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月琴の起源について その2

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まとめましょう の巻月琴の起源について その2

阮咸編(2)

  ちなみに「月琴」が「阮咸」から派生した,として----

  その変化がいつごろ起きたかについて,中国の本やWebには「明代」とも「清代」とも書かれていますが,その根拠となるような資料・記述がどんな本にあるのかに関しては,なぜか書いてるものがありません。
  まあ時代についてのおハナシは,単なるホラ・ウソ・テキトウ・スイソクとしても。短い棹の月琴というものが,いつごろ,どういうルートで中国全土に広まり,楽器屋のカンバンとなるほど親しまれるのに至ったのか----あの記録魔の中国人のことですから,どこかで誰かがなにやらそのヒントになるようなことを書き残してる,とは思うのですが,庵主,いまだそういう文章に到達しておりません。

  というわけで(ナニがだか),今回は「阮咸が月琴になった理由」として,けっこう見かけるこの説を,ちょっとツツいてみることといたしましょう。

  ジミーに限らず,アラン・ホールズワースもジェフ・ベックもルー・リードもクラプトンもブラックモアも,使ってるギターのサイズはそんなに違わないですわね。

  月琴の弦長は,阮咸の2/3ていど。
  前回「4単弦の楽器が4弦2コースになるのはおかしい」としましたが,こんどはチューニングでなく,弦の長さにいちゃもンつけましょう。


  マンガだと3枚でけつろんまで来れるもんなあ。(笑)
  文章だけだと,どンだけー…てなもんですが。

  この説もまた,どこの誰が最初に言い始めたことだか分かりませんが 「楽器を短くする>弦が短くなる>フレットの間がせばまる=(距離的に)指を早く動かせる」 という。まあ楽器を実際に弾いたこともないヒトの,「思いつき」ていどのとこから来たものだと思いますよ。

  弦長を短くすると,弦のテンション,弦圧というものがあがります。弦圧があがれば,前の楽器より強く弦をおさえないと正確な音が出せません。フレットとフレットの間がせばまれば,たしかに次のフレットまで指は早く動かせるでしょうが,月琴のような高いフレットをもつ楽器の場合,フレット間でもっとも正確できれいな音が出る範囲は,ギターのような低いフレットの楽器に比べると,よりせまく,難しい。弦長が縮まり,フレット間がせまくなれば,とうぜん,そのスゥイート・スポットもより小さくなります。

  つまり楽器としては,より「弾きにくい」ものになるわけです。

  フレット楽器ってのは,フレットのあるぶん,どこを押えればどの音が出るか,というのは分かりやすいんですが,それでもただ指をおろしゃあ音が出る,というわけじゃあありません。
  フレットが20本以上ある中国現代月琴で,高音域を弾こうとしたことがあるような方なら,フレットがあっても「それムリ」ってのがよく分かるかと思う。

  まあ,弦の振動が小さくなるぶん,音は「短く」なりますわな。弦の長い楽器より,高速で歯切れのいい音楽をやるには向いてる,という程度のことは言えなくもない。そういう変化のことを言いたいならそれでもいいのだけれど,これも「音」の必要からくるもので,あくまで「早弾」という奏法が主眼というわけではありません。

  撥弦楽器において,もしも,もしですよ。単純に「早弾きしたい」のが目的であるなら----「楽器をサイズ的に小さく,短くする」(つまりはイチから作り直す)のより,ずっとお手軽かんたんな手段があるんです。それは----

  フレットレスにする。

  ということ。中東で弾かれているリュートに似た---というかそのご先祖様にあたる「ウード」は,もともとフレット楽器だったものがアラビア音階の微分音を出すため,のちにフレットをとっぱらったそうですが。正確な音を出すための勘所をおぼえるのがややムズかしくなる,という欠点は生じるものの,フレットレスにしてしまえば,前の楽器と同じスケールのままで,はるかに早いフレーズを弾くことが可能です。また,フレットレスとまでしなくとも,たとえばフレットの背丈をおさえ,絃高をより低くするだけでも,運指に対する反応は向上します。

  つまりは,現実に楽器を作るもの,また演奏するもの,どちらの立場から言わせていただいても,「早く弾きたい」だけなら楽器を短くする必要はあまりナイ---「早弾き」のために,楽器は縮まらない---ということですね。

(つづく)


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