そういうエグレた箇所や,木端口がきちんと合ってなくて溝になってしまっているような箇所も,ひとつひとつ木粉粘土で充填しておきましょう。
以前,月琴のこの面板の製作工程について触れたことがありますよね。
おそらくある程度の数を作っていた工房は,
桐屋さんから
あるていどまとまった量,同じくらいの質の板を買っていたと思われます。
そうした既製品の板の多くは,桐の角材に
竹の両頭クギ
を打ち,間にニカワを塗って重ね,その固定に使った竹釘の
ちょうど真ん中
をノコが挽き通るようにして切り割る,という工程で作られています。
クギ痕のあるほうを裏面,ないほうを表面として使うわけですね。
そのため古い楽器を修理していますと,時折面板の裏面にその
竹釘の痕跡や,先端の一部
が残っていることがあります。
この工法は一度にほぼ同質の板を何枚も,安価に作り出すことが出来ますが,
ある程度の大きさの角材を山と積み上げられ,しかもそれを縦挽きできるような広い作業場が必要
ですから,べつに専門の板屋じゃない町なかの小さな楽器工房などで,そうおいそれとやらかせるものではありません
(それもあって「桐屋から買っていた」という推測になっているわけですが)
。
石田義雄の面板には,そういう既製品の板に見られるような加工痕がありません。
この楽器の板は,庵主のウサ琴同様,もともと薄い小板を横に並べて,矧い継いで作られています。
もっとも単純で誰でも考えつくやりかたですが,既製品の板にくらべると手間もかかるし,板同士をせまい木端口だけでくっつけるわけですから,あまり強固な接着もできません。
事実この面板も,保存状態の悪さをべつとしてもひどすぎるほど,あちこち接着が飛んでしまっていますね。
面板をイチから自分で作るメリットは,たとえば板目をいつでもどんなふうにでも自分の好きなように組めるとか,やりようによっては桐屋から買うより安く上げられる(品質をべつにすれば),といったことが考えられなくもありませんが。往時,桐という素材は
いまのプラスチックやビニールの梱包材
なみの代物で,安価だったし,好みの質や大きさの板を注文したところで,さしてアシが出る,というほどのこともなかったように思えますが----まあ,ムクの棹,胴と同じ材の内桁などと同じく,これも彼のこだわりの一つなのかもしれません。
とはいえ,この板の矧ぎ目,あまりにも危なっかしいので,和紙で縦横に補強しておきましょう。
さて,今回の修理,ここまでは順調だったんですが,問題はこの後。
けっきょく約半月の間に,面板を3度も貼りなおしました。(^_^;)
いつもどおりのやり方で,面板の縁に合わせて側板を組むと内桁が入らなくなり,側板を先に組み立てて面板を当てると,側板をどう矯正し,あるいは面板の位置をどんなに微調整しても,上下左右に±2ミリ近い段差が出来てしまうのです。
面板自体の収縮,あるいは胴部材の歪みによって,面板と側板の間に段差が出来てしまうのはいつものこと。
いつもなら庵主,側板の飛び出し誤差が1ミリ以下なら,
もーヤスリでゴリゴリ
削り落としてしまうところですが,今回の楽器ではそういうワケにいきません。
なんせ石田義雄の楽器は,構造的にも工作的にも,ギリギリの技術で作られた
「ギリギリ楽器」
です。
「ギリギリの楽器」がこういう状況に陥った場合,原作者の「ギリギリの工作」に対して,修理者は「ギリギリの選択」をしなければなりません。それはオリジナルのどこを捨て,どこを取るかという選択。
----今回の場合,それは「胴体」をとるか「面板」をとるか。
迷いに迷い,逡巡四日。
庵主の出した結論は 「胴体」 でした。
今日の佳菜ちゃん。
すみません佳菜さん……その手の格好は描くのがタイヘンなので………(^_^;)
この数日前,裏庭の板塀の下で,何かをずっと「ぐっちゃぐちゃ」やってる姿を見かけました。
この日もこの格好のまま,スコップとゾウさんジョウロを持って,裏庭のほうへ歩いていったので,このご装束がその後,どうなったのかは知りません。
お姉ちゃんは
「佳菜が裏庭でオオミミズの栽培をしているから,やめさせて!」
と言っていましたが----オオミミズ?栽培?----「飼育」でも「養殖」でもなくて?
はてさて,夢の中はやはりナゾに満ちておりますなァ。
(つづく)
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