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27号初代不識(5)

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斗酒庵 夢にて出逢う の巻月琴27号 初代不識(5)

STEP5 ウロボロスの輪

  オリジナルの面板はオリジナルの音色を再現するために重要な部分ではありますが,この楽器で石田義雄の工作の妙がもっとも残されているのは,やはり面板ではなく胴体構造です。

  面板よりは胴体のほうを優先させて,修理の工程を考え直すことといたしましょう。


  月琴の胴体は,表裏の面板でサンドイッチされることによってようやく構造を保っていると言って好いくらい,単体では単純かつ不安定なものです。これをもっとも接合部に無理のない,安定した配置で組み立てようと思うのですが,面板のない状態で精密に組み立てるとなると,まず何はともあれ,作業中にちッとでも位置がズレないよう,側板を何か作業台のようなものに固定しなければなりません。


  今回その作業台としたのは,だいぶん以前に作ったウサ琴の胴体の外枠。

  たまたまではありますがサイズもちょうどよろしく,中心線など組み立ての目安になる目印も付いていて,おまけに真ん中が開いてるので,胴材の内外から側板に,自由にアクセスができます。
  この上にまず天の側板を両面テープで固定し,それに合わせて,左右,地の側板,と,各部材の接合具合と位置を微妙にはかりながら,仮組みをしてゆきます。


  各接合部がもっとも密着する位置に側板を並べて内桁を入れてみますと,上桁はほぼ問題がないのですが,下桁がわずかに短く,これに合わせると左右側板が尻すぼみになって,接合が飛んでしまいます。

  寸法的に,これは部材の収縮のせいだけではなく,オリジナルの工作にも原因があったようですね。
  もともとちょっと短く,側板のミゾにギリギリかかるかどうかだったみたいです。前にも書きましたが,ほかの作家さんの楽器でも下桁の加工や接着は結構ぞんざいなことが多いですが,石田義雄もとは,ねえ……なんか安心しました。



  下桁と側板との間には,最大で約2ミリほどものスキマができてしまっております。
  前修理者は,側板のミゾにこれでもかと木工ボンドを流し込み,そのスキマをなんとか埋めようとしたようですが,もちろんうまくは行くはずもなく。
  この下桁,胴体構造上は力のかかる重要なところの一つなので,先っちょに板を貼り付けた程度の補修では心配です。

  ここは「スキマを埋める」のではなく「下桁を延ばす」という方向でまいりましょう----桁の片方の端に切込みを入れ,大き目の延長材をハメ込みで接着します。くっついたところで,胴体のミゾにスルピタでうまくハマるように整形しました。

  まだ仮組み状態ですが,ここで一度棹を挿して,楽器の中心線が狂っていないかどうか確かめてみました。
  うん---いまのところ問題はないようですね。

  それではいよいよ,胴体構造の接着に入りましょう。


  側板を作業板に仮止めしたままのカタチで,各接合部に裏からニカワを流し込みます。

  どうしてもできてしまう接合部のスキマには,ツキ板を削いだのを詰め込んでふさぎ,ツキ板の余分を整形したのち,各接合部の裏にニカワで和紙を重貼り,さらに上から柿渋を刷いて補強しておきます。



  これで胴体はいちおう円の構造になったわけですが,先にも述べたとおり,面板にくっついていない胴体はたいへんに不安定な状態です。ここまで内桁は左右の形が崩れないようただハメこんであるだけだったんですが,この後の面板接着に向けて,胴体構造をより安定させるため,これを接着してしまいましょう。


  上下桁の両端にニカワを塗って,慎重に胴体にハメこんだら,作業台のボルトに太輪ゴムをかけまわし,パッチン,っと絞めます。
  作業台にこういうの(ボルト)がついてたのは偶然だったんですが,なんとも都合が良かったですねえ。

  これで内桁と側板をより密着させて,接着を確実強固にしようというハラなわけですが……この楽器,縦方向には支えがないので,輪ゴムをかける前,上下の形が崩れないよう,各桁と胴体の間にはあらかじめ補強材を入れておきました----まあワリバシとそこらに転がってた端材を刻んで,両面テープで固定しているだけですが。

  そしてもう一つ,表面板接着に向けての布石。
  内桁の左右端を斜めにそぎ落としておきましょう。


  過去の修理で何度となく,内桁の表面板に接するがわの左右端が,こういうふうに削ぎ落とされているのを目にしてきました。
  しかしこれまでのところ,その加工の意味するところ,また意図がまったく読めず,参考になる文献資料も見つからないため,分からないでいたんですが,今回の修理でそのナゾがようやっと解けたような気がします----これ,面板の接着のための加工ですね。

  分業で作られる大量生産品の楽器など,面板や側板,各部材にどうしても加工誤差が出るような場合,ここが直角のままだと,内桁との間に段差が出来ます。
  場所的にここに段差があると,たとえほんのわずかなものであっても,内桁が凸ってた場合は面板が浮いてしまいますし,凹ってた場合は内桁が密着しません。

  しかし,この両端を削っておくと,内桁と側板の間に,面板がわずかに沈み込むだけの空間,「余裕」ができます。

  月琴の面板に使われる桐板は柔らかいので,この状態で上から圧をかければ,この沈み込みの余裕のぶん,内桁・側板どちらかが凸っていれば凸ってるなりに,凹っていれば凹ってるなりに板がわずかに変形して,側板の周縁にも,内桁にもより密着するわけですね。

  板の両端をちょっと削ぎ落とす程度の単純な工作ですが,これは胴体の加工誤差の辻褄合わせ,面板の接着をより容易にして,製品の歩留まりを少なくするための工夫だったわけです。

  もちろん,各部材が精密に加工されており,寸分の狂いもなく組み合わされていれば必要のない加工。現に石田義雄のオリジナルの工作では,内桁はどちらもただの四角い板----つまりそれはこの楽器製作時の彼の工作技術がどれだけ精密なものだったのかという証拠の一つではあります。

  部材に生じた歪みや収縮による狂いを均し,矯正して,オリジナルと同じく部材同士を寸分違いない寸法にそろえ,組直すことも出来ましょうが,かなり大規模な改変作業になるうえ,庵主,そんな精密工作をやれる自信がございません。また,すべてを無視してこのままムリクリ接着することも出来なくはありませんが,それはそれで修理の道からハズれる気もしますし,各部材とくに面板への悪影響が大きそうです。

  名人の加工に凡人のワザを加えることには,何となく退け目がありますが,できる限りオリジナルに近く,精密に組上げるため,不識先生にはちょっと「見なかったこと」にしといてもらいましょう。


  面板をのせて,誤差の具合を見ます。
  やはり上下は余ってますが,左右が少し足りません。

  ですので今回は板のほうを----



  ----こうと。

  せっかく矧ぎ直した面板ですが,真ん中のあたりの矧ぎ目から真っ二つにします。
  そこに細く切った桐材をはさめて矧ぎ直し,板の左右幅を広げるわけですね。


  円形胴のど真ん中,いちばん長い部分なので,さすがにいつものような古い楽器の桐板には,寸法の合うものがなくって使えません。
  こないだ24号の面板を張り直した時の余り材がありました,新品の板ですので多少悪目立ちしちゃうかもしれませんがしょうがない----これを使います。
  段差は左右合わせて2ミリほどですが,補修材をあまり小さくすると作業もしにくいし,強度的にも好ましくありませんので,少し大きめ,6ミリほどの幅で切り出しました。

  矧ぎ直した面板を接着します。

  いつもなら周囲にCクランプをかけ並べて「赤いワラジ虫」にするところですが,今回は別の方法で----より胴体構造に負担が少なく,精密な接着法…できれば一度で広範囲に均等な圧力がかけられる方法がいいのですが----

  というわけで,またまたこれを使います。


  今回の作業台に使っているウサ琴の外枠は,真ん中を半円に抜いた4枚の合板を組み合わせて出来ています。
  4枚の板を2枚づつ,互い違いになるよう重ねてボルトで締めてるんですが,まずはこのボルトの穴を,8個から12個に増やし,つぎにボルトを10センチの長いものに換えます。

  つまりは作業台を二つに割って,その間にブツをはさみこみ,これをそのままデッカいクランプにしてしまおうという算段です。


  まずは面板にキズがつかないよう,緩衝材を切って台に貼り付けておきます。
  つぎにそこに面板・胴体を置いて板をのせ,蝶ナットでしめあげるっと----横から胴体と面板のグアイも良く見えて,やりやすいですね。圧が足りなくてちょっと浮いちゃうようなところは,クランプで補いました。

  ちょっと用心してそのまま〆ること二日……
  この即席クランプ,思いのほかうまくいったようですヨ。




  真ん中に入れたスペーサーが,ちょうど琵琶で言うところの「陰月」,というか,半月裏の「空気穴」にかかってしまっていたので,リーマーで削ってあけ直しておきますね。

  裏板も同様に,中央から二つに割って矧ぎ直し,これを接着します。
  表面板のときと違って,内部が見れないので,中心線を合わせるのとかがちょっと厄介でしたが……まあ表板ほど精密でなくてもいい箇所なので,そこそこ気軽にやりました。



  今日の佳菜ちゃん。

  ----噛まれました。

  例によって,書き物をしているおとおさんの背中に寄りかかり,ドイツ語の辞書を「読んでるフリ」をしていたのですが,ふと立ち上がってどこかに行ったかと思うと,下着姿で帰ってきました。
  髪が濡れてたのでたぶん風呂にでも入れられたのかと,んで----



  「アマガミ」とかいうレベルでなく,かなりガッツリと。
  起きてなお,噛まれた肩がリアルで痛かったのですが,なぜか痛いのは右肩でした。
  転瞬,たったかたーっ!と階下に逃げていきました。
  追っかけるとちょうどお姉ちゃんが帰ってきたところだったので噛まれたムネ言うと---



  ----と,事も無げに…うーむさすが姉妹。
  紗菜姉ちゃんは躾として,噛まれたら噛み返してやってるそうですが,どうやらそれが「愛情表現」と誤解されているようです。

  「アレ(佳菜)のアタマの中は七丁目のちゃっぴー(秋田犬5歳9ヶ月)と同じなんだから,そういうことやっちゃダメ!」
  ----みたいなことを言ってるとき,障子の陰から佳菜がのぞいてたのをなんとなく覚えてますが,その後---



  どうやら勝負してきたようです。



  ----勝った,ようであります。

(つづく)


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